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社外で働く人たちは日本に1300万人!?
——もう他人事ではない「テレワーク」という働き方

2012年12月05日



社外で働く人たちは日本に1300万人!?<br />——もう他人事ではない「テレワーク」という働き方 | あしたのコミュニティーラボ
満員電車に長時間揺られて通勤する必要がない。ICTを活用して自宅にいながらオフィスと同じ環境で仕事ができる。もしもそんな働き方ができたら、あなたの生活はどんなふうに変わるだろうか。社団法人日本テレワーク協会にお話を伺うと、企業にとってのメリットも見えてきた。まずは、とある既婚男性の1日を追体験してみよう。ぜひ自身の日常と照らし合わせながら読んでみてほしい。

あるテレワーカーの1日から

今日は「テレワーク」の日だ。企画書やプレゼン資料の作成などデスクワークを集中してこなしたいときは、在宅勤務を会社に申請している。だいたい週に2回、自宅で仕事をすることが多い。

午前7時に起床。いつもなら慌ただしく身支度をするが、テレワークの日は往復2時間半の出勤時間がまるまる浮いて余裕があるので、「主夫」と「イクメン」の日でもある。朝食を準備し、ゴミを出して、出勤する妻を見送り、娘を近所の保育園へ送り届け、洗濯物を干す。

一段落ついてコーヒーをいれ、午前9時から机の前に座る。
PCを立ち上げ、認証用USBキーで会社のネットワークにアクセス。これで自宅のPCが仮想的にシンクライアント(端末にハードディスクを搭載しない)環境になる。つまり、手もとのPCで会社のPCを呼び出し、遠隔操作しているだけだから、作成したデータはすべて会社のサーバーに保存され、手もとのPCにはいっさい残らない。自宅にいても会社とまったく同じICT環境で仕事ができるし、セキュリティ面の心配もなくなる。東日本大震災で交通機関がストップしたときも、テレワークで何の支障もなく業務を続行できた。

仕事開始のメールを上司とチームメンバーに送信してから、メールチェック。それが終わると、さっそくプレゼン資料の作成にとりかかる。午前中いっぱい、デスクワークに没頭できた。周囲の雑音に気をとられないせいだろうか、同じ3時間でもオフィスにいるより仕事がはかどるような気がする。

パスタをゆで、オリーブオイルとガーリックと鷹の爪でササッとペペロンチーノをつくり昼食。
午後からはチームメンバーとweb会議システムを使って新しいプロジェクトの方向性について軽く打ち合わせ。会社から転送されてきたIP電話でクライアントや取引先とも応対する。

引き続き資料の作成を続行。3日後に迫ったプレゼンのメドは、おおむねついた。その旨、上司に報告書を作成してメール送信。上司から「お疲れさま」の着信を確認して午後5時、本日の業務終了。

洗濯物を取り込み、保育園に娘を迎えに行く。テレワークをすることで夫婦ともども送り迎えできるようになって、同じ年ごろの子どもがいる近所の人たちと家族ぐるみのつきあいが増えた。イクメン仲間も意外に多いことに気づいた。

帰りにスーパーへ立ち寄り夕食の材料を買う。娘が喜ぶので、今日は妻に書いてもらったレシピをもとにハンバーグに挑戦するつもりだ――。

実はあなたも「テレワーカー」かもしれない

さて、こんなテレワーカーの1日を、あなたはどう思うだろう。「きれいごとでしょ」「そんなにうまくいくはずがない」「こんなふうに働けたら」――。いろんな感想があるだろうが、実は、テレワーカーと呼ばれる人は日本全国に約1300万人、就業人口の19.7%いる。そう聞けば、驚くのではないか。

ただし、この数字にはカラクリがある。2011年の国土交通省「テレワーク実態調査」をもとに社団法人日本テレワーク協会で推計したデータだが、もとになったアンケート項目は「あなたは週に8時間以上、本拠地のオフィスを離れてICTを使い仕事をしていますか」。これに当てはまる人が全国に1300万人と推計される、ということなのだ。

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テレワーク(tele=「離れたところで」とwork=「働く」を合わせた造語)とは在宅勤務に限らない。ノートPCやモバイルデバイスを駆使して直行直帰する営業担当だってテレワーカーだし、本社や営業所ではなくサテライトオフィスに勤務するのもテレワーカーにほかならない。「ICTを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」がテレワークの定義だ。

「すると、持ち帰り残業や、出張中の新幹線などで仕事をすることが週に8時間以上ある人もテレワーカーに入るので、なんとなく納得できる数字ではないでしょうか」と日本テレワーク協会主席研究員の今泉千明さんは話す。

