Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

オープンコミュニティー発、社会を変える新しい働き方 ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(前編)

2016年06月09日



オープンコミュニティー発、社会を変える新しい働き方 ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(前編) | あしたのコミュニティーラボ
すべての人がより生きやすい社会を実現するには、どんなアクションが有効になるのだろう。その問いへのヒントとなる仮説・検証を繰り返している人物がいる。「女性の社会参加」を1つのキーワードとして神戸を拠点に活動する、湯川カナさんだ。移住先のスペインから帰国後、2013年に「一般社団法人リベルタ学舎」を立ち上げ、現在は「生きる知恵と力を高める」をテーマにオープンコミュニティーの活動を推進する湯川さん。あしたのコミュニティーラボは今回、彼女の2日間に密着した。そこから見えてきた、「新しい働き方」を拡げるアクションとは。

“失敗を恐れない個人×失敗を許容する社会”から多様性が生まれる ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(後編)

 “Yahoo! JAPAN”の第1号社員

湯川カナさんの印象をひとことで表せば、常識にとらわれない、規格外でアクティブな方。もっといえば、かなり“ぶっとんだ人”かもしれない。それはご自身の経歴にも表れている。

“Yahoo! JAPAN”の第1号社員という華々しい経歴。大学時代に孫泰蔵さん(現ガンホーエンターテイメント代表取締役会長)らと知り合って、“Yahoo! JAPAN”の立ち上げに携わった。後に“Yahoo! JAPAN”が大成功を収めたことは周知のことだが、湯川さんは「数億円以上」といわれるストックオプションの権利を自ら返上。スペインへ移住した。現地では出産も経験。その頃、WEBで公開していた文章を『ほぼ日刊イトイ新聞』の糸井重里さんに見出され、ライターとしても活躍している。

このスペイン時代、現在取り組む一般社団法人「リベルタ学舎」の活動に通じる原体験があった。2004年のマドリード列車爆破テロ事件である。

マドリード市内の中心駅に入る3つの列車で同時に起こった大規模な爆発。誘われるまま広場に行くと、献血に長蛇の列ができていた。そこで聞いた、かなりの数のタクシーが現場に駆けつけ、次々に病人を搬送していったという話──。湯川さんがそのとき目の当たりにしたのは、情報に左右されることなく、それぞれ自律的に動くスペイン市民の姿だったという。

一般社団法人リベルタ学舎 代表 湯川カナさん
一般社団法人リベルタ学舎 代表 湯川カナさん

実はこれより9年前にもテロ事件に遭遇している。1995年の地下鉄サリン事件だ。当時、湯川さんは就職活動で面接に向かう道中だった。幸い、自身がテロに巻き込まれることはなかったが、「駅前で倒れ込む人々を傍目に、自分の面接を優先してしまった」と湯川さんは述懐する。

しかし“見て見ぬふり”は湯川さんだけに限らなかった。当時の東京のまちには「自分には関係ないから」という雰囲気が溢れていた。スペイン市民のように、地域の有事に生活者自らが立ち上がろうとする“空気”は、醸し出されていなかった。

「このままじゃ日本がまずいことになるのではないかと思いました。次に何かあったとき、日本人は他人の命を救うために、自律的に動けるのだろうか、と。ましてやマニュアルがないといわれるこれからの時代、日本国内でも自分で判断して動ける生活者が必要になると思いませんか」(湯川さん)

湯川さんはその後スペインから帰国。「海と山と街があり、まち自体がヒューマンスケール」という理由から、とくに身寄りがあったわけではない神戸を拠点に、リベルタ学舎の前身となる学童教育の活動をスタートさせた。以来、持ち前の明るさと行動力で、周りの人たちを次々に巻き込み、活動の輪を拡げてきた。

「すべての大人が幸せなら、こどもが未来に希望をもてる」

リベルタ学舎が掲げる理念、それは「すべてのこどもが、未来に希望をもてる社会へ」。ならば、“こどもが希望をもてる社会”はどうやってつくるのか、その答えはとてもシンプルだ。すなわち「いま生きている“すべての大人”が幸せだったら、“すべてのこども”が『大人になるっていいな』と未来に希望がもてるのではないか」──。

リベルタ学舎が「生きる知恵と力を高める」をテーマに活動しているなかで、そのターゲットとして特に注視しているのが、女性(主婦)たちだ。かつてない人口減少が進行中の日本において、女性の社会進出が期待され、それが思うように進んでいないことは周知の事実である。

その根拠の1つとして、たびたび「M字カーブ」が取りざたされる。女性の「労働力人口*」の割合(労働力率)は、結婚・出産期に当たる年代(20代後半〜30代)に一旦低下し、育児が落ち着いた時期(30代後半)に再び上昇する。その形が“M字”型のカーブを示す。

出典:内閣府「男女共同参画白書」平成23年版 第1-2-1図「女性の年齢階級別労働力率の推移」出典:内閣府「男女共同参画白書」平成23年版 第1-2-1図「女性の年齢階級別労働力率の推移」

