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小規模・高粗利の業態が地域を活気づける──木下斉さんインタビュー(後編)

2017年02月03日



小規模・高粗利の業態が地域を活気づける──木下斉さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
学生時代、まちづくりの“活動”から“事業”へとギアチェンジする際、現実の壁にイヤというほど直面した木下斉さんは、実践経験を経営理論で補強し、“稼げるしくみ”づくりで地域のパートナーとともにまちを再生する事業に18年間、取り組んでいる。“稼げるしくみ”づくりに企業が取り組むには、どのようなアプローチが最適なのか。民間主導で小さくはじめるビジネスはどう回していったらよいのか。自治体との連携のあり方も含めて話を聞いた。長編インタビュー後編。

「稼げるしくみ」が地域を変える──木下斉さんインタビュー(前編)

稼げるところと稼ぎにくいところを組み合わせるしくみ

──民間のプレーヤーとして地域に根づいた企業、もしくは全国各地にグループ拠点を置く企業がまちづくり事業に取り組もうとするとき、どのようなアライアンスの組み方、アクションプランが望ましいのでしょうか。

木下 まちが抱える課題を解決するソリューションを複数用意し、地域のメンバーの状況、タイミングなどを考慮して選択して投入することが大切だと考え、皆で取り組んでいます。逆説的ですが、地域の人や自治体が提供して欲しいというサービスをそのまま提供することが、まちの活性化にならないことが多々あります。個別相談形式で言われることをやっても意味はなく、一定の普遍性をもった形式で取り組まなくてはなりません。誰しも自分の地域は特別に閉鎖的だ、なんて思ったりしますが、どこの地域も閉鎖的でして、活性化に必要な事業やその事業の立ち上げのプロセスにはかなり普遍的なポイントがあります。だから地域の実情に沿う点も考慮しつつも、逆に地域側のメンバーも普遍的なプロセスを学び、そこに沿ってやらなくてはならない。

たとえるなら、手術が必要な人が「お腹が痛い。けど、手術はしたくない」という話をしていて、まぁその意見を尊重して、多くの地域活性化の場合にはひとまず強力な鎮痛剤を飲ませるわけですが、根治しません。一時的に痛みは緩和しますが、じわじわと病状は進行します。目先のことをいえば、強力な鎮痛剤のほうが簡単に政治的には票に、行政的には市民の支持に、民間にとってはビジネスになるので、そんな事態が繰り返されているわけです。

しかし本来であれば、手術もしなくてはならないし、むしろ日々の生活といったら何ですが、生活習慣から見直さなくてはならない場合も多いわけです。補助金・交付金を求めて事業をきめて、採算などは考えず、単年度で事業を自転車操業で回し続け、やることばかりが増加するけど収入増えず、結果として地元から若い世代はどんどんいなくなる。そんな日々のやり方自体を直さないと、治ったと思っても同じことがぶり返します。

我々が取り組んでいる地域とかでも、一時よくなっても、少し気を抜いてしまえば、うまくいかなくなることもあります。短期だけの話でなく、中長期的に必要な変化というものも着実に達成しなくてはなりません。
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下斉さん
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下斉さん
たとえば、自治体の要求を個別対応のフルオーダーで実施すればするほど、良い結果になりません。「人口減少だから若者を集めるキャンペーンをやってくれ」なんてことをやって10~20名が増加したところで、地元から年間100名以上が抜けていくなかでは焼け石の水でしかなく、やはり行政のやり方そのものを変えないと維持なんて出来なかったりするわけです。そのためには、人口減少のなかで公共資産を活用して新たな歳入をつくり出すとか、今まで行政がまったく考えてこなかったことを実行しなくてはなりません。そんな依頼は最初から受けてはいけないし、そんな事業自体を立案してもいけません。官民双方に緊張感が必要なのです。

また、地域の人が求める事業を代理で取り組んでも、まともな成果は生まれません。「地域のために新たなイベントがほしい」なんてことをいまだにいう人の意見をきいてイベント企画をやったところで、まちの抱える課題は何一つ解決しないどころか、むしろ悪化するわけです。イベントではなく、1軒の魅力的な飲食店をまちに誘致するために必要な努力は何か、有望な物件はどれか、不動産オーナーはどの程度の家賃であれば利益が出るのか、といったことを突き詰めた事業に取り組まなくてはならないのです。

