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“失敗を恐れない個人×失敗を許容する社会”から多様性が生まれる ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(後編)

2016年06月09日



“失敗を恐れない個人×失敗を許容する社会”から多様性が生まれる ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(後編) | あしたのコミュニティーラボ
「世に価値を生み出す知恵と力を養う」という一般社団法人リベルタ学舎・湯川カナさんの活動理念には、地元企業からも熱視線が送られる。午前中の「なりわいづくり講座」を終えた湯川さんは、神戸市内にある株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)社員総会へ向かった。社員向け講話の外部ゲストとして同社から招かれていたためだ。価値創造の力が養われた「個人」は、社会・企業のなかに参画することで、そこから新たな価値が生まれていくだろう。そのとき、社会・企業があるべき姿とは? 後編は地元企業の反応と、「フリーランス主婦」を育成するという「ポコラボ」の取り組みを通して考えていく。

オープンコミュニティー発、社会を変える新しい働き方 ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(前編)

企業のなかでも求められる従業員の多様性

株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)は、1995年に設立したIT企業。2016年1月時点で、168名の従業員が在籍している。

株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)社員総会で講話する湯川カナさん
株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)社員総会で講話する湯川カナさん

KDL取締役の三木剛さんは今年2月、自身が参加した会合でたまたま湯川さんの講話を聞いた。その話の内容に「衝撃を受けた」と三木さん。およそ3割が女性社員というKDLでも「多様な生き方・考え方があることをもっと知ってもらいたい」と思い、自社の社員総会に招きたいと考えた。

三木さんからそんな提案を受けたKDL代表取締役・永吉一郎さんも「湯川さんの活動のことは前から知っていて、著作やFacebookもチェックしていた」という。「あたりまえのことですが、育児休暇などの制度的なことはもちろん、復職後も育児をしながらでも働ける環境が必要」と、三木さんと同様、一般社団法人リベルタ学舎の活動に理解を示している。

株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)社長の永吉一郎さん(右)と取締役の三木剛さん
株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)社長の永吉一郎さん(右)と取締役の三木剛さん

さて、この日の湯川さんの講話テーマは「変化の時代を生き延びるために」。自身の“波乱に満ちた”経歴と、帰国してリベルタ学舎を立ち上げてからの話を振り返り、その背景にある「商いの本質」について話をした。

湯川さんいわく「商いの本質」とは、「社会が共感する夢を、モノやサービスで提供することで顧客を幸せにし、その対価としてお金をいただくこと」。

「何かをはじめるときには、Why(なぜ?)という山の頂がまずあるんです。それからHow(どうやって?)とかWhat(何をするのか)という道ができていく。そう考えていくと、みなさんの場合も、会社と一緒に何か社会に幸せをつくっているから、その対価としてお金をもらっているという、商いの構造は同じ。シンプルでしょう? Why=夢=顧客の幸せの部分が見えてくると、そこに向かうルート=実現方法はいくらでも考えられる。どれだけでも、自分が主体となってクリエイティブに商品やサービスを生み出すことができます。その楽しさを感じてもらいたいですね」

なりわいづくり講座の受講生に伝えることも、KDLの社員の伝えることも、「Whyという価値を共有するからこそ、コミュニティーはクリエイティブになる」という点で一貫している。

「『Why(なぜ?)』を考えよう」と、自身の経験をもとに語る湯川さん
「『Why(なぜ?)』を考えよう」と、自身の経験をもとに語る湯川さん

講話は、KDL社員を巻き込んだワークへと発展していく。自身の過去の失敗談と、「そのたびに人に助けられてきた」というエピソードを皮切りに、「隣の人と自分の弱みをカミングアウトし合ってみてください。それを聞いたもう1人は『かわいい〜♡』と褒めること(笑)」。そんなお題に、会場の熱気も高まった。

「次に、それらの弱みに“ちょっと役立つかもしれないモノやサービス”を考えてください」。湯川さんらしいユニークなワークショップだが、「互いを認め合える、信頼と対話のあるチームから、イノベーションは生まれるんです」と付け加えることも忘れなかった。

「かわいい〜♡」をキーワードに、互いを認め合う湯川さんオリジナルのワークショップを体験する、KDL社員のみなさん
「かわいい〜♡」をキーワードに、互いを認め合う湯川さんオリジナルのワークショップを体験する、KDL社員のみなさん

こうして講演は盛況のうちに幕を閉じた。この日、湯川さんはこのままKDL社員との懇親会に参加し、密着取材1日目は終了した。

働きたい女性マトリックスに見る「フリーランス主婦」とは?

