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【座談会】福祉を超え、「日常」を伝える場づくりとは──「超福祉展2016」の展示から考える(前編)

2017年03月14日



【座談会】福祉を超え、「日常」を伝える場づくりとは──「超福祉展2016」の展示から考える(前編) | あしたのコミュニティーラボ
「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(以下、「超福祉展」)の3回目が2016年11月8日(火)~14日(月)、東京・渋谷ヒカリエを主会場として開催されました。障害者をはじめとするマイノリティとマジョリティの間にある“心のバリア”を取り除き、ダイバーシティー(多様性)の実現を目指すまちづくりの1つである「超福祉展」は、多くの人たちが福祉そのものを“自分ゴト”化するきっかけを提供する先進的な取り組み。

主催のNPO法人ピープルデザイン研究所ディレクター・田中真宏さん、企画展示「Take the Next Step」をディレクションしたTakramのデザインエンジニア・緒方壽人さん、髪の毛で音を感じるユーザーインターフェース「Ontenna」(オンテナ)を同展示に出品した富士通株式会社の本多達也さんに「超福祉展」を振り返ってもらいました。前後編でお届けします。(TOP画像提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)

【座談会】福祉を違う角度から見たら、人間の可能性が見えてくる!?──「超福祉展2016」の展示から考える(後編)

マイノリティとマジョリティが混ざり合う場「超福祉展」

──「超福祉展」の主催者であるNPO法人ピープルデザイン研究所ディレクターの田中真宏さん、改めてこの展示会の趣旨と、今回のイベントの概要について教えてください。

田中 今まで行われていた一般的な福祉機器の展示会は、福祉の仕事に関わる医療関係者や企業の方々と、実際に福祉機器を使う当事者とそのご家族などの関係者だけが対象になっていると感じていました。さらに、展示される機器も、これができる、こんな風に動くなどの「機能」に特化していて、ファッションやデザインに重きを置いたものは少ないと思いました。

福祉というものが、関係者と当事者に限らず、次世代の若い人たちにも興味・関心を持ってもらうには、どうしたらよいのだろうか。そんななかで、ファッション性やデザイン性を重視した新しいアプローチで、しかも世界的にも有名なまち、渋谷という場所を舞台に福祉のイベントを開催することに意味がある、と考えたんです。

超福祉展は、渋谷区と超人スポーツ協会との共催で行っていて、その軸は2つあります。1つは思わず「カッコいい」「かわいい」と使ってみたくなるデザイン、「ヤバい」と感じるイノベーティブなテクノロジーを備えた福祉機器の展示と、そこに展示されるモビリティーなどへの試乗体験。もう1つはエンターテインメントやスポーツをはじめ、従来の福祉の枠にとどまらない多彩な分野のゲストを招いたシンポジウムやワークショップ。

内容としては、この2軸で2014年から開催してきましたが、2016年の3回目はそれに加え、展示とシンポジウムに文脈をつくりだす「ディレクター」という役割を入れたことと、みやしたこうえんとハチ公前広場を借りて渋谷のまちなかにも飛び出したことが新たな試みでした。

──1回目は1万3,600人、2回目は3万2,000人、今回は4万1,000人と、来場者は年々増えているようですが、どんな人たちが集まるのですか。

田中 狙い通り、今のファッションやデザインに興味がある人たちや、子ども連れのファミリーなど、20代~30代の若い世代が中心です。福祉関係のイベントにはあまり見られない、カラフルなメインビジュアルやクリエイティブな展示空間に惹かれ、ヒカリエに来たついでに立ち寄ってくれる人もいますし、今年は特にTime Out Tokyoさんも共催に加わっていただいたので、外国人の方々の来場者が多かったですね。

