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大分トリニータはなぜ地域との共創を目指すのか? ──大分トリニータによる共創プロジェクト(前編)

2016年09月28日



大分トリニータはなぜ地域との共創を目指すのか? ──大分トリニータによる共創プロジェクト(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2015年12月、大分トリニータにとってチーム初となる「J3降格」が決定した。2008年にナビスコ杯(現ルヴァン杯)を制覇した同チームにとって、「J3降格」はチーム運営に大きな痛手となっている。かつて平均2万人に達した観客動員も現在は1万人を下回るまでに……。 2016年、チームを運営する株式会社大分フットボールクラブは新体制のもとでスタートを切った。新たに着手した集客戦略では、地元の大学&企業を共創パートナーとして活動を行っている。チームの集客戦略でありながら、早くも地域を巻き込み、拡がりを見せつつある共創活動。そこにはどんなねらいや可能性があるのか。関係者の証言をもとに、前後編でお伝えする。

「アイデア創発→社会実装」の道は、「地域還元」にも続いてゆく──大分トリニータによる共創プロジェクト(後編)

変化の兆しが見えたトリニータの“7.31”

2016年7月31日、大分トリニータのホームスタジアム「大分銀行ドーム」でJ3リーグ第19節「大分トリニータvs栃木SC」が開催された。この日、大分トリニータの運営元・株式会社大分フットボールクラブ(以下、大分FC)は「観客動員数1万人計画」と銘打ち、さまざまなイベントを企画。そのうちの1つが「タオルチケット」なるイベントだ。

冒頭の写真をご覧いただきたい。女性サポーターが入場口の係員にかざしているのが「タオルチケット」。このタオル自体が試合の観戦チケットになるため、そのままスタジアムのなかへと入場できるのに加え、翌日以降(有効期限8月1~4日)は、別府市内の7温泉施設の入浴チケットとしても利用が可能なのだ。1枚でタオル、観戦チケット、入浴チケットの3役をこなす「常識を覆す新たなチケット」は、大分大学経済学部とのアイデアソン(以下、共創アイデアソン)のグランプリ受賞作品である。

観戦チケット、入浴チケット、温泉タオルの“3役”をこなす「タオルチケット」。2,500円(税込)で、限定100枚が販売された
観戦チケット、入浴チケット、温泉タオルの“3役”をこなす「タオルチケット」。2,500円(税込)で、限定100枚が販売された

共創アイデアソンから生まれたもう1つの企画イベントが「リッジーミッション」だ。こちらは、今年3月にローンチした「トリニータアンバサダー」(登録したユーザーがWebで与えられたお題に答え、チームや試合を盛り上げることでランクが上昇していく会員サービス)内の、“7.31”限定コンテンツ。「リッジーの好きなところを答えよ」「スタジアム内のポスターを撮影して投稿せよ」など、チームのマスコット・リッジーの “無茶ぶり”ミッションを遂行していけば、コンテンツ内にあるヒミツの小部屋の扉が開き、選手による特典動画などを見ることができる。「トリニータアンバサダー」および「リッジーミッション」の企画・開発・運営は、大分トリニータと地元ITベンチャーの協働でなされている(後編参照)。

スタジアム内の指定ポスターをスマホで撮影・投稿するなどしてミッションをクリアする「リッジーミッション」
スタジアム内の指定ポスターをスマホで撮影・投稿するなどしてミッションをクリアする「リッジーミッション」

このほかにも7.31の試合前後には、別府大学、日本文理大学、大分県立芸術文化短期大学と取り組んだ共同企画の成果が「スタジアムイベント」として実装された。

●大分大学経済学部……タオルチケット+リッジーミッション
●別府大学……オリジナルゲートフラッグ(両手で掲げる応援旗)作成
●日本文理大学……NBUニュースポーツ拡大版
●大分県立芸術文化短期大学……学生制作フェイスシール

大分トリニータのSNSを担当する運営・広報室(広報担当)の仲野真悟さんは「公式TwitterやFacebookでも反響は大きく、大学と連携して地元を盛り上げてほしい、というコメントも実際に多く寄せられました」と振り返る。

新体制の至上命題は「新たな若いファンの獲得」

大学・地元ITベンチャーを巻き込んだ、大分トリニータによる共創活動。サッカーのクラブチームが、なぜ地域との共創によるサービス創発に挑んでいるのだろうか。そこには「若いファンの獲得」という至上命題がある。

そもそも大分トリニータの前身「大分トリニティ」が創設されたのは1994年のこと。2003年のリーグからは念願のJ1への昇格を果たし、08年にはカップ戦「ナビスコヤマザキカップ」で優勝を成し遂げている(九州のクラブチームでは初のタイトル)。同年度のリーグ戦はチーム最高位の4位で終えた。

最大4万人を収容できる大分銀行ドーム(大分スポーツ公園総合競技場)。開閉式屋根を備えた大規模スタジアムで、2002年FIFAワールドカップの試合会場にも使われた
最大4万人を収容できる大分銀行ドーム(大分スポーツ公園総合競技場)。開閉式屋根を備えた大規模スタジアムで、2002年FIFAワールドカップの試合会場にも使われた

