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愛好家とメーカーが共創したビール「百人のキセキ」 ──「百人ビール・ラボ」

2013年02月13日



愛好家とメーカーが共創したビール「百人のキセキ」 ──「百人ビール・ラボ」 | あしたのコミュニティーラボ
ソーシャルメディアを活用し、ユーザーとメーカーの「共創」によって、一から新商品を開発してしまおう──そんな新しい試みが大詰めを迎えている。2012年8月にスタートした「百人ビール・ラボ」(サッポロボール株式会社とネットイヤーゼロ株式会社の共同開設)は、ビール愛好家とサッポロビールが一緒になって新しいビールづくりを進めるFacebookコミュニティーだ。

オープンな場でユーザーが触れ合いながら商品開発


Facebookコミュニティー「百人ビール・ラボ」
毎週金曜日20時。Facebookコミュニティー「百人ビール・ラボ」の「LIVE会議」では、どんなビールをつくるか、ディスカッションが重ねられてきた。これまでに決まったのは次のようなことだ。

コンセプトは「一人でとことんじっくり味わうためのビール」。
テイストは「上質なアロマホップのまろやかな苦味の中に、ほんのりと柑橘系の後味が現れる、香り高い琥珀色の濃厚なビール」。
ネーミングは「百人のキセキ」。

工場で手づくりビール体験や、みんなで決めた試作品2種類の試飲会など、オフ会イベントも開催した。容器デザイン案、販売方法・広告宣伝に関する意見、キャッチコピーもFacebookのLIVE会議の議題となり、2013年3月の完成披露に向けてプロジェクトは最終段階にさしかかっている。

「LIVE会議」は事前に共有された議題に基づいて開かれる(左)。
ユーザーは議論への参加を通じて商品化の過程を体験していく(右/いずれも「百人ビール・ラボ」より)

ネットを活用してユーザーの発言から新商品開発のヒントを導き出す手法はMROC(Marketing Research Online Community)と呼ばれ、すでにおなじみだ。特定のテーマに興味を持つ人を集め、自然なコミュニケーションを誘うことで、従来の調査方法では得られなかった「生活者の心の声」を発掘する。

しかしこれは、あくまでもマーケティングリサーチを目的としており、なおかつクローズドなオンラインコミュニティーを利用したもの。サッポロビールでもマーケティングにはすでにMROCを取り入れていた。

そこからさらに一歩踏み込んだのが「百人ビール・ラボ」の注目すべきところだ。オープンなソーシャルメディアで、しかも実際の商品開発からビジネスモデル構築までユーザーと共同で取り組む。先駆的な試みといっていい。

〈ともにつくる歓び〉が伝播していく効果を検証したい

そもそも「百人ビール・ラボ」を立ち上げた背景には、サッポロビールの成長戦略の一つ「小さく産んで大きく育てる」がある、とプロジェクトを担当した生産技術本部マネージャーの鈴木雄一さんは語る。

「従来、お客さまはCMを見て、あるいは店頭に並んでいる新製品を見て、初めて商品を知ることになります。しかしながら、ビールをはじめ多くの新商品が上市される(*編集部注:市場に出回る)ものの、ごく一部のブランド以外は淘汰されていきます。それで本当にお客さまのほうを見ているのか、というシンプルな疑問がありました。大きく仕掛ける従来の発想とは違い、小さいコストで短期間にお客さまの反応を観察しながら仮説と検証を繰り返すリーンスタートアップ的な手法で、ビールのビジネスモデルを構築できないだろうかと考えたのです」

MROCのようにクローズドなオンラインコミュニティーでユーザーの意見を聞くのではなく、もっとオープンな場で〈つくる楽しみ〉を価値提供し、それが広く伝播していく効果も検証してみたい。もともとビールをはじめお酒をつくる行為は許認可制であり、ビール愛好家でもビールづくりを体験したことはない。ならば最もふさわしいのは、ソーシャルメディアでオンラインコミュニティーをつくり、集まったユーザーのアイデアを当社がビールという形にすることだ。

