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新宿の食の課題は「人」で見つける──新宿食支援研究会による「食支援」(後編)

2017年01月20日



新宿の食の課題は「人」で見つける──新宿食支援研究会による「食支援」(後編) | あしたのコミュニティーラボ
医療・介護・福祉に携わる、要介護者の暮らしを支える専門家が連携し、新宿という地域の高齢者の「食」を支える新宿食支援研究会。ワーキンググループを軸に置いた活動には、24職種・121名(2016年11月現在)のメンバーが集い、日々研鑽しながら地域の人々の「食」を支えている。これだけ大きなネットワークは、いったいどのように築かれ、これから発展していくのだろうか。研究会代表としての五島朋幸さんに、会を始動させた当時に描いた戦略と、これからの展望を伺った。

高齢社会のQOLを向上させるカギは「地域内多職種連携」──新宿食支援研究会による「食支援」(前編)

「M→T→K」のまちづくり

新宿食支援研究会(以下、新食研)の代表・五島朋幸さんの推計によれば、新宿区内に摂食嚥下障害を持つ高齢者は「約1万人」いると言う。「1万人すべてに対して食支援を行うには一部の専門家だけではできない、ならば多職種連携で地域食支援を担おう」と考えたのが、新食研のはじまりだ。

発足当時は「食支援」という言葉自体にも「定義すらなかった」。五島さんは食支援の定義づけを考え、次のような結論に行き着いた。

「食支援」の定義
「本人、家族に口から食べたいという希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対し、適切な栄養管理、経口摂取の維持、食を楽しんでもらうことを目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行うこと」(新食研HPより)

適切な栄養管理、経口摂取の維持に加え、「食を楽しんでもらうこと」が明記されているのが大きなポイント。ハッピーリーブス(前編参照)の活動にもそれが如実に表れていた。

では1万人の「口から食べられない高齢者」を、具体的にどのようにサポートしていこうと考えたのだろうか。それを表すのが、新食研が活動目標として掲げる「MTK」という枠組みである。

「MTK」は、活動目標それぞれの単語をローマ字で書いたときの頭文字。

Mとは、食に対する介護職の意識向上により、食支援を必要とする人を現場レベルで能動的に「見つける」こと。新食研ではホームヘルパーに対する研修会開催のほか、介護職向けに「SSK-O」(エスエスコ)という食形態判別ツールも開発。これは嚥下(のど)と咀嚼(口)の状態をそれぞれ「良い/悪い」の2段階に分けた2×2の表で、ヘルパーやケアマネージャーが患者の摂取する食形態を判別するときに使用される。

SSK-O判定表。ここで得られたⅠ~Ⅲ、常食の判定を元に食事形態を柔軟に変化させる
高齢社会のQOLを向上させるカギは「地域内多職種連携」──新宿食支援研究会による「食支援」(前編)SSK-O判定表。ここで得られたⅠ~Ⅲ、常食の判定を元に食事形態を柔軟に変化させる

食事形態の難易度ピラミッドモデル
食事形態の難易度(ピラミッドモデル)

「口から食べられない人のほとんどは医者や言語聴覚士から嚥下障害(のどから下)かどうかしか診られていないことがほとんど。咀嚼障害(のどから上)は診られていないことが多いんです。それをヘルパーたちも見つけやすくするのが、このツール。ヘルパーの教育にもおおいに役立っています」(五島さん)

MTKの2番目・3番目は、食支援にまつわる多職種のネットワークを「つなぐ」(T)、そして食支援の地域での実践によって「結果を出す」(K)。月1回、新食研では多職種が「つながる」ための勉強会を企画。実践的ワーキンググループ・ハッピーリーブスによる「多職種連携+訪問診療」は「つなぐ&結果を出す」に寄与している。その他のワーキンググループも月に一度のミーティングを行うなど精力的に活動している。

食支援研究会の20あるワーキンググループの一覧。こちらで詳しいものが閲覧可能
食支援研究会の20あるワーキンググループの一覧。こちらで詳しいものが閲覧可能

WGの活動がさらなる人を呼ぶ「食支援研究会」

24職種・121名の専門家が集まるまでには、いくつかの段階があったと五島さんは当時を振り返る。

五島さんは新食研が誕生する以前より、新宿エリアで開催される介護職連絡会などにたびたび顔を出していた。「僕は同じニオイのする人間としか付き合わない(笑)」という五島さんが「各分野でトップを走るような人たち」と評する人たちとの関係は、決して堅苦しいものではなかった。