加えて「働きたい人」を含めた労働者の割合を示す「女性の潜在的労働力率**」を見ても、20〜49歳では、実際の就業率と比較して10〜15%程度のギャップがある。「意欲はあっても何かしらの事情で働くことができない女性」が社会にたくさんいることがうかがえる。

*労働力人口=15歳以上人口のうち、就業者と、休職中の完全失業者の合計のこと。
**潜在的労働力率=(就業者+完全失業者+就業希望者)/15歳以上人口

出典:総務省「情報通信白書」平成26年版 第1部 図表4-1-2-3「我が国の潜在的労働力」
出典:総務省「情報通信白書」平成26年版 第1部 図表4-1-2-3「我が国の潜在的労働力」

なりわい=社会のなかで価値をつくりだしていくライフワーク

こうした状況を鑑みて、リベルタ学舎では、女性(特に主婦層)の社会参画を促す講座を開講している。「じぶんデザイン学部」「くらしデザイン学部」「社会デザイン学部」の3学部にカテゴライズされている。これと並行して、主婦が議員に向けて政策案をプレゼンする「一億総満足政策オーディション」などの活動もスタートしている。

リベルタ学舎は、3つの学部と、部活動からなる(提供:一般社団法人リベルタ学舎)
リベルタ学舎は、3つの学部と、部活動からなる(提供:一般社団法人リベルタ学舎)

2016年4月22日(金)。この日は午前中、西宮市内にある前田畳製作所(西宮店)内に併設された「畳の教室」(詳細は後編で紹介)で、社会デザイン学部「なりわいづくり講座」が開催されていた。

リベルタ学舎 社会デザイン学部「なりわいづくり講座」の第1回がスタート
リベルタ学舎 社会デザイン学部「なりわいづくり講座」の第1回がスタート

本来なりわいとは「生計を立てていくための仕事」のこと。しかし社会デザイン学部では「お金を得るだけでなく、家庭生活や地域活動、PTA活動を含めて、社会とのかかわりのなかで価値をつくりだしていくライフワーク」を“なりわい”と考えている。

全6回の講座で講師を務めるのは、大阪出身で、事業カウンセラーとして事業の支援や企業文化形成のサポートを行う河合義徳さん。1年前にリベルタ学舎で主催した「リノベーション起業カレッジ」(2015年3月)でゲストとして招かれ、カレッジ後も「これからの主婦の生き方」について湯川さんと議論するなかで意気投合。今回の「なりわいづくり講座」の企画が生まれた。

事業カウンセラーの河合義徳さん。「なりわいづくり講座」の講師を務める
事業カウンセラーの河合義徳さん。「なりわいづくり講座」の講師を務める

「全6回の講座が終われば、みなさんの“暮らし”が変わるかもしれません」

講座に集まった10名の受講者に、河合さんがそんな言葉を投げかける。テーマは「幸せな働き方ってなんだろう?」。受講生はみな主婦で、専業主婦、シングルマザー、共働き、休職中、個人事業主、起業直後など、立場もさまざま。しかし「社会とのかかわりのなかで価値をつくりだしていきたい」という思いは共通している。

やり方ではなく“あり方”を持ち帰ってほしい

約2時間の講座は、前半パートを河合さんが受け持ち、ブレストなどのワークを通じて「新サービスを考え、それがどの業種に属するもので、対象者は誰になるのか」を受講者みんなで考えた。後半パートは特別ゲスト講師として湯川さんが登場。幸せを感じられる働き方に必要なことは何か(たとえば、時間的ゆとり、仕事への納得感、サポート、お金など)を考えていった。

なりわいづくり講座は、ワークを織り交ぜながら、「自分ゴト」として考えを深めていくのが特徴
なりわいづくり講座は、ワークを織り交ぜながら、「自分ゴト」として考えを深めていくのが特徴

この講座を通じて伝えたいことは、「価値をつくることの大切さ」だと河合さんは受講者たちに説明する。

「たとえばみなさんのご主人は、誰に対してどんな価値を生み出す仕事をしているでしょう? たいてい職種までは知っていても、業種のことまでは理解しきれていないものです。僕はこの“業”の部分が実はとても大事だと思うんです」

誰に向けてどんな価値を生み出すか。それを知ることは、どんなビジネスをはじめるうえでも大切なことだ。

「その“価値”さえはっきりしたら、どんなコミュニティーも、みんなが同じ方向に向かって動いていける。それぞれが権利ばかり主張しているような職場ってあるでしょ(笑)。ああいうのは、仕事の価値を共有できていないと思うんですよ」

河合さんは、対話を通じて受講者に“気づき”をもたらそうと、まだまだ熱弁を振るう。

「この講座でみなさんに知ってもらいたいのは“やり方”でなく“あり方”。どういう価値をつくっていくべきか、そのあり方さえを知っていれば、その後に迷うことがあっても必ず原点に戻れます」──。

