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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

「ロングテール」のコンセプトを世界で初めて発信した『ワイアード』US版元編集長で、3Dロボティクスという「オープンソース・ハードウェア」企業を立ち上げたクリス・アンダーソン。ものづくりの世界に今、産業革命にも匹敵する大きな変革のうねりが押し寄せている、と彼はいう。

「ビット(ウェブ)からアトム(リアル)へ」のムーブメント

赤ちゃんと猫が戯れる様子をビデオカメラで撮影し、動画共有サイトにアップロードしたら、癒し系映像として評判を呼びアクセス急増、再生回数500万カウントを超え、ウェブ広告が付いて思わぬ副業になってしまった。

インターネットが世の中に普及する以前、ましてやビデオカメラがプロしか扱えなかった時代、こんなことをだれが予測できただろうか。

ホームページしかり、ブログしかり、ソーシャルメディアしかり。ICTは、放送局や出版社などのマスコミに占有されていたコンテンツ発信の手段を一般の人々の手に開放した。それだけではない。マスメディアの時代には「一対多」の一方通行だったコミュニケーションの通路を「多対多」の双方向に変え、それまでつながりようのなかった大勢の人々を結びつけている。

これはこれで画期的な変化に違いない。しかし、あくまでも「情報」の世界にとどまっていた話。『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版/関美和訳)のクリス・アンダーソンによれば、今もっと大がかりで本質的・根源的な変化が起きようとしている。

著者の言葉を借りれば、「ビット」から「アトム」へ。ものづくりのデジタル化とICTが結びつくことによって、ウェブワールド(ビット)での「情報づくり」のみならず、だれもがリアルワールド(アトム)での「ものづくり」の主体になれる可能性がひらかれた。この「メイカーズムーブメント」こそ、産業革命に匹敵するような産業構造の大変革につながる、と著者は主張する。

デスクトップパブリケーション(机上出版)からデスクトップファブリケーション(机上工房)へ。それを実現するツールは、「インクジェットプリンタ並みに普及し、だれにでも使えるようになる日はそれほど遠くない」と著者が予測する、次の4種類のデジタル工作機械だ。

デジタルの図形データを基に溶融プラスチックや粉末樹脂によって立体成型する3Dプリンタ。ドリルを使ってプラスチックや木や金属の塊からものを削り出すCNC装置。強力なレーザーで同様の素材の板の上にさまざまな模様を描き出すレーザーカッター。現実にある物体をスキャンして3D画像データに変換する3Dスキャナー。

本書の執筆時点で、こうしたデジタルツールを取りそろえ、つくり手(メイカーズ)たちに開放された「ファブラボ」と呼ばれる市民工房が17か国に53か所あり、世界中に同じような共有工作施設がおよそ1,000か所あるという。

2011年、メイカーズたちが自らの手づくり品を売り買いするウェブ市場、「エッツィー」のサイト上では、約100万人の売り手が5億ドルを超える取引をした。

アイデアはシェアされると拡散する

だが、もし趣味の世界で「デジタル工作機械を使ったDIY」が盛り上がりつつあるだけのことなら、それほど驚くに値するとは思えない。

どこが「産業革命に匹敵するような大変革」につながるのか。4年間で、全米1,000か所の学校にデジタル工作機械を導入するプログラムをオバマ政権に立ち上げさせるほどのインパクトは何か。
メイカーズムーブメントの最大の真価はどこにあるのか。

それは、ウェブワールドならではの「共創」がものづくりの世界にも入り込み、新たなものづくりのスタイルが生まれつつある、ということだろう。

「ウェブ時代のもっとも根本的な変化のひとつは、オンラインでの共有がデフォルトとして定着したことだ。なにかを作るときには、ビデオ撮影する。撮影したら、投稿する。投稿したら、友だちに宣伝する。オンラインで共有されたプロジェクトは、他者のひらめきとなり、コラボレーションのきっかけとなる。一人ひとりの作り手(メイカーズ)が世界中でつながったとき、ムーブメントが生まれる。(中略)たとえイノベーションを起こそうと思わなくても、「パブリックな空間でもの作りを行う」だけで、イノベーションのきっかけになるかもしれない。それがアイデアの特性だ。アイデアは、シェアされると拡散する」
(本書21ページより)

こう述べる著者自身、共創によるメイカーズ革命の実践者だ。子ども向けの電子工作キットをきっかけに3Dロボティクスという「オープンソース・ハードウェア」企業を立ち上げ、4年目の2012年、年商500万ドルを超えた。

レゴブロックとPCを使ってロボット工作とプログラミングを体験できる子ども向けのキット。ラジコン飛行機。この二つをわが子のために買ったが、子どもたちは前者にはすぐ飽き、親の下手くそな操縦で後者にも興味を失った。

では、キットに付いているセンサーやジャイロでラジコン飛行機を自動操縦してはどうか。このアイデアに熱中した著者は「世界初のレゴによる無人航空機」を試作したが、なかなかうまく飛ばない。そこで、ソーシャルメディアにコミュニティーサイトを立ち上げ、これまでの活動や発見を公開した。この試みに共鳴したメンバーが各々アイデアを交換し始め、それに基づいて著者は回路基板のデザインファイルを製造業者に送り、電子部品の調達先を探し回る。こうして航空ロボットや自動操縦基板を製作・販売する3Dロボティクスが始動した。

コミュニティーによるオープンイノベーション

デザインファイルやソフトウェアなどデジタル言語に転換できる「ビット」部分は無料でオンラインに公開し、リアルな製品である「アトム」部分は有料で販売する。だから3Dロボティクスのような企業を「オープンソース・ハードウェア企業」と呼ぶ。なぜオープンなのか。アイデアがコミュニティーに公開され、共有されれば、その分野に精通した世界中の人材が集結する可能性があり、多種多様な厳しい意見にさらされ、ブラッシュアップされる。たとえば、活動資金をウェブ上で調達するクラウドファンディングの成否によって、市場価値があるのかどうかという事前マーケティングも同時に行われているといってよい。つまりは単一企業の枠内で行うよりもイノベーションが上手に、速く、安く可能になる。

「オープンイノベーションのコミュニティが、隠れた供給(その分野でいまだ雇われていない人材)と隠れた需要(通常の手法で作るとコストがかかりすぎる製品)を結びつけている」と著者が言う、ものづくりのマーケットサイズは約1万個単位。この程度であれば、身近な場所で柔軟に製造できるメリットを生かせる。本書によれば、2011年の時点で300を超える有料のオープンソース・ハードウェア製品が存在し、その売上は5000万ドルを超えたという。

「オープンハードウェアの動きは、オープンソースがソフトウェアの世界にもたらしたのと同じことを、今度は物質的なモノの世界に起こしている。現在ほどんとのウェブサイトを走らせているリナックスのOSから、ファイアーフォックスのウェブブラウザまで、オンラインのプログラマーコミュニティがあらゆるものを生み出してきたように、メイカーたちの新しいコミュニティは、電子機器、科学装置、建築物、そして農耕具までも作り出している」
(本書29ページより)

新しいものづくりの潮流もインターネットを生んだアメリカが先導する、と言わんばかりの筆致には「ちょっと待て」と言いたくなるところもある。ものづくりの繊細な手技は日本のほうが一日の長があるのだから。そのアドバンテージを活かすためにも、本書の核である「企業の枠を超えた共創によるオープンイノベーション」という方法論を真剣に検討するべきだし、ウェブという手段をだれもが使える今は、すぐにでも個人を起点にできることなのだ。

(photo:Thinkstock / Getty Images)


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