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〈酒蔵〉と〈日本酒〉は世界に訴求できる地域資源 ──「酒蔵アイデアソン」から考える(前編)

2016年03月10日



〈酒蔵〉と〈日本酒〉は世界に訴求できる地域資源 ──「酒蔵アイデアソン」から考える(前編) | あしたのコミュニティーラボ
酒蔵と日本酒をテーマに、官民を挙げて東北地方を盛り上げる──そんな取り組みが2015年、スタートした。「東北酒蔵街道」と銘打たれた東北復興支援プロジェクトには、56の企業や公的機関が参画し、多様な人たちがリソースを持ち寄って地域課題の解決を目指している。果たして酒蔵や日本酒のような地域資源にはどんなポテンシャルがあるのか。それをどのように活かしていくのか。このほど仙台で開催された「酒蔵アイデアソン」の様子を起点に探る。

多様で固有のストーリーをつなげるということ──「東北酒蔵街道」をヒントに考える(後編)

酒蔵の魅力で東北に人を呼ぶアイデアを!

「日本酒と酒蔵は、東北の魅力的な地域資源の1つ」。先日、東北の酒蔵を巡ったあしたラボ編集部も、地域と共生する酒蔵や人々の想いから、地域資源としての可能性を再認識した。ならば、そのポテンシャルを活かせば、いったいどんなことができるのだろう。酒蔵関係者に留まらず、オープンにアイデアを考えるイベントが、2月4日、仙台の東北経済産業局で開催された。

タイトルは、「酒蔵アイデアソン──東北に人を呼ぶアイデアを考えよう!──」。日本酒や酒蔵を入口に外国人観光客を魅きつけ「東北でクールな体験ができた!」と人にも勧めたくなるプランを考えようという趣旨のアイデアソンには、観光、金融、酒造、通信、メディア、ITなど多様な業種の企業と公共機関から43名が参加。東北の酒蔵を起点にしたインバウンド誘客のアイデアを競った。

東北・夢の桜街道推進協議会とあしたのコミュニティーラボが主催し、東北経済産業局が協力。官民56会員の連携する同協議会は、東北に広く点在する桜の名所108カ所をネットワーク化して交流人口の増加を目指す、東北復興支援運動「東北・夢の桜街道」を展開している。しかし、桜は春だけに限定されてしまう。1年を通じて切れ目のない観光振興を図りたい。そこで着目したのが、東北は国内でも有数の酒どころ、という事実だった。

酒蔵を核に、秋からの新酒シーズンに合わせ紅葉や温泉とセットで巡る旅を「東北酒蔵街道」と名づけ、2015年から取り組みをスタートさせた。酒蔵アイデアソンもその一環として行われたものだ。

オープニングセッションでは、同協議会の宮坂不二生事務局長が東北酒蔵街道の趣旨や上記のような経緯を述べた。また、「有用なアイデアが出れば協議会で実施したい」と実現の可能性にも触れ、参加者の期待を高めた。

アイデアソンは、アイデアプラント代表の石井力重さんがモデレートし、次のようなプロセスをたどった。

① 任意に集まったメンバーで「3人ブレスト」
② おもしろかったアイデアを書く「アイデアスケッチ」
③ 貼り出したアイデアに全員が★をつける「アイデアレビュー」
④ 上位アイデアの元に集まる「チームビルディング」
⑤ ディテールを詰めユーザーの利用シーンを描く「ブレスト&デザインワーク」
⑥ スマートフォンで撮影した3分の「ムービープレゼン」

最終的に、9グループが、それぞれ工夫を凝らした演出のムービーを上映した。

グラフィックレコード全9グループによる「酒蔵で東北に人を呼ぶアイデア」(グラフィックレコード制作:タムラカイ)

宮坂さんを審査委員長とする7名の審査員による審査基準は、「新たに人を呼び込む、もしくは滞在期間が増える“ギワイ”度」「一度だけでなく何度も東北に行きたくなる“ミツキ”度」「メディアや旅行会社、企業が連携しそうな“ンク”度」の3点だ。つまり、頭文字をとって“ニヤリ”とできるかどうか。

白熱のプレゼンの結果、特別賞にはチーム「東北酒フェス T.S.F.」、準グランプリにはチーム「お面舞踏会」が選ばれた。前者は、日本酒をハブにしながら料理、陶芸、着付け、音楽、アニメ、ロボットまで多様なカルチャーをまちにインストールしてまち全体をフェス会場とするアイデア。後者は、さまざまなお面をかぶることによって、日本酒によるほろ酔いに加えてふだんの抑圧を解き放ち、気づかなかったもう1人の自分になれるお面コスプレパーティーの提案。

