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「オープンデータ活用」はプロセスこそ値千金 ――オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(前編)

2015年09月25日



「オープンデータ活用」はプロセスこそ値千金 ――オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(前編) | あしたのコミュニティーラボ
地域活性の文脈のなかで注目されている「オープンガバメント」という概念。“ITを活用し、市民参加によって開かれた政府・行政経営の形”を表すこの考え方は、国内にも広まりはじめている。情報公開やコミュニケーションなどあらゆる面を“オープン”にし、さらに活動を継続するためにコミュニティーをつくる。そのとき、大きなカギとなるのは他者と協働することだ。

官民連携での大胆なチームづくりでオープンガバメントを目指していることで注目を集めるのが「神戸市」だ。同市では「シビックテック」、つまり「エンジニアたちがITを活用し、住民サイドからよりよい地域づくり、地域課題解決を進める活動」を推進していたが、今年から本格的に行政とも協働し、オープンガバメントを推進している。今回は、関係者への取材を元に、行政主導で新しくはじめた「オープンデータ活用推進」と「起業支援」のプロセスにおいて “異分野チームをつくること”、 “そして行政がオープンになること”についての意義を前後編でお伝えする。

自治体と民間で「新たな基盤づくり」を ――オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(後編)

オープンになることで“新しい活性化の波”を

2015年度、神戸市は「新しい自治体の形」を目指す基本政策として、5つの重点項目を発表した。

神戸市の基本政策

  • 1.市民が元気で働けるにぎわいのある街
  • 2.世界に誇れる夢のある街
  • 3.安心して子育て・教育ができる街
  • 4.市民が地域とつながり福祉と医療をはじめ安心してくらせる街
  • 5.本物の市政改革をすすめ新しい地方自治がはじまる街

その1つが「市民が元気で働けるにぎわいのある街」の実現。具体的には、「経済活性化」「雇用機会の創出の拡大」を目標として掲げ、2つの施策に取り組んでいる。

施策の1つ目が、2014年から取り組みはじめた「オープンデータ(活用)の公開、利活用促進」。現在はオープンデータの一覧を神戸市の公式サイトで公開し、担当部署と連携しながら公開データのより一層の増加を目指している。

2つ目の施策は、過去取り上げた一般社団法人Code for Japanからオープンガバメントを推進する自治体に企業の人材を派遣する、「コーポレート・フェローシップ制度」の活用による起業支援。こちらは、起業家予備軍などを支援し、市内の起業者数を増やすことで、産業を活性化するねらいで今年の春から活動している。

データを可視化すれば、まちの議論が高度化する

1つ目の施策である「オープンデータ活用」について、行政と民間の協働チームが立ち上がったのは昨年末だった。

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今回の取り組みのスキーム(ロゴ提供:Code for Kobe、NPO法人コミュニティリンク)

民間の立場から参画しているのが「NPO法人コミュニティリンク」。同法人理事で、大学時代から兵庫県の地域活性に取り組む榊原貴倫さんは、2014年度から兵庫県の委託事業として、県のオープンデータ推進に関わりながら、テクノロジーを使った地域課題解決を市民主体で実施する「シビックテック」活動を兵庫県内で進める非営利団体「Code for Hyogo」の代表も務めている。民間と地域をまとめ、自治体にその意見をフィードバックし、改善プランを考えプロジェクトをともに進める、中心人物の1人だ。

NPO法人コミュニティリンク 理事 榊原貴倫さん
NPO法人コミュニティリンク 理事 榊原貴倫さん

榊原さんは、シビックテックの活動をより都市部で進めたいと、知人である株式会社フェイスクリエイツの大山雄輝さんを代表とした「Code for Kobe」設立にも関わり、昨年12月にキックオフミーティングを開催した。