オープンな広がりの中で自由な意見を言える場であるためには、〈サッポロビール愛好家のコミュニティー〉ではなく、あくまでも〈ビール愛好家のコミュニティー〉でなくてはいけない。だから他社のビールのファンも大歓迎。参加者を集めるインセンティブ・キャンペーンで、その方針を明確に打ち出した。「世界のビール12本セット」を100名にプレゼント。ただし中に1本、サッポロビールのブランド「エビス」の小瓶を日本代表として入れておいた。

コメント数が多かったり有益だったりした参加者にポイントを付与し、LIVE会議の参加者にはノベルティグッズを送るなど、ゲーム的要素を盛り込むことでユーザーのモチベーションを高め、飽きさせない工夫も忘れていない。

それにしても、ソーシャルメディアでオープンに展開することに社内の抵抗はなかったのだろうか。「もちろん社内的な調整はしましたが、最終的にはプロジェクト主体で進めました」と鈴木さんは笑う。「プロジェクトリーダーが〈こういうのはスピードが命〉と言ってくれて」。

先行して立ち上げ、20万人のファンを獲得したFacebookコミュニティー「北海道Likers」の成功もスプリングボードになった。サッポロビールの社名をいっさい表に出さず、北海道の穴場スポットや食の情報を提供・交換し合う場だ。

北海道に根を下ろした企業として地域活性化に貢献したい。そのうえでビールを楽しむシーンへ誘引し、「北海道でビールといえばサッポロだよね」というシチュエーションに持っていきたい。その意図がスムーズに実現している。

20万人超のファンを集めるFacebookコミュニティー「北海道Likers」

「百人ビール・ラボ」は社名を前面に出すだけに、オープンにすることによってノイズ的なコメントが紛れ込むおそれも予想されたが、それほど心配することもなかった。オープン当初のテーマに関係ないコメントを削除する程度ですんだという。

2013年2月上旬現在、「百人ビール・ラボ」は29,000人近くの「いいね!」を獲得している。

議論そのものが楽しいオンラインコミュニティー

肝心のLIVE会議は、キャンペーンやオフ会に応募して個人情報を登録し、より深い参加意識で「百人ビール・ラボ」にかかわるファンを対象にした。運営に関しては、初めての試みだけに「けっこうドキドキでした」と鈴木さん。

「事務局としてリアルタイムのレスポンスをその場でしなければなりません。なので、ソーシャルメディアに強い外部スタッフを何名かアサインしました。イメージとしては、連続ドラマの制作を2クールくらい続けるような感じですね。コンセプトの策定から商品開発の完成まで時期を区切って議題をスケジューリング。毎回毎回、台本まではいかないものの、予想される質問に対しての回答を想定し、会議の進行をファシリテーションする。そこは相当、工夫しました」
サッポロビール株式会社生産技術本部の鈴木雄一さん
話が脇道にそれたら軌道修正して本来の議題に戻す。逆に予想外のおもしろいテーマが出てきたら、それをもう少し深掘りする。熱心なビール愛好家たちの議論をうまくファシリテートする機能は欠かせない。醸造関係の技術者ともホットラインを結んで、専門的なコメントを返したいときに備えた。

最も時間をかけたのは、ビールのコンセプトづくり。マニアが集まるとどうしても、上面発酵か下面発酵か、ピルスナーかエールかといった「中身」のほうにまず関心が及ぶ。そこはまず置いて、先に「どんなシチュエーションでどんなふうに楽しむビールをつくりたいか」の議論を徹底するよう仕向けた。ここは、一般的なコンシューマー向けの商品開発プロセスをそのまま踏襲している。

那須工場での手づくりビール体験、千葉工場の見学、サンプルの試飲会というオフ会イベントを要所要所で実施したことも、コミュニティーの盛り上がりが持続した要因だろう。Facebookではすでにお互い〈顔見知り〉だから、初対面でも事務局がつなげば一気に仲よくなる。そこでコアなメンバーが形成される。

イベントを通じてコミュニティーの結束はますます加速する
(提供:サッポロビール株式会社)

