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おちょこがまちの資源を掘り起こす?――会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(前編)

2017年03月10日



おちょこがまちの資源を掘り起こす?――会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(前編) | あしたのコミュニティーラボ
公共交通であるバスで観光資源を巡り、新たな地域の楽しさを提案する取り組みが、福島県会津若松市でスタートした。会津塗りのおちょこが、市内巡回バスのフリー切符になって各種の特典も受けられる「おちょこパス」だ。このアイデアは学生のゼミ活動から生まれ、多くの民間企業や地域の人々が協力し成立した。

「公共交通を使って“お出かけ”の機会を増やすこと」を通じ、まちを元気にしようと実践的な研究を進める福島大学の吉田樹准教授。そのゼミ生の取り組みと、新たなサービス創出に取り組む民間企業、地域のタッグの様子から、地域資源を活かしたサービスを生むためのヒントを探った。前後編でお届けする。

おちょことデータで広げる地域観光の未来形って? ――会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(後編)

おちょこを乗車券代わりに市内をバスで周遊

お酒を楽しむ「おちょこ」がバスの乗車券代わりになる。福島県会津若松市で「おちょこパス」というユニークな市内周遊の観光事業が2017年1月21日からスタートし、今回取材班は販売開始当日に行われたモニターツアーに参加した。

利用者はまず、会津若松駅前のバス案内所で会津塗りおちょこと会津木綿の巾着のセットを2,000円で購入。これが市内巡回バス「ハイカラさん」「あかべえ」の1日フリー乗車券「おちょこパス」になる。巾着におちょこを入れ、首からぶら下げられるようになっており、23の協賛店舗・施設で「おちょこパス」を見せれば、料金割引やプレゼントなどの特典を受けることができる。

会津若松駅前から出発するまちなか周遊バス
会津若松駅前から出発するまちなか周遊バス

「ハイカラさん」「あかべえ」は、カフェや飲食店、土産物店が建ち並ぶ七日町エリアと、天守閣や庭園の観光スポットがある鶴ヶ城エリアを巡回している。「おちょこパス」モニターツアーに参加した小泉昭一さん、高橋潤さん(共に八戸市都市整備部都市政策課に所属)は七日町エリアの2軒の老舗を訪ね、末廣酒造で酒蔵見学と試飲を楽しみ、渋川問屋で郷土料理に舌鼓を打った。

「おちょこの乗車券は、お土産として旅の思い出にもなって、いいアイデアですね。普通のフリー乗車券が500円だから2,000円はちょっと高いかなと思ったのですが、末廣酒造で売っていた同じようなおちょこと巾着の値段を見て納得しました」(小泉さん)。「巡回バスで東山温泉にも行けるんですよね。宿泊すれば腰を据えてゆったり観光できます。クルマで通り過ぎるのではなく公共交通に委ねてまち歩きしてみると、新たな発見を楽しめそうです」(高橋さん)。

市内の有名酒蔵・末廣酒造で「おちょこパス」を使い、日本酒を試飲
市内の有名酒蔵・末廣酒造で「おちょこパス」を使い、日本酒を試飲

実はこの「おちょこパス」、バス会社の単なる企画商品の1つではない。アイデアを考えたのは学生なのだ。地域交通政策を研究する福島大学の吉田樹准教授のゼミ生が創案・企画し、会津乗合自動車株式会社(以下、会津バス)に提案して実現した。

その過程では、「あしたのコミュニティーラボ」でもその様子を紹介した「酒蔵アイデアソン」(2015年2月)を経て、富士通ネットワークソリューションズ株式会社(以下、FNETS)も「おちょこパス」と連動したアプリ「東北桜旅・酒蔵旅ナビ」で協力している。学生が主体で動き、地域と企業がサポートして実現にこぎつけた。

“お出かけゼミ”の実践からはじまったプロジェクト

福島大学の吉田ゼミでは、「地方の暮らしの足である『公共交通』を使って、どうやって“お出かけ”の機会を増やし、地域に住んでいる人たちを元気にしていくか」(吉田先生)を研究テーマにしている。まず実践ありきで、そこから理論に展開していくのが研究方法の主眼なので、学生がさまざまな地域に入り込んで活動することが多く、吉田ゼミ自体が学生の間では“お出かけゼミ”と呼ばれて人気が高い。「おちょこパス」も、そうした研究活動の一環だ。