なんだ、それなら自分も当てはまる、という人も少なくないだろう。同推計によれば2002年にテレワーカー人口は408万人だった。10年余りで3倍以上に増えたわけで、その背景には明らかにICTの進展がある。けれども、「オフィス外でICTを使って働く」というだけだと、単なるオーバーワークにもなりかねず、それでは本末転倒もはなはだしい。

働く側にとってのテレワークの最大の意義は、「仕事の効率性を高めることでワークライフバランスを向上させること」だ。それを本当に実現している冒頭の仮想例のような働き方は、どの程度浸透しているのか。

国土交通省の推計によれば、2011年の「在宅型テレワーカー」人口は490万人。これは自営業と会社員の両方を合わせた数値だ。また、同年に総務省が実施した「通信利用動向調査」をもとに同協会が算出したところでは、テレワークを制度として導入している企業は全体の3.8%に過ぎない。資本金50億円以上の企業では24.7%であるのに対し、資本金1000万円未満の企業では2.7%に留まっている。テレワークの導入率は企業規模と比例しているようだ。

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仕事の生産性は上がるのか?

だがテレワークに関心を持つ企業はじわじわと増え続けている。特に東日本大震災以降は、BCP(事業継続性確保)やコスト削減の観点から注目が高い。在宅勤務の態勢が整っていれば、新型インフルエンザや自然災害の発生時にも事業を継続できるし、オフィスのフリーアドレス化(個人の机を廃止)によるスペース縮小、節電効果でコストカットが可能だ。今泉さんによると「フリーアドレス化でオフィスコストを年間5000万円カットできた例もある」という。

それでもテレワーク導入に二の足を踏む企業が多いのは、目の前にいない部下を管理できるのか、という管理者としての心配があるからだ。端的にいって「自宅で仕事をしたらサボるのではないか」と思ってしまう。働く側の立場としても、正直なところ絶対にサボらない自信はないのではないか。

米国の例だが、興味深い研究データが最近発表された(WIRED.jp「在宅勤務者は生産性が高い」:研究結果/ http://wired.jp/2012/09/03/working-from-home-youre-a-better-worker/)。スタンフォード大学の研究チームが、在宅勤務とオフィス勤務のどちらが生産性が高いのか、9カ月にわたって実証研究したのだ。調査対象となったのは、中国・上海の大手旅行代理店で在宅勤務を希望し、必要条件(ブロードバンド接続環境、執務のできる個室、6カ月以上勤務)を満たした252名の従業員。誕生日が偶数か奇数かで、週5日のうち4日を在宅勤務するグループと、今までどおりオフィス勤務するグループに分け、どちらも同じ管理者のもと、同じシフトで働いた。

その結果、在宅勤務者の生産性は12%上昇したという。その要因は、休憩時間が短くなったこと、病欠日数が減ったこと、1分あたりの仕事量の増加だ。仕事が速くなり単位時間あたりにこなせる量が増えたのは、執務環境が静かになったからではないか、と研究チームは推測している。在宅勤務グループへのアンケートでは仕事への満足度が有意に高く、離職率が50%低下した。研究終了後、この旅行代理店は正式にテレワーク制度の導入を決めた。

日本テレワーク協会でも2005年に17社、128人にアンケート調査したところ、「個人としてもチームとしても生産性が上がった」との結果が出た。

「オフィスで電話応対や長い会議などに時間をとられると、1日終わって何もアウトプットはないけれど“仕事はした”気分になりますよね。在宅勤務だと、サボっていたと思われるのがイヤで、一生懸命アウトプットを出そうとする。その意味でも生産性が上がるのだと思います」と今泉さんは指摘する。

1205_3 社団法人日本テレワーク協会主席研究員の今泉千明さん

ワークライフバランスを充実させる豊かな生き方

管理者にとっても部下の業務を1日単位で「見える化」できるから、実は仕事の進捗状況を把握できて、課題も発見しやすい。上司と部下のコミュニケーションはむしろテレワーク導入前よりも円滑になった、との声も多い。

フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション不足が心配されるかもしれないが、実際にテレワークを導入している企業でも週に1〜2度の在宅勤務が大半であり、その程度なら杞憂といっていいだろう。

こうしたテレワークのメリットはICT抜きには考えられない。企業がテレワーク導入にためらう理由の一つに情報漏えいの心配があるが、それもICTが解決してくれる。シンクライアントPCを貸与したり、冒頭の仮想例のようにUSB認証キーを使って私用PCを仮想的にシンクライアント環境にするサービスも比較的安価で提供されている。ブロードバンド接続は多くの家庭で導入済みだ。環境はすでに整っており、あとは試してみるだけ。たとえば管理者自らが最初に体験してみると、疑心暗鬼が払拭され、テレワーク導入が進むようだ。

育児や介護、趣味や学習と仕事の両立。ワークライフバランスを充実させる豊かな生き方を、テレワークという働き方は後押ししてくれるに違いない。

(photo:Thinkstock / Getty Images)


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