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【イベントレポート】クオリティオブ“ライフタイム”で考える──ひと中心のヘルスケアイノベーションのヒントはどこにある?

2017年02月07日



【イベントレポート】クオリティオブ“ライフタイム”で考える──ひと中心のヘルスケアイノベーションのヒントはどこにある? | あしたのコミュニティーラボ
ユーザー視点で新しいヘルスケアビジネスを生むためのヒントはどこにあるのでしょうか。2016年12月20日、東京・六本木のHAB-YU Platformで、ヘルスケアビジネスをテーマにしたイベントが開催されました。今回は、一般的に医療や健康という文脈でとらえられがちな「ヘルスケア」を「生活のQOLを向上させるアプローチ」と位置づけ、子育てシェア、女性のキャリア支援、予防歯科など幅広いテーマを題材に、「自分自身の生活を、中長期、生涯にわたって豊かにするにはどんなアプローチが可能なのか」を参加者が共に考えました。

医療専門職と一般の人々の間をつなぐ「橋」になる

まず口火を切ったのはモデレーターを務める一般社団法人My Wellness代表理事でNPO法人ミラツク執行役員の島村実希さんです。
企業の技術と医療従事者のアイデアをどうつなげるか、ヘルスケアイノベーションのための試行錯誤を紹介する一般社団法人My Wellness・ NPO法人ミラツクの島村実希さん
企業の技術と医療従事者のアイデアをどうつなげるか、ヘルスケアイノベーションのための試行錯誤を紹介する一般社団法人My Wellness・ NPO法人ミラツクの島村実希さん
大学で看護師と保健師の免許を取得した島村さんは、病院実習で患者と接するうち医療現場の改革の道に進もうと決意し、経営コンサルティング会社に就職。現在は対話を中心としたイノベーション加速を推進するNPO法人ミラツクで、執行役員を務めています。企業や自治体と連携し、オープンイノベーションによる事業創出などに関わる一方、ヘルスケア領域でのイノベーションを志向するプラットフォームづくりにも取り組む島村さん。

ヘルスケア領域でのイノベーションには、医療・福祉の専門職と一般の人々をつなぐ橋渡しと、双方の言葉を通訳するスキルが重要だと説きます。島村さん自身もその橋渡し役となり、現在はプロトタイプづくりなどに参加。自治体で実証実験を実施したり、活動を発展させ「心身が元気に、喜ぶ」ための学びや環境づくりをサポートする一般社団法人My Wellnessを立ち上げたりと、精力的な活動を行っています。

身近な人々の悩みを“知人間共助”というインフラに昇華させる

子育てシェアプラットフォーム「AsMama」を運営する甲田恵子さんは、自身のライフステージの変化が現在の仕事につながっていると話します。

企業の広報・IR担当として第1線で活躍していた2009年、リーマンショックのあおりを受け、退職を余儀なくされた甲田さん。他社からの誘いもありましたが、また会社勤めで育児と仕事の板挟みに苦労するより「自分の人生は自分でコントロールしたい」と職業訓練校に通いました。

そこで出会ったのは、出産育児や夫の転勤、親の介護などの事情で会社を辞めざるをえなかった女性たちでした。ライフステージの転換期に、適切なサポートがあれば仕事を続けられたのに。公共サービスは柔軟性に欠けるが、民間サービスは高価で質のばらつきが激しい、などの悩みを聞いた甲田さんは、子育て観が一致し安全・安心が確保できる気心の知れた人同士が頼り合えれば、子育てをシェアできるのではないかと気づきました。そのためのプラットフォームとして8年前に設立したのが株式会社AsMamaです。
子育てに限らず、介護や生活支援など、知人間共助プラットフォームをリアルとネットで広めていきたいと話すAsMama甲田恵子さん
子育てに限らず、介護や生活支援など、知人間共助プラットフォームをリアルとネットで広めていきたいと話すAsMama甲田恵子さん
友人・知人と一緒に登録したうえで、送迎・託児のお願いを発信すると、都合のつく人からOKの返事がもらえ、1回500~700円のお礼ルールで子育てのヘルプを依頼することが可能。損害保険会社とも提携し、万一の事故には保険が適用されます。口コミで広がった登録者数は現在約4万人。解決案件数は約1万件で、解決率84%を達成しています。

「“共助”を創出したくてはじめた事業」という甲田さん。そのコンセプトを元に、高齢者向け寄り合いサービスもスタートしました。子育てシェアで実現させた“知人間共助”の“ネット+リアル”のインフラを、海外にも普及させたいと意気込みます。