取材2日目。この日、湯川さんはリベルタ学舎が運営する「ポコラボ」のミーティングに出席していた。ポコラボとは、企業、消費者である主婦、各分野のプロフェッショナルがチームとなって「明日の当たり前のくらしをつくる研究室」である。この春に活動が本格的にスタートしたが、昨年10月から定期的にメンバーが集まって活動し、「フリーランス主婦」によるチーム事業の創出を目的としている。

フリーランス主婦とは、世のなかへの関心を持ちながら「なりわい」というかたちで自己実現を図る女性たち、と定義されている(提供:一般社団法人リベルタ学舎)
フリーランス主婦とは、暮らしの当事者であり、「なりわい」を通じて社会貢献を図る女性たち、と定義されている(提供:一般社団法人リベルタ学舎)

ポコラボの「フリーランス主婦」が他のパートタイム労働者や、俗に「キラキラママ」と呼ばれるようなスモールビジネスと異なる点は、世のなかへの関心度の高さと、自己成長の意欲を促されている点だ。湯川さんはそれを「単なる自己実現ではなく、顧客の幸せを実現するという社会貢献を通じた自己実現」と表現している。

すなわち、ここで見つけられるのは、単価×時間で報酬が算出されるようなパートタイムの仕事でもなければ、社会的ニーズから逆算して起業するようなワークスタイルでもない。「生涯を通じて継続できることが大事。まずは、自分がより楽しみながら成長できるコトを見つける。それが社会で価値として認められることで仕事になり、対価に変わっていく」という、新しい働き方の糸口だ。

「リベルタ学舎で学びを終えた人たちが、事業をつくる活動に参加できる。それが、ポコラボ。リベルタ学舎が個人向けの“教育”を担い、ポコラボが企業も含めたチームでの“事業”や“研究活動”を担っていくイメージです。リベルタとは切り離して別法人化することもあるかもしれません」(湯川さん)

今回の共創プロジェクトの活動の拠点は、前日の「なりわいづくり講座」でも使用された「畳の教室」。前田畳製作所(西宮店)代表の前田敏康さんとのご縁から生まれたワークスペースである。

ミーティング会場となった「畳の教室」(前田畳製作所・西宮店)。湯川さんたちはふだんからこの場所を拠点に活動することが多い
ミーティング会場となった「畳の教室」(前田畳製作所・西宮店)。「国産無添加の畳は、赤ちゃん連れでも安心」と、湯川さんたちはふだんからこの場所を拠点に活動することが多い

かねてから前田畳製作所の畳を使用していたリベルタ学舎では、折りに触れ、畳がある空間の居心地のよさを感じていた。それが前田さんの思いと共鳴し、作業場に隣接するかたちで、このワークスペース「畳の教室」が完成。以来、リベルタ学舎が開催する講座や催しの拠点の1つとなっている。

創造的生活者として事業を生み出したい

現在、ポコラボでは「畳」を使った製品・サービスの開発が進められている。

メンバーには湯川さん以下、チーム主婦として3名が参加。またプロフェッショナルチームとして、兵庫県公式マスコット「はばタン」の生みの親として知られるキャラクターデザイナー兼イラストレーターのJUNBOw(ジュンボウ)さん、一級建築士事務所みゆう設計室の一級建築士・中川由紀子さん、プロデューサー・河合義徳さんが参加している(この日、河合さんは不参加)。

ポコラボの商品開発ミーティング風景。湯川カナさん、プロフェッショナルチームのJUNBOwさん、中川由紀子さんらと、「フリーランス主婦」を志すメンバーのみなさん(手前3名)で進められる
ポコラボの商品開発ミーティング風景。湯川カナさん、プロフェッショナルチームのJUNBOwさん、中川由紀子さんらと、「フリーランス主婦」を志すメンバーのみなさん(手前3名)で進められる

この日のポコラボのミーティングは「商品開発……できませんでした! ごめんなさい!」という湯川さんのあいさつからはじまった。

前回まで、メンバーはみな「ものづくりする気が満々だった」。実際にチーム主婦は「NASAにも使われた折り紙に着想を得た」というゴザのように広げられる“折りたたみ式の畳”など、試作づくりまで着手していた。しかし、畳のある暮らしについて意見交換を重ねるうち、「消費する畳商品」ではなく、畳の魅力を伝えたいことに気づいたそう。そして、「いまはまだモノの先にあるコトづくりをするときではない」という理由から、湯川さんはいったん開発作業を中断することを決断。この日の冒頭あいさつへとつながったのだ。

いったん着手した開発作業を中断することは、一般的な企業の開発チームでもなかなか勇気のいる決断だが、「フリーランス主婦」のマネージャーたちは一様に納得の表情を浮かべていた。

「いまの時代、モノは溢れすぎているのに、商品開発ありきで進められることにどこか違和感を感じていた」「私たちが欲しいのは新しい『モノ』ではなくて、本来の暮らしにあった当たり前の『コト』なのだなという、しっくりこない思いを引きずっていた」──。それぞれが、「商品開発に取り組ませてもらったあとだから、あらためてわかった」と胸の内を明かす。

