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地域の知を育み、市民とともに育つ図書館へ ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(前編)

2016年03月14日



地域の知を育み、市民とともに育つ図書館へ ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(前編) | あしたのコミュニティーラボ
私たちにとっての公共図書館とは何だろうか? 定期的に通う者、少し遠出をしてでも贔屓の図書館に通いたい者、毎日その前を通り過ぎるだけの者——。公共図書館との“距離感”は人それぞれだ。そこであらためて、公共図書館が私たちにとってどんな存在か考えてみたい。今回はサービスデザインなどの手法を取り入れながら、共創型図書館の構築を目指す、長崎市立図書館の取り組みを追った。

司書の育成で図書館が変わる! 自らの職能を見つめ直す ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(後編)

4分の1が公共図書館を利用しない、という現実

日本における公共図書館の重要度を示すデータがある。2015年3月に国立国会図書館が発表した「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」だ。その内容を一部抜粋する。

直近1年間で、公共図書館もしくは移動図書館を使った人は「39.6%」。「1年以上前」まで含めれば、その数字は「75.8%」にまで上がるが、過去を含めて利用したことのない人が実に「24.2%」もいることを示している。なお、利用しなかった理由は「図書館に行く必要性を感じない、興味がない」(35.7%)。
公共図書館のサービスの重要度(「とても重要」「いくらか重要」と回答した人の割合)の上位3位は「本やCDなどの無料の貸出」(74.9%)、「読書や勉強をするための場所の提供」(68.1%)、「ウェブサイトでの蔵書目録などの情報提供」(62.5%)。その後は「仕事や学習に関する情報の提供」(62.1%)、「子ども向けのサービスの提供」(61.6%)と続く。

※出典 平成27年3⽉国⽴国会図書館-集計レポート- 

利用者が期待する“貸出サービス”に偏りすぎたことから、既存の公共図書館を「無料貸本屋」と揶揄する論調は、以前から存在する。インターネットの普及により、情報取得がしやすくなり、図書館に足を運ぶ人も少なくなってきている。

そんななか、最近では地域コミュニティの核を果たす“つながる図書館”が各地で増加中だ。2014年1月には『つながる図書館――コミュニティの核をめざす試み』(猪谷千香/ちくま新書)が出版され、そこでは誰もがその地域に住みたくなるような“おらがまち自慢の図書館”が紹介された。

2008年1月にオープンした長崎市立図書館も、そんな“つながる図書館”を目指す公共図書館の1つだ。九州初のPFI(Private Finance Initiative:公共施設の維持管理を民間に委託する手法)方式による公共図書館で、株式会社長崎クロスライブラリーが管理し、株式会社図書館流通センター(TRC)が運営を行っている。蔵書数は57の分館・公民館と合わせておよそ116万冊。本館だけでもおよそ63万冊と大規模だ。本の貸出サービス、読書や勉強の場、情報のストック機能など、多くの市民に期待される役割を十分に担っているといえるが、2013年頃から、同図書館では将来を見据えた「共創型図書館」の取り組みにも邁進している。

長崎市立図書館共創型図書館の構築を目指す長崎市立図書館

市民にとっての「知の拠点」にならなくては!

長崎市立図書館の下田富美子さんは、大学で図書館などの非常勤職員として活動した後、TRCに入社。開館当時から、長崎市立図書館で勤務し、2013年から運営総括責任者を務めてきた。下田さんはTRCが受託した長崎市立図書館をつくり上げていくにあたり、「図書館の価値」を見つめ直した。

「蔵書数、貸出件数、来館者数などで数値目標を立て達成率で評価することは難しい。ならば図書館の価値を何で示すかを考えた結果、利用者のみなさま・市民のみなさまに、図書館を“知の拠点”だと思ってもらうことだと認識しました」(下田さん)

下田富美子さん長崎市立図書館 運営総括責任者 下田富美子さん

図書館の価値、それ自体が見失われていることは先に述べたとおりだが、それはもとより、長崎市立図書館変革の背景には、長崎市が抱える地域課題もあった。産業の衰退、労働賃金の低下、観光地化による不動産価格の高騰、高齢化と若者の人材流出など。地域課題が顕著になるごとに、下田さんは長崎の地から「これ以上、幸せになるとは思えない」という、ネガティブな市民のマインドも感じたという。公共図書館が地域の“知の拠点”となり、市民と共に育つ共創型図書館に変わっていく——。長崎市立図書館の変革は、開館当初からの必然だった。

下田さんは図書館変革のパートナーとして、図書館の現場に、富士通デザイン株式会社(サービス&プロダクトデザイン事業部・鈴木偵之さん、同・森下晶代さん)と、株式会社メタデザイン(同社主宰・三浦健次さん)を迎え入れた。彼らデザインチームは、2013年頃から司書へのデザイン思考ワークショップを通じて、市民と共に育つ図書館をつくる共創プロセスを構築した。