2013年から始まった福島ディスティネーションキャンペーンの時期と重ねて、吉田ゼミでは福島の観光課題「温泉に宿泊するだけで帰ってしまう観光客をいかにまちへ引き込むか」に挑んでいる。

すでに学生のアイデアが1つ形になっている。福島駅と飯坂温泉駅を結ぶ福島交通飯坂線と連携した「飯坂今昔散歩」だ。飯坂線の2日間有効フリー切符と、飯坂温泉エリアの昔の写真が載った“未完成アルバム”がセットになっていて、観光客はまち歩きを楽しみながら写真を撮り、昔の写真と比べてアルバムを完成させるという、体験型の乗車券になっている。

モニターツアー参加者におちょこパスの使い方を説明する福島大学・吉田樹先生
モニターツアー参加者におちょこパスの使い方を説明する福島大学・吉田樹先生

その第2弾が会津若松市をフィールドに選んだ「おちょこパス」だ。三十数名のゼミ生が4~5人のチームに分かれてアイデアを出し合い、ディスカッションを重ね、最終的におちょこのアイデアに集約した。そのアイデアの源泉は、今は卒業して仙台市職員になった日本酒好きの当時のゼミ生が、会津の酒蔵を試飲して回ったとき「器が味気ない」と感じたことがきっかけ。チームで議論し「会津ならではの漆器と組み合わせられないか……どうせまちを回るならば、漆のおちょこをバスの乗車券にも器にもしてしまえば?」というアイデアに行き着いた。

「わかりやすいところが良かった。わかりやすい提案でないと企業に受け容れていただけないし、お客さんにも使っていただけないですから」と吉田先生は話す。

店舗・施設への協賛依頼は学生が現地に足を運んで

事業主体となる会津バスとの調整では吉田先生もバックアップしたが、アイデアを形にする生みの苦しみは主に学生自らが味わった。「手頃な価格で、なおかつさっと拭えば水滴が取れる撥水加工の漆塗りおちょこに決めたり、運ぶために首からぶら下げる会津木綿の巾着袋に行き着くまでにもいろいろと紆余曲折がありました」(日下瑞希さん、3年生)。とりわけ苦労したのは、協賛(おちょこパスを提示した来客に対する料金割引やプレゼントなどの特典提供)を店舗・施設へ依頼する“営業”だった。学生にとってははじめての経験だ。

ゼミ長の鈴木千春さん(3年生)は「メールや電話ではなかなか連絡が付かなかったり、細部で行き違いが生じて共有や連携が難しかったり……。大学から会津若松まで高速バスで1時間かかるのですが、はじめから足を運んでお会いしたほうが早いことも。何かやろうとしたときには合意形成に時間がかかることを学びました」と話している。

(写真右から)モニターツアーで参加者の反応やアプリの利用方法を確かめた吉田先生と、吉田ゼミ所属の日下瑞希さん、鈴木千春さん、FNETSの角本智仁さん
(写真右から)モニターツアーで参加者の反応やアプリの利用方法を確かめた吉田先生と、吉田ゼミ所属の日下瑞希さん、鈴木千春さん、FNETSの角本智仁さん

“マイおちょこ”で試飲できることが企画の目玉でもあるため、市内の酒蔵に何軒か協賛を依頼したが、小さな酒蔵だと、年中無休で運行している市内巡回バスで訪れる個人客の見学や試飲に対応するのは難しいという背景もあった。サービス開始タイミングで協賛に加わったのは、末廣酒造だ。その他に、飲食や観光、土産物などバラエティに富む協賛が集まっている。候補に挙げた店舗・施設40軒のうち、協賛に応じたのは23軒。学生が地域のために活動していることを意気に感じ「おちょこパス」のアイデアに共鳴した店舗が多かったようだ。

会津塗のおちょこという、歴史のあるまちの資源が、地域のバスと組み合わさり、新たな価値を生んでいる。学生の強い思いと行動力がその実現を下支えしたのは間違いない事実だ。

後編では、学生の企画提案を受け容れ事業化した会津バスと、ナビアプリで協力した富士通ネットワークソリューションズの取り組みに触れ、「おちょこパス」をどのように育てて地域資源をつなぎ、まちを元気にするのか探る。

おちょことデータで広げる地域観光の未来形って? ――会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(後編)へ続く


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