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自治体と民間で新たな基盤づくりを ──オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(後編)

2015年09月28日



自治体と民間で新たな基盤づくりを ──オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(後編) | あしたのコミュニティーラボ
2015年度から新規事業として「神戸スタートアップオフィス」と「グローバルゲートウェイ神戸」というIT関連のスタートアップ成長支援プログラムをはじめた神戸市。「今はない“新しい力”を行政に取り入れ、新しい風を吹かせたい」という思いを持ち、新しい取り組みを開始した。一般社団法人Code for Japanが展開する地方自治体に民間の人材を派遣し、行政職員と地域課題解決に取り組む「コーポレート・フェローシップ制度」を導入し、行政と民間の専門人材が手を組んで、神戸に“起業”の波を起こそうと奮闘している。

地域が持つデータをオープンデータとして活用するプロセスを通じて、行政―地域住民―民間が協力する姿を追った前編に続き、スタートアップ支援を通して新しい風を取り込もうとする、神戸市の新たなチャレンジを追った。

「オープンデータ活用」はプロセスこそ値千金 ──オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(前編)

民間企業とNPOから2人の外部専門家を受け入れ

神戸市では、今回、特に若年層の起業家マインドを醸成し、神戸での起業につなげるきっかけをつくるために、「コーポレート・フェローシップ制度」の活用を決めた。地方都市で“起業家を育成する”。地域の企業がメンターになりアドバイスをするようなサポートなら想像はつくが、今回神戸市が掲げた目標は「スタートアップを育成するエコシステムづくりの支援」。これには、継続的な支援を行うためのしくみが必要になる。
神戸市 産業振興局 経済部担当課長 多名部(たなべ)重則さん
神戸市 産業振興局 経済部担当課長 多名部(たなべ)重則さん

「行政が持っていない新しいルートを持っている人材の力が必要でした」と、神戸市産業振興局経済部担当課長の多名部重則さんは話す。「コーポレート・フェローシップ制度」の活用は今年6月1日から8月30日の間、神戸市産業振興局経済企画課で2名を研修生として受け入れた。
コーポレート・フェローシップ制度概要(提供:一般社団法人Code for Japan)
コーポレート・フェローシップ制度概要(提供:一般社団法人Code for Japan

コーポレート・フェローシップ制度によって派遣されたコーポレートフェローの受け入れ期間中、特に注力したのがスタートアップ支援の第1弾として取り組んだ「若手IT人材の育成」だった。「今年8月末には、起業家を対象としたシリコンバレーへの派遣プログラムを開催しました。個人負担も課した有料の派遣プログラムでしたが、定員20名のところ44名もの応募がありました。それだけの成果を得られたのも、2人のフェローのおかげです」と、その結果に一定の達成感を感じている。

期間終了後も今後もグローバル・スタートアップ・ゲートウェイ神戸(ビジネスプランコンテストの開催)や神戸スタートアップオフィス(活動拠点の提供、アクセラレータプログラム)などのプログラムを予定しているという。

形を決めない雇用関係が、官民連携成功のコツ

民間の立場から地方自治体に入った2人のフェローはともにシステムエンジニアだ。

1人目は、ヤフー株式会社メディアカンパニー検索開発本部サーチクオリティ部に在籍する宮崎光世(こうせい)さん。1997年に同社に入社した後は、シリコンバレーの“Yahoo! inc.”の人たちと協業した業務に携わり、「地方×シリコンバレー」をテーマとしたハッカソン入賞者向けの、派遣ツアープロジェクトにも携わった経験がある。
ヤフー株式会社 メディアカンパニー検索開発本部サーチクオリティ部 宮崎光世(こうせい)さん
ヤフー株式会社 メディアカンパニー検索開発本部サーチクオリティ部 宮崎光世(こうせい)さん

もう1人は、榊原さんと同じNPO法人コミュニティリンクに所属しCode for Kobeでも活動しながら、今回コーポレートフェローとなった松村亮平さん。大阪のITベンチャーに6年間勤めた後、フリーランス活動を経て、コミュニティーリンクに参画した。
NPO法人コミュニティリンク/Code for Kobeにも所属する松村亮平さん
NPO法人コミュニティリンク/Code for Kobeにも所属する松村亮平さん

神戸在住の松村さんは週に2~3回、東京在住の宮崎さんは月に4~5回、それぞれが所属する企業の業務も行いながら、フェローとして神戸市のプロジェクトに参加した。「毎日、朝から夕方まで市役所に勤務するのではなく、週に何回か来る、来ない間も仕事は進めるという“ちょっとゆるい雇用関係”も、官民が互いに協業できるコツではないか」と多名部さんは振り返る。

