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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

2025年。あなたは今の仕事を続けているだろうか? 誰もが漠然とした不安を覚え、同時に曖昧な希望も胸に抱く。近い将来、直面する「豊かな働き方」をめぐって、真剣に考えてみたい――そんなとき手にしたい本がある。答えはあなた自身が見つけなければいけないが、考えるためのヒントが詰まった一冊だ。

働くのは充実した経験をするため、それが幸せの土台

———私にとって、豊かさって何だろう? 豊かな社会とはどんな社会なのか?

「あしたのコミュニティーラボ」では、簡単には答えの出ないそんな問題を、多面的な切り口から見つめてきた。大切なのは「考え続ける」こと。そもそも豊かさには単一の解答などない、一つの答えを求める姿勢こそ豊かさとは縁遠い、などと座談会『日本の豊かさのゆくえ』でも指摘された。解答ではないけれど、どうやら大前提となることが二つありそうだ。少なくとも、今の日本という国で「豊かさ」について考える場合に。

一つは「豊かさは経済的な問題とは切り離せないが、決してそれだけではない」こと。
そして、「豊かさは多様な選択肢の中から選べる状態の中で生まれる」こと。

そのとき誰もが直面するのが、働き方の問題だ。どんな仕事で人生を送るか。それは二つの「豊かさの大前提」に大きくかかわってくる。

そこで、働き方の問題について考えるヒントを提供し、自分で未来を選び取るためのナビゲーターになってくれそうな、心強いガイドブックを紹介したい。リンダ・グラットンの『ワーク・シフト』(池村千秋訳/プレジデント社)は、仕事の世界の「古い約束事」として、次のようなことを挙げる。

「私が働くのは、給料を受け取るため。その給料を使って、私はものを消費する。
そうすることで、私は幸せを感じる」

この古い約束事は今やこう書き換えられようとしている、と著者は指摘する。

「私が働くのは、充実した経験をするため。それが私の幸せの土台だ」

ここでいう「幸せ」は、「豊かさ」と置き換えてもいいだろう。

著者は実務経験も豊富なロンドン・ビジネススクール教授だ。大量生産・大量廃棄を先導した20世紀アメリカ消費社会、そのルーツとしての19世紀イギリス産業革命。そんな「資本主義文明の本場」からこうした発想が出てくるのは感慨を禁じえないが、歴史の必然ともいえるのだろう。

答えを知りたいのではなく考えたい人のためのナビ

答えを知りたいのではなく考えたい人のためのナビ

先ほど、この本は「自分で未来を選び取るためのナビゲーター」になってくれそうだ、と書いた。ここでもう一つ、本書を貫くテーマともいえる考え方を確認しておきたい。

職業に関して自分で未来を選び取る、とはどういうことか。著者にならって考えてみるなら、古い約束事ではこうだろう。

「私が働くとは、会社や役所などに就職すること。少しでもよい条件の職場を求めて、
どんな学校へ行き、どこの就職試験を受ければよいのか選ぶ」

しかしそれは今や、こう書き換えられつつある。

「私は働き方そのものを自分で選ぶ。組織に属すること、フルタイムで働くこと、
高い給料を得ること‥‥‥それらもまた選択肢の一つにすぎない」

進学校から偏差値の高い大学に入り、大企業や官庁など盤石の組織に就職する。そんな旧態依然とした「豊かさへのレール」は陰りが見える、と多くの識者が指摘する。理屈ではわかっているつもりだ。

だが、心のどこかで「やはりそれが安全パイだ」と思う。とりわけ親は子どもを、あらかじめ敷かれたレールの上で「豊かさ」という終着駅に向かって疾走する特急列車に乗せたい。現にそういう人たちは多い。なぜそうなのか。何が豊かさなのか考えなくてもいいからだろう。そのほうが楽だからだろう。

しかし、残念ながら現実はそうではない。レールは廃線ではないけれど終着駅は「豊かさ」とは限らない。その列車に乗っても否応なく乗り換えなければならないかもしれない。もう行き先を組織が用意してはくれない。会社や役所まかせにしていれば約束の地へ連れて行ってくれる時代は終わろうとしている。

目的地も、それに向かう交通手段も、個人が選ばなければならない。なぜそうなるのか。それがわかったら、どうすればいいのか。答えを知りたいのではなく、自分の頭で考えたい人にだけ、この本はナビゲーターになるだろう。

五つの外的要因から考える三つのワーク・シフトとは

本書は、世界から45社の企業および団体が参加した共同研究プロジェクト「働き方の未来コンソーシアム」の成果が元になっている。

何であれ未来を予測するのに必要なのは、現在の状況を正確に把握し、これから特に大きな影響を及ぼすであろう外的要因を特定することだ。本書では働き方の未来に影響を及ぼす要因を「テクノロジーの進化」「グローバル化の進展」「人口構成の変化と長寿化」「社会の変化」「エネルギー・環境問題の深刻化」の五つと特定し、これらの要因を元に2025年に働く人の日常について、複数の「ストーリー」の形で提示している。

