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エンジニアこそサービスシステムを構想するカギ──成功するオープン・サービス・イノベーションのシステムとは? 澤谷由里子氏に聞く(前編)

2016年12月07日



エンジニアこそサービスシステムを構想するカギ──成功するオープン・サービス・イノベーションのシステムとは? 澤谷由里子氏に聞く(前編) | あしたのコミュニティーラボ
取引先や顧客などに限らず、多様なステークホルダーと共創しながら、今までになかった新たな価値を社会に提供する「オープン・サービス・イノベーション」。あしたのコミュニティーラボでも、複雑で困難な社会課題や事業課題に取り組む企業や団体を数多く取り上げてきた。では、そこで結果を出すためにはどのような思考が必要となるのだろうか。企業での研究開発を経て、大学でサービスサイエンスの研究に携わる東京工科大学・澤谷由里子教授に、「サービス」の本質を踏まえて、外部に開かれたオープンなイノベーションを構想する手立てを聞いた。(取材場所:FUJITSU Knowledge Integration Base PLY)

“創発するエンジニア”になるためにエンジニアに求められることとは──成功するオープン・サービス・イノベーションのシステムとは? 澤谷由里子氏に聞く(後編)

狭義の“サービス”からシステムとしての“サービス”へ

──情報処理学会『デジタルプラクティス』誌の「オープン・サービス・イノベーション」特集号の発刊を記念してFUJITSU Knowledge Integration Base PLY(蒲田)で開催されたイベント。澤谷先生はモデレーターを務められましたが、そこでは、パートナーからユーザーまで多様なステークホルダーと互いに価値を共創して新しいサービスの提供を目指す実践例が紹介されました。総括してどんな印象を持たれましたか。

澤谷 ICTを活用して社会課題や事業課題を解決し、世のなかを変えようとしている人たちがいて、しかもそれが結果を出しつつあることがわかり、心強く思いました。この動きが加速されると素晴らしいですね。

特に印象に残ったのは、一般社団法人Code for Japanによる東日本大震災の被災地、福島県浪江町でのタブレットを活用したきずな再生・強化事業と、株式会社ennmonoによるクラウドファンディングを活用した中小製造業の自社製品開発手法です。
東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科アントレプレナー専攻 教授 澤谷由里子さん
東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科アントレプレナー専攻 教授 澤谷由里子さん

前者はユーザーインタビューや住民参加によるアイデアソン、ハッカソン開催を通じて町民と共に本当に必要なアプリケーションを作成し、公開型の調達によって予定価格の50%削減を実現しました。後者はクラウドファンディングが中小製造業の資金調達だけでなく販路開拓やマーケティングにも広く活用できることを実証した事例です。どちらもICTをベースにしたサービス・イノベーションが社会や事業の課題を解決する可能性を指し示しています。

──オープン・サービス・イノベーションを実践するうえでは、そもそもサービスとは何かを突き詰めて考えることで、本当に求められるものが何かを見いだすことができるのではないでしょうか。澤谷先生は日本IBM株式会社での研究開発業務を経て、大学でサービスサイエンスの研究に取り組んでおられます。澤谷先生は「サービス」の本質とは何だとお考えですか。

澤谷 欧米では2004年の報告書「イノベート・アメリカ」を契機にサービスサイエンスのレポートやカンファレンスが盛んになり、日本でも2007年サービス産業生産性協議会設立等、経済産業省や文部科学省で委員会や研究開発プログラムがはじまっています。ただ日本ではサービスを狭義に捉えてしまいがちなのが残念です。サービスは、「システム」として捉える必要があります。

サービスには提供者と受益者のインタラクションがあり、その裏には受益者や提供者のシステム、それを支える技術もあり、パートナーのリソースを持ち寄った全体システムのオープンな協業もあるのです。ところが、得てして「日本で“サービス”」というと、旅館でのおもてなしとか、観光データの共有とか、設備メンテナンスなど狭いレイヤーの話に閉じてしまう。

──サービス産業の業務改善のようなテーマになりがちなんですね。

澤谷 そもそも“サービス産業”という業種はありません。「顧客との価値共創」を中心にビジネスを捉える、それがサービスです。農業も製造業も金融業も小売業も、顧客が何らかの価値を享受するという最終的な目的は同じです。価値を創り出す過程において、ビジネスプロセスの各レイヤーでのステークホルダーと望ましい相互作用が働いたとき、システムとしてのサービスが機能します。