そのプロセスは、図のように、段階的に理想的な共創型図書館をつくっていく取り組みで、現在も進行中だ(図1)。

共創プロセス図1 理想的な共創型図書館をつくるための共創プロセス

図書館を舞台に小学生がメディアリテラシーを考える

このうちサービスデザイン(市民に提供するサービスづくり)を考えるなかで、2013年、実験的なワークショップが開催された。「Media Literacy Workshop」(メディアリテラシー・ワークショップ)だ。図書館に地元・精道三川台小学校の5年生を招き、蔵書やタブレットを使いながら、それぞれに探究活動を行ってもらった。

ワークショップのテーマは「長崎の水族館にいるペンギンは幸せなの?」。

児童は長崎ペンギン水族館の飼育員とビデオ通話で対話をした。前年に東京の水族館を脱走し、後に捕獲された「脱走ペンギン」が話題になったこともあり、「脱走したままのほうが幸せだったんじゃないの?」「水族館にいるペンギンは狭い部屋に入れられてかわいそう……」という率直な疑問もぶつけられたという。水族館側では、ペンギンの生態に関する情報もさることながら、絶滅の危機に瀕する種の保存、そして遺伝的多様性の確保といった水族館の貢献活動を丁寧に解説。児童は水族館で飼育されることは幸せなのか、それとも不幸せなのか、1つの物事に対して多様な意見・価値観があることを学ぶきっかけを得た。

長崎ペンギン水族館多様なペンギンの生態を間近で学べるのが、長崎ペンギン水族館の魅力の1つ

水族館飼育展示課主査(学芸員)の田﨑智さんは、児童たちに「水族館が単に楽しむだけの施設なのではなく、教育や保護、研究を担う施設であること」を丁寧に説明した。ビデオ通話では、水族館のほか、市役所、町役場、民間企業などとも連携。大人たちとの対話を通じ、各自が課題を見つけ、解決策を考え、それを大人たちに伝える、そんな全3回のワークショップとなった。

同校には、6年生の課題として、1年間かけて制作する卒業論文があるという。小学校の坂井睦校長いわく「メディアリテラシーという能力は、どういうふうに情報を収集し、どうやって発表するのかが問われる。これから卒業論文を制作していく子どもたちにふさわしいものだった」。

では、子どもたちの反応はどうか。同校教諭で、このワークショップ運営を担当した馬場豊さんは次のように話す。

「それを教えたからといって、すぐに芽に出てくるものではありません。本当に学んだことが役立つのは、中学校、高校、もしかしたら、大学に進学してからかもしれない。教育とはそういうものです。それでも児童の反応を見れば、インパクト抜群だったことは間違いない。学校教育の建物のなかだけだと、どうしても生徒に制約みたいなものを感じさせてしまいますが、こうしてこれまで出会ったことのない“知”と接することで『こんなことまで言っていいんだ!』と感じることができたと思います」(馬場さん)

精道三川台小学校 校長の坂井睦さん(左)、教諭の馬場豊さん(右)精道三川台小学校 校長の坂井睦さん(左)、教諭の馬場豊さん(右)

「飛び出していく司書にならなくては!」

子どもたちからのリアクションが大きい一方で、図書館が核となり、小学校と水族館をつなげることもできた。またペンギン水族館の田﨑さんは「図書館では時期によってテーマ展示で本を紹介しており、その展示企画のなかで市民のみなさんに水族館の役割を知ってもらうこともできる。そんな価値にも期待しています」と展望する。

取材に同席いただいた長崎市立図書館の辻成美サブマネージャーは、この日、田﨑さんと今後の連携について話し合い、2人の対話のなかでは田﨑さんから「図書館にペンギンを持ち込むのは可能ですかね?(笑)」なんて仰天プランまで持ち上がった。「こうして、私たちが“飛び出していく司書”になって、人と人とをつなぎ、自律的な学びの支援をしていかなければならない」と辻さん。

田崎智さんと辻成美さん長崎ペンギン水族館の田﨑智さん(左)と長崎市立図書館の辻成美さん

下田さんが期待していることも、そこにある。下田さんは図書館変革にあたり、司書の役割を見つめ直した。「司書の役割が認められなければ、図書館の価値は上がらない。図書館の価値が認められなければ、司書の給料だって上がらない」。そのためには「司書の本来的な役割」をいっそう認知させていく必要があったのだ——。

後編では長崎市立図書館が目指す「司書の本来的な役割」と、その育成方法について、下田さんと富士通デザイン株式会社のメンバーに伺います。

(後編)司書の育成で図書館が変わる! 自らの職能を見つめ直す ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり


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