わかりやすいのは、「漫然と迎える未来」の暗い予想図と、「主体的に選択する未来」の明るい予想図の両方を対比して描いているところだ。たとえば「ICTの進展でグローバル化が加速される」という要因一つをとってみても、暗い未来と明るい未来の対照的なシナリオが書ける。

世界中に張り巡らされたネットワークによって、24時間休みなく仕事が生まれ、分刻みのスケジュールに追われていつも疲れ果て、バーチャルな世界でしか人とのつながりがなく、リアルなぬくもりが断ち切られるのか。

世界中に張り巡らされたネットワークによって、一人の人間の力では成し遂げられないような大きな仕事を、みんなの力でやり遂げることができ、社会と関わるきっかけも増えて、共感とバランスのある人生を送れるのか。

未来がどちらに転ぶかは、ひとえに私たち自身の「主体的な選択」にかかっている。そして、変化に押しつぶされることなく明るい未来を迎えるためには、私たちの働き方に三つのシフトが必要だ、というのが本書の眼目だ。

第一に、

広く浅い知識しかもたないゼネラリストから、
社会の変化に合わせて移動と脱皮のできる複数の専門技能を身につけたスペシャリストへ。

第二に、

難題を解決し合う少人数の同志、創造的ヒントを与え合うスペシャリストの大集団、ストレスをやわらげるプライベートの友人という3種類の人的ネットワークを持ち、孤独な競争から協力して起こすイノベーションへ。

第三に、

お金と消費に最大の価値を置く発想から、
家庭や趣味、社会貢献など多様な選択肢の中で「情熱を傾けられる経験」に価値を置く発想へ。

この三つのワーク・シフトは、「あしたのコミュニティーラボ」で考えてきた「豊かさ」を志向する軸と、ずいぶん重なり合う。

一人ひとりが主体的に未来を選択できる働き方

一人ひとりが主体的に未来を選択できる働き方

とりわけ第二のワーク・シフト「孤独な競争から協力して起こすイノベーション」に着目してみたい。おそらく2025年にはインターネットのソーシャルメディア機能がさらに進展し、世界中の人々が今よりもっと容易に結びつくようになる。これをうまく活用できれば、多様な叡知を結集した「コ・クリエーション」(共創)によるイノベーションが可能になるだろう。

問題解決のプロセスにおいて、「多様性」がいかに大きな強みになるのか。本書では、第二次世界大戦時に連合国がドイツ軍の暗号「エニグマ」解読に成功した事実を引いて例証している。数学者や暗号学者だけでなく、エンジニア、言語学者、哲学者、古典学者からクロスワードパズルの達人まで、さまざまな専門分野のエキスパートが集まることで暗号を解読できた。ソーシャルメディアによる地理的・時間的制約を超えた世界的規模の共創は、多様な視点と知恵の導入で課題解決を早め、さまざまな分野でのイノベーションを促すにちがいない。

とはいえ、未来を正確に予測することは一筋縄ではいかない。本書もそのことに十分自覚的で、2025年の複数のストーリーは見方の一つに過ぎないと断っている。何が変わり、何が変わらないのかを見極めることは難しい。80年代サイバーパンクSFの立役者、ウィリアム・ギブスンの言葉を著者は引く。「未来はすでに訪れている。ただし、あらゆる場に等しく訪れているわけではない」。著者は、ますます変化の方向が多様でスピードも速くなる今後について、「昔と違って過去の延長線上に未来を描くのは不可能になった」と述べる。

だがその一方で、著者は「働き方の未来を理解するためには過去を知る必要がある」とも書いている。これは矛盾だろうか。そうではない。なぜなら「働くこと」に表れている人間の本質は、どんなに外的要因が変化しようとも、おそらくは変わらないからだ。この種の議論には必ず引用される「人間の究極の欲求は自己実現である」とするマズローの「欲求5段階説」は本書でも参照される。

未来の働き方のヒントとして著者が着目するのは、中世の職人が形成したギルド(同業者組合)。これも先の「第二のシフト」にかかわる「共創」の原点といえるかもしれない。

未来が「どうなるか」予測するのは困難でも、未来を「どうするか」選択するのは「共創」によって可能だ。本書で描かれる「明るいほうの未来」の実現は、私たち一人ひとりが主体的に未来を選択できる働き方ができるかどうかにかかっている。それが本書から受け取るべき最大のメッセージだろう。

(photo:Thinkstock / Getty Images)


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