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「稼げるしくみ」が地域を変える──木下斉さんインタビュー(前編)

2017年02月03日



「稼げるしくみ」が地域を変える──木下斉さんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
「地域活性」や「地方創生」「地域コミュニティー」──。数多くの地域でさまざまな活動が活況を呈しているが、成果を得るための、共通の課題設定と課題解決へのアプローチはあるのだろうか。 高校1年生からまちづくりの活動、そして事業を展開する一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 木下斉さんは、18年間、実践経験と経営理論の学びを繰り返し、“稼げるしくみ”づくりで地域のパートナーとともにまちを再生する事業に取り組んでいる。“心あたたまるコミュニティーづくり”では突破できないリアルな課題に対してどう向き合うのか、ヒントを探った。長編の前後編インタビューをお届けする。

小規模・高粗利の業態が地域を活気づける──木下斉さんインタビュー(後編)

「まちが栄えると誰が得をするのか」から考えた

──18年にわたって民間主導のまちづくりのサポートを続けてこられて、地域の置かれている現状をどう見ていますか。自立的に“稼げるしくみづくり”に挑むまちが増えてきたのか、やはり補助金や交付金に頼らざるを得ないのか。

木下 歳入総額に占める地方税、つまり自主財源が3割しかない「3割自治」という言葉が生まれて久しいですが、財政が悪化傾向にあり、3割さえ確保できない小規模自治体もあります。そして、今後さらに増加していくでしょう。さらに単年度収支だけでなく、過去に社会インフラや公共施設を整備した際の負債が多額に残っている自治体も多く、加えてそれらインフラの維持も困難になっています。

全自治体を平均しても、公共施設などの面積が現在より3~4割は削減しないと財政がもたない、ということが自治体が策定している、公共施設白書などによって既に発表されています。今後の公共施設再編については、「公共施設等総合管理計画」が各自治体でまとめられていますので、ぜひ皆さんお住まいの地元ではどうなっているのか、確認されることをおすすめします。

このように日本の構造は、地方は常に地方交付税や各種国からの補助金がなければ現在の行政サービスを回すことができない構造になっています。自立するには国と地方の関係を再構築し、都道府県や自治体区分の見直しなど、統治機構からのつくり変えという、かなりハードな道を駆け上がらなければならないのが現状です。
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下斉さん
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下斉さん
しかし、現状では自立はまったく出来ない。そして、そのような状況が戦後70年も続くと、自立する道筋すら考えなくなり、国に「もっと予算をくれ」ということが地方自治体のトップの仕事のようになってしまっています。だからこそ、次から次へと国が提示する予算、たとえば地方創生交付金などにもれなく皆が同じように手を挙げ、同じように予算をもらうための計画を書くことに汗をかいていきます。そうすればするほど、地方は「もらうこと」が仕事になり、地域全体で「稼ぐこと」には時間を割かない。結果として、ますます依存体質を強めていくことになっています。

──「まちづくりは“行政主導”ではなく“民間主導”が鉄則」と木下さんは一貫して提唱し、実践されています。どうして行政主導ではうまくいかないのでしょう。

木下 “稼ぐしくみづくり”は民間にしかできないからです。行政は道路や港湾や活用されていない公共施設などの公共資産を民間に開放するなど、「できるだけ直接自分たちでやろうとしない」ことが大切。行政が旗を振りすぎると、予算をあてにした質の悪い民間ばかりが出てきて、結局は投入した税金以上のリターンが得られないことが多くあります。

仮に予算が1億円あるとしますよね。1億円つかって大規模なイベントなどを打って20万人以上の人が集まり、2,000万円の売上があった。民間なら大赤字で失敗の烙印を押されます。ところが行政的な感覚では、人通りのなかった場所に20万人もの人がきた、さらに今までゼロだったのが2,000万円も売り上げたので実際はもっと経済効果があったことになり、成功事例となってしまうことも少なくありません。

けど実際は、8,000万もの出血大サービスの企画をやったから人が集まっただけで、そのまちの魅力が高まったわけでも、稼ぎが投資以上に増えて「これからは自分たちでやろう」という民間のやる気を引き出すことにもならないわけです。むしろ、「やはり行政に赤字を税金で埋めてもらうイベントをもっと増やしてもらおう」という話になったりする。依存体質が高まり、民間は稼ぐことより、行政からお金を引き出すことに躍起になる。

地方自治体から国からお金をいかにもらうか、を考えるように、民間も行政からお金をいかにもらうか、ということばかり考えるようになっていってしまうわけです。

──ではどうやって地域で“稼ぐしくみ”をつくるかですが、木下さんは不動産のオーナーに目をつけました。なぜそこからはじめようとしたのですか。

木下 まちが栄えると誰が得をすると思いますか? これは非常にシンプルですが重要な話で、これを考えない限り、誰が地域の発展に必要な投資をするかがわかりません。投資をして、それによって得をする人、負担をし受益する人は誰か。それを考えなくてはならないのです。

まちが栄えると、「みんな」が平等に得するわけではないんですよ。まちづくりでは安易に「みんな」という言葉を使う傾向がありますが、「みんな」なんて人はいません。もっと解像度を高めた、いい加減ではない議論が必要です。

