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鯖江の移住事業から見えた、オープンイノベーションの起こし方 ——福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト(前編)

2016年04月22日



鯖江の移住事業から見えた、オープンイノベーションの起こし方 ——福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト(前編) | あしたのコミュニティーラボ
福井県鯖江市で一風変わった若者向けの移住事業がはじまっている。「ゆるい移住」プロジェクトだ。第一期に参加した体験移住メンバー15名は2015年10月〜2016年3月の半年間、鯖江市の市営住宅で共同生活を送り、なんとそのうち7名が鯖江で暮らし続けることになった。体験期間中は、特にプログラムは決められておらず、就職の必要もないというこの事業。各自が自発的に地域との交流を持ち、とにかく自由に活動する。この取り組みのねらいはどんなところにあるのか、運営メンバーに話を伺った。

【後編】「とりあえず移住してみた」からはじまる、地方創生のロールモデル——福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト

住む場所しか決められていない移住プロジェクト

福井県鯖江市内の団地にある市営住宅。3DKの一室に、2015年10月から共同生活を送る若者たちがいる。鯖江市が企画した「ゆるい移住」のメンバーだ。

住む場所は鯖江市で用意される。しかし、市がメンバーに地元での就職・農業・起業などを斡旋することは、一切ない。光熱費などは各自で負担。半年間の移住期間中、基本的には何のプログラムも用意されておらず、何をすべきかは各自が決める。何も決められていないという点で、実に“ゆるい”形態の移住事業である。

彼らの生活は「ゆるい移住計画」のFacebookページからうかがうことができる。どこかのんべんだらりとした生活模様にも見えるが、地域にコミットした活動報告もたくさん投稿されている。投稿されるネタ以外にも、それぞれが団地住民、近隣住民と交流を持ちながら、思い思いの生活を送っているようだ。

ゴールの見えないプロジェクトにもかかわらず、日本全国から15名の若者がプロジェクトに参加。メンバーのほとんどは、もともと福井県や鯖江市のことはほとんど知らず、田舎への移住を考えていたわけでもなかったという。しかしなんと、そのうち7名が体験期間終了後も鯖江で暮らし続けることになった。なぜ、そんなことが起こり得たのだろう。

当事者が完全に主体になれる状態をつくる

「鯖江という場所を使い、自分たちで『新しい何か』をつくる。それを体験してもらうのが“ゆるい移住”の目的です」。そう話すのは「ゆるい移住」の提案者でコーディネーターの若新雄純さん。慶應義塾大学では政策・メディア研究科の特任講師として「コミュニケーション」を研究する。これまで取締役が全員ニートの「NEET株式会社」(2013年設立)、週休4日で月収15万円を稼ぐ「ゆるい就職」(2014年)などをプロデュースしてきた。

「ゆるい移住」提案者 若新雄純さん
「ゆるい移住」提案者 若新雄純さん

「誰かが用意したものをこなすより、当事者が完全に主体になり、すべて自己責任でコミットする。その状態をつくることで、内発的な高いモチベーションが続く。たとえ、そこから生まれるのが“意味不明”だったり“しょうもないもの”でも、そこに『新しい何か』ができてくるはずです。その構造はJK課も同じで、それを発展させたのが『ゆるい移住』でした」

若新さんの言う「JK課」とは、地元女子高生(JK)が中心となって地域活動に参画する公共事業「鯖江市役所JK課」のこと。2014年に若新さんの提案により発足し、鯖江市・市民協働課が管轄、その取り組みは総務省「ふるさとづくり大賞」の総務大臣賞を受賞するなど、大きな成果を得ている。

【関連記事】“JK”にも開かれた、オープンな鯖江づくり その途中 ──jig.jp 福野泰介さんインタビュー(前編)

“あえて提供しない”VS“提供したくなる”のせめぎ合い

そうして、2015年7月には「ゆるい移住」プロジェクトが正式に発表された。8月には東京・大阪で説明会を行い、9月には移住希望者を鯖江に集めて1泊2日の事前合宿を実施。ここに19名(男性13名、女性6名)、平均年齢28.9歳の移住希望者が集まった。