そして、グランプリと参加者選出賞をダブルで獲得したのがチーム「HOTEL SAKEDARU」だ。欧米の20〜30代のバックパッカーをターゲットに、酒を仕込むタンクに泊まってもらう。釜風呂としても酒樽を利用。地元のかっちゃ(お母さん)と一緒に料理をつくって盃を酌み交わし、酒造り体験も。タンク内からSNSで世界中にクールな体験を広めてもらう。審査員からは「アイデアソンでほしいのは、実現できそうな提案より企画会議では絶対に出ないヤバい企画。酒樽のなかで寝るというのはヤバかった」「“酒好きは酒になりたい”のキャッチコピーにグッときた。日本酒と東北への愛を感じる」との講評が寄せられた。

HOTEL SAKEDARUグランプリと参加者賞のダブル受賞を果たした「HOTEL SAKEDARU」

海外で注目される、日本文化のなかの“SAKE”

参加者へのインプットとなるキーノートで登壇し、審査員も務めたのは、日本酒の魅力を国内外に広める「Miss SAKE」の活動をプロデュースする一般社団法人ミス日本酒理事の大西美香さん。日本酒のアンバサダーたちと行動をともにして、2年半で世界11カ国、17都市を訪問し啓発活動をしてきた経験から、海外における“SAKE”の評価や可能性について語った。

大西美香さん一般社団法人ミス日本酒理事 大西美香さん

国内外に向けて、日本酒を通じた日本文化の情報発信を行っているMiss SAKEのアンバサダー事業。大西さんいわく、「日本食と日本酒は私たちの想像以上に尊敬されています」。

スペインでは、アニメ・マンガフェスに参加。食に関連する日本のアニメやマンガの人気から、いまや海外でも“SAKE”を知っている人は多いそう。会場にずらっと並べられた四合瓶には、「『ラベルの漢字がクールだ』と。オブジェとして酒瓶を見ていました」。一方で、「知ってはいるけど飲んだことはない」という人たちがほとんど。だから、Miss SAKEによる日本酒のテイスティングセミナーも、立ち見が出るほど大盛況だった。

2015年のミラノ万博(ミラノ国際博覧会)では、人気ナンバーワンともいわれた盛況の日本館で、Miss SAKEがアテンド役を務め上げた。36度の炎天下、振り袖姿で朝から晩まで会場に立ち続け、笑顔を振りまいた2015 Miss SAKEの小川佐智江さんは、「いろんな民族衣装のなかでも、着物ほど目立って、リスペクトを受けるものはなかった」と感じたという。

小川佐智江さんアイデアソンにも参加し、あでやかな振り袖姿で会場を盛り上げた2015 Miss Sake 小川佐智江さん

海外で開催されている日本酒のイベントとしては世界最大の日本酒の祭典“THE JOY OF SAKE”の目玉は、和洋中、十数軒のレストランによる日本酒に合わせて開発される創作料理の数々。2015年開催のラスベガスでは、日本人が想像もしないメニューが出てきたという。

「たとえば、フォアグラムース、ライチ、シソの塩に、ダークチョコレートのパン粉添え。フォアグラにチョコレートだなんて──こんな複雑なものがお酒に合うとは思えない……のに、抜群の相性でした」(大西さん)

ユネスコの無形文化遺産に和食が登録されたこともあり、海外の日本食レストランは過去10年間で3倍に迫る勢いで急増している。そういったお店では、酒蔵や地域のイメージを見せながらメニューを説明することも多い。日本酒に触れて興味や関心を抱くうちに、「日本のこの酒蔵に行ってみたい」「このお酒と地元の味覚を一緒に食べてみたい」と人々の欲求が膨らむこともあるそうで、日本食レストランの増加は、訪日のきっかけをもたらしていると言えるだろう。

大西さんは、「今後ますます蔵元と地元の料理を目当てに、日本を訪れる人たちも増えるでしょう。蔵元がある地域の飲食店にとっては、和食はもちろん、“THE JOY OF SAKE”のように、日本酒の特徴に合わせてこれまでにないメニューを開発するというのもヒントになるかもしれません」と期待を口にする。

サロン・デル・マンガ2015年には、スペイン・バルセロナで開かれた「サロン・デル・マンガ(Salon del Manga)」にも参加し、会場に華を添えた(提供:一般社団法人ミス日本酒)

過去30年間、全国では1,000軒の酒蔵が廃業に追い込まれた。その一方、過去10年を振り返ると、輸出金額は右肩上がりで推移しており、“SAKE”に対する海外からの需要や注目は確実に高まっていることがわかる。

