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吉田雄人市長に聞く、「日本の明日が見えるまち」の未来――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(1)

2016年11月25日



吉田雄人市長に聞く、「日本の明日が見えるまち」の未来――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(1) | あしたのコミュニティーラボ
“スカジャン”や“海軍カレー”で知られる神奈川県横須賀市は2013年に「転出超過自治体」ワーストワンとして不本意な結果を得た。しかし今、チャレンジ精神旺盛なスタートアップやICT企業の誘致・集積を図る「ヨコスカバレー」構想が反転攻勢の狼煙として上がっている。活動開始からおよそ1年、そこには行政・民間企業だけでなく、今後地域を支える若者たちや、他地域からも横須賀に縁のある人々が続々集結、新たなうねりを生みはじめている。今回は、その取り組みを、2009年に33歳の若さで選出された吉田雄人市長への取材を皮切りに、さまざまな関係者の思いとそれを形にしようとするキーマンの証言を元に探った。3編でお届けする。

地域をプラットフォーム化し、ポテンシャルを形にしていく試み――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(2)
地域活性に興味を持つ若者が、なぜ横須賀に惹かれるのか?――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(3)

横須賀は、日本の明日が見えるまち

東京・品川駅から京浜急行に乗って45分、到着したのは横須賀中央駅だ。そこから繁華街を抜けて15分ばかり歩くと三笠公園に着く。日露戦争における連合艦隊の旗艦、戦艦三笠の偉容がそびえ、対岸にはアメリカ海軍の横須賀基地が広がる。海上自衛隊の基地もある横須賀市といえば近年、旧海軍の糧食に由来する「よこすか海軍カレー」がよく知られ、繁華街にもその看板を掲げた店が軒を連ねている。 

横須賀市本町にあるどぶ板通り商店街は、日本とアメリカの雰囲気が融合する横須賀を代表するスポットだ(写真提供:横須賀市)
横須賀市本町にあるどぶ板通り商店街は、日本とアメリカの雰囲気が融合する横須賀を代表するスポットだ(写真提供:横須賀市)

海軍のイメージが強いまちだが、今の米海軍基地のあたりには、幕末にフランス人技師の手を借りて建設された横須賀製鉄所(のち造船所)があり、浦賀へのペリー来航でも知られるように、日本の近代化幕開けの舞台となった。

その礎は戦後にも引き継がれ、造船や自動車の大手工場が立地して高度経済成長時代を支えたが、2000年代に入ると製造業空洞化の影響が色濃くなる。住友重機械工業浦賀ドック、日産自動車久里浜工場、関東自動車の主要工場などが相次いで撤退。雇用が失われると同時に人口流出も止まらなくなる。2013年には転出者数が転入者数を1,772人上回り「転出超過自治体」ワーストワンの烙印を押された。

横須賀市 吉田雄人市長
横須賀市 吉田雄人市長

2009年に33歳の若さで40万人都市の首長に選出された吉田雄人市長は「最大の課題は社会減(編集部注:ある特定の地域の人口が転出によって減ること)による人口減」と話しながらも「それは全国共通の課題でもあります。むしろ1位の横須賀市の挑戦は、注目されるはず。とにかくここから這い上がるだけ。悲観せず全国的な課題を横須賀が先頭切って解決していけばいいのです。“横須賀は、日本の明日が見えるまち”をキャッチフレーズにしたい」と前向きだ。

米軍基地と連携し“英語を学べるまち”へ

社会減の課題を抱える一方、市のアンケート調査(2014年実施)によれば住み続けたいと感じている市民が多い。「定住希望者は横浜市で6割、三浦市で5割なのに対し横須賀市は8割と驚異的な数字です」(吉田市長)。

横須賀市への定住意識アンケート

2014年に続き2016年9月に行った市民アンケートでも、「横須賀に住み続けたい」という定住意識は強かった(出展:平成28年度基本計画重点プログラム市民アンケート報告書、n=572)

横須賀は、東京湾の内湾、外湾、相模湾と三方を海に囲まれ、沿岸漁獲高は県内1位。新鮮な旬の野菜も豊富で食環境が充実している。緑も多く自然が豊かで、子どもをのびのび育てるのにふさわしい。長く暮らしている市民の満足度は高いのだ。“基地のまち”の都市イメージから、“住みやすいまち”へ転換する情報発信で転入増を目指す。

とりわけ横須賀ならではの教育施策が「米軍基地のまちを逆手に取った“英語を学べるまち”づくり」(吉田市長)だ。小学校から高校まで市立全校にネイティブスピーカーを配置し、市立高校と米軍基地内のハイスクールで短期交換留学を実施している。

大学生、社会人向けには基地内のメリーランド州立大学への留学プログラムや、市内在住の外国人がホストファミリーとなる「ホームビジット」で生きた英語と接する機会もある。民間のバイリンガルスクールにも300名近い日米の子どもたちが一緒に遊びながら学んでいる。