「正直なところ、当初は『何言ってるんだろう?』と懐疑的な部分もありました」

地方創生戦略室室長 齋藤邦彦さん
地方創生戦略室室長 齋藤邦彦さん(中央)

この計画に対する最初の印象についてそう話すのは、地方創生戦略室の室長・齋藤邦彦さん。移住希望者に対して、書類選考もしなければ面接選考もやらない。来る者拒まずが「ゆるい移住」の基本姿勢。加えて「住まい以外、行政からは何も提供しない」ということに、市役所職員としての抵抗感があった。通常、サービスを提供することこそが行政の役割なのだから「あえて提供しない」ということに不安をぬぐえないのも当然のことだ。

地方創生戦略室の室長補佐・法水直樹さんも、齋藤さんと同じ気持ちだった。

「9月の事前合宿の段階で、移住生活をどう過ごすか、ある一定のルールを移住希望者の間で決めてもらいました。しかし『もしも話し合いがまとまらなかったらどうするんだろう』と不安になり、若新さんに相談をしたんです」

地方創生戦略室室長補佐 法水直樹さん
地方創生戦略室室長補佐 法水直樹さん

法水さんからの連絡を受け、若新さんは企画者の立場から「彼らを信じて、“何もしない”ほうがいい」とアドバイスを送った。そのねらいはこうだ。

「僕はこれまで、コミュニティーの開発を研究していて、ある考え方を持っています。それは、『現代では、プログラムを提供する側・される側という関係性は長続きせず、その関係性のなかでは若者たちはあまり満足しない』ということです。オープンイノベーションといわれるものも同じですよね。一度でも役所側が何か用意してしまうと、提供する側・される側の関係が構築されるという懸念があった。たとえメンバー同士の話し合いが衝突しても、メンバーが本気であれば建設的に進むはず。そういう期待がありました」

そう助言を受け、移住メンバーが何かを決めるにしても、いっさいの口出しをしなかった鯖江市。その結果、ねらいのとおり、移住希望者の間できちんと話し合いが持たれ、生活に必要な最低限のルールが移住希望者主導のもと決まった。

“信頼する”ことで築かれた移住メンバーとの関係性

プログラムしないことでうまくいく。若新さんは「ベースにあるのは信頼なんです」と説明してくれた。

「こうしたコミュニティーでは、参加者は“信頼されているかどうか”を感じ取ります。だから、場を提供する側は『移住メンバーってこんなもんでしょ』ではなく、『このプロジェクトに参加した人なんだから、おもしろくてすごい人たちに違いない!』と信じ続けなければいけない。でも、職員の方たちが『これで大丈夫か?』と心配されるのも当然の話。まともな組織の人はそれが正しい(笑)。だけどこれからのコミュニティーでは『あなたを信頼している』ということを参加者に伝え続け、参加者が自らスイッチを入れるまで待つことが求められる。そこから本当の信頼関係が築かれると思うんです。『NEET株式会社』では、まだそれがうまくいっていませんが(苦笑)」(若新さん)

若新さん

こうしたシーンは、半年の間、あらゆる局面で訪れた。移住メンバーに最も寄りそって活動してきた法水さんはそのたびに、移住メンバーを信頼することを忘れなかった。「あれをやってくれ」「こうするべき」などと押し付けることはほとんどなく、ひたすら彼らに“任せ続けた”のだ。しかし、メンバー側から必要とされたら、できる限りのサポートをする。その結果、若新さんいわく、「今では法水さんは移住メンバーにとって“神的”な存在で、“法水さんを困らせること、禁止”みたいなルールができあがってきている(笑)」とのこと。とにかく信頼して任せ続けていくことが、移住メンバーとの信頼関係構築につながった。

「ゆるい移住」の土壌形成に使われたその手法は、まさしく「オープンイノベーション」を起こす場づくりの手法そのものだといえる。

説明会、合宿を経て、移住をはじめたメンバーたち。彼らはここで何を考え、何を得るのか。後編では、移住をはじめて見えてきたことを若新さん、また実際に移住をしたメンバーから伺う。

【後編】「とりあえず移住してみた」からはじまる、地方創生のロールモデル——福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクトへ続く


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