湯川さんのワーク「幸せを感じられる働き方」について補足を加える河合さん。「自分はどうなのか?」「自分の仕事は?」──参加者めいめいが、自分なりの「価値のあり方」を問い直していく
湯川さんのワーク「幸せを感じられる働き方」について補足を加える河合さん。「自分はどうなのか?」「自分の仕事は?」──参加者めいめいが、自分なりの「価値のあり方」を問い直していく

クリエイティブな生活者を輩出したい

講座終了後、河合さんたちに話を伺った。

「そろそろ消費者も変わろうぜ」

「そろそろ消費者も変わろうぜ、というのがこの講座のねらいです。多くの人はどうしても与えられたものを消費するだけの消費者目線になってしまい、それでいて完璧を求めようとします。しかし完璧な暮らしなんて、そうそうあるものではない。足りないところは自分たちで補えればいいんです。なにかに依存する消費者から、自分の生活にクリエイティブな“生活者”に変わってもらうことを期待しています」(河合さん)

河合さんや湯川さんが考える“生活者”が増えると、どんな可能性があるのだろう。河合さんは次のように続ける。

「なりわいの本質や、商いによっておカネが生まれる構造を理解されると、社会や経済のしくみをリアルに感じられることがありますね。それと、何気ない日々の暮らしにあること1つひとつに、もっと丁寧に向き合うことが、暮らしの豊かさの「あり方」の気づきとなり、それが価値創造につながる……そんな可能性を体感いただくのも、この講座の目的の1つなんです。生活に密着している主婦だからこそ、心豊かな価値をつくれる可能性が充分にあると思っているので、講座で行うさまざまなワークから、どんなアウトプットがみなさんから出てくるのか、今後も楽しみです」

講座のプログラムづくりには、湯川さん、河合さんのほか、リベルタ学舎のマネージャー2名が加わっている。マネージャーとは、過去の講座の受講生。みな、主婦である。河合さんは今回のこの講座について「ほとんどマネージャーの2人がリードしてきた」と振り返る。

「なりわいづくり講座」マネージャーの1人、足立麻美さん。受講生を経て、現在は試行錯誤しながらプログラムの企画・運営を担当しているという
「なりわいづくり講座」マネージャーの1人、足立麻美さん。受講生を経て、現在は試行錯誤しながらプログラムの企画・運営を担当しているという

講座開催までの間、マネージャーの2人は河合さんから受けたレクチャー&ワークショップを通じて学んだ事業マネジメントの視点、そして受講者と同じ主婦の目線から、プログラム設計上の意見を伝えた。全6回のプログラム設計に大いに役立ったそうだが、同時に「なにより2人のマネージャー自身に大きな変化があった」(河合さん)そうだ。

マネージャーとして、現在はリベルタ学舎で中心的な役割を担っている足立麻美さんもその1人だ。「自分に自信が持てなかった」という足立さんは、ご主人のすすめもあって、リベルタ学舎の講座に参加した。

「『人が生きるうえで必要な探究心とか、僕が見出してあげることはできないから』と、リベルタ学舎の講座を夫が見つけてくれたんです。今は出張先にいても、電話でリベルタ学舎での活動のことを気に掛けてくれています」

ときには、自宅からSkype会議に参加することもある。「昼休みで帰ってきた夫が、自宅で洗濯物を取り込みながら湯川さんたちとSkype会議している私の姿を見て、『なんかすごい最先端やんけ!』って驚いている(笑)」。介護福祉士でもある足立さんは、リベルタの活動を通じ「いずれはお年寄り版のリベルタ学舎もやってみたい」と意欲を燃やしている。

「なりわいづくり講座」終了後のワンカット。もう1名のマネージャーを含めた中心人物たちの溢れんばかりの明るい空気感が、周りを巻き込んでいく
「なりわいづくり講座」終了後のワンカット。もう1名のマネージャーを含めた中心人物たちの溢れんばかりの明るい空気感が、周りを巻き込んでいく

「教育が必要なのは大人ではないか」との湯川さんの仮説から活動がスタートしたリベルタ学舎。現在では、講座をつくる側に回ったマネージャーのように、受講生から発展的に参加するメンバーや、独立・起業を果たすメンバーも現れはじめている。

女性の社会進出を本当に実現するならば、社会的な制度だけを整えても意味がない。社会に新たに参加する人材に向けて、内面的な変化を促し、自らの働き方を考えてもらう、そんなオープンなコミュニティーが不可欠である。リベルタ学舎はそれを担うコミュニティーと言っても過言ではない。

「なりわいづくり講座」第1回に参加したみなさん
「なりわいづくり講座」第1回に参加したみなさん

「すべての大人が幸せな社会」を目指して活動するリベルタ学舎。取り組みの本質は、主婦をはじめとする女性、ひいては一般市民が自ら物事を主体的に考え、世のなかに価値を生み出せるだけの知恵と力を養うことにある。そのエントリーの役割を担うリベルタ学舎において、2016年春、より社会にかかわる実践的な活動として「ポコラボ」がはじまった。湯川さんが描く、社会参加の先の未来像とは。

“失敗を恐れない個人×失敗を許容する社会”から多様性が生まれる ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(後編)へ続く

【関連リンク】
一般社団法人リベルタ学舎


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