「百人ビール・ラボ」に参加したビール愛好家の感想をFacebookのコメントから拾ってみよう。
2012年12月21日のコメント欄 より抜粋)

「みんなで好き放題、言いたいこと言って、反映されようとされまいと、議論そのものが楽しい! とにかく色々な人の意見がおもしろい!」(三沢秀樹さん)

「たくさんのビール好きに出会えたこと、ちょっと変わったビールを飲んだ時、それについて教えてもらったり、感想を交換できたりすることがよかったです」(Tama Yoshinoさん)

「私のビールライフが格段に豊かに広がりました。みんなでつくったビールをゴクリと飲む! その幸せなシーンを楽しみにしております」(犬束和也さん)

「昨今“絆”という言葉がもてはやされるように人と人とのつながりが希薄になっていますが、たかがビール、されどビールでここまで共感できるコミュニケーションが取れるようになったのはとても感慨深いと思います」(武田英利さん)

「今までビールメーカーさんに好き勝手意見する機会なんてなかったので、そういう機会をつくっていただいただけでもまず感謝なのに、その意見を尊重してビールをつくっちゃおう! て言うのだからスゴい」(Asami Sugiさん)

ビールづくりというテーマを通じて、新たな人のつながりが生まれている。

メーカーの既成概念から抜け出すことができた

参加しているユーザー向けにサッポロビール博物館(札幌市)のツアーも企画された
(提供:サッポロビール株式会社)

熱心な愛好家が集まっているだけに、きっと濃い目のビールになるだろうと、ある程度予想はしていた。だが「一人でとことんじっくり味わうためのビール」というコンセプトに行き着いたところに、ユーザーと共創した「百人ビール・ラボ」ならではの意義を鈴木さんは感じている。

「そういう発想は弊社でアイデアとして出たとしても、まず新商品に採用されることはなかったでしょう。ビールとはみんなでワイワイ楽しく飲むもの、という思い込みがあるからです。でも、一人でとことんじっくり味わうビールがあってもいい。他には和食に合うビール、昼間から飲めるビールというのもおもしろかったですね。日曜日にみんなでバーベキューしてグイッとやるときに最高にうまいビール。あんまりガンガン冷やさなくてもおいしい。メーカーの立場からすると、固定観念、既成概念からなかなか抜け出せないところがあるんです。その意味ではコンセプトワークでの気づきが大きかったですね」

3月に完成披露する「百人のキセキ」がどう裾野を広げていくかは、これからの戦略課題だ。当然ながら、メーカーとしては事業化に結びつけてこそ、初めて定量的な評価が得られる。小さく産んだブランドを大きく育てたい。

だが、それ以上に「ソーシャルメディアを利用したユーザーのコミュニティーとともに一つのビールを開発した」という初の実験で得られたナレッジ、ノウハウに価値がある。ビールをテーマにしたオンラインコミュニティーの規模と構造がわかり、口コミの伝播力についても実感が得られた。

日本のビールといえば、淡い黄金色でスッキリした飲み心地のピルスナータイプを思い浮かべるだろう。だが世界には多種多様なビールがあり、日本でも最近、第三次くらいのクラフトビール(地ビール)ブームがじわじわと盛り上がってきた。「百人ビール・ラボ」に参加したようなコアなファンが新たなビールのマーケットを牽引していく可能性があるかもしれない。

サッポロビールもナショナルブランドに違いないが、出発点は北海道だ。
「決してマイクロブルワリー(地ビール醸造所)さんと競合するのではなく、一緒に歩んでいけたらいいのかな、と。今までのビールとまた違った形のビールが増えて、ビール愛好家が自ら『選ぶ』楽しみや『つくる』楽しみが広がることは、豊かさの象徴だと思うんですよね。百人ビール・ラボを起点に、そうしたムーブメントの先鞭をつけられたら」と、鈴木さんは望んでいる。

Facebookコミュニティー「百人ビール・ラボ」 http://www.facebook.com/100beer
Facebookコミュニティー「北海道Likers」 http://www.facebook.com/HokkaidoLikers.jp


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