こうした子育て世代への訴求と同時に、リフォーム費の助成や学生への家賃補助などで空き家の利活用を促す住宅政策も打ち出し、“住みやすいまち”づくりに注力している。

それと同時に、人口の社会減から社会増への巻き返しは地域経済の活性化なくしてあり得ない。それには新たな雇用の場を生み出す必要がある。そこでスタートしたのが「ヨコスカバレー構想」だ。

10年間で100社のICT企業集積を図りたい

ヨコスカバレー構想の目的は、「横須賀にICT企業の誘致・集積を図る」こと。吉田市長は「チャレンジ精神旺盛なスタートアップ企業が集まるエコシステムを根づかせたい」と意気込む。心身を和ませる豊かな自然環境とともに、横須賀には情報通信関連の研究拠点として「横須賀リサーチパーク」(YRP)もある。こうした強みを活かし、ヨコスカバレー構想実現委員会が2015年7月に発足。10年間で100社の企業集積を図り、雇用換算で100億円の効果額を創出する目標を掲げる。

ボードメンバーには、近隣の鎌倉市や都内からも業界の著名人が顔をそろえる
ボードメンバーには、近隣の鎌倉市や都内からも業界の著名人が顔をそろえる

ヨコスカバレー構想実現委員会は民間の会員によって構成されている。事務局は横須賀市産業振興財団が担っているが、活動はあくまでも民間主導。10人のボードメンバーによって立ち上がり、現在の会員は50名(年会費1万円)と増えている。偶数月の定例会には30人前後の会員が集まる。

2016年10月11日に行われた定例会に参加した会員のみなさん
2016年10月11日に行われた定例会に参加した会員のみなさん

会員の誰でも自主的に事業提案でき、賛同者が1人でも集まればユニットを組んで企画がスタートする。この1年間でICTハッカソンやプログラミング講座などの企画が実現している。

ハッカソンのテーマは「カレー」。カレーを使ったまちおこしのアイデアを出し合った。よこすか海軍カレーとヨコスカネイビーバーガーは横須賀の2大名物だが、ボリュームがあり両方食べるのは難しい。そこで歩いてカロリーを消費するのと同時に横須賀のまちをよく知ってもらえるウォーキングコースガイドのアプリなどのアイデアが出た。

また、プログラミング講座「ヨコスカプログラミングスクール」には中学2年生から大学2年生まで10名が参加した。横須賀の若者のICTリテラシーを高め、長じては市内で起業してもらいたい。そんな願いを込めた10年スパンの構想だ。1期目は無料開講したが、都内なら20万円程度の受講料を取れる本格的な内容だけに、今後は割安でも有料化を目指す。

民間にとって叩きがいのある太鼓を目指す行政

さらに、横須賀バレーが市と連携して実施したのはICTキャンプ。「自然環境や観光資源を含め知られざる横須賀の良さを知ってもらおう」(吉田市長)と、宿泊費・食事代・会場費無料の太っ腹で募集をかけると1日で満杯になり、主に都内の12社のICT企業が週末にキャンプを実施した。「東京からこんなにも近くて、こんなに美味しいものを食べてきれいな空気のなかで仕事ができると知り、横須賀のために何かしたいと言ってくださる方もいらっしゃいました」と吉田市長は手応えを感じている。

吉田市長

ヨコスカクリエイターズ事業協同組合が設立され、ドローンユニットも活動中。組合と市は今年8月、防災協定を結んだ。また、ICTによる観光振興のユニットも立ち上がった。次々に立ち上げるアイデア、自らもコンサルティングファーム出身の吉田市長は民間主導を強調する。

「行政の役割は、きっかけと仕掛けとしくみづくり。どう儲けるかは民間に任せます。かねがね私は“市役所はいい太鼓を目指そう”と言ってるんです。行政は民間がうまく叩いてくれればくれるほど、いい響きを返す太鼓なんです」

補助金などの優遇策を掲げて既存企業の工場を誘致するような従来の方法だけでは持続的な雇用の受け皿をつくれない。未来を引き寄せるのは起業家のチャレンジ精神。吉田市長は、そんな認識を持つ8自治体の首長が連携した「スタートアップ都市推進協議会」の副会長を務めており、先導としての役割も担う。

民間主導・行政支援の地方発ベンチャー創出のうねりは着実に広がりを見せているようだ。その新たな胎動の1つ「ヨコスカバレー」はどんな太鼓の響きを轟かせるのだろうか。

中編では、構想のキーマンであるタイムカプセル株式会社代表取締役の相澤謙一郎さんと、東京に本社を持つ上場企業の立場から地域再生プロジェクトに関わる中井大さんに、「横須賀にICT企業の誘致・集積を図る」ヨコスカバレー構想の想いについて聞く。

地域をプラットフォーム化し、ポテンシャルを形にしていく試み――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(2)へ続く
地域活性に興味を持つ若者が、なぜ横須賀に惹かれるのか?――官民共同で進む横須賀市「ヨコスカバレー」構想(3)


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