Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

【座談会】福祉を違う角度から見たら、人間の可能性が見えてくる!?──「超福祉展2016」の展示から考える(後編)

2017年03月14日



【座談会】福祉を違う角度から見たら、人間の可能性が見えてくる!?──「超福祉展2016」の展示から考える(後編) | あしたのコミュニティーラボ
障害者をはじめとするマイノリティと、マジョリティの間にある “心のバリア”を取り除こうとする「超福祉展」は、多様性が重要となるこれからの時代において、その突破口を開く新たな試みだ。2016年11月に行われた3回目の超福祉展に参加したNPO法人ピープルデザイン研究所・田中真宏さん、Takramのデザインエンジニア・緒方壽人さん、富士通株式会社の本多達也さんに、これからの「超福祉」を語ってもらった。「未来の場づくり」をテーマにした鼎談、後編。

【座談会】福祉を超え、「日常」を伝える場づくりとは──「超福祉展2016」の展示から考える(前編)

障害者と健常者の垣根を超えた新市場を拓く

──本多さんはご自身が大学時代から開発している「Ontenna」を企画展示「Take the Next Step」に出品しましたが、他の展示を含め、「超福祉展」にどんな印象を持ちましたか。

本多 今も、Ontennaを持ってさまざまな場で健常者、当事者それぞれに紹介にいくことも多く、展示会にも触れる機会があるのですが、福祉の分野に接する機会のなかった若い人たちが、「なんかカッコいい!」「ヤバいじゃん!」と感覚的に魅きつけられて足を止めてくれる展示会なんて、今まで見たことがありません。

「超福祉展」を通じて、Ontennaの可能性をさらに広げることができたと本多さんは話す<
「超福祉展」を通じて、Ontennaの可能性をさらに広げることができたと本多さんは話す

だからこそ、ずっと続いて欲しいですね。福祉の分野では、むやみに感動を煽ったり、儲けを戒めたりする伝え方が多いですよね。だからこそ「超福祉展」は、けっこう立ち位置が難しいと思う一方で、「カッコいい」「ヤバい」という軸で考え方の大枠をつくってくれ、そういう旧来の福祉イメージを超越してくれるのは、僕らのようなプロジェクトを進めている立場から見てもありがたいです。

田中 たとえば、高齢者を対象にしたプロダクトでも、子ども向けの乗り物としても活用できるといった提案を展示や試乗体験を通じて行っています。出展企業さんにとっては想定外のユーザーに体験してもらえて、新たなフィードバックを得られ、市場を拡げる機会になっています。

あとは若い人たちが「カッコいい」を入口にどんどん見て知って体験してくれると、年を重ねて自分が当事者になったときに、その経験を元に、今の「超福祉展」で展示しているような、デザイン性の高い福祉機器こそスタンダードだと思い、一般化していくと思います。そうやって新しい福祉の感覚が根付いていってくれたら、と考えています。

左から緒方さん、田中さん、本多さん

緒方 障害者と健常者の分け隔ては必要ないですよね。障害者向けなのか誰でも使えるものなのかプロダクトも区別しなくていい。実際、本多さんの「Ontenna」は耳の聴こえる人も使えます。同じく企画展に選んだもので、ユカイ工学株式会社のスマホアプリと連動したロボット「BOCCO」、ノバルス株式会社の乾電池型IoT「Mabeee」は、ともに障害者をユーザーに想定してつくったプロダクトではありませんが福祉にも使えます。そうやって入り混じっていくのが理想だと思っています。

田中 マイノリティに特化した機能性重視のプロダクトは流通量が限られるため、必然的に価格が高くなります。しかし、高いデザイン性と機能性を兼ね備えたプロダクトにすることで、マジョリティが興味を持ち、マーケットを拡げることができる。

多数のメーカーがそれに参入すればコストも下がっていきます。このような新しい福祉のマーケットをつくっていきたいですね。そうすれば結果、それを必要としていた人が、おしゃれで機能的なものを、身近な場所で手に入れることができるようになりますから。

アスリートと福祉の世界を往還するテクノロジー

──そうなれば多くの人にとって福祉が「自分ゴト」になる可能性も見えてくるかもしれません。「超福祉展」では今後どんな試みを考えていますか。

田中 それを今事務局全員で考えている最中ですね。マイルストーンとなる2020年まで継続するため、さらに多様な人たちを巻き込みたい、巻き込むためには多様な人たちが溢れる渋谷の街中にもっと出て行きたい、という気持ちは強く持っています。

渋谷という可能性のあるまち全体をベースに、さらに活動を拡大していきたいと田中さんは話す
渋谷という可能性のあるまち全体をベースに、さらに活動を拡大していきたいと田中さんは話す

まち全体をメディアと捉えて、引き続き、新しい福祉のカタチを発信し続けたいと思います。商業的にも文化的にも国内外から依然として注目度が高く、同性婚をいち早く認めるなど、ダイバーシティ推進を打ち出している渋谷区で続けることは、とても意義深いことです。