しかし、2009年に状況は一変。同年リーグ戦でチーム成績が低迷し、J2降格が決定すると同時に、大分FCの経営問題が明るみになった。大口スポンサーの撤退も重なり、大規模な負債(2010年1月時点で債務超過額約12億円)を抱え、Jリーグから「公式試合安定開催基金」として緊急融資を受けた。2010~12年の3期をJ2で迎えるも、大分FC自らの企業努力、そして大分県、地元企業による援助、さらにはサポーター募金によって融資を返済。13年には一度はJ1に復帰したものの、翌14年に再びJ2へ降格してしまう。そして債務超過を解消し、これからという矢先の2015年シーズンにチームはさらに低迷。12月6日のJ2・J3入れ替え戦に敗れ、チーム初となる「J3降格」が決定した。

大分FCに限らず、クラブチームの収入源として大きなものはスポンサー収入。次いで大きいのがチケット収入だ。黄金期には2万人(当時のJリーグ第5位)に達した大分トリニータの平均観客動員数も、J3降格という最悪の事態に7,000人にまで落ち込んだ。

「観客動員数1万人計画」と銘打ち、各種イベントが企画された“7.31”大分銀行ドーム。しかし、実際の観客動員数は9,271人。企画イベントをもってしても1万人突破の壁は厚い
「観客動員数1万人計画」と銘打ち、各種イベントが企画された“7.31”大分銀行ドーム。しかし、実際の観客動員数は9,271人。企画イベントをもってしても1万人突破の壁は厚い

「観戦歴の長いコアなファン層はありがたい存在です。しかしその方々だけに依存すれば、集客戦略は破綻を来します。“10~20代のファン獲得”は、今シーズンだけでなくクラブの中長期的な土台を築くうえでの喫緊の課題でもあり、それを解決するにあたり『20代のファンを獲得したいのなら、20代の学生に聞いてしまえ!』と着想したのがアイデアソンです。参加した大学生がそのままファンになってくれることも期待しました」

そう話すのは、大分FC集客戦略室・室長の河野真之さんだ。

大分FCの集客戦略室・室長である河野真之さん。総務部副部長も兼務する
大分FCの集客戦略室・室長である河野真之さん。総務部副部長も兼務する

2016年のシーズンをJ3で向かえた大分トリニータは、第22節(9月19日)を終えた時点で2位(勝ち点42)につけ、チームの当面の目標であるJ2復帰にも向けた戦いを続けている(ちなみに、1位なら自動昇格、2位ならJ2チームとの入れ替え戦に進出できる)。

一方で、大分FCでは2016年から榎徹代表取締役の新体制のもと、集客戦略室を発足。その室長の任を、大分FCの顧問会計事務所の出身で、2015年2月に大分FCへ入社していた河野さんが授かることとなった。

新規ファンを獲得するための集客戦略

ところで、7.31の企画イベントのなかでも、特に大分FCが奔走することとなったのが「タオルチケット」実現に向けた取り組みだった。共創アイデアソン開催日(6月22日)から試合当日まで約1カ月の制約があるうえ、「入浴チケット」として使うにはホテル・旅館関係者の協力が不可欠となる。そのため「アイデアソンの後、直ちに別府市旅館ホテル組合連合会に掛け合い、協力をあおぐこととなった」と河野さん。

入浴チケットの窓口となったのは、市内4組合(111軒)の旅館ホテル組合を束ねる立場にある別府市旅館ホテル組合連合会専務理事・堀精治さんだ。堀さんの決断は早かった。はじめて提案を受けた場で快く了承し、1週間後には別府市内の7温泉施設の承諾も得られていたという。

別府市旅館ホテル組合連合会の専務理事・堀精治さん。大分県旅館ホテル生活衛生同業組合の事務局長も兼務する
別府市旅館ホテル組合連合会の専務理事・堀精治さん。大分県旅館ホテル生活衛生同業組合の事務局長も兼務する

通常のビジネスではなかなか考えられない即断即決。それがかなった背景には、組合連合会と大分県との深い関わりがある。

源泉数・湧出量ともに日本一を誇る別府八湯では、今年4月の熊本地震で外国人観光客を中心とした利用客の減少はあるものの、大分県が「新フロジェクト」と銘打ち、「日本一のおんせん県おおいた」を掲げたCM戦略なども推し進めている。

「日頃から県には温泉PRなどの面でとてもお世話になっているし、県とつながりの深い大分トリニータとは一緒に何かをやりやすかった」とは堀さんの弁。そして、堀さんがもう1つのポイントとしてあげたのが「タオルチケットのアイデアそのもの」だ。

「アイデアがとても明確で、しかもそれを地元の大学生が考えているというじゃないですか。採用してあげれば、地元大学生の楽しみも湧き出てくるでしょうし、それがいちばん大きな理由になったかもしれませんね。おもしろいものはやってみる。失敗したら少しずつ変化させて、おもしろいものにしていけばいいんですよ」(堀さん)

スピード感に溢れるアイデア創発の背景には、地域に脈々と流れてきた「組合連合会—大分県—大分トリニータ」の信頼関係、そして、アイデアの社会実装に欠かせない「トライ&エラー」の心得があったのだった。

地獄蒸し工房などの観光名所で知られる別府温泉・鉄輪(かんなわ)地区。湯けむり展望台からの風景は息をのむほどの絶景だ
地獄蒸し工房などの観光名所で知られる別府温泉・鉄輪(かんなわ)地区。湯けむり展望台からの風景は息をのむほどの絶景だ

大分トリニータが「新たなファンの獲得」のために挑んだ共創活動。後編は、もう1つの共創相手である地元ITベンチャーとの関係性構築をもとに、事例を紐解いていく。

「アイデア創発→社会実装」の道は、「地域還元」にも続いてゆく──大分トリニータによる共創プロジェクト(後編)はこちら

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トリニータアンバサダー


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