役所の前例を、民間の知識で乗り越える

フェローの2人は3カ月間、それぞれの人脈を活かして、プログラムへの関心のある起業家、その卵が在籍する大学機関に接触を図った。派遣プログラムでは、参加予定者20名のうち、4名はすでに事業者として活動している人たち。15名は大学生もしくは大学院生で、1名の高校生も参加した。
自らの経験を生かし、地域に新しい風を吹かせようと活動する3名。今後の展開にも期待がかかる
自らの経験を生かし、地域に新しい風を吹かせようと活動する3名。今後の展開にも期待がかかる

派遣プログラムは8月下旬に開催され、現地ではピッチイベントを開催。参加者のうち数名は現地の著名なベンチャーキャピタル・アクセラレーターである「500 Startups」でのプレゼンテーションにも参加した。派遣前には、フェローを含めたプロジェクトメンバーが参加者に対するメンタリングも行ったという。

多名部さんが「想定外だったこと」として挙げたのが、フェローから提案されたSNSを活用した広告展開だ。プロジェクトと関連性の高いユーザー向けに告知を出すシステムが、参加の決まった派遣メンバーに話を聞くと、その告知がいかに効果的だったかがよくわかったという。

「役所内でFacebookへの書き込みは禁止されています。ですから、そもそもそんな考えが浮かばなかったんです。クレジットカード支払いしかできないのをどうクリアするのかもなかなか大変なことでした(笑)。そうした地道な取り組みも1つひとつ乗り越えていけば、1つずつ前例を乗り越え、新しい活動につながるかもしれない」

行政の立場だからこそイノベーティブなことを実現できる

2人のフェローは3カ月のフェローシップ期間を「それぞれの本業に持ち帰られる成果も得られた」と、話す。

「役所側にわれわれがいることで、いい意味での混乱が起こっていました。職員の方もわからないことを勉強し聞いてくるので『もっと一緒にやろう』という雰囲気も生まれる。私自身も、IT系の企業に“委託する側”の視点を持つ機会になり、お金をかけてでも入る価値があると感じました」(宮崎さん)
「『新しい視点』を社内にもフィードバックしていきたいですね」と宮崎さん
「『新しい視点』を社内にもフィードバックしていきたいですね」と宮崎さん

「役所といえばどこか内向きのイメージがあったけれど、外部の企業の方に神戸市の立場で接見すると、どこも話を聞いてくれる。ブランド力はすごいと思いました。外向きに働こうと思えば、非常に規模の大きい、根底からルールを覆すような“イノベーティブ”なことを実現できるのが“行政”という存在なのかもしれません」(松村さん)

神戸が再び自治体経営の先駆けになるために

市役所から感じた「イノベーティブ」な部分について、松村さんは「多名部課長を見ていると、特に思うことなのですが(笑)」と付け加えた。

これまで、内閣府や危機管理室での公務を経て、8年前に産業振興局にやって来た多名部さん。Code for Japanからコーポレート・フェローシップ制度を紹介されたとき、どんなことを感じたのだろうか。

「最初に話を聞いたときから、メリットのほうが大きいと思ってました。一番のメリットは何よりもネットワーク。実際に2人は市役所とはまったく異質の人脈を持っていて、ピンポイントでアクセスしてくれた。2015年度からはじまったスタートアップ支援の取り組みは、神戸市にとって完全な新規事業であり、何が成功なのか、結論が出ないなかのスタートでしたが、2人の同僚とワイガヤでやった、楽しい3カ月でした」

1980年代に人口島を活用してインフラを整備したり、全国に先駆けた地域博を展開するなど、先進的な自治体経営で「株式会社神戸市」といわれていた神戸市。「当時は、民間企業よりも進んでいることをやっていたという逸話も多くあります」と多名部さんも振り返る。

「今の市政は、再び『前向きに外向いて、新しいものに飛びつこう』と一丸となって取り組みはじめ、役所の変化を私自身も感じています。このままいくと、日本はスタートアップ不毛の地となり、ひいては日本経済も衰退してしまう。まだ壁が立ちはだかりますが、神戸にもシリコンバレーのようなエコシステムを少しずつ根づかせていきたいです」

神戸市をより「にぎわいのあるまち」にするべくはじまった2つの“オープン”な取り組み。そこは、役所の職員、NPO法人、民間企業、フリーランスエンジニアなど、多様性に富んだメンバーが集まってくる。この活動が成功した暁には、神戸市は“株式会社神戸市”として、他の自治体のモデルケースになるに違いない。

「オープンデータ活用」はプロセスこそ値千金 ──オープンガバメントの種は“神戸市”に眠る(前編)

関連リンク
神戸市 オープンデータ関連ページ
神戸市 経済企画課 公式Facebookページ
特定非営利活動法人 コミュニティリンク
Code for Kobe

※今回紹介した神戸市と民間企業との取り組みとして、新しいプロジェクトが2つスタートしました!
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