けど、まちづくり分野の多くは、まちがったオーダーをする自治体や地元団体から「受託」して事業に取り組む取り組みが少なくありません。もちろん受託が100%悪とは言いませんが、問題なのは、症状や対応策を間違っている人がプロジェクトのオーナーシップを持つことです。結果、仕事としては間違ったことに取り組まなくてはならなくなります。さらに、行政予算をもらうと既得権益層はじめ各方面に配慮しなければならなくなり、当たり障りないものになってしまいます。

ですので、できるだけ予算などのしがらみが多数存在する財源に依存するのではなく、独自に稼ぐ商品・サービスをつくって、自分たちも各地の会社に出資したり、レベニューシェア方式で先行投資し、しっかりと当事者として関与して利益をあげて、さらに、その資金を地域内で再投資し続けて課題解決に向かって動いていくことが重要であると思って取り組んでいます。

つまり誰かに頼んだり、頼まれたりだけでは地域の事業なんてうまくいかない。だから当事者になり取り組む。だからこそ分かることが沢山あるのです。頼まれ仕事で得られることは限定的なのです。

──地域課題としては、たとえば高齢者福祉のように、受益者負担が難しく、稼ぐしくみをつくりにくいテーマもあると思うのですが……。

木下 そこはとても重要なポイントで、「稼げないところ」と「稼げるところ」を組み合わせるしくみづくりが必要なんです。

たとえばこんな例があります。路線バス、高齢者の足となるコミュニティーバス、子どもたちのスクールバス──どれも「人を運ぶバス」なのに、バスそれぞれに補助金が出て維持されている。

効率的に時間をやりくりして1本化すればバスの台数も減らせて、多少は運賃を取れる受益者から負担してもらえば、従来の予算の半額で済む、といったケースは地域にいくらでもあると思います。さらに、最近でいえばクロネコヤマトのような貨物運送とバスのような旅客輸送が合流するというパターンもありますね。組み合わせることによって、できることが増加するわけです。個別縦割りでバラバラにやるのではない知恵によって解決できる。

実は経営的には稼ぐことは、すなわち“使う”ことなのです。限られた資源を有効活用しサービスをつくり出すために効果的に使う。最小限の資源で最大限のサービスをつくり出すという知恵こそ経営なのです。

公民連携による地域活性化の手本として全国から注目を集めている岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」で取り組まれたオガールプラザが優れている理由はいくつかあります。
オガールプロジェクトは、都市と農村の新しい結びつきをつくりだそうと、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)というスキームを活用する
オガールプロジェクトは、都市と農村の新しい結びつきをつくりだそうと、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)というスキームを活用する
まずは民間がリスクを負い、入居テナントによって施設が維持できるようにテナント営業を行い、投資家や金融機関から資金を集めて公民合築施設を建設。民間が効率的に建てた施設の一部に公共施設が入っているのです。

同施設は図書館と産直市場や飲食店、学習塾、クリニックなどの民間施設が同居しています。紫波町役場は町有地の貸与による賃料収入と民間施設部分の固定資産税で図書館の運営費をまかなえるのです。

従来型、つまり図書館を指定管理者制度で民間に行政予算で委託して運営させ、見かけのコスト削減する従来のしくみとはまったく異なり、公共施設である図書館を、稼げる民間施設と一体化することで維持しています。まさに「公を助けて公に頼らず」ということです。

まちの経営は一部の儲け主義的な低レベルな話ではなく、むしろ資金的に恵まれない地域においても最小限の財で最大限の公共サービスを作り出すための方法論です。紫波町は財政が悪く、オガールプラザのようなモデルが開発されなければ、図書館を整備することはできませんでした。なんでも従来型の税金でつくり、税金で支えるしくみは、一見すれば極めて公共的に見えますが、財政が悪化している昨今の地方では「金持ちの自治体にはできるが、貧乏な自治体にはできない」という極めて残酷なしくみでもあります。

だからこそ、そのような歪んだ公共構造を突破するためにこそ、経営という技術は活用されるべきだと思って仲間と取り組んでいます。

──そうした公民連携を広げるには何を変えなければいけないですか。

木下 変えなくてはならないものは多数あります。我々は3つの壁と読んでいますが、「制度の壁」「事業の壁」そして「組織の壁」です。

たとえば、今までの開発では、役所が一緒に入る施設を民間主導で設計し、さらに資金調達することはほぼありませんでした。役所がコンサルタントを雇って計画し、設計も外注し、予算も行政が用意・支援するというのが基本でした。だからこそ失敗してきたとも言えます。これを公民連携にするというのは、民間に委ねなくてはなりません。そのためには3つの壁に構成されるさまざまな問題があります。