また、メディアなどで紹介されると当事者の方も多く訪れます。テレビで紹介されていたからと、その翌日に日本各地からたくさんの方が来場されました。

NPO法人ピープルデザイン研究所ディレクター 田中真宏さん
NPO法人ピープルデザイン研究所ディレクター 田中真宏さん

実際、「こんなカッコいい車椅子に乗りたかった!」みたいな声をたくさんいただきます。展示期間中の週末を中心に試乗会をやりましたが、そこでは当事者含めた大人以外に、たくさんの子どもたちが「これ乗りたい!」と言って体験していました。これまで「かわいそうな人」が乗っている乗り物が、とてもかっこいい乗り物だということを、子どもたちを通じて、まわりの大人たちにも伝えることができたと思います。「カッコいい」「かわいい」「ヤバい」など、直感的なところからコミュニケートするという、狙い通りの風景が至る所で見られました。

すべて展示することで「ストーリー」を伝える

──企画展示「Take the Next Step」をディレクションしたのが、デザインとエンジニアリングを超えて多種多様な領域を横断したイノベーティブなプロジェクトを手がけるTakramの緒方壽人さんです。緒方さんは「超福祉展」についてどう感じ、どのようなコンセプトで企画展示を形にしたのですか。

緒方 福祉だって「役に立つ」だけじゃなくて「カッコいい」とか「かわいい」と言っていいでしょ?──それが根源的に強いメッセージとして伝わってくるのがおもしろいなと思いました。

そして、「2020年に渋谷で超福祉の日常を体験する」ことをめざす展覧会なので、「日常」がキーワードかな、と。

「Take the Next Step」展示の様子。プロダクトそのものだけではなく動画やパネルなどで、多面的にストーリーを伝えた(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)
「Take the Next Step」展示の様子。プロダクトそのものだけではなく動画やパネルなどで、多面的にストーリーを伝えた(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)

さらに、どうしたら日常になるか、と考えました。すなわち、打ち上げ花火的な見た目の「モノ」のインパクトも大事だけれど、それを必要な人に届けたり、多くの人に使ってもらったりする活動を続けている「ヒト」のほうにむしろフォーカスを当てた——、それがどのようにして生まれ、この後どうなっていくのか、背後のストーリーがわかる展示にしたんです。

田中 過去2回、多様でデザイン性の高いプロダクトは多く集まり、来場者からも概ね好評をいただいていたのですが、特に展示については表面的な伝え方で終わっていたのかな、と事務局のなかで反省がありました。実際、参画いただいている企業の方から「1回目と2回目で見栄えがあまり変わらなかったね」という感想もいただき、2020年まで続けていくなかで、大きな変化が必要だと感じていました。

今回、展示のディレクションを緒方さんにお願いすることで、プロセスにフォーカスした、素敵な展示表現をしていただきました。会場では、ブースの前で足を止め、美術館や博物館のようにしっかり展示を鑑賞していく人が多かったですね。今までの「見る」「体験する」の「動」に加えて、「知る」の「静」の部分が加わり、新たな空間表現を見せることができました。

緒方 つくり手のストーリーや製造過程を取材し、その取材データを最初は編集しようと思ったのですが、それだとなんだかきれいにまとまりすぎて美談になってしまう気がして、いっそのこと、そのまんま出しちゃえ、と。

Takram ディレクター 緒方壽人さん
Takram ディレクター 緒方壽人さん

音源も映像も必要最小限しかつまんでいません。インタビューの文字起こしも基本そのまま出したので、普通の展示ではありえない文字量になった(笑)。でも意外と熱心に読んでくれるんですよ。

ユーザーとともに、新たな可能性を発見する

──富士通株式会社グローバルマーケティング本部総合デザインセンターの本多達也さんは、ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴がわかるデバイス「Ontenna」で企画展示「Take the Next Step」に参加しました。そもそも開発を始めたのは学生時代にさかのぼるそうですね。

