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ものづくりがつなぐ、地域コミュニティー——ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)

2013年02月04日



ものづくりがつなぐ、地域コミュニティー——ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura) | あしたのコミュニティーラボ
家族や友達で料理をつくって楽しむように、市民が互いにものづくりを楽しむ場所。異分野のクリエイター同士がデジタル工作機器を間に挟んで出会い、やがてはビジネスに結びつくかもしれない場所。ファブラボとはそんなところだ。日本に初めてできたファブラボの一つ、「ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)」を訪ねた。

米国発の市民工房を日本で〈魔改造〉したい

えんじ色で縦長の革製リュックサック。あまり見かけないサイズと形だ。
それもそのはず、これは世界に一つの手づくり。いや、正確にはデジタル工作機器の助けを借りたハンドメイド、といったほうがいい。

「きのう、僕がつくったんです。自分のノートパソコンがぴったり収まる寸法のリュックサックを出力するソフトをつくって、レーザーカッターで革を切って、穴を開けます。最後は自分で縫って完成させる。パーツを組み合わせるだけなので、革のプラモデルみたいなものです」

そう話すのは、神奈川県鎌倉市にあるファブラボ鎌倉(正式にはFabLab Kamakura)主宰で慶応義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也さん。「もともと僕はソフトウェア開発者でエンジニア。まさか自分がリュックサックをつくることになるとは思ってもいなかった。でも、自分が身に着けるものをつくるのはとても嬉しいんですよね。これは、ファブラボ鎌倉で、若き職人の藤本直紀さんとお会いして始まった共同プロジェクトなんです。革について藤本さんにいろいろ教えていただきながら、僕はソフトを担当してコラボレーションしています」。

自作のリュックを手に持つ田中浩也さん
自作のリュックを手に持つ田中浩也さん

ファブラボ鎌倉は2011年5月、ファブラボ筑波(正式にはFabLab Tsukuba)と同時に発足した。3Dプリンタやレーザーカッターなどのパーソナルなデジタル工作機器を備え、互いに語り合い、学び合いながらものづくりを楽しみ、広めていくのが「ファブラボ」。その核となるコンセプトは、「make(つくる)」「learn(学ぶ)」「share(分かち合う)」の3つだ。MIT(マサチューセッツ工科大学)のニール・ガーシェンフェルド教授を発信源として、この10年間で世界50か国以上にネットワークされた市民工房で、個人がデジタル工作機器を使ってものづくりをするデジタルファブリケーションもしくはパーソナルファブリケーションというムーブメントの拠点となっている(http://www.ashita-lab.jp/special/717)。日本で初めてファブラボを名乗った拠点が、ここ鎌倉と、筑波だ。

それにしても、なぜ鎌倉で、しかも古い酒蔵を利用しているのか。「容易に想像されたのは、ファブラボなんてしょせんMITの受け売りで、外国からの輸入ものだろ、という批判です」と田中さん。

「それは事実なんです。自分でも葛藤はありました。ただ、僕としてはただ輸入するだけのつもりはなかったんです。一回、きちんとファブラボのすべてを学んだうえで、それを解体し、自分なりに再構成してみようと。単なる受け売りではなく、再解釈して逆に世界に提示することこそやってみたいと思っていました。『守・破・離』のプロセスですね。こないだ、ある会で稲見昌彦さん(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)とお会いしたとき、日本は〈魔改造〉の国だと説明されていました。たとえば、食ではラーメンもカレーも外国から日本に入って魔法のようにつくり変えられ、今度はそれが逆に輸出されて外国で評判になる。僕は、ファブラボというコンセプトも同じように『ローカライズ』すると同時に『魔改造』してみたかったんです」

どうすれば日本的なリミックスを施せるのか。
手づくりの職人技とデジタルファブリケーション。水と油のように見えるこの二つを、あえて出会わせてみてはどうだろう。

ヒントになったのはオランダ、アムステルダムのファブラボ。14世紀に建てられた古城を市民の手で改修し、新しいデジタル工作室にしている。そこは生活文化に満ちていた。

オランダ・アムステルダムのファブラボ(photo by Frosti Gislason)
オランダ・アムステルダムのファブラボ(photo by Frosti Gislason)

ウェブで検索すると、新潟県湯沢市から酒蔵を移築した賃貸物件が鎌倉にあった。鎌倉には、陶芸、彫金、テキスタイル、木工などの小さな手づくり工房も多い。魔改造を目指す、田中さんの考えるファブラボにはふさわしかった。

職人技とデジタル工作技術のハイブリッド

結果的に、手づくりの職人技とデジタルファブリケーションは、決して水と油ではなかった。先のリュックサックが、藤本直紀さんとのコラボレーションの産物であるように。藤本さんは、だれでも組み立てられるレザーのスリッパを企画したとき、革の断裁ができるところを探していて、ファブラボ鎌倉と出会い、レーザーカッターを初めて試してみた。

