Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

多様性への見えない壁を「気持ちのデザイン」で超える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(後編)

2016年04月05日



多様性への見えない壁を「気持ちのデザイン」で超える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(後編) | あしたのコミュニティーラボ
福祉へのイメージを、マジョリティである健常者への巧みなマーケティングによって変えつつある、ピープルデザイン研究所の活動。代表理事の須藤シンジさんは、“心のバリア”を壊す重要性を訴える。洋服やシューズにはじまり、徐々に活動の裾野を広げている須藤さんが、新たに取り組む「まちづくり」とは? 福祉の概念を壊す、新たなチャレンジを聞いた後編。

「カッコいい!」から福祉を変える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(前編)

“モノ”から“コト”、そして多様性の“まち”づくりへ

──「Nextidevolution(ネクスタイド・エヴォリューション)」ブランドでは、これまでどれくらいの商品をリリースしてきたのですか。

須藤 この14年間でシューズ、バッグ、衣料、生活雑貨など品目でいうと6~7アイテム、点数だと100点を超えていると思います。

ここで得られたギャランティは、よりカッコよく、障害者と健常者が楽しく混ざり合っていくためのイベント制作に充当しました。“モノ”から“コト”への展開ですね。代表的なのは、「日本ブラインドサッカー協会」とのコラボイベントや音声ガイダンス付き映画上映会。
ブラインドサッカーブラインドサッカーの様子(写真提供:Nextidevolution)
健常者のサッカー少年たちがアイマスクをしてプレーを経験し、ブラインドサッカーの日本代表選手の華麗なシュートに「カッコいい!」と感嘆したり、必要な人だけがFM電波で音声ガイダンスを受信することで健常者と視覚障害者が一緒の空間で映画を鑑賞し、その後、お互いに感想を語るなど、混ざり合って楽しめる仕掛けを施したイベントです。

──“心のバリア”が溶けていく手応えは感じられましたか。

須藤 堅いところでほぼ6割のイベント参加者が、これをきっかけにまちへ出るようになりましたとか、ハンディのある方に臆せず声をかけられるようになりましたとか、体験をきっかけに行動が変わったというコメントももらいました。

それをより大胆に行うために、4年前からまちづくりを意識し、渋谷を舞台に活動を開始しました。

須藤シンジさん

「ハンディを可能性に変え、人々の心のバリアを溶かし、障害のあるなしに関わらず自然に混ざり合った空間をつくる。スポーツ、エンタテインメント、ファッションといったワクワクするコンテンツを通じ、人の動きを触発するようなきっかけをクリエイティブに楽しくデザインすることで、マイノリティといわれる人々との共生を促すダイバーシティ(多様性)のまちづくりを目指す──」

こうした考え方を “ピープルデザイン”の一語に込め、NPO法人ピープルデザイン研究所を設立しました。

──なぜ渋谷をまちづくりの舞台に選んだのですか。

須藤 住まいは川崎ですが、大学時代以降、ずっと過ごしてきた場所が渋谷でしたし、なによりこのまちは世界的に認知度が高いんです。全世界のスターバックスの売上ナンバーワン店があったり、映画『バイオハザード』に登場する秘密基地がハチ公前交差点の地下に設定されたり、次世代に訴求するポップカルチャーやエンタテインメントの分野で影響力が大きい。

さらにより具体的なきっかけとなったのは、渋谷区議会議員の長谷部健(現・渋谷区長)さんからアプローチがあったこと。ピープルデザインの考え方を活用し、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2022年の区制90周年に向けて、心のバリアフリーのための実践を地域資産と捉えて区民の誇りを高め、異なる特徴を持つ人達が混ざり合うダイバーシティのまちづくりを目指しています。

手はじめに行政の意識改革からと、区役所職員のみなさんを対象にピープルデザインのアプローチを活用した研修を実施しました。実は、そこで生まれたアイデアを元に2015年秋にはじまった施策もあります。障害者、LGBT(性的マイノリティ)、高齢者、子育て中の母親、外国人居住者、外国人観光客──。
超福祉展「超福祉展」のポスター、さまざまな当事者が登場する
(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)

この人たちの困りごとをいかに“カッコよく、ヤバく、かわいく”解決することを入り口にして地域の多様な価値にしていくか。そのためにさまざまなイベントやワークショップ、仕掛けづくりに挑んでいるところです。

2014年からスタートした「超福祉展」も、まちづくりの1つ。地味で暗い福祉機器のイメージを覆し、“カッコいい”“かわいい”と使ってみたくなるデザイン、“ヤバい”テクノロジーを備えたギアとして福祉機器を提案し、福祉の枠に収まらないシンポジウムやトークセッションも開催するイベントです。カッコいい車椅子に乗っていたら、まちで会話も生まれやすいと思いませんか。

