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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

おちょこがまちの資源を掘り起こす?──会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(前編)

シンプルで、斬新な「お酒×バス」というアイデア

公共交通政策を専門としていることから、もともと会津乗合自動車株式会社(以下、会津バス)と交流のあった吉田樹福島大学准教授は2015年、ゼミ生が考案してまとめた「おちょこパス」の企画を同社に提案した。商品化を検討したのがバス事業部の大塚泰知さん。

企画を知って「おちょこが乗車券になるというのは、お酒のイメージからできるだけ遠ざからなければならないバス会社では、絶対に生まれない発想です。まず、その斬新さに驚きました。もし本当に実現できれば、今まで聞いたことのない企画なので、それ自体が目玉になる」と思ったという。

大塚さんは、その企画を持って2016年2月に仙台の東北経済産業局で開催された、東北・夢の桜街道推進協議会とあしたのコミュニティーラボ主催の「酒蔵アイデアソン」に参加した。

酒蔵アイデアソンは、“東北の酒蔵を入口にインバウンドを増やそう”をコンセプトに行われたアイデアソン。大塚さんは、自身がいくつか出したフラッシュアイデアのなかに「おちょこパス」のコアである酒器を持って酒蔵を巡るというアイデアも入れた。すると多くの参加者の支持が集まり「おちょこパス」のチームができた。図らずも企画としてのインパクトが実証された恰好になる。

会津バス 大塚泰知さんは「いろいろな人に意見を聞いてみよう」と、アイデアソンにおちょこのパスを持ち込んだという
会津バス 大塚泰知さんは「いろいろな人に意見を聞いてみよう」と、アイデアソンにおちょこのパスを持ち込んだという

おちょこパス利用者への優待特典という形で店舗・施設の協賛を取り付けるのが、商品化のために越えなければいけないハードル。そこは前編で触れた通り、学生たちが汗を流した。巡回バスを基軸に観光を活気づけたい。その純粋な熱意と斬新なアイデアが店舗・施設を動かしたのと合わせて、公共交通の事業者として、地域と密接な関係にある会津バスの根回しが後押ししたのも事実だ。

大塚さんから引き継ぎ、学生をサポートしながら商品化に動いたバス・タクシー事業部の渡部秀一さんは「巡回バスのルートである七日町通りのまちなみ協議会会長、渋川恵男(ともお)さんにお声がけして、おちょこパスへの協賛をお願いしました。ご許可いただいた上で学生さんたちが各店舗・施設へ交渉に出向きました」と振り返る。

大塚さんの思いを引き継ぎ、サービスを立ち上げた会津バス 渡部秀一さん
大塚さんの思いを引き継ぎ、サービスを立ち上げた会津バス 渡部秀一さん

海産物問屋を改装した料亭旅館「渋川問屋」の代表取締役である渋川さんは、かつて“シャッター商店街”だった七日町通りを会津若松きっての観光スポットへと再生した立役者の1人。地域のキーマンを中心に、徐々に協力の輪は広がっていった。

地方の路線バスは、自動車を運転しなくなった高齢者の交通手段として欠かすことができず、会津若松でも多くのバスが走っている。だが、少子化で通学需要が減り、多くの地域で利用者は右肩下がりの傾向にある。会津バスも例外ではないが「観光地でもあるので、観光需要を創出してバス利用につなげたい」とバス事業部執行役員の会沢直好さんは打開策を練る。

「おちょこパス」もそうした取り組みの一環にほかならない。「高速バスが新潟、仙台、いわき、郡山、成田、東京から出ていますから、車内で宣伝したり、高速バスの乗車券とセットにもできます」とPRに力を入れるつもりだ。

会津バス 執行役員の会沢直好さんは、さまざまな地域資源を持つ会津若松を、公共交通を活用して盛り上げていきたいと今後の意気込みを語る(写真左)
会津バス 執行役員の会沢直好さんは、さまざまな地域資源を持つ会津若松を、公共交通を活用して盛り上げていきたいと今後の意気込みを語る(写真左)

「バスの最たる利用者である学生さんの考えたアイデアであるところが貴重。地域の店舗や施設の協力も得られたし、今後いろんな意味で地域を盛り上げる可能性がある取り組みだと思う」と会沢さんは「おちょこパス」に期待をかける。

学生が発案し、漆器と巾着の調達に関し市役所の支援も得ながら具現化に動き、地域の店舗と施設が協賛して、バス会社が商品化した「おちょこパス」は、市民・行政・企業が連携して地域を盛り上げる共創プロジェクトの好例でもあるだろう。

アプリで利用者のログを分析し活性化に役立てる

「おちょこパス」は、単におちょこを使って地域活性をしようという話以上に、データによって地域を盛り上げる新たな取り組みの一端も担っている。そこに関わるのが「スマートフォンアプリ」だ。