「もともとは、一緒にホノルルマラソンに参加するようなプライベートな関係性です。新食研のアイデアを思いついたときも、そのプランをマラソンチームのメンバーにメールをして、そこで反応のあった人たちが初期のコアメンバー14名になっています。まさに一夜城のように築かれた会なんですよ」

エネルギッシュに活動する五島さんの姿を見て、新食研に加入するメンバーも少なくない
エネルギッシュに活動する五島さんの姿を見て、新食研に加入するメンバーも少なくない

そして思いのある人々によって設立された新宿食支援研究会。14名のコアメンバーでスタートした新食研は、徐々に活動の輪を広げていく。新宿に食支援の輪を広げるときに何をすべきか、コアメンバー同士で考えるなか、勉強会の実施、実践チーム「ハッピーリーブス」の設立、ヘルパー研修会などが生まれ、それらがワーキンググループ(以下WG)の活動につながっていった。

「WG自体の存在が大きくなると、WGが入口の扉として開放されてきました。新食研の活動は賃金が発生する活動ではありません。同じ方向を向く人たちが自主的に勉強し、情報の連携を図り、結果的に地域の食のレベルアップを図る活動です。WGで活動する人たちが、現場での体験を通じて必要と思った人材を連れてくればいい。

個人の側に目を向けても、自分の能力を伸ばす環境がここにはあれば、新食研は魅力的に 映るはずです。WGと個が強くなっていけば、僕の2代目、3代目の後継者がいる必要はない。あとは新食研の枠を外し、WGを母体として継続していけばいいと考えています」

支援者の輪を確実に広げれば、世界は一変する

活動開始から5年後、その枠組みに新たに「H」という枠組みが加わった。すなわち「広める」のHだ。

すでに「広める」をテーマにしたWGが複数始動しており、一般の方も対象とした「食支援マイスター制度」もスタート。これは新食研メンバーが講師を務める区民参加型の養成講座で、全10講座のうち2講座を受講することで「食支援サポーター」に、10講座すべてを受講することで「食支援リーダー」に認定される。

食支援サポーターに認定されると青色のバンドをもらうことができる
食支援サポーターに認定されると青色のバンドをもらうことができる

現在、食支援サポーターの数は200名ほどにのぼる。また、2017年秋には区外・都外の専門家も招いた「第1回最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会」(Facebookページ)が予定されている。

「新宿区のなかで『見つける→つなぐ→結果を出す』を無限に起こしていくことが、結果的にまちづくりになっていく」と五島さん。そこに「広める」が加わることで、食支援の成功事例は日本全国に波及していくはずだ。

「行政主導で行う食支援の多くは、目に見える成果が求められがちですが、僕はメンバーにはっきりと目に見える成果を求めていないんです。一人一人の仕事のなかで少しずつでも成果を出していければ新宿全体の食支援力は相当アップしているはずなんです。そういう成果を出し続ければじわじわとボディブローのように効いてまちは変わります。

僕たちの成果は個人の活動の結果です。他の地区では年間何人の人を支援して結果を出したという言い方をしますが、僕たちはそうではないんです。毎日、メンバーや新食研に感化された人たちがそれぞれの現場で小さな成果を出したとすれば、今日は500人、次の日は800人、その次の日は600人という単位で支援できるんです。その連鎖が続いていけば、ある日いつのまにか『新宿』というまちが、がらりと姿を変えます。この新宿で確実な成功例を育めば、他の地域にも食支援の輪が広がっていくのではないでしょうか」

2016年版「高齢社会白書」(内閣府)によれば、介護保険制度で要介護者・要支援者と認定された人の数は、2013年度末時点で569万1,000人。10年前(370万4,000人)と比べ、およそ1.5倍に増加している。高齢化が進むことよる老老介護の問題も大きい。

加えて「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年、内閣府)によれば、「自宅で介護を受けたい」とする人は他の施設よりも高く(男性42.2%、女性30.2%)、また「自宅で最期を迎えたい」とする人も男女とも50%を超えている。

要介護者が確実に増え、その多くが「自宅での介護と最期」を望む日本。地域がどんな枠組みで「食支援」を担っていくのか、QOL向上の観点からも重要なテーマであるはずだ。

高齢社会のQOLを向上させるカギは「地域内多職種連携」──新宿食支援研究会による「食支援」(前編)


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