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【座談会】なぜ、企業・大学でアイデアソンが求められているのか? ──大分大学アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(前編)

2016年04月28日



【座談会】なぜ、企業・大学でアイデアソンが求められているのか? ──大分大学アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(前編) | あしたのコミュニティーラボ
近年、地方を中心に、各地で大学・企業の開催する「アイデアソン」がさかんに行われるようになった。ここ、大分県でも「大分大学」と「豊の国優良住宅推進協議会」の加盟企業による共創プロジェクトが進行中だ。今年2月に開催されたアイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」では、大分大学経済学部の学生・教職員、地元企業の社会人たちが、県産材を使った新たなIoTプロダクト・サービスを考えた。なぜいま地方で「アイデアソン」という手法が求められているのか。「Social Innovation Challenge for Oita」の関係者に集まっていただき、大学×企業の共創プロジェクトの意義について話し合っていただいた。

【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ──アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編)

〈座談会司会〉
黒木昭博さん/株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント
〈座談会参加者〉
市原宏一さん/国立大学法人大分大学経済学部 学部長・教授
本谷るりさん/大分大学経済学部准教授 
馬場鉄心さん/豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長)
冨川慎吾さん/ 〃 加盟企業(株式会社玉井木材センター 代表取締役社長)
中野康平さん/大分大学経済学部(3年、当時)
原遼太郎さん/ 〃(1年、当時)
林 昌輝さん/ 〃(1年、当時)

大分の大学教育が抱える課題とは?

富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント 黒木さん
富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント 黒木昭博さん

黒木 大分大学経済学部では、授業プログラムの一貫として、共創プログラム「ソーシャルイノベーションワークショップ」を開催しています。2015年10月には、株式会社大分フットボールクラブ(大分FC)とのアイデアソンを実施。今回は「県産材を使った新たなプロダクト・サービスをIoTで考える」をテーマに掲げ、アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を実施されたわけですが、そもそも大分大学経済学部がこうした共創プログラムに取り組まれているのはなぜなのか、市原学部長からその背景をお話しいただけますか。

大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん
大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん

市原 かねてから大学が教育として何を柱に置くべきなのか、という議論がありました。

考えてみてください。これまで大人たちは散々、学生たちに「勉強しろ、勉強しろ」と言ってきたわけです。しかし学生たちにすれば「じゃあ、なんで勉強するのか」、それに対して大人は「自分で勝手に見つけ出せ」。そんなことが、長らく繰り返されてきました。

私は勉強する意義は「体験」から得られると考えています。体験することで勉強の必要性を感じます。そして必要性を感じないと勉強ははじまらないものです。こうしたアイデアソンを通じ、学生は商品・サービスとして社会へ流用させることまで考える。そこで生じた現実とのギャップを埋めて世のなかに通用するものにするべく、大学に戻ってきてまた勉強する──。それがこの共創プログラムのメインテーマだととらえています。

黒木 アイデアソンには企業・学生・教職員の立場から40名以上が参加し、私も企画運営やファシリテーターの立場で参加させてもらいました。

学生さんはいかがでしたか? 中野さんは、大学で林業をテーマにした論文を執筆中とのことですが……。

大分大学経済学部3年(当時) 中野康平さん
大分大学経済学部3年(当時) 中野康平さん

中野 僕はやっぱりフィールドワークが印象深いですね。普段は資料や論文を調べたり、パソコンに向かったりすることが多くて、直に木に触れたのは今回がはじめてです。ものづくりの現場に足を踏み入れ、木材の良さを体感できたことがいちばんの収穫でした。

黒木 林さんはどうですか?

大分大学経済学部1年(当時) 林 昌輝さん
大分大学経済学部1年(当時) 林 昌輝さん

 僕にとっては、大分トリニータ、2015年度のあしたラボUNIVERSITY神戸大会に続き、3回目のアイデアソンでした。初のアイデアソンは他の人のアイデアに完全に乗っかるかたちでしたが、2回目はアイデアオーナーになりました。今回のアイデアソンも、1回目と同様、他の人のアイデアに参加したのですが、結果的にはチームのなかで自分の意見を伝えたことで、発表アイデアでは自分のアイデアも盛り込むことができました。

アイデアソンに参加すると、自分に足りないものがよく見えるんです。どの回でも、そのときどきで自分の立場や課題を確認することができましたし、向き・不向きを再認識することで、自分の果たすべき役割を見つめ直すことになります。

黒木 すっかりアイデアソンの成果を感じ取っているみたいですね。

 今後もアイデアソンには積極的に参加したいですね。ふつうの授業では絶対に体験できませんから。こういう取り組みは学生に敬遠されがちで、参加学生も全国的に見ればまだまだ少ないかもしれませんが、これがもっと当たり前になるように僕もなんらかのかたちで貢献したいです。

黒木 今度は企画の立場で携わってみてもおもしろいかもしれませんね。教職員の立場からはいかがでしょう? 本谷先生は市原先生と同様、運営者として携わっていますが、何人かのゼミ生がアイデアソンに参加しました。

大分大学経済学部准教授 本谷るりさん
大分大学経済学部准教授 本谷るりさん

本谷 私も運営者の立場からゼミ生の活躍を見守っていましたが、学生たちがこんなことを考えていたんだ、という発見がいくつもありましたね。ふだんの授業とぜんぜん違います。こうした形態の授業の意義を、イチ教員として感じました。

人材育成に必要なのは“失敗の体験”

黒木 学部長のお立場から、市原先生は今回のアイデアソンをどのように感じましたか?