その背景にあるヒントとして、日本文化における“SAKE”という側面が海外ではとくに注目を集めていることに気づいた、と大西さんは話す。

「たとえば、歴史的な背景をふまえると、日本酒と〈神事〉〈祭り〉は切り離せません。神様へのお供え物として供される〈お神酒〉は、一説には〈神様の食事〉とも言われています。──そんな話をすると、日本人が古来より大切にしてきた価値に触れていると感じるのか、海外の方は目に見えて興味を示してくれます。彼らにとって、“SAKE”はもはやただのアルコールではない。文化や歴史などの背景を持ち、ストーリーに彩られた飲料なのかもしれません」

祭りや神事、日本文化についての憧れが、より一層“SAKE”への興味をかき立て、海外の人々にも飲み好まれ、浸透していく。そんなストーリーがもたらす理想的なサイクルが、海外での日本酒をめぐる状況として生まれつつある。

今回のテーマである東北にも、まだ世界に知られていない固有の文化や日本酒にまつわるストーリーは数えきれないほどあるだろう。それらをすくい上げて、しかるべき人たちに向けていかに発信できるか。彼らの関心を東北に引き寄せる可能性は、まだまだありそうだ。

温泉ではなく、裏に広がる豊かな世界観で訴求

熊本県阿蘇郡・黒川温泉郷の住民とクリエイターがコラボし、地域の伝統的価値を美しい映像、写真、音楽によって凝縮したデジタルアーカイブのウェブサイト「KUROKAWA WONDERLAND」。

KUROKAWA WONDERLAND「KUROKAWA WONDERLAND」

東北酒蔵街道が目指そうとしている、“訪れたくなる”地域価値を世界発信した先行事例として学ぶべき点が多い。プロジェクトを主導したのはEXIT FILM 代表の田村祥宏さんと、Letters代表の野間寛貴さん。キーノートで登壇した2人は酒蔵アイデアソンにも参加した。

田村祥宏さん(右)KUROKAWA WONDERLAND を制作した、EXIT FILM代表の田村祥宏さん(右)。アイデアソンでは、見事「特別賞」に輝いた(左:審査員/プレゼンターはEyes,JAPAN代表取締役の山寺純さん)

そもそも、KUROKAWA WONDERLANDは東京在住のクリエイターたちがポートフォリオを制作するためにはじまったというのが興味深い。だから予算はゼロ。プロジェクトに共感したクリエイターたちの持ち出しだ。

根幹を成す7分のムービーは、黒川に今も受け継がれる吉原神楽の原点である天岩戸開きのストーリー。「出演者は地域の人たち。ロケ地は観光スポットではなく地元で大切にされている場所。古くから脈々と土地に根づく神話の世界観を表現した」(田村さん)。世界中の映像やウェブサイトのコンテストに出展したところ多数の賞を獲得した。エンドユーザーのターゲットを“20〜30代前半のヨーロッパのクリエイター”に絞り込んだところがポイントだという。「丁寧で美しいクリエイティブに敏感な人が最初に認知することで、結果的に多くの人が黒川に来てくれるはず」(野間さん)と信じていたからだ。

映像、写真、音楽、メイクなどクリエイターのワークショップを開き、地元にスキルを伝播した。「僕らはきっかけにすぎない。クリエイティブに、持続可能なまちづくりに取り組むにはスキルをシェアして“手放す”ことが重要」(田村さん)。

野間寛貴さんKUROKAWA WONDERLANDでプロジェクトマネージャーを務めたLetters代表の野間寛貴さん

黒川といえば温泉。だが「KUROKAWA WONDERLAND」では「あえて温泉を売りものにしていない」(野間さん)。その裏に広がる本質的な世界観で訴求した。温泉や景観なら世界中に数限りない。だが黒川には黒川にしかない豊かな世界観がある。それをウェブサイトのデジタルコンテンツとして統合した。

ならば、東北の日本酒と酒蔵の背景にはどんな世界が広がっているのか。そんなふうに考えると「東北酒蔵街道」の活動にもヒントになりそうだ。

キーノートスピーカー3名のお話から、海外における日本酒の広がりと、地域固有の資源による活性化の可能性・ヒントが見えてきました。後編では、本格的に始動した「東北酒蔵街道」が地域に何をもたらそうとしているのか、どんな可能性を秘めているのかを考えていきます。


多様で固有のストーリーをつなげるということ──「東北酒蔵街道」をヒントに考える(後編)


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