先に触れた「酒蔵アイデアソン」に富士通ネットワークソリューションズ株式会社(以下、FNETS)地域活性化ビジネス企画部の角本智仁さんも参加しており、偶然、会津バスの大塚さんをリーダーとする「おちょこパス」のチームメンバーだった。

「アイデアソンやおちょこパスのことはすっかり忘れてしまっていた頃に、福島大学の吉田樹先生からバスと観光を組み合わせたサービスをベースに人の交流度合いなどをデータ化し、それを分析できないかと相談がありました。お話を聞いてみるとおちょこパスの話だとわかり、弊社のアセットを活用しながら実現できないかと模索するなかで、今回の連携がはじまりました」と角本さんは経緯を振り返る。

モニターツアーで参加者にアプリの使い方を説明する富士通ネットワークソリューションズ株式会社 地域活性化ビジネス企画部の角本智仁さん
モニターツアーで参加者にアプリの使い方を説明する富士通ネットワークソリューションズ株式会社 地域活性化ビジネス企画部の角本智仁さん

吉田先生の意図は、スマートフォンのナビゲーションアプリの利用データをもとに、「おちょこパス」利用者のまち歩きでの傾向を把握し、行動分析に活用し、新たな施策につなげること。

「ナビゲーションアプリを利用することで、アプリをどこで立ち上げたかやその閲覧数など、個人情報を含まないログデータから、利用者の行動や興味・関心の動向を分析できるわけです。まだ、おちょこパスはサービス提供数は多くありませんが、バスや電車といった公共交通の企画乗車券はさまざまな種類があります。将来、さまざまなプロジェクト共通のプラットフォームで動くアプリができれば、さらに大きなデータ量になります。それらを分析し、人の交流やお出かけの機会をつくり出すことができるかもしれないと考えています。」(吉田先生)。

東北に広く点在する桜の名所や酒蔵めぐりの旅を通じ、交流人口の増加をめざす官民連携の「東北・夢の桜街道推進協議会」。協議会が提供する観光ナビゲーション「東北桜旅・酒蔵旅ナビ」のスマホアプリで協力している角本さんは、「おちょこパス」との連携コンテンツもこのシステムに載せることにした。

「データ分析には一定の母数を集める必要があります。その為には、おちょこパスの利用者が伸びて、なおかつアプリをダウンロードして使ってもらうことが必須です。今はまだ出来ていませんが、今後は店舗の情報を提供するだけでなく、現地で使う価値のあるコンテンツを充実させる等の工夫が欠かせないと考えています。具体的には、学生さんの取材記やおすすめメニューを入れるなどの改良を検討しています。データ分析をすることで、たとえば、利用者がどんなタイミングでバスの情報が欲しいのか、あるいは、どんな情報を求めているかなども見えてくると思います。アプリを通じてデータ分析を継続的に支援することで、“お出かけ機会”の創出に貢献していきたい」と話す。

「おちょこパス」は2017年1月21日のモニターツアーを皮切りにサービスが展開されている。前編で紹介したように、参加者の評判は上々だ。吉田先生は「協賛店の皆さんがおちょこパスを見て対応していただけるか」気をもんでいた。実際、サービス開始2週間前にメールで告知したが返信はまばら。だが蓋を開けてみると笑顔で利用者を歓迎してくれた。吉田先生も「ホッとひと安心」と胸をなで下ろす一方、モニターツアー中にもすでに改善ポイントがたくさん見つかったという。

吉田先生は「モニターツアーをしただけでも多くの課題がわかったので、どんどん改善していきたいと思っています。それと同時に、地元産品の売上が伸びるといった直接的な効果と、まちをめぐる機会をどれだけ創出したかという間接的な効果を量的に検証したい。合わせて、リピーターを増やすためのバージョンアップの仕掛けも必要です。会津バスさんと連携しながらゼミとして引き続き関わり、活動の輪を広げ育て上げたい」と意欲を燃やす。

モニターツアーで参加者を案内した吉田ゼミのゼミ生。もっとオリジナルのまちめぐりコースを増やしていきたいと話してくれた。(左から)大槻梨紗さん、吉田悦子さん、菊池真純さん、日下瑞希さん
モニターツアーで参加者を案内した吉田ゼミのゼミ生。もっとオリジナルのまちめぐりコースを増やしていきたいと話してくれた。(左から)大槻梨紗さん、吉田悦子さん、菊池真純さん、日下瑞希さん

おちょこを入れた木綿の巾着袋を首からぶら下げていても、軽くてちっとも邪魔にならない。それが目印になって、街角で互いに出会うと会話が弾むことも。「おちょこパス」はコミュニケーションツールとしても使えそう。今回のモニターツアーに参加した人の多くはそんな感想を抱いたにちがいない。

バスという身近な公共交通を基軸に、まちの観光資源をつないで“お出かけ機会”の創出を図る「おちょこパス」、会津若松の新たな名物となりそうだ。

おちょこがまちの資源を掘り起こす?──
会津若松発、おちょこパスが生まれるまで(前編)


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