地域が活性化するということは、「そこに住みたい」とか「そこに店を出したい」とか「そこに事務所をつくりたい」という人が増加していくということでもあります。そうすると、得するのは誰か、それは土地やビルをもっている「不動産オーナー」なのです。さらに、二次的に儲かるのは、それら不動産に固定資産税を課税できる自治体です。
木下さんは「民間企業がやらなくなってしまうため、行政が何もかにもやり過ぎない方がいい」と行政主導の事業に警鐘をならす
木下さんは「民間企業がやらなくなってしまうため、行政が何もかにもやり過ぎない方がいい」と行政主導の事業に警鐘をならす
なので、エリア再生をしようとする時、その地域が活性化して一番得する不動産のオーナーが本気にならない限り、地域は再生しません。なぜならば、他の人がいくら頑張ったとしても、その人が得られるものより、不動産オーナーが得るほうが多いからです。つまり割に合わない、おいしいところは不動産オーナーにとられるような環境下で、地域の活性化に対してまっとうな投資をするのが合理的な人なんて他にいないのです。

行政がどんなに旗を振ろうと、地権者が将来に対して投資する意欲が中長期的にない限り、まちづくりは至難の技です。行政はむしろ、固定資産税収入などの地域活性化によって生まれる副次的な税収効果の範囲でのみ投資をするのが合理的です。

不動産オーナーが地域に投資をしなくなった地域は必然的に衰退するのです。

──シャッターが閉まりっぱなしの「シャッター商店街」がそのままになっているのも、そういうことですね。

木下 借金は返済し、儲かっていた時代に購入した物件の家賃収入があれば、生活には困りません。新たに投資し、資産を動かすインセンティブはない。シャッターを閉めて放置しておける不動産オーナーは豊かな人たちです。

その現状を東洋経済オンラインにまとめましたが、不動産オーナーは困っていないからこそ、空き店舗を放置できるのです。

──すると、どういう切り口で風穴を開けるのですか。

木下 とはいえ、不動産オーナーのなかには「自分のところは変えたい」と思っている人も確実にいて、近年は増加しています。いい意味で余裕がなくなったり、子どもが不動産を相続して世代交代すると、さすがにそのまま放置して固定資産税を適当に払っているだけではムダだし、気恥ずかしく感じる人もいます。

「まちに変化をつくる」ことが、自分たちに取って経済的にもプラスになると考える人たちが出て来ると、僕らも一緒に新たな事業をはじめる会社をつくり、実践をスタートできます。

とすると、意外と3~5年程度でそれなりにエリアが変わっていくことは可能なんですよね。

3年前にはじめた愛知県春日井市勝川での小さなプロジェクトでも、地元の地権者さんたちとの事業で、1件のリノベーションした木造シェア店舗の「TANEYA」に5店舗、さらに新築の「ままま勝川」に10店舗以上が入り、さらにその周囲に新しい店が自発的に出てくるようになりました。

100店舗もない商店街では、実に1割以上の店舗が入れ替わるわけです。さらにそこに出店した店舗の営業支援を共に行うので、確実に稼ぐ店が出てきて、そうすると「うちも次はそのあたりに店出そうかな」という連鎖がおきます。
2016年秋、ままま勝川で行われたハロウィンパーティは、地域の子どもたちで満員となった(写真提供:写真提供:勝川エリア・アセット・マネジメント)
2016年秋、ままま勝川で行われたハロウィンパーティは、地域の子どもたちで満員となった(写真提供:写真提供:勝川エリア・アセット・マネジメント)
けど、実は3年前、この勝川の商店街では、10年以内に廃業すると回答した店舗が半数以上で、それで危機感をもった不動産オーナーたちが立ち上がったんですね。

つまりは、「正確な危機感」を持ち、動きはじめればそれなりに変化は生み出せるのです。しかも税金ゼロ、すべて民間資金による事業です。

“活動”から“事業”へとギアチェンジするのは「営業力」

──そんなふうに明言できる木下さんのキャリアは挑戦と学びの連続ですね。高校生の頃からまちづくりの活動に関わり、大学時代に商店街をネットワークした合同会社の社長に就任するも挫折を経験し、その後で大学院に学び、経営の論理でまちづくりに取り組んだ。実践が先で理論が後だったので、スポンジに水が吸収されるようにしてスキルが身についたのではないですか。

木下 やはり、身をもって体験したことが大きかったです。評価される取り組みも、落胆される大失敗も含めて。

1998年頃に関わった早稲田商店会の活動(*)では、企業、大学、国、自治体さまざまな人たちとともに、同一のプラットフォーム上で情報交換しながら“環境まちづくり”の成果を上げ、手前味噌ですが非常に高く評価され、マスコミにも盛んに取り上げられました。(*高校1年生から商店街活性化に取り組む早稲田商店会の活動に参加し、高校3年生には全国商店街の共同出資会社・株式会社商店街ネットワークの設立に参画、高校生で初代社長に就任した)