本多 大学1年のとき耳の聞こえない、聾(ろう)者の方に出会ったのが、このプロダクトを開発したきっかけです。手話サークルやNPOを立ち上げて活動するなかで、耳の聴こえない人たちに音を伝えたいという思いが強くなり、デバイスの研究を開始しました。

大学院では独立行政法人情報処理推進機構が展開している、IT技術を活用した独創的なアイデアからイノベーションを創出し、人材発掘や支援も行う「未踏事業」に採択されました。そして、2016年1月からこの研究に共感してくれた富士通に入社してプロジェクトを進めています。

これから本当に聾者の方たちに使ってもらえるものを目指してアクセルを踏み込もう、と意気込んでいたとき「超福祉展」に誘っていただき、当事者の方からもたくさんフィードバックがあったことで、さらに加速できました。本当に、ありがとうございます!(笑)。

──超福祉展では、プロトタイプの段階からユーザーである聾者の方たちと共に試行錯誤しブラッシュアップしてきた過程が展示されていました。

本多 耳の聴こえない方は、視覚情報に頼って生活しているので、光の情報が加算されるだけではむしろノイズになってしまう。そこで振動も使うことにしたのですが、肌に直接バイブレーターを付けると不快だし、服だとこすれなどが影響して振動がわかりにくい。

富士通株式会社 総合デザインセンター Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也さん
富士通株式会社 総合デザインセンター Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也さん

いろいろ試した結果、間接的でありながらセンシティブな振動を知覚しやすい髪の毛がいいのでは、という結論に至りました。髪を新しいインターフェースとして使う、というのが発想の原点ですが、それも聾者の方と一緒につくってきたからできたことです。

──緒方さんは「Ontenna」のどこに魅力を感じて企画展示に選んだのですか。

緒方 1つは「高機能を追い求めず、音を振動と光に変えるシンプルな機能に絞り込んでいる」点です。コンセプトだけを考えると、音声の文字変換など可能性の枝はたくさん出てきますが、そうなるとどんどん複雑化し高価なものになってしまう。それを抑えて1つに特化していました。

もう1つは、後で本多さんから聞いて「なるほど」と思ったのですが、自分の発声に応じて相手のOntennaが光るので、ちゃんと相手に届いていることがわかり、積極的に声を出すようになった、というエピソードです。つくり手も想定していなかった新しい使い方をユーザーが発見している。そこがおもしろいなと思い、展示に選びました。

「カッコいい」「かわいい」「ヤバい」を入り口にマイノリティとマジョリティが混ざり合う「超福祉」は、展覧会のフィールドからどのように日常へ広がり、多くの人の「自分ゴト」になるのか。後編は今後の可能性について語り合う。

【座談会】福祉を違う角度から見たら、人間の可能性が見えてくる!?──「超福祉展2016」の展示から考える(後編)へ続く

左から本多さん、緒方さん、田中さん

(写真右)田中真宏(たなか・まさひろ)
NPO法人ピープルデザイン研究所 ディレクター
1978年生まれ、東京都出身。文化服装学院卒業後、スノーボードインストラクター、アパレルの販売・企画・デザインを経て、2009年にネクスタイド・エヴォリューション社に入社。2012年、NPO法人ピープルデザイン研究所設立と共に運営メンバー加わる。現在は両社のディレクターとして、様々な企画・プロジェクトや、イベントの運営を担っている。
(写真中央)緒方壽人(おがた・ひさと)
Takram ディレクター
東京大学工学部産業機械工学科卒業。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、2010年にON THE FLY Inc.を設立。2012年よりTakramに参加。ハードウェア、ソフトウェアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスなど、領域横断的な活動を行う。主な受賞に、2004年グッドデザイン賞、2005年ドイツiFデザイン賞、2012年文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。
(写真左)本多達也(ほんだ・たつや)
富士通株式会社 総合デザインセンター Ontennaプロジェクト プロジェクトリーダー
1990年 香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。現在は、富士通株式会社 総合デザインセンターにてOntennaの開発に取り組む。

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