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誰もが振り向く電動義手のはじまりは、「ユーザー視点」への気づきから──exiii Inc. CEO 近藤玄大さんに聞く(前編)

2016年10月06日



誰もが振り向く電動義手のはじまりは、「ユーザー視点」への気づきから──exiii Inc. CEO 近藤玄大さんに聞く(前編) | あしたのコミュニティーラボ
メカニカルなデザインの電動義手。従来の義手のイメージを一新した「Handiii」は、3Dプリンターというデジタルファブリケーション機器の活用によって劇的なコストダウンも成し遂げ、大きな注目を集めている。開発者で、exiii Inc. CEOの近藤玄大さんが挑んでいるのは、「義手を必要とする人たちの目線に立ったソーシャルイノベーション」にほかならない。その想いを実現するために重ねてきた取り組みとは。前後編で伺う。

多様なバックグラウンドにしか、イノベーションの火種はない──exiii Inc. CEO 近藤玄大さんに聞く(後編)

身体能力の拡張を工学によってアシストできたら

──近藤さんは大学のときから義手の研究をしていたそうですが、そもそもどうして義手をテーマに選んだのですか。

近藤 実は、ヨットにしようか義手にしようか迷ったんです。人の身体能力を拡張する研究に取り組みたいと思って。潮の流れと風力を感じ取り、バランスをとって大海原を駈けるヨットは身体能力の拡張を象徴する工学技術ですが、すでにやり尽くされています。そこで、手を失ってしまった、あるいは生まれつき手のない人の身体能力の拡張を工学によってアシストできたらすばらしいと思いました。
exiii Inc. CEO 近藤玄大さん
exiii Inc. CEO 近藤玄大さん

ぼく自身、左利きで、ハサミでも改札でもすべて右利き用にできている社会では身体的な意味でのマイノリティという意識が小さい頃からあったことも影響しているかもしれません。バスケットボールをしていたので、手の動きといえばシュートやドリブルが思い浮かびました。

きっと義手を使う人にとっても、服をたたんだり食器を洗ったりする日常生活の枠組みを超えた先にもやりたいことがあるに違いない、というところにも関心があったんです。

──大学で研究されていた「筋電義手」はどんな技術ですか。

近藤 筋肉の電気信号を検知してモーターで手先を動かします。心電図で使うようなセンサーを腕の筋肉に貼って動かすのです。1960年代にドイツで開発されましたが、まだ機能はそれほど進展しておらず、研究が続けられています。

──義手というのはどの程度普及しているのですか。

近藤 肌色で見た目は腕に似ているが手先は動かない「装飾用義手」でも、使っている人は手に不自由を抱えている全体の半数以下です。不便ですが、片手でもどうにか生活はできます。変に隠すくらいなら堂々とありのままでいたい。そう思う人が多いので、ないと困る度合いの大きい義足に比べて、普及率は低いです。

筋電義手も商品化されていますが、価格が150万円以上と高価なこともあり、あまり知られていません。

──研究者の道を選ばずソニーに入社されたのは、筋電義手をもっと安価に開発して普及させたいと思ったからですか。

近藤 義手の研究は楽しくて大学に残ろうか悩んだのですが、1つ限界を感じたのは、どうしても大学では技術的な進歩しか追わず、ユーザー目線が抜け落ちることでした。

最終的にはピアノを巧みに弾けるような義手を、という目標を否定するわけではありませんが、リーズナブルな価格や見た目のデザインなどを考慮しないまま、論文が採択されるかどうかの1軸で競っているだけでは、いつまで経っても必要としているユーザーに届かない、と思いました。

ただ、いきなり自分1人でベンチャーを立ち上げて義手を普及させる手立ては見えなかったので、ソニーの基礎研究部門に行ったらビジネスとのバランスを学べるかな、と。期待以上の結果で、3年半ほど修業させていただきました。

デジタルファブリケーションで劇的なコストダウン

──ソニーでははじめから義手の開発に携われたのですか。

近藤 ロボットの研究開発部門に配属されたのですが、上司には毎週のように「義手をやらせてほしい」とメールを送り続けました。けっこうソニーは余った時間で自由に試作などをやらせてくれるんです。ぼくが義手をやりたくて、こっそりつくっているのは社内でも周知の事実でした。

2013年頃、3Dプリンターの登場によって初期開発費用が劇的に下がる可能性が出ました。PC上で設計すれば金型はいらず、1点1点サイズもデザインも変えて出力できます。最初のプロトタイプモデルはモーターを除いて部品の材料費は3,000円足らずでした。
3Dプリンターで制作した最初のプロトタイプモデル
3Dプリンターで制作した最初のプロトタイプモデル