ただ、利益を生まなければならない事業段階へのギアチェンジは想像以上にハードルが高かった。そこで僕が直面したのは、環境問題などの社会問題を取り上げ、さらに皆に評価されるような心温まる仲間での「活動」だけでは、地域において動きが滞り、結果として衰退を招いていることでした。

資産や資金が関わる大きな「事業」にはまったく歯が立たない。活動と事業との境目は思う以上に大きかったです。
まちに変化をつくり、それが経済的なメリットを生むことが重要と木下さんは言う
まちに変化をつくり、それが経済的なメリットを生むことが重要と木下さんは言う
──企業でも同じようなことが起きます。イノベーションを起こすためのワークショップなどを通してコミュニティーづくりまでは盛り上がるが、いざ“事業”化の段階になると、本業があるとコミットする人が抜けていき、なかなか回らない。

木下 同じですね。話し合いや、なんとなく出来る範囲でやっている活動であれば、わいわいと仲良くできるが、真剣に事業の話になると、思考が止まってしまう。私の場合は、「誰」と事業に取り組むかという相手を見極めるのに時間がかかりました。しかし、地域活性化によって経済的な利益を得るのは誰か、という視点から考え、結果としてやる気のある不動産オーナーと一緒に “稼げるしくみ”をつくることに落ち着いていくことになりました。

たとえば、2008年から事業に取り組んできた熊本城東マネジメントでは、ビル経営に必要な契約コストの削減を先ず行い、そのコスト改善分の一部を次の活性化事業資金に回すしくみをつくりました。具体的には個々の建物で複数業者に発注していたごみ処理といったビルメンテナンスにかかるコストを、エリア内での一括契約に切り替えると初年度から年間175万円ほどコスト削減できることがわかったのです。その後その改善幅は最高年450万円ほどに達しました。

しかし、この立ち上げを行う時、地元の経済団体の幹部の方から「地元企業を競争させるとはけしからん」と横槍が入りました。つまりは各種コストを削減するのに、複数企業に見積りをとって交渉するということ自体に文句を言われたのです。もしかするとこの企画が行政主導ならば、このような声によって頓挫するかもしれません。しかし、別に民間のサービス、不動産オーナーたちと計画して取り組む事業ですから、別に無視してすすめることになりました。

結果として、先のようにビル経営の効率化を図ることができるようになったのです。そして、そのコスト改善の1/3は毎年、まちづくり財源として地元の各種企画や事業開発に投資されるようになっていきました。そして、このスキームは札幌、盛岡、熱海、豊岡、北九州などにも広がりました。

──そうした非効率性の改善の余地は、どの地域にもありますか。

木下 山ほどあると思います。昔ながらの売上至上主義がまだ生きていて、コストを直視していません。同時に不動産にしても特産品にしても、まちで事業をするには売り先を最初に決めたり、コストを考えて利益が出るように物事をすすめるのが鉄則ですが、それができているものが少ないものです。ですので、人が集まった、地元の特産品をつくって即売会で売れた、というけど、実際にはまったく儲けが出ていなかったりします。つまりは費やした労力が報われるような利益が出せない、つまり骨折り損であることが少なくないのです。

何事も従来のやり方には無駄があったり、やって頑張って売れたけど、結局利益が出ない。地域のイベントなどでも山ほどありますね。10万人集まったけど、予算が使われて、利益は出ない。やればやるほど損してしまう。これでは続かないですし、活性化どころか衰退の加速を招いていきます。

地域の経営といった全体の話でもいえることですし、個別の事業においてもしっかりと非効率性を改善して、余剰を地域に残せる仕掛け方をしなければなりません。

後編では、まちづくりにおける自治体と民間の役割、共創の仕方について深掘りする。企業がまちづくりに取り組む際の自治体との距離の取り方を入口に、公民連携の先進事例として注目を集める岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」の事例や、民間主導でまちづくりに挑むプロセスについて聞いた。

小規模・高粗利の業態が地域を活気づける──木下斉さんインタビュー(後編)へ続く

【関連リンク】
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
東洋経済新報社「地方創生大全」
NHK出版「稼ぐまちが地方を変える-誰も言わなかった10の鉄則-」

木下 斉さん

木下 斉(きのした・ひとし)

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事


高校時代より早稲田商店街の活性化事業に参画し、2000年に全国商店街の共同出資会社である株式会社商店街ネットワークを設立、初代社長に就任。その後、研究所研究員などを経て、熊本城東マネジメント株式会社 代表取締役や一般社団法人まちづくり役場とくしま理事等のまちづくり会社の設立に従事。2010年、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。現在は、全国各地の不動産オーナーたちによる共同出資会社への資本参画、役員としての経営のほか、全国各地の情報をもとにした「エリア・イノベーション・レビュー」などの情報発信事業なども行う。近年では公民連携事業機構を設立し、自治体の保有資産を稼げるように転換し、公共サービスの充実を目指した事業も各地で展開している。


著書に東洋経済新報社「地方創生大全」、NHK出版「稼ぐまちが地方を変える-誰も言わなかった10の鉄則-」、学芸出版「まちで闘う方法論」、学陽書房「まちづくりの経営力養成講座」、日経BP「まちづくり:デッドライン」など、地域活性に関する書籍が多数ある。


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