オ藤本直紀さんお手製のスリッパ(提供:KULUSKA)
藤本直紀さんお手製のスリッパ(提供:KULUSKA)

「驚きの発見は、革という素材とレーザーカッターの相性がいいこと。データをきちんとつくれば、裁断、穴開け、焼き印も同時にできます。ファブラボ鎌倉では、いろんな他分野の方との交流が、自分の新たな面を引き出してくれるような気がします。スリッパに始まり、キーホルダー、カードケースなど、だれでも簡単につくれるレザークラフトのキットを広めていきたい」(藤本直紀さん)

木工職人の犬塚浩太さんも、ファブラボ鎌倉との連携に「手探りで共存共栄の新しい道筋をつくりたい。つくる行為自体が価値になってビジネスにつながるモデルを見出せれば」と可能性を感じている。木目模様をそのまま生かして絵柄に見立てた木皿、縁に角度の目盛りが付いて5等分などが正確にできる「分度器皿」といった楽しい作品を、レーザーカッターを利用してつくり、現在54種類の木製時計シリーズを制作中だ。

ファブラボ鎌倉で共同制作した「分度器皿」(左/提供:FabLab Kamakura)と「木製時計」(右/提供:犬塚浩太さん)
ファブラボ鎌倉で共同制作した「分度器皿」(左/提供:FabLab Kamakura)と「木製時計」(右/提供:犬塚浩太さん)

ファブラボ鎌倉の魅力は「アカデミズムと街と世界がつながって混在し、いろんな領域の人たちが行き交っていること」と犬塚さんは話す。「既存の木工業では到達できないアイデア、人脈、予想外の出来事にあふれています」。

このような素材に詳しい職人がデジタル工作機器に出会うことでユニークなアウトプットを生み出すことに、田中さんは感動した。「最初は受け入れられないのかなあと思っていました。でも結局、職人さんのほうが自分たちの表現を、アナログとデジタルのハイブリッドに進化させていっているんですよね。そして僕らエンジニアも、新しい発想でソフトやアプリをつくっています」。

デザイナーのサイトウトオルさんは、ファブラボ鎌倉のレーザーカッターで、防災避難所までの距離を歩数で記した石の誘導サインを制作した。プレートではなく石というところが、街並みの景観に溶け込むサインとしてユニークだ。

サイトウトオルさんが石で制作した、震災時の津波避難誘導サイン(提供:FabLab Kamakura)
サイトウトオルさんが石で制作した、震災時の津波避難誘導サイン(提供:FabLab Kamakura)

「東日本大震災の後、鎌倉から江ノ島まで海沿いを走る江ノ電で通学している娘の安全が気がかりでした。万が一、津波が押し寄せたとき、無人駅のある江ノ電で小学生が一人でも確実に避難できるように、と考えてつくったものです。私が抱いていたデジタルのイメージは、せいぜいDTPや建築CAD止まり。デジタルファブリケーションには、その範疇を超えた可能性を感じます」(サイトウトオルさん)

樹脂を素材に立体造形物を出力できる3Dプリンタ、革や木や石などに自由な加工を施せるレーザーカッター、木を削るためのミリングマシン。いずれのデジタル工作機器もデスクトップタイプで手軽に操作できる(ただし3Dプリンタは3次元モデリングソフトのスキルが必要)。思いついたらすぐに試作品をつくれて、考えながら何度もやり直しが利く。パーソナルな発想を基盤としたものづくりをサポートするツールとして、そこが新しく興味深い。

ファブラボ鎌倉内の3Dプリンタ
ファブラボ鎌倉内の3Dプリンタ

ゲストもホストもない、フラットな関係を築きたい

Fablab Kamakura, LLC(合同会社)代表の渡辺ゆうかさんによれば、「武器以外ほぼなんでもつくるファブラボなら、クリエイターの新しい仕事のあり方もつくれるのではないか」との想いから、ファブラボ鎌倉はスタートした。

「多くの人が自分でつくる喜びをもう一度取り戻したいと思っているけれど、手段がわからない。その気持ちに寄り添いながらも、もっと先を見ています。学びの環境を整え、異分野の人たちが出会うことによって、可能性の引き出しがどんどん増えていく。仕事を〈さがす〉のではなく、仕事を〈つくりだす〉。そんなことを実行できる場にしたいんです」

FabLab Kamakura, LLC代表の渡辺ゆうかさん(提供:FabLab Kamakura)
FabLab Kamakura, LLC代表の渡辺ゆうかさん(提供:FabLab Kamakura)

ふだんは、地域の職人やデザイナーなどのクリエイターとコラボレーションし、上記のようなプロダクトの共同開発などさまざまなプロジェクトに取り組むほか、週1回金曜日には一般市民にプロジェクトの紹介や施設の見学を行っている。集まるのは、小中学校の先生、医師、建築家、カフェのオーナー、ITベンチャー経営者、地方自治体職員など、さまざまな職種の人たち。「ロボットづくりをぜひ鎌倉で広め、技術のおもしろさを伝えたい」と言ってやってくる、退職を経た年配のグループもいるとか。パーソナルなものづくりのモチベーションは世代を超えて強い。

