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社会に接続するDIY――ソーシャルネットワークからソーシャルファブリケーションへ:田中浩也インタビュー(上)

2013年01月28日



社会に接続するDIY――ソーシャルネットワークからソーシャルファブリケーションへ:田中浩也インタビュー(上) | あしたのコミュニティーラボ
欲しいけれど、どこにも売ってない。ならば自分でつくってしまおう。つくり方がわからなければ、市民工房やソーシャルメディアのものづくりコミュニティーへ。そこには、語り合い、学び合い、分かち合える仲間がいる――。つながることで、「個人のものづくり」に留まらないメイカーズムーブメントの本質が見えてくる、と田中浩也さんは話す。では、その本質とは。日本のデジタルファブリケーションの旗手に聞いた。

DIYからDIWOの時代へ

――コンパクトなデジタル工作機械を活用した“自分でもできるものづくり”、いわゆる「パーソナルファブリケーション」が最近注目を集めているのは、なぜでしょう。

田中 専門家の開発した技術が一般の個人に広く開放され、新たに社会的な文脈を持つようになる「技術の社会化(民主化)」は、現代ではおよそ15年周期で起こっているように思えます。

1975年生まれの僕が最初に体験した、ワクワクする「技術の社会化(民主化)」は、1980年前後の「パーソナルコンピュータ」です。限られた専門家のものだったコンピュータが個人のためのものになりました。小学生のころ、毎週土曜日に近所の日本科学未来館で、パソコンサークルの大学生のお兄さんたちにパソコンを教えてもらったことを覚えています。

次の経験は大学生だった1995年前後の「インターネット」。それまで専門家のツールだったコンピュータネットワークを誰もが使えるようになり、やがて家庭も世界とつながりました。

そして2010年ごろから、ワクワクする「技術の社会化」が再び起きています。それがパーソナルファブリケーション――つまり「工業の個人化」です。製造業の専門家だけが使うものだった3DプリンタやCNC(コンピュータ数値制御機)といったデジタル工作機械が一般家庭にも入り込み、従来の大量生産のものづくりとは違う、個人の自己表現としてのものづくりが始まっているのです。

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――DIY(Do It Yourself)のデジタル化に、どうして「社会的な意味」があるのですか。

田中 たとえば3Dプリンタで愛犬のフィギュアや、家具の一部にぴったりはまるサイズのフックなど、どこにも売っていないものをつくったり、壊れた部品を補修したりするので、確かにDIYに近い側面もありますが、その行為がデジタル化することによって、それまでのDIYにはない広がりが生まれています。

自分のためにつくったもののデータをウェブに上げてシェアすれば、世界中でそれを必要とする人がダウンロードして同じものをつくれる。あるいは世界中の人々の知恵が参画することで、もっと優れたものに改良されていく。

自分のためにつくったんだけれど、結果的にみんなの欲しかったものが世界に広がり、場合によっては商品化につながったりもする。個人だけに完結しない社会的な広がりの選択肢が、ウェブと連動することによって出てくるわけです。

――パソコンからインターネットへというICTの進展から必然的に生まれてきた、新しいムーブメントなのですね。

田中 だから、ある意味インターネット上でのDIYだし、正確にはDIWO(Do It With Others)なんです。個人を発信源としているけれど世界へと開かれている。インターネットも最近「ソーシャルネットワーク」と呼ばれることが多いので、パーソナルファブリケーションというよりも、むしろ「ソーシャルファブリケーション」と呼んだほうがいいかもしれませんね。ネットで生まれた人のつながりをものづくりに展開していく、という意味で。3DプリンタやCNCは単なる機械であり道具ですから、それ自体が本質じゃない。

ものが欲しいのではない、充実した実体験が欲しい

――こうしたムーブメントが広がるきっかけになったのは何ですか。

田中 小型化したデジタル工作機械で個人がものづくりをする「デスクトップファブリケーション」の技術自体は1990年代から世界で無数にありましたが、それほど大きなうねりにはなりませんでした。2000年ごろMITのニール・ガーシェンフェルド教授がインドの山奥の村やボストンのスラム街といった辺境の場所に機会を設置し、「技術」を「地域の問題解決」と結びつける実践を始めたのですが、私はこれは社会的なインパクトをつくり出したと思っています。小学生の男の子がインターネットを見たいから無線アンテナを自作したり、野犬が嫌がって寄りつかない超音波の出るスピーカーなど生活に必要なものを現地の人たちがどんどんつくり始めた。その実例やストーリー、いきいきとした人の様子が、彼の自著『Fab パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリー・ジャパン)によって紹介され、世界に広まっていったのです。これが「ファブラボ」の始まりです。