兵庫県内の団体を2つ立ち上げた理由を、榊原さんは次のように話す。

「Code for Hyogo(兵庫県)のなかにCode for Kobe(神戸市)があるのは、まず多くのエンジニアが集まる“神戸”でスター軍団を育て、兵庫全域に広げる土台をつくるため。Code for Kobeは運営することが目的というよりはマイルストーンの1つであって、われわれは地域ICT利活用という目的の理念のもと、事務方として全体の方向づけのアドバイスや実行プランをともに考える役割を担っています」

さらに、時を同じくしてオープンデータ推進に取り組みはじめた神戸市広報課もその会合に参加するようになり、現在は当初担当していた広報課から業務を引き継いだ企画調整局情報化推進部が、官民一体の取り組みを牽引している。

協働で活動を行う2者だが、そのねらいはどこにあるのだろうか。

「オープンデータを元データに、エンジニアが誰にでもわかりやすい形に可視化できれば、地域住民の理解も促進され、まちに対する議論も高度化し、行政にもそのポジティブフィードバックがあるはずです。それができないと地域全体でまちの課題に取り組むことができず、本当の意味で地方創生なんか進むわけがない。そのためにも、オープンデータ推進を地方のストーリーづくりの流れにうまくのせ、具現化する力に長けたエンジニアの能力を介入させることが不可欠なんです」(榊原さん)

オープンデータ活用が、まちの課題を浮き彫りにする

神戸市在住のフリーエンジニア 越智修司さんは、神戸市のオープンデータを使ったアプリ開発に携わったエンジニアの1人だ。昨年5月まで大手ソーシャルゲーム会社でデータ分析に従事。現在はフリーランスとして活動しており、「自身の得意領域で実績を積みたいのと、セルフブランディングとして、公共性のあるテーマに興味を持っていました。そんなことを考えているなか、コミュニティリンクとCode for Kobeを通じて、神戸市の取り組みを知った」という。

オープンデータを活用したiPhoneアプリAED Map Kobeの開発者 越智修司さん
オープンデータを活用したiPhoneアプリAED Map Kobeの開発者 越智修司さん

越智さんが神戸市のオープンデータを使って開発したのは、市内のAEDの設置場所がハートマークで示される「AED Map Kobe」。今年7月にApp Storeでリリースした。使用可能時間帯の制限などの情報もあり、通信環境がなくても使うことができる。

広域地図ではAEDの集中するエリアが3つの白色ハートマークで表示され、タップして拡大すると赤色ハートマークでAEDの設置される建物の詳細な場所がわかるなど、工夫が凝らされている
広域地図ではAEDの集中するエリアが3つの白色ハートマークで表示され、タップして拡大すると赤色ハートマークでAEDの設置される建物の詳細な場所がわかるなど、工夫が凝らされている

「自分の住むまちのどこにAEDがあるのか、日頃から意識して知ってもらうためのアプリです。さらに、このアプリでAEDが少ないエリアが可視化されると、地域の課題を抽出できるというメリットもあります。まちのアンバランスなところを、ITの力で明確にしてから問題を解決する。そういう方法もあると思うんです」(越智さん)

行政がGitHubでデータ共有!? オープンなツールの使い方

越智さんはエンジニアの立場から、オープンデータに求められるものは「何よりも鮮度」だと話す。更新頻度がはっきりしていれば、リリース間隔の見通しもわかり、開発計画を立てやすくなるためだ。そうしたエンジニアの要望を伝える場が月1回のCode for Kobe定例会。そこには市の職員、エンジニア、市民など、さまざまな立場のメンバーたちが毎回30名ほど集まるという。

「全国の自治体で初となる試みとして、ソフトウェア開発の共有サービス『GitHub』でもデータを公開し、市民エンジニアの意見をもらいながら、データの改良を続けています。職員への意識づけのために、また、GovHackの一環として庁内アイデアソンも開催していて、今後はアプリコンテスト(※)なんかも開催してみたいです」