とはいえ、各地での取り組みによって問題はどんどん明らかになっており、解決すればいいだけの話です。そして解決した方法論については一定の普遍化、抽象化をして後発組が参考にできるようにしていくことはできます。

事例は真似ると失敗しますが、方法論や工夫は十分に参考にできるのです。

つまりオガールプラザを参考にするというのは、図書館と産直施設とかを一緒に建てるということではなく、行政がどのような契約を民間としたのか、事業をつくって必要資金をどのように調達したのか、さらに組織の人事とかはどうしていたのか、というあたりに注目すべきということです。

──紫波町では、見込めるテナント料では当初の計画だとなかなか採算が取れないことがわかったので、3階建てを2階建てに、鉄筋コンクリート造を木造に変えたそうですね。そうした変更も民間主導だからできた。

木下 そうですね。計画変更は間違いを認めたことになるので行政は嫌います。議会など含めてまたゼロから調整が必要になったりしますからね。ですので、50億円の公共施設が建築費高騰で70億円になると従来とは異なる建て方に変更し、50億円に収めるのではなく、むしろ20億円の追加予算を要求するのです。このような「変更しない」というやり方をそのままにして、「公民連携」をやってもうまくいかないわけですね。
公民連携プロフェッショナル・スクールは、1年間で公民連携の実務・経験を学ぶスクール。自治体職員はじめ、民間企業からも多くの人々が集う
公民連携プロフェッショナル・スクールは、1年間で公民連携の実務・経験を学ぶスクール。自治体職員はじめ、民間企業からも多くの人々が集う
実はやり方のスキームとかを見てもこういうディテールはわからない。ですので、我々はそのような方法論を研究し、実際に多くの地域に展開していくための「公民連携プロフェッショナル・スクール」という専門スクールを2015年からスタートしています。既に第一期、第二期が完了し、第三期生募集を開始しています。第一期生だけでも約30の公民連携事業が各地でスタートし、今後より成果も大きくなっていく手応えがあります。3年で100のプロジェクトを始めようというのが当初の目的で、本気のメンバーが集まり取り組んでいるので、それは十分達成でき、さらに内容面でも当初予想しないほどに多様かつ複雑な課題解決を達成できると感じています。

地域ビジネスは小さくはじめる

──いきなりオガールプロジェクトのような公民連携は難しいとしても、民間主導で小さくはじめることはできそうですね。

木下 身の丈に合った小さなビジネスからはじめればいいので、同じことをやる必要はありませんし、それは無理です。オガールも一朝一夕にできたわけではなく、プロジェクトマネジャーであり、公民連携事業機構を共に経営している岡崎正信さん(オガールベース株式会社 代表取締役)をはじめとして、多数の成功も失敗も経験してきたメンバーが関与して成立しているプロジェクトです。見よう見まねで簡単にはできるわけでもありませんし、同じようなことをやるべきでもありません。

岡崎さんもオガールの前には盛岡市内で不動産オーナーと物件再生のプロジェクトに携わっていました。その他のチームも金融のプロ、建設プロジェクト管理のプロ、デザインのプロといった人たちが過去の知見を積み上げて、結果としてできているものなのです。

つまりそのような人たちも最初からあのようなケースができるわけではなく、小さなことを積み上げて経験しながら可能になったのです。だからまずは小さくとも自分で考え、取り組んでみるというのが入り口ですよね。

地域がよりよくなる事業を構想し、100万でもいいから稼ぎを地域に残せるような事業を実践してみる。まずはやってみるというのが、いずれ大きなプロジェクトに通じているものと思っています。

前編で語ったように、私も9割以上は失敗しつつ、そこから学んでこのように偉そうに話をさせて頂いているだけで、別にそれは僕なりの経験と知識のなかで語っているだけですからね(笑) だからよく「そういうやり方だけではない」みたいなご意見も頂戴するのですが、それはまさしくその通りです。ただ、何事もあれもこれも、なんて整理をしていると何の話かわからなくなりますが、それぞれのやり方をちゃんと徹底し、整理し、ブラッシュアップしていくことが大切なのだと思います。プロ野球選手だってバットの振り方一つ、ボールの投げ方一つ違うように、地域での事業の取り組み方も多様です。1つの正解なんてものはないのが当たり前なのです。