ならば今後ポコラボではどんなアプローチを示していくのか。「商品はメーカーさんが十分すぎるほど世に出している。まずは『暮らしの当事者』『商品の使い手』として、本来その先に描かれていた顧客の幸せを一緒に考えていくプロセスを発信しよう。今回の経緯も含めて」。この日「マネージャーのお子さんが前田さんの畳に触れ、その空間をいたく気に入った」というエピソードから、「暮らしのなかで畳本来の価値は」という方向性に話は進んでいった。

「商品開発を諦めたわけじゃありませんからね。いったん仕切りなおすということ」

ミーティングも終盤、そうマネージャーたちに語りかけたのは、プロフェッショナルチームのJUNBOwさん。湯川さんは、JUNBOwさんらプロフェッショナルに「プロの知見をもってサポートしてもらっている」と話している。

「本当は自分の経験のなかから、答えを与えてしまいたいくらいの気持ちなんです。でもこの場はそうではなく、トライ&エラーを繰り返せる場。超ギリギリのヒントを渡すことはあるけれど、何か自分たちで見つけ出してもらうことを期待しています」(JUNBOwさん)

アドバイザーとして参加する、イラストレーターのJUNBOwさん
アドバイザーとして参加する、イラストレーターのJUNBOwさん

同じくプロフェッショナルチームの中川さんは今後の方向性として「畳を通じて、暮らしの本質を突き詰めることを楽しんでほしい」とマネージャーたちに語りかける。

「消費する暮らしに違和感を感じたこと、暮らしの本質を探ること、その過程に価値があるんです。畳空間での暮らしを突き詰められたときに、はじめて魅力的な商品やサービスが生まれるのではないでしょうか」(中川さん)

アドバイザーとして参加する、一級建築士事務所みゆう設計室の一級建築士・中川由紀子さん
アドバイザーとして参加する、一級建築士事務所みゆう設計室の一級建築士・中川由紀子さん

畳を使った新商品・新サービスは道半ばだが、「大量生産・大量消費時代にできた構造によって消費者が暮らしのかたちを押しつけられていること、だからこそ畳業界としてもそこから良くしていかないといけないということが、前田さんの願いでもある」とのこと。活動そのものに対する共感から、期待は大きいようだ。「前田さんのような変革を求める企業さんとチームとなって、私たちは創造的生活者として事業を生み出したい」と、湯川さんはポコラボの展望を語る。

「前田さんも変革を求めていて、私たちは創造的生活者として事業を生み出したい」

社会・企業のなかに多様性をいかにつくるべきか

このように、より「創造的な生活者」であることに自覚的で、自律的な市民・生活者が輩出されたとしても、社会や企業に多様性を受け入れる土壌がなければ、持続的な変化は見込めない。では、そんな多様性のある状態をどのようにつくればいいのか。湯川さんはそれを「まずは個人が失敗を恐れずチャレンジをし続けること」、そして「個人のチャレンジを促し、失敗を許容できる社会・企業をつくること」が不可欠だとし、こんなたとえを交えて説明する。

「2歳くらいの子どもってジャンケンで負けると号泣するんですよ。あれは勝ったり負けたりしたことがないから。勝ち負けを繰り返すことで『そういうものなんだ』と理解する。それと同じで、失敗の経験がないと、ちょっとでもつまずいたら全否定されたと感じ、しょげてしまう。失敗しても許される、という実感を持ってもらうまで、何度でも何度でもチャレンジできる場。それをつくるしかないのではないでしょうか」(湯川さん)

失敗しても許される、という実感を持ってもらうまで、何度でも何度でもチャレンジできる場。それをつくるしかないのではないでしょうか

取材の最後に、リベルタ学舎の展望を聞けば、「ご機嫌な人が周りに増えればいい」と湯川さん。「MITが開発した、ロボットのマグロの話をご存じでしょうか? マグロがその筋肉構造から考えると『力学上の矛盾』と言われるほどに速く泳げるのは、尾びれで周りの海流を変えることで大きな推進力を得ているからだそうです。人も周りが協力してくれれば、自分ひとりではとてもできない大きなことができるようになる。そんな、自分だけではなく『みんなの力』を信じられる社会になればいいなと思っています」──。

2日間の密着取材。神戸発のオープンコミュニティーには、日本の社会が直面する切実な問題を解決するヒントがたくさん詰まっていた。

教育の観点から、価値創造のあり方を説き、同時に「ポコラボ」というクリエイティブな場も提供しているリベルタ学舎は、価値創造の人材輩出&実践の場として機能している。これらの取り組みは、企業や他のコミュニティーでも大いに参考にできるはずである。そして、そうしたコミュニティーが増え、かつ、それらが有機的につながりを持つことで、イノベーションのエコシステムが醸成できるのではないか。まずは、価値創造の心を持った“一個人”を社会・企業の側でどんどん取り入れ、その文化を広げていくことが急務なのである。

「ご機嫌な人が周りに増えればいい」と湯川さん

オープンコミュニティー発、社会を変える新しい働き方 ──リベルタ学舎・湯川カナさん密着レポート(前編)

【関連リンク】
一般社団法人リベルタ学舎


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