PC経由ではなくスマートフォンで情報処理すれば無線で飛ばせるので、義手に携帯性も生まれます。ある程度、高度な操作ができる見通しも立ちました。

──国内のハードウェアコンテスト「GUGEN」や国際的なデザインコンテスト「ジェームズ・ダイソン・アワード」に入賞して注目を集めましたね。

近藤 ただ商品化となるとハードルは高いです。ソニーのように14万人もいる大企業では、新規事業で要求される目安が数千億円規模のビジネス。デジタルファブリケーションを活用して製造すればコスト的には10〜20万円の価格帯で筋電義手は十分に提供できるとしても、国内市場だとユーザーは1万人にも満たないので、それほどのビジネス規模にはとても達しません。

──大企業では、小さいビジネスをコツコツと試行錯誤しながらも、なかなか育てられない風土がある、と。次なるイノベーション創発の難しさを感じるお話ですね。

近藤 でも2014年頃からは、いきなり数千億は無理難題なので、まず外に出してユーザーの反応を見ながら築き上げるスタンスに変わりつつありました。

──あしたラボでも取材させていたいだいた、社内ベンチャーを促進させる社内プログラム「SAP(Seed Acceleration Program)」ですね。

近藤 SAPでスタートした、スマホアプリを使ってIoTの世界を楽しむ電子タグ「MESH」の立ち上げメンバーの1人でした。義手に関してもSAPで取り組まないかとお誘いいただいたのですが、メカ設計の山浦博志とデザインの小西哲哉が当時所属していたパナソニックを退職し、独立する意向を固めていたので、ぼくだけソニーに残るわけにもいきません。
近藤さんのポロシャツには「SONY」のロゴが光る
近藤さんのポロシャツには「SONY」のロゴが光る

外に出て挑戦してみるのもいい、と会社からは快く送り出していただき、2014年10月にイクシー株式会社(exiii Inc.)を設立しました。そんなわけでソニーとは今でも心理的な距離は近いです。こうしてロゴ付きのポロシャツも着てますし(笑)、たまに呼ばれて意見を交わしたりします。

義手のイメージを一新するファッショナブルなデザイン

──まずはクラウドファンディングで資金調達をしたようですね。

近藤 筋電義手の「Handiii」に対して280人の方から360万円の寄付をいただきました。義手の直接のユーザーではない、手のある人たちが応援してくれたのは、スタートアップベンチャーにとって何より心強いことです。

──3人でコラボしながら形にしていったんですか。従来の肌色の義手のイメージとはまるで違う、あえてメカニカルな感じの、SF映画に出て来るサイボーグのようなカッコいいデザインです。

近藤 ぼくが言い出しっぺではあるんですが、ファッションっぽくしたら、というアイデアは小西の要素が強いし、メカ的な工夫は山浦しか思いつきません。そうしていくうち実際に手をなくした方に出会い、「これはいい」「これはあまり嬉しくない」と意見を反映し、ブラッシュアップしていきました。
筋電義手はその名のとおり、筋肉の動きに合わせて駆動する
筋電義手はその名のとおり、筋肉の動きに合わせて駆動する

──協力している2人のユーザーの方々を“エバンジェリスト”(伝道者)と呼んでいますね。

近藤 とても大切なことです。その価値を伝えられる人がいるからプロダクトが届くんです。

2015年3月のアメリカの展示会「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」では、エバンジェリストの森川さんが装着した「Handiii」に握手を求める人の列が絶えませんでした。ぼくら開発者が百万言を費やすより、実際に使っている人の姿に接してもらったほうがよく伝わるじゃないですか。

ユーザー視点を取り入れ進化していったexiii。後編では、普及させるためのオープンソース化の取り組みと、大企業とスタートアップベンチャーで過ごした経験から、イノベーションのエコシステムを回すためのヒントを提供してもらった。

多様なバックグラウンドにしか、イノベーションの火種はない──exiii Inc. CEO 近藤玄大さんに聞く(後編)はこちら
近藤玄大さん

近藤玄大(こんどう・げんた)

1986年大阪生まれ。2011年東京大学工学系研究科修士課程修了。在学中は筋電義手をはじめとするブレイン・マシン・インターフェイスを研究。ソニー株式会社に入社し、ロボティクス技術研究と新規事業創出に携わる。ソニー在職中より趣味活動として義手の試作に取り組み、2014年6月に山浦博志氏と小西哲哉氏とともにイクシー株式会社(exiii Inc.)を設立。筋電義手「handiii」「HACKberry」やオープンソースプロジェクトを展開している。


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