「ゲストもホストもない関係性の構築を心がけています」と渡辺さんは語る。
「施設を立ち上げた当初は、いわゆる日本的な〈おもてなし〉をしてしまいがちでした。〈おもてなし〉の精神は本当にすばらしいのですが、ここは自分の家の延長のような距離感の場所を目指そう、と。与えられるものを求めて来るのではなく、自分からどんどん気づきを探せるような提案型の人がやってくる場所でありたいし、現にそういう人たちが集まっています」

1階入口の棚、2階の床、机と小上がりの畳などは、ファブラボ鎌倉に出入りしている人たちとの共同制作だ。その御礼としてデジタル工作機械のトレーニングをする〈地域スキル通貨〉のような試みも始まっているという。

ファブラボ鎌倉は地域に根づき、地域の人々に支えられている。

毎週金曜日開催のオープンラボ「結のファブ」には多くの市民が集まる(提供:FabLab Kamakura)
毎週金曜日開催のオープンラボ「結のファブ」には多くの市民が集まる(提供:FabLab Kamakura)

人や街へ働きかけるのは、設備ではなく心

デジタル工作機器のトレーニングプログラムを体系化し、一般市民を対象とした「ファブラボ寺子屋」がまもなくスタートする予定だ。ゆくゆくは教育関連企業とタイアップしてワークショップを事業化するという。「未来版のヤマハ音楽教室のようなイメージで、一人ひとりの成長に寄り添いながらきちんと事業展開していきたい」と、渡辺さんは意気込む。

「オバマ政権が全米1,000校の小学校にデジタル工作機器を導入します。ものづくり先進国である日本としては負けていられませんが、まず身近でできるところから先にやってしまおう、と」

同時にファブラボ鎌倉は「大学を社会に開く試み」でもあるという。田中さんの研究室の学生がここで産学連携を探っている。世界のファブラボにも大学がバックアップしているところは多い。実は、以前から3次元プリンタを持っている大学は日本にもたくさんあるが、使われることなくほこりを被っている大学も多いという。ファブラボで広くクリエイターや一般市民に公開されると、新たな使い方が発見され、そこから次の研究テーマや人材教育の方向が導き出されるだろう。

今後、地域に根づいたファブラボは日本で広がるだろうか。

課題の一つは「日本人の完璧癖」と田中さんはいう。
「『ファブラボでつくっているものって、おもちゃだろ』という反応があるんですよ。一部は、確かにおもちゃなのかもしれないです。でも、おもちゃをたくさんつくるのは悪いことじゃないですよね。「試作」ってそういう意味ですし。ハイクオリティなものづくりのバックグラウンドが、かえって阻害要因になっているようにも思うんです。最初から高品質じゃないと満足しない。でも、たとえば家庭でフレンチのシェフがつくるような料理ができるわけないでしょう。料理のできばえというよりも、みんなでつくってみんなで味わうところにも幸せ感、豊かさ感があるわけで、ものづくりだって同じことだと思うんですよ。もちろんプロは尊敬しますけれども、アマチュアの発想の自由さも同時に大切にしたいと思うんです」

そしてもう一つの課題は、ファブラボでは「グル(マスター)」と呼ばれるそうだが、デジタル工作機器のスキルもあって、なおかつコミュニケーション能力が高い、ファシリテーター的な役割をする中心人物が不可欠なこと。

まさにファブラボ鎌倉の渡辺さん、田中さんのような人材である。

施設内には、田中さんの学生がつくった人形がたくさん置かれていた
施設内には、田中さんの学生がつくった人形がたくさん置かれていた

デザイナーのサイトウトオルさんはこう語る。
「私が感じているのは、ファブラボ鎌倉は決してデジタルファブリケーションだけでコミュニティーを形成しているのではないということ。マスターである渡辺さんや田中先生の人柄や魅力によるところが大きいと思います。人や街へ働きかけるのは設備ではなく心。ファブラボ鎌倉が街へ発信しているモノコトはまだ少ないのに、次から次へと新たな人が訪れているのは、その証です」

人の心とものづくりが結びつくとき、豊かなつながりが染み渡るように広がっていく。ファブラボの真価はそんなところにあるのだろう。

ファブラボ鎌倉は、地域のコミュニティーの拠点となりつつある(提供:FabLab Kamakura)
ファブラボ鎌倉は、地域のコミュニティーの拠点となりつつある(提供:FabLab Kamakura)
FabLab Kamakura http://fablabkamakura.net
kuluska(藤本直紀さんのユニット) http://kuluska-japan.com
inu it furniture(犬塚浩太さんのブランド) http://www.inuit.jp
沖デザインラボ(サイトウトオルさんHP) http://www.oki-lab.com


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