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これからのDIYがビジネスシーンにもたらすインパクト――ソーシャルネットワークからソーシャルファブリケーションへ:田中浩也インタビュー(下)

2013年01月31日



これからのDIYがビジネスシーンにもたらすインパクト――ソーシャルネットワークからソーシャルファブリケーションへ:田中浩也インタビュー(下) | あしたのコミュニティーラボ
どこにも売っていないものを、自分でつくる。デジタルツールを使ったパーソナルファブリケーションは、ウェブを通じて社会へと広がりを見せつつある。だとすれば、従来のものづくりにはどんな影響が及ぼされるのだろう。そのときの製造業やメーカー企業のあり方とは。「ソーシャルファブリケーション」を標榜する田中浩也さんに、「工業の個人化」がもたらす社会の未来像を聞いた。

インタビュー前篇はこちらから

町工場が市民のユニークなアイデアを形にする

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――ソーシャルファブリケーションは、既存の製造業にどんなインパクトを与えるのでしょうか。

田中 今、町工場の方々ともコラボレーションを始めています。ファブラボ鎌倉には、指を切るおそれのある旋盤やフライス盤などは今のところ置いていません。だから金属加工のような作業は町工場の助けを借ります。たとえばファブラボのレーザーカッターで家具の模型をつくりました。これを実寸で量産したいときは町工場に持っていきます。

ウェブを通じて世界で1万人買ってくれる人がいたら採算は立つ、と『MAKERS』のクリス・アンダーソンはいっています。これまでのように大企業の下請け一辺倒ではなく、市民のユニークなアイデアを製品化する拠点として町工場が生き返ることができればすばらしいと思います。町工場の方々はもともと「ものづくり」そのものを愛している方がとても多いですし。ファブラボは逆に国際的なネットワークがあるので、海外につなぐ役割も果たせると思います。

――しかもクリス・アンダーソンによれば1万個の単位だったら近くでつくったほうが効率的。それは日本でいうならまさに町工場ですよね。

田中 アメリカは国内から工場がほぼ撤退してしまったので、デジタルで効率化された新しい時代の工場をこれから建てていく、といっています。オバマ政権が全米1,000校の小学校に3Dプリンタを導入するのも、ITと組み合わせて製造業を復活させ、中産階級の雇用を生み出し、成長の回復を実現する政策の一環です。

ただ、日本の場合、町工場が残っています。何も全部を新しくつくり直す必要はないのです。カギは町工場がこれまで蓄積してきた技術もうまく活かしつつ、同時にITと連動できるかどうかではないでしょうか。若い経営者に期待したいですね。ファブラボ鎌倉もそれを応援していきたいのです。

企業はものづくりコミュニティーでファンを増やす

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――ソフトウェアの世界ではオープンソースの地盤がありますが、ソーシャルファブリケーションではハードウェアの世界でもオープンソースが進んでいきそうです。それがどうやってビジネスに結びつくのでしょうか。

田中 そこは興味深いところで、ソフトウェアと違いハードウェアでは、設計図をウェブにオープンしたからといって、誰もがすぐにそれを実行できるわけではなく、ものとして組み立てるのに一手間かかります。たとえば、アルドゥイーノという世界的に成功したオープンソースの電子基板は、設計図をウェブに公開しながらも、同時に最終製品を商品として売っています。当然ながらできあがりを買いたい人もたくさんいるわけです。情報は無料、物質は有料という2本立ての世界で、両者は同時に成立します。

――企業にとって設計図をオープンにするメリットは何ですか。

田中 さまざまな、ユニークな人々が飛びついて改良・改造してくれる。オープンにすることによって、スモールチームでも大企業に匹敵するイノベーションを起こせる可能性が出てきましたし、コア製品の周りに多様性が生まれることもわかってきました。

改造・改良できる可能性、つまり使う側の「かかわりしろ」が多くあることによってコミットの度合いが深くなって、「ユーザー」は「ファン」にまでなり、メーカーとよい関係を持ち始めます。かつて、ハーレー・ダビッドソンのバイクにもそういうよい関係の事例があったそうです。企業はこれから、パーソナルかつソーシャルなものづくりをしている人たちと一緒になって製品を育てていくことによって、ユーザーを単なる「消費者」と捉えるのではない、新しい関係を築くことを真剣に考えるべきではないでしょうか。

そんな考えを実行に移すため、今、仲間たちと一緒にライセンスの提案も始めました。著作権を柔らかく捉える「クリエイティブ・コモンズ」に加え、PL(製造物責任)法を柔らかく捉える「ハック・コモンズ」という新たなライセンスを策定しています。企業と個人が手を取り合って、製品を育てリファインしていける法的土台をつくろうとしています。

――と同時に、大量生産になじまないけれど確実にニーズのある隙間的な商品が、これからファブラボ発で誕生する可能性があるわけですね。

田中 たとえば今、高齢者向けのリモコンをつくっている学生がいます。テレビのリモコンってボタンが山ほどあって、お年寄りは操作しにくいのですね。だからボタンは電源とチャンネルと音量の3種類でいい。そういうリモコンは、ある程度ニーズがあると思います。大企業では採算が合わなくてできなかった、だけど一定数社会には必要とされている、そういう領域のものづくりを担うのも、ソーシャルファブリケーションの役割の一つとなるでしょう。

大企業は決してなくなるわけではない。ただ、大企業ではできなかったニッチな領域を僕らのような立場の人が開拓していくことで、全体として新しい社会の分担やバランスができあがっていくようなことをイメージしています。

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田中浩也(たなか・ひろや)

慶応義塾大学環境情報学部准教授、ファブラボ鎌倉主宰。
1975年北海道生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2008年より現職。2010年米マサチューセッツ工科大学 (MIT)建築学科客員研究員。経済産業省未踏ソフトウェア開発支援事業・天才プログラマースーパークリエイター賞(2003)、グッドデザイン賞新領域 部門など受賞歴多数。著書に『FabLife――デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』、監修に『Fab――パーソナルコン ピュータからパーソナルファブリケーションへ』(ともにオライリー・ジャパン)などがある。新しいものづくりの世界的ネットワークであるファブラボの日本 に おける発起人であり、2011年には鎌倉市に拠点「ファブラボ鎌倉(Fablab Kamakura)」を開設した。

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