神戸市 企画調整局 情報化推進部 事業調整担当の中川雅也さん
神戸市 企画調整局 情報化推進部 事業調整担当の中川雅也さん

と今後の意欲を語るのは、神戸市 企画調整局 情報化推進部 事業調整担当の中川雅也さん。行政側として「AEDMapKobe」のほか、「神戸ロケ地マップ」や、震災写真オープンデータ「阪神・淡路大震災『1.17の記録』」などの公開・広報を担当し、今後の開発・リリースにも意欲的だ。

「引き継いだ当時は、データの整備ができていたとは言いづらく、多くが休眠状態でした。現在はデータを保有する所属部門で更新してから、公開するフローをつくり、可能な限り最新のデータを提供しています。すべての部門から最新データを出してもらうまでにはまだ時間がかかりそうですが、越智さんのアプリのような成功事例を共有することによって、庁内の意欲も上がるはずです」(中川さん)

会話を積み重ね、オープンなマインドをつくりあげる

神戸市との取り組みについて、榊原さんは「オープンデータ活用は、民間との対話なく一方的なデータ提供になってしまうと、オープンデータ推進そのものが“盛大なゴミ箱づくり”で終わってしまう。神戸市のように一歩踏み込んで一緒にやっていけている自治体は少ない」と、その実態を話す。

では、なぜ神戸では可能なのだろうか。「理由の1つとして、久元喜造市長の存在が大きいのではないでしょうか」(榊原さん)。

市長としてはじめてCode for Americaを訪問した(久元市長は左から3番目) (写真提供:NPO法人コミュニティリンク)
市長としてはじめてCode for Americaを訪問した(久元市長は左から3番目)
(写真提供:NPO法人コミュニティリンク)

2013年11月から神戸市長に就任した久元市長。市政改革に取り組み、今年6月にはCode for Japan 代表の関 治之さん(写真前列右から3番目)や榊原さん(写真左から1番目)らとともにサンフランシスコのCode for Americaを訪問し、シビックテックへの理解を深めたり、ベンチャーキャピタルへの訪問を行ったりと、現地の空気を感じた。こうした意欲的な活動を通し、今回のオープンデータ推進や、コーポレート・フェローシップ制度(後編参照)などにも精力的に取り組んでおり、「それは庁内の雰囲気にも表れている」と榊原さんは話す。

神戸市の訪問チームは、Code for Amercaのスタッフから直接説明を受けた(写真提供:神戸市)
神戸市の訪問チームは、Code for Amercaのスタッフから直接説明を受けた(写真提供:神戸市)

「コミュニティーがまわるコツは、やはりコミュニケーションの量。話せばどんどんつながっていく。興味を持つ人同士がつながっていれば、あとから『そういえばあの人がいるよね』と巻き込めますから。会話することをめんどくさがらない人がたくさんいると、官民連携もうまく機能するはずです」(榊原さん)

今後の展開はどうか。中川さんは次のようにまとめた。

「まずはオープンデータ活用をどう進めていくのかを考え、行動することが先決です。オープンデータのカタログサイトもつくっていきたいですし、API活用やデータのビジュアライズなども検討していきたい。もちろんその先にあるのは、データによる政策決定、市民参加の行政運営、オープンガバメントの実現。そのためにも職員全体に“オープン”という意識を浸透させながら、民間企業や市民のみなさんの力も積極的に取り入れていきます」

新しい風を市政に吹き込む久元市長のもと、自治体が持つ情報を活用可能なオープンデータとして公開し、その地域、住民につながる新しい橋を、市自らつくり出そうとしている神戸市。内に閉じない活動をするためにも、NPO法人コミュニティリンクという外部の視点は欠かせない。後編では、地域に新しい企業をつくり、活性化しようとする神戸市の“新規事業”の様子をお届けする。

自治体と民間で「新たな基盤づくり」を ――オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(後編)

関連リンク
神戸市 オープンデータ関連ページ
神戸市 経済企画課 公式Facebookページ
特定非営利活動法人 コミュニティリンク
Code for Kobe

※今回紹介した神戸市と民間企業との取り組みとして、新しいプロジェクトが2つスタートしました!
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