“ケア&シェア”が両立する、女性の働きやすい社会へ

小安美和さんは、大企業の第1線でメディア事業や人材事業などの責任者を歴任。2015年からは所属していたリクルート社のオープンイノベーションプロジェクト、「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る『iction!』」の推進事務局長を務め、社内外の人々と連携し活動の輪を広げていきました。

その後、2016年9月に独立。働くことを通じて女性が自立的に人生を生き、「こうありたい」(Will)を実現するための支援やしくみを提供しようと設立したのが「Will Lab」です。それまで築いてきたキャリアを、出産育児などで放棄せずにすむ社会をつくりたい。後悔しない人生を送れる女性が多い国にしたい。それが小安さんの願いです。

小安さんは、自身の経験を交えながら「キャリア」と「ヘルスケア」の切っても切れない関係についてプレゼンテーションを行いました。
自身の体験談を赤裸々に紹介しながら、女性のキャリア形成・キャリア支援のためのヒントを紹介してくれたWill lab 小安美和さん
自身の体験談を赤裸々に紹介しながら、女性のキャリア形成・キャリア支援のためのヒントを紹介してくれたWill lab 小安美和さん
人生100年時代と言われるなか、ライフプラン・キャリアをどう考えるか。「女性は5年後、10年後のキャリアを聞かれると答えられない」と言います。それを考えるヒントは「本当は何がしたいのか」を突き詰めて考えることからキャリアを捉え直してみることであり、働く女性の支援にはこうした中長期的な視点が不可欠、と小安さんは力説しました。

さらに、女性の場合、ヘルスケアに関わる課題が重くなることが多く、小安さん自身も、健康上の理由や親の介護など問題が耐えることがなく、自身も執行役員まで務めた21年間の企業人生活中も課題は山積み。辞めたいと思ったことは数知れないと言います。さらに、役員を務めていたとしても、その悩みはパーソナルな問題で、自分が乗り越えなければならないことだと、社内ではずっと口にできないままでした。

転換点は退職する1年前、メンバーを前にはじめて悩みを告白したこと。隠れていた課題を見える化し、その解決策を事業化することで女性の働きやすい環境が生まれてほしかったからというその告白も、今のWill Labの事業につながっています。

小安さんはWill Labの活動を通じ、女性のライフサイクルのなかでどの時期にどんな健康上の課題が生じやすいかといった啓発活動にも力を入れ、たとえ病気にかかったとしても周囲の理解を得て働きながら通院・入院・治療できる “ケア&シェア”の両立した社会の実現を目指したいと締めくくりました。

大企業が支援する、生活者の「歯」の健康

富士通ヘルスケアシステム事業本部の未来医療ビジネスセンターで「パーソナル・ヘルス・レコード」(PHR)という新たなビジネスモデルの構築に挑んでいるのが武久文之さん。現在、幼少期から晩年までのすべてのライフステージにおいて、個人の健康・医療に関するあらゆる情報は病院や行政単位ごとに分断されています。これらをすべてつなぎ、個人の手元に還元することでヘルスケアへの意識を高め、健康長寿社会の実現を目指すのがPHRの目的です。

予防歯科の世界的権威、山形県酒田市・日吉歯科診療所の熊谷崇理事長との出会いが武久さんを動かしました。熊谷氏は生涯にわたりむし歯や歯周病にならないよう予防することが歯科医の本来の責務だとして、メンテナンス重視の予防歯科に自由診療で取り組んでいます。
予防医療のなかでも、先進的な取り組みが行われている「予防歯科」の概念を広めるために、日夜活動する富士通の武久文之さん
予防医療のなかでも、先進的な取り組みが行われている「予防歯科」の概念を広めるために、日夜活動する富士通の武久文之さん
国が掲げる目標は「80歳で20本の歯を残す」こと。しかし本来なら80歳で28本すべての歯が残っていて当然。毎日のセルフケアと定期的なメンテナンスを続ければ、それは十分に可能だと言うのです。

治療とメンテナンスの経過観察の結果をエビデンスデータとしてクラウド上に残し、熊谷先生の方針に共鳴して予防歯科に取り組む全国600の診療所間で共有・分析すれば、いつでもどこでも個々の患者に応じたベストな診断・治療・予防ができます。

「一生、自分の歯で過ごせる幸福の実現」という理念を共有する企業とも連携し、患者、歯科などステークホルダーの予防歯科に対するモチベーション向上につながるビジネスモデルの構築を武久さんは探っています。「健康経営」の波が、大企業中心に盛り上がるなか、どのような展開が見えるのか、期待がかかります。