──そうすると、とりあえずつくってみよう、ということになりますね。

木下 とりあえずやってみよう、でなければいけません。とはいえ、闇雲にダラダラとやり続ければ成果がでるなんてこともありませんので、やってみてダメだったら撤退する。撤退の見極めのタイミングも大切です。ぼくらの事業でも営業して見込みがなく、撤退したのは思い出せないほどです。
地域プロジェクトも経営と一緒。小さくはじめて、早いスピードで改善をしていくことが必要だと木下さんは話す
地域プロジェクトも経営と一緒。小さくはじめて、早いスピードで改善をしていくことが必要だと木下さんは話す
めどは3カ月。3カ月やって小さくとも動かないものは動きません。いきなり大きな成果は不可能ですが、小さな動きをつくることは十分にできます。

──小さくはじめるわけですから3カ月くらいでわかるんですね。

木下 そうです。たとえば、ここで損切りすれば30万円くらいの損失で済むからやめよう、と決断します。そんなもんでもよいのです。

3カ月なら1年に4打席くらい立てますが、1年に1打席だと、この1球を外してはならないという緊張のあまり外してしまう確率も高いと思うんですね。そうすると構えて「とりあえずやってみよう」にはならない。

地元や、特に言い出しっぺの人は周囲の期待やプレッシャーで、なかなか自分からやめると言い出せないところもあるので、最初に「やめる原則」を決めておくとか、僕らのような地元ではないメンバーが撤退を促すなども必要だったりします。

まずは小さくとも「稼ぐ」取り組みをはじめよう

木下 これまでのように予算依存型のまちづくりから脱して、「稼ぐ」ための事業を増加させていくためには、まずは過去の予算型事業を少しやめてみることです。

今、取り組みの9割が補助金関係とかであれば、それを7割に落とす。そのためにはまずは2割の事業を獲得しにいくのをやめる。んでもって、2割分をどうにかこうにか知恵をだして独自の事業を通じて稼ぎ出すようにする。

やれるようになったらやろう、ではなく、やるからこそできるようになります。
自転車にのれるようになったら乗ろうではなく、自転車に転びつつも乗る練習をするから乗れるようになるわけです。自転車の乗り方マニュアルとか読んでも乗れるようにはなりません(笑)。 ですので、まずは状況から追い込んで「やらなくてはならないように」しなくてはなりません。

多くの場合、試験勉強も一夜漬けというのは翌日に試験があるという状況に追い込まれるからやるのであって、1カ月後の試験のために計画たてて、自分を追い込める人は多くありません。

まずはやらなくてはならない状況に身を置く。稼げたらいいな、ではなく、稼げなくてはならない、という状況にたったときに人間は知恵が生まれます。

高校時代、早稲田商店会でいつも言われました。「カネがないから知恵が出る。カネがあると知恵が引っ込む」。まずは従来型の予算型まちづくりを少しずつ辞め、その辞めたリソースを、地域で自立した事業ができるように知恵を絞るための実践に投じてもらえればと思います。

そういう積み上げが将来の地域を大きく変えていくのだと信じ、地域での事業をつくり、その方法論を体系化していくことに取り組んでいます。

──ありがとうございました。

「稼げるしくみ」が地域を変える──木下斉さんインタビュー(前編)

【関連リンク】
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
東洋経済新報社「地方創生大全」
NHK出版「稼ぐまちが地方を変える-誰も言わなかった10の鉄則-」

木下 斉さん

木下 斉(きのした・ひとし)

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事


高校時代より早稲田商店街の活性化事業に参画し、2000年に全国商店街の共同出資会社である株式会社商店街ネットワークを設立、初代社長に就任。その後、研究所研究員などを経て、熊本城東マネジメント株式会社 代表取締役や一般社団法人まちづくり役場とくしま理事等のまちづくり会社の設立に従事。2010年、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。現在は、全国各地の不動産オーナーたちによる共同出資会社への資本参画、役員としての経営のほか、全国各地の情報をもとにした「エリア・イノベーション・レビュー」などの情報発信事業なども行う。近年では公民連携事業機構を設立し、自治体の保有資産を稼げるように転換し、公共サービスの充実を目指した事業も各地で展開している。


著書に東洋経済新報社「地方創生大全」、NHK出版「稼ぐまちが地方を変える-誰も言わなかった10の鉄則-」、学芸出版「まちで闘う方法論」、学陽書房「まちづくりの経営力養成講座」、日経BP「まちづくり:デッドライン」など、地域活性に関する書籍が多数ある。


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