緒方 私は、2017年2月からはじまった「アスリート展(*)」のディレクターの1人でもあります。実は、「超福祉展」の展示と並行してさまざまなリサーチやフィールドワークなどの準備を進めていました。

アスリートと福祉。両極端にあるもののように見えますが、アスリートの世界で使われるテクノロジーやデザインにも、福祉の世界で使えるネタがたくさんあるし、逆もありうるとリサーチしながら思っていて、そのリンクがおもしろいなと感じました。たとえば、今回「超福祉展」で展示された、義足アスリートが速く走るための競技用義足「Xiborg Genesis」(Xiborg株式会社)もそうしたプロダクトの1つです。

福祉やアスリートという領域を超えて、もっと課題を広く見ることがポイントなのではないでしょうか。たとえば、2017年に注目されているテクノロジーとして「ハプティクス(haptics)」というものがあります。触覚や触覚フィードバック技術と言われ、触っている感覚を再現する技術です。そういったものや、徐々に広がりつつあるVR(バーチャルリアリティ)技術などは「身体拡張」が可能な技術です。

「身体拡張」をベースに考えると、健常者も障害者も関係なくなる、新たな可能性が見えると緒方さんは言う
「身体拡張」をベースに考えると、健常者も障害者も関係なくなる、新たな可能性が見えると緒方さんは言う

たとえば、「身体拡張」をテーマに据えて、障害者も健常者もアスリートもごちゃ混ぜにして考えると、さらに世界が拡がるのかもしれませんね。髪の毛で音を感じるインターフェース「Ontenna」もその可能性を秘めていると思いますが、どうでしょうか。

本多 そうですね。実際、いろいろなところからお声がけをいただいています。音をデザインすることでよりおいしく感じる飲料とか、ライブやフェス、スポーツに活用できないかなど、本当に多様なアイデアが寄せられています。それらをオープンイノベーションで実現していこうと進めているところです。

──逆にいえば「超福祉機器」によって、ハンディキャップのある人が先んじて身体拡張的な世界を味わうことになるかもしれません。

緒方 本当にそうだと思うんですよね。目が見えない人は耳の感覚が鋭く、より多くの情報を得ているし、耳が聴こえない人は視覚や振動に敏感です。そこをうまくいろんなところに活かせたらすばらしいプロダクトやイノベーションにつながるのではないでしょうか。

(*)アスリート展:日々の積み重ねから自分自身の限界を超えていくアスリートを映像や写真、体験型の展示を通してさまざまな活動へのヒントを伝える展示会。2017年2月17日から、東京六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催。

本インタビューに関連し、超福祉展2016に歩き方や動きを可視化するセンサーシューズ「interactive shoes hub」を出展した富士通株式会社・鈴木規之さんにも、出展者としてどのような感触を得たかコメントをもらいました。

「今回出展したことで、大きく2つの要素を得られたと感じています。1つは『可視化』。たまたま通りかかった方から、超福祉展目的で来られた方、外国人、障害者など、多様な方々からセンサーデータのグラフィックとサウンドによる表現への反応をもらいました。
2つ目は『新しいマーケットの可能性』。センサーシューズは“日常生活における歩行の様子をデータによって可視化する”という目的で開発していて、歩行に不自由のない健常者をメインターゲットと考えていました。しかし、超福祉展で義足を付けている方からも興味を持ってもらい、たとえば、義足のつけ心地をデータで示す用途に使えないかなど、多くのフィードバックをいただいたんです。そのコメント1つひとつから発見も多く、新しい可能性が広がりました」

多様な人々が集まることで、思いがけない新しい発見があり、可能性が広がる。超福祉展はまさにダイバーシティーを体感する場と言えそうです。

【座談会】福祉を超え、「日常」を伝える場づくりとは──「超福祉展2016」の展示から考える(前編)

左から本多さん、緒方さん、田中さん

(写真右)田中真宏(たなか・まさひろ)

NPO法人ピープルデザイン研究所 ディレクター
1978年生まれ、東京都出身。文化服装学院卒業後、スノーボードインストラクター、アパレルの販売・企画・デザインを経て、2009年にネクスタイド・エヴォリューション社に入社。2012年、NPO法人ピープルデザイン研究所設立と共に運営メンバー加わる。現在は両社のディレクターとして、様々な企画・プロジェクトや、イベントの運営を担っている。

(写真中央)緒方壽人(おがた・ひさと)

Takram ディレクター
東京大学工学部産業機械工学科卒業。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、2010年にON THE FLY Inc.を設立。2012年よりTakramに参加。ハードウェア、ソフトウェアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスなど、領域横断的な活動を行う。主な受賞に、2004年グッドデザイン賞、2005年ドイツiFデザイン賞、2012年文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。

(写真左)本多達也(ほんだ・たつや)

富士通株式会社 総合デザインセンター Ontennaプロジェクト プロジェクトリーダー
1990年 香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。現在は、富士通株式会社 総合デザインセンターにてOntennaの開発に取り組む。


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