真のニーズを捉えた価値の提供には必ず結果が伴う

続くトークセッションでは、モデレーターの島村さんが3人のゲストスピーカーに質問を投げ掛けます。「気づきを実行に移したパワーの源泉は?」との問いに対して甲田さんは「キャリアにしがみつくか、家庭に閉じこもるか。二者択一しかない現状を打破し、自分の人生を自分でコントロールする親の姿を見て育つ子どもであってほしい。その思いが原動力」と語りました。
女性の参加者からは、「自らのキャリアを振り返る機会になった」など、ポジティブなメッセージが数多く聞かれました
女性の参加者からは、「自らのキャリアを振り返る機会になった」など、ポジティブなメッセージが数多く聞かれました
「本当は何がしたいのかから逆算して10年先のキャリアを考えるべき」と述べた小安さんに「本当にやりたいことを見つける方法は?」と島村さんが尋ねます。小安さんは「子どもの頃から振り返って、見たくない言いたくない、押し殺していた過去を書いてみる“1人合宿”」をすすめます。自分自身に深く向き合えば、おのずとやりたいことが浮かび上がってくるというわけです。

企業人が社内でヘルスケアのような社会課題をビジネスで解決する際に直面する困難をどう乗り切ればよいのでしょう。武久さんは「“共通善”には仲間が集いやすい。社会的に崇高な価値、多くの人が共感できるビジョンに取り組めば必ず結果がついてくる」と信じて取り組んでいます。

甲田さんも「ユーザーと対話してニーズを確証し、トライ&エラーを経て本当に価値あるものを提供すれば必ずリターンがある」と強調しました。小安さんのアドバイスは「武久さんの場合の熊谷先生のように、外部の凄い人材と組む。そしてどんなに小さくてもいいから成功事例の実績を1個つくる」ことです。

生活の質向上には「働き方改革」が必要不可欠?

最後は参加者を交えて質疑応答が展開されました。

Q「働きたいけど自分には無理かもと思っている女性の背中を押すには?」
小安「育児中の女性はブランクが長いほど仕事に戻りにくい。セミナーでは働いた場合の収入差を示すなど、具体的なメリットを提示すること。すると、意欲が湧いてくる」
甲田「いまいま困っている実感がない人には危機感がない。人生にはどんなアクシデントが起こるかわからないことと、家計を支えるためのリスクヘッジに女性がなれることの意義を説く」

Q「育児中の父親グループに求めることは?」
甲田・小安「家事を本当に分担しているか、ゴミ出し程度だけで自己満足し“名ばかり育メン”になっていないか、いちど振り返ってほしい」
甲田さん・小安さんの女性に向けた力強いメッセージに、会場内から多くの共感の声が聞かれました
甲田さん・小安さんの女性に向けた力強いメッセージに、会場内から多くの共感の声が聞かれました
Q「ヘルスケアがキャリア形成のストッパーになって守りに入るのでは?」
武久「とことん働かなければならない時期も長い人生にはある。一回でも頑張った経験のある人は次も頑張れるから強い。自分の限界もわかる」
島村「他人から強制されるのではなく、自分のやりたいことなら全力で走れる」

Q「社内で女性が言い出しやすい環境にするためのプチメソッドは?」
小安「帰宅後のワーキングマザーがどんな生活をしているのか、ムービーを撮影してもらい、男性管理職にシェアするといい。カギは自分と違うセグメントの人生をどこまできちんと理解できるか」
甲田「上司にはプライバシーを話しにくい。育児や介護などで同じ苦労をしている女性同士の会話を上司が黙って聞く機会を。本音はそこにしか見えない」

あらゆるライフステージで“生活の質”を考えると、ヘルスケアというテーマは、自分自身の健康のみならず、育児や介護といった社会課題を通じて浮き彫りになる“働き方”にも密接に関わることがわかった2時間半でした。
お子さんとともにAsMamaのTシャツを着用し登壇した甲田さんを中心に、登壇者の皆さんで集合写真
お子さんとともにAsMamaのTシャツを着用し登壇した甲田さんを中心に、登壇者の皆さんで集合写真
「キャリア・ライフ・マネーの3セットで中長期的なプランニング支援に取り組んできましたが、長寿社会で働き続けるためにはヘルスケアマネジメントのプランニングも大切だと思いました」という小安さんの振り返りが印象的です。

最後はお子さん同伴で登壇した甲田さん。「AsMamaでは、小学生以上なら子連れで働くことも推奨しています。生き生きと働く親の姿を見ることが子どもにとって将来の働く道標になるからです。そういう環境をみんなで応援すれば、男女問わず働きやすい、生きやすい社会への一歩を踏み出せます」という実践的で力強い言葉に行動へのきっかけをもらった参加者も多いことでしょう。


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