メイド・イン・ジャパンの「おもいやり」をリバイバル

──就労機会の創出にも取り組んでいらっしゃるんですね。

須藤 次男が成人となり、障害者の就労問題に当事者として直面しました。マイノリティの就労機会をどうつくりだすか、低賃金の向上をどう実現するか。仕事づくりもピープルデザインによるまちづくりの大切な文脈の1つです。

その試みの1つが、Jリーグ横浜FC、川崎フロンターレのホームグラウンドで近郊の福祉作業所から障害者の人たちがチケットもぎりなどの作業に従事する就労体験のコーディネイト。約4時間で1人2,000円の交通費は、実働を考えると雇用契約を結ばない就労継続支援B型の福祉作業所における平均時給176円(平成24年度 厚生労働省調べ)を、はるかに上回る金額です。2015年度の実績では、その他、実業団スポーツチームのアメフト、女子バスケ(いずれも富士通)、女子バレー(NEC)、男子バスケ(東芝)、そしてカワサキハロウィンパレードや、川崎市の東扇島という工場地帯で開催したオールナイトのロックフェスティバルなどで年間476人が就労体験し、そのうち10人がそれをきっかけに正規就労することができました。
サッカーチームでの就労体験サッカーチームでの就労体験の様子(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)
費用の調達先は、アルファ ロメオ(FCAジャパン株式会社)様をはじめとする協賛企業とクラウドファンディング、ピープルデザイン研究所の3本柱です。試合がはじまったらスタンドで観戦できるのも障害者にとっては大きな楽しみです。障害者が健常者と混ざり合いながら“楽しくカッコいい”仕事ができるこのモデルは、海外からも注目されはじめました。

折しもピープルデザイン研究所を設立した頃から、オランダの大学をはじめ、海外からの講義依頼などのオファーが来るようになっています。日本語でしか発信していないにも関わらず、“ピープルデザイン”のコンセプトに海外のリサーチャーが敏感に反応したようです。Nextidevolution(ネクスタイド・エヴォリューション)のクリエイターやデザイナーは外国人が多いし、独立時に設立したマーケティングのコンサル会社の仕事でも海外と取引があるので、年間4分の1は国外にいます。

──障害者や高齢者など、マイノリティや社会的に弱い立場に置かれている人たちと楽しく、カッコよく混ざり合う方法を考える“ピープルデザイン”のようなアプローチは世界的な潮流になりつつあるのでしょうか。

須藤 むしろ他の先進国に比べると日本は周回遅れの感があります。超高齢化社会に突入しているにも関わらず。

一方でそれは仕方ないところもあって。欧米社会は生活習慣上、成人したら親元を離れて独立するので独居戸数がそもそも多く、高齢者の独居は15年前から大きな社会課題でした。そのため社会保障制度をはじめ、製品やサービスもしくみがある程度できあがっています。

──国内で根づくには、まだまだ時間がかかりそうですか。

須藤 クリエイティブに心のバリアをフリーにしていく活動の根幹にあるのは「ダイバーシティ」です。それが持続可能な社会を築きます。

ダイバーシティとサステナビリティ(持続可能性)が高度成長期を終えた成熟社会の2本柱だという常識に、政府でも企業でも、気づく人は気づきはじめている。ですから社会の要請として僕らの活動を後押しする波が押し寄せている実感はあります。
サッカー観戦サッカー観戦のため来場したファンに資料を手渡す様子
(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)

強きも弱きも、多数派も少数派も混ざって手を貸し合えばいい。極めてシンプルな話です。それをもう1回、行動規範として日本の生活空間に取り戻す。日本語には「おもいやり」という、いい言葉がありますよね。これには単なる善意や同情ではなく、第三者に思いをはせる、相手の気持ちになって考えてみる、という意味が含まれています。ビジネスのマーケティング上も、顧客ニーズをつかむには“思いやる”視点が必要です。

相手を思いやるという言葉として使われる“向こう3軒両隣”ではないですが、他者への想像力を起点に置いた“おもいやる”習慣は、もともと日本で生まれた、「メイド・イン・ジャパン」の考え方だと思う。それをリバイバルさせる必要があると思います。

「カッコいい!」から福祉を変える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(前編)

須藤シンジさん

須藤シンジ(すどう・しんじ)

NPO法人 ピープルデザイン研究所 代表理事
有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション 代表


大学卒業後大手流通企業に入社。次男が脳性麻痺で出生し、自身が能動的に起こせる活動の切り口を模索。2000年に独立し、有限会社フジヤマストアを設立。2002年にソーシャルプロジェクト/ネクスタイド・エヴォリューションを開始。「ピープルデザイン」という新たな概念を立ち上げ、障害の有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや、各種イベントをプロデュース。2012年にはNPO法人ピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