ニール・ガーシェンフェルド著、田中浩也監修『Fab パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリー・ジャパン)

ニール・ガーシェンフェルド著、田中浩也監修
『Fab パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリー・ジャパン)

途上国では生活を改善し、地域の課題を解決する手段としてのものづくりを求める現場がたくさんある。片や先進国においても、大量生産ではカバーできない極めてパーソナルなものづくりのニーズが生まれてきました。そこに共感する人々が世界中に現れて、今では50か国以上にファブラボのネットワークが広がっています。make(つくる)、learn(学ぶ)、share(分かち合う)の三つのコンセプトを兼ね備えた新しい時代の公民館、ライブラリーのような位置づけの場です。

――世界のファブラボはどんな形で運営されているのですか。

田中 ちょっと珍しい形態かもしれません。次の4条件を満たせばファブラボと名乗れて、どんな運営方法でも構わないのです。

(1)最低週に1回は市民に公開すること。
(2)世界とコラボしやすいようファブラボ標準機材を準備すること。
(3)「武器をつくってはいけない」などファブラボ憲章を掲示すること。
(4)世界のファブラボネットワークと情報交流すること。

政府や大学のバックアップ、NPO・NGO、デザイナーのシェアスタジオ、スポンサーが提供しているところなど、運営方法はさまざまで、地域ごとにリソースを持ち寄って、適切なスタイルを編み出しているという感じです。また、世界中のファブラボの人たちが集まる会議が毎年行われていますが、今年は8月に横須賀・鎌倉であり、僕が委員長を務めます。4条件も、世界ファブラボ会議での投票で決めたりしており、固定された絶対的なものではありません。新しい組織の形態(オープン・オーガニゼーション)の実験でもあるのです。

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――必ずしも、ICTや電子工作などのスキルがあり、ものづくりが好きで手先が器用な「ギーク」と呼ばれる人たちだけの集まりではないのですか。

田中 ラボで中心的な役割をする「マスター」には、それらに加えてファシリテーション能力が求められると思っています。「なんでもつくってしまおう」とするギークの実装力はとても大事ですが、一方で、今までの大量生産のものづくりのシステムでカバーできなかった問題を抱えている人々がいて、その両者を出会わせる場所がファブラボといえるでしょう。問題意識を持っている人と技術やアイデアを持っている人が集まって、語り、学び、分かち合いながら一緒にものをつくる場なんです。

‥‥‥ところで、どうですか、何か日常的にものづくりをしますか。

――子どものころはよくプラモデルなんかをつくりましたけど、最近はほとんどないです。

田中 一人で黙々とつくるのではなく、互いに助け合いながらものづくりをしてみると、こんなに楽しいことなのかと、その魅力にあらためて気づきますよ。たぶん、もの自体が欲しいんじゃないんですね、ものづくりという実体験、その充実した時間が、豊かだからなんです。産業革命以前は「家内制手工業」の時代でしたが、さしずめ今度は「家内制機械工業」。工場で編み上げられた機械的な生産技術が再び個人の手元に戻ってくる。歴史上初めてのことで、とてもワクワクします。

もう一つ、ソーシャルネットワークの時代なので、おいしい料理ができるとフェイスブックに写真を上げて自慢するじゃないですか。あれと同じで、みんな3Dプリンタでつくった自信作をアップするんですよ。人のつながりが生まれ、心が豊かになっていく。ベースはそこにあって、その先にビジネスや産業が見えてくるわけです。

後篇に続く

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田中浩也(たなか・ひろや)

慶応義塾大学環境情報学部准教授、ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)主宰。
1975年北海道生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2008年より現職。2010年米マサチューセッツ工科大学 (MIT)建築学科客員研究員。経済産業省未踏ソフトウェア開発支援事業・天才プログラマースーパークリエイター賞(2003)、グッドデザイン賞新領域 部門など受賞歴多数。著書に『FabLife――デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』、監修に『Fab――パーソナルコン ピュータからパーソナルファブリケーションへ』(ともにオライリー・ジャパン)などがある。新しいものづくりの世界的ネットワークであるファブラボの日本に おける発起人であり、2011年には鎌倉市に拠点「ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)」を開設した。

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