市原 私は、こうした授業でのいちばんの意義は「失敗をさせること」だと思うんです。大学はそういう教育をこれまでしていませんでした。通常の勉強は「これやって、次はこれやって……」というふうに“組み立てていく勉強法”ですよね。何のためにそれをやっているのかわからなくても、なんとかなってしまう。途中が抜け落ちていても気づかない。そうしたことに自覚を持ってもらうのが、大学教育ではアイデアソンになっていければいいと思います。

黒木 私も企業人ですが「イノベーションが必要」「新しいものを生み出す」ということは、企業のなかに共通認識としてあると感じます。しかし最初からそれを成功させようと思っても、なかなかうまくいかないものです。試行錯誤が必要だとわかってはいても、その経験値が足りず、失敗を避け、最後のところだけやりたがる……。失敗する経験が圧倒的に足りないというのは、企業人の立場からもとても理解できるお話です。

市原 日本ハウジング株式会社の馬場社長からも事前にそういうお話を伺っていました。自発的な社会人が増えてほしいけど、なかなかそうもいきません。そのすべてを大学でなんとかできるわけではないですが、人材育成の面からも、社会人を養成する大学機関にお手伝いできることがあれば、と思っています。

豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん(中央)は、地域産業における「県産材」の可能性をもって、アイデアソンへの参画を決めたという
豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん(中央)は、地域産業における「県産材」の可能性をもって、アイデアソンへの参画を決めたという

黒木 そのためには何より、学生がアイデアソンに参加するに至るモチベーションが必要になると思います。私が印象的だったのが、学生さんから「熱中するものを見つけた」という意見が多いことでした。たしか原さんもそう言っていたよね?

大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん
大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん

 はい。部活動でも、大会という目標をチームで共有しながら、個人が成長するという目標がありますよね。アイデアソンはそれに似ていると思います。アイデアに人が集まって、試行錯誤しながらゴールを目指す。その過程でお互いを高め合うこともできる。それが夢中になった要因かな、と思います。

黒木 原さんは今回のアイデアソン、どんなことを感じましたか?

 フィールドワークで何を感じ、どんな問題があるのか認識することが大事だと思いました。最初のアイデアで最後の発表までいけることなんてめったにありませんが、最初のアイデアのときに何を成し遂げ、どんな利益を社会・個人にもたらしたいのか考えることは大事です。アイデアはゴールに向かうための方法に過ぎず、1つに限られているわけでもない。方法が何個も答えとして出てくるから、よりいいものを導き出せる。そのためにも、フィールドワークが肝心なんだと感じました。

黒木 そう。課題解決には、いろいろな通り道があるんです。何を提供するのか、そして、どんな価値が生まれるのか。その考えを忘れずに挑んだからこそ、各チームとも最後の発表までたどり着けたのだと思います。

県産材を使ったIoTサービスが創発された

黒木 今回創発されたアイデアは、木とテクノロジーを組み合わせ、新しいモデル・プロダクトをつくるというものでしたが、「県産材」というテーマを持ち込んだのは、豊の国優良住宅推進協議会代表の馬場さんです。テーマオーナーとして馬場さんはどう思いましたか?

豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん
豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん

馬場 ゼロからイチをつくる発想がみなさんすばらしかったですね。グランプリに輝いたアイデア*は、一般的な人が「木って気持ちいいよね」と思うところに目を向け、それから先の展開力がどれだけあったかというのが受賞の理由だと思います。“モッククライミング”は、本当に山のことを考えたアイデアでした。

(*編集部注:アイデアソンでグランプリに選ばれたのは、木製ボルダリングのIoTサービス。“ロッククライミング”ならぬ“モッククライミング”の進路・手足の置き場をウェアラブル端末でアシストするというものだった)

黒木 アイデアをつくる側は、どんなことを意識しましたか? 受賞は逃しましたが、中野さんはチーム「木団」で木製グラス「nomoue」というプロダクトを考えました。県産材でつくったグラスがbluetoothでスマホアプリと連動し、お酒のほどよい割り方や前日に飲んだお酒の量などを教えてくれる、非常にユニークなアイデアでしたね。

中野 発表のときはあまり詳しく言えなかったのですが、自分は経済学部ですから、県産材にいかに付加価値をつけ、林業の収益を確保するか、をテーマに考えていました。お酒を飲む体験のおもしろさはもちろんですが、そこだけに焦点を当てるのではなく、高級路線にしたのもそんな理由からでした。

馬場 私たちもハウスメーカーですが、家を売るときは“地元材”を売りにしないんですよ。当たり前に選んだ結果が、地元に循環されるようにしないといけない。だから県産材を売りにせず、高級路線をとったことはビジネスとしても的を射ている。発表のときに言っていれば、結果も違ったかもしれないね(笑)。

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中野 でも「nomoue」というプロダクトをつくったことはとても楽しかったです。自分にはものづくりの技術はないけれど、もしも「nomoue」を商品化できる機会があるのなら、今度は僕が企業との橋渡し役として活動していきたい、そう思っています。

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大学を中心に地元産業と学生とが出会い、課題解決を模索したアイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」。大学や企業にとってはユニークな人材育成の場として、在学生には自らの実力を試す貴重なチャレンジの場として、またとない機会となっていたことがうかがえる。では、この取り組みを“ローカル”という視点で問い直すと、どのような価値が見えてくるのだろう。後編では、地域社会における大学のあり方、地元産業などとの共創による地域課題へのコミットメントの可能性について深掘りしていく。

【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ──アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編)へ続く


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