あらゆる事業はサービスにほかなりません。よく“モノからコトへ”などと言われますが、その2つを分けないでほしい。モノもコトもひっくるめてサービスです。

「枠を外すことが楽しい」と思える経験をしてほしい

──日本企業が海外で競争すると、個々の優秀な技術の提供では強いけれど、トータルなソリューションのシステムやサプライチェーンを丸ごと構築することに弱いと指摘されますが、それと似たところがありますね。

澤谷 そう、でもそれって淋しくないですか? 私はそういうことを広く研究したくて大学に移ったのですが、そのとき伝えたいと思ったことが2つあります。

1つは、先に述べたようにサービスとはシステム全体のことであって、サービスのレイヤーの狭い部分を意味するのでもなければ、第1次産業と第2次産業以外の産業を指すのでもない、ということ。

もう1つは、その全体設計を考えるのはエンジニア以外にいない、ということ。技術を知らない限り構想できません。
自身がエンジニアとしても活躍したからこそ、「エンジニアには広い視野が必要だ」と澤谷さんは話す
自身がエンジニアとしても活躍したからこそ、「エンジニアには広い視野が必要だ」と澤谷さんは話す
しかし、ここに落とし穴があるんです。エンジニアの視野が狭いとダメです。視野を広げる必要がある。サービス・イノベーションには先進技術を駆使した上澄みのプロダクトだけをつくればいいのではなく、「問題を発見し、定義し、世の中にない価値を生み、使う人を育てるところからはじまるサービスシステムの変革」が欠かせません。それを駆動するのがエンジニアではないかと思うのです。

──これからは広い視野を持ったエンジニアがイノベーションを起こす、と。

澤谷 私はIBMの研究所時代に情報技術からサービスの研究に移行し、マネージャーとしてリサーチャーやコンサルタントとともにお客さんと新しい問題解決の手法を探っていました。その時の気づきを論文にまとめ、博士号を取得したのですが、はじめのうちは、今まで書いていた技術論文と経営学の論文は全く系統が異なるので戸惑いました。企業で行われていることを10年くらい観察して重要なセオリーを導き出す。当時の私にはそれが感想文にしか思えず、真意を理解できませんでした。

そこで、科学哲学(編集部注:科学を哲学的に考察する学問のこと)までさかのぼって学んでみました。すると、データを分析すれば誰でも同じ答えが導き出されるのが科学だと思ったら大間違いで、科学といえどもデータの見方によって結論はさまざまな方向に変わることがわかりました。であるならば、「データを見る時の人間のフレーム」こそ重要なわけです。

経営学は、新しいフレームをつくろうと日夜努力している学問なのだと理解した途端におもしろくなりはじめました。ですからエンジニアには、あえて枠を外すことが楽しいと思えるような経験をしてもらいたいですね。そして新しいフレーム、コンセプトを創り出してほしいです。

──枠を外すというのは、具体的にどんなことですか。

澤谷 今のテリトリーから外に出ると言うことです。

安全に仕事ができるエリアが誰にでもあります。持ち前の技術路線で10%ずつ改善していけば自分の実績は確実に上がる。けれども、たとえば製造業のオペレーションのラインに導入している今の技術を、仮に医療現場に活用したらどうなるか。新しい可能性が拓ける予感がする。ただ、そんなことをしても成功するかどうかわからないしリスクが高い。その可能性を探るには、自分には専門外の医療の専門家とチームを組んで挑むしかないわけです。

──自分の枠を外して新しいことに挑もうとするなら、今まで出会ったこともない分野の人たちと一緒に取り組まなければならない。そこで“オープン”というキーワードが出てくるわけですね。

澤谷 まさにそういうことだと思います。

後編では、エンジニアがどうすれば自分の枠を一歩踏み越えてオープン・サービス・イノベーションを志向できるのか、それには何が必要なのかを探る。

“創発するエンジニア”になるためにエンジニアに求められることとは──成功するオープン・サービス・イノベーションのシステムとは? 澤谷由里子氏に聞く(後編)へ続く
澤谷さん

澤谷 由里子(さわたに・ゆりこ)

東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科アントレプレナー専攻 教授


東京工業大学大学院(修士)、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。日本IBM(株)入社。情報技術の研究開発、サービス研究に従事。JSTサービス科学プログラム(S3FIRE)フェロー、早稲田大学教授などを経て、15年9月より現職。経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会「情報経済小委員会」委員、「攻めのIT投資評価指標策定委員会」委員等。早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員上級研究員、INFORMS Service Science等の編集委員を兼務。主な著作:Global Perspectives on Service Science: Japan(共編著、Springer)、Serviceology for Designing the Future(共編著、Springer)


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