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クラブと地域の未来をつくる余剰時間のススメ ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(追跡編)

2017年04月27日



クラブと地域の未来をつくる余剰時間のススメ ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(追跡編) | あしたのコミュニティーラボ
2016年9月、あしたラボでは、Jリーグ大分トリニータの運営母体・株式会社大分フットボールクラブ(大分FC)の共創プロジェクトに迫った(詳しくはリンク先を参照のこと)。大分大学経済学部とのプロジェクト「タオルチケット」は、その後短期間で第2弾を実施。さらに地域における新たな価値創出をねらうべく、連携の輪を拡げつつある。そもそも大分FCは、地域に根差すプロスポーツクラブとしてどのような未来への展望を描き、施策を考えているのだろうか──編集部は再び大分FCを訪ねた。大分FCのいまに迫る“追跡編”と、「タオルチケットver.2」のプロジェクトからノウハウを学ぶ“対談編”の2本立てでお送りする。

リーンな仮説・検証からOne to One to Socialを実現する ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(対談編)

原点回帰でJ2復帰、今シーズンのスローガンは「初志貫徹」

2016年11月20日──。サッカーJ3リーグはシーズン最終節を迎えた。大分トリニータはガイナーレ鳥取と対戦。4-2で勝利し、見事J3リーグ優勝、J2復帰を成し遂げた。1年でのJ2復帰を果たした大分トリニータの2017年シーズンのチームスローガンは「初志貫徹」だ。

昨季スローガンに定めた「原点回帰」の志を持続しながら、
一歩一歩、地道な行動で新しいものを作っていこうという気持ちを込めて、
今季のスローガンは「初志貫徹」といたしました。

株式会社大分フットボールクラブ(以下、大分FC)の榎徹代表取締役は、2017年の『大分トリニータ オフィシャルイヤーブック』の所信表明のなかで、その思いを綴っている。

地元商店をまわって新シーズンのポスターを配布するのも、大分FCによる地道な行動の1つ。1軒1軒、商店主や店員の方と丁寧にコミュニケーションをとっていく
地元商店をまわって新シーズンのポスターを配布するのも、大分FCによる地道な行動の1つ。1軒1軒、商店主や店員の方と丁寧にコミュニケーションをとっていく

クラブの運営母体である大分FCもまた、新しい体制のもと、次なる共創への口火を切った。大分FCの河野真之さんは、以前あしたラボでお伝えした「大分トリニータによる共創プロジェクト」にご登場いただいた人物。河野さんが室長を務めていた「集客戦略室」は「企画広報室」に改組され、現在はその室長を務めている。

J2復帰という確実な追い風が吹くなかで、河野さんのチャレンジ精神は変わらない。

「すごく端的にいえば、業務の”余剰時間”をつくっていく必要があります。それは、目の前のことだけにとらわれすぎず、数年後の種蒔きになるようなことに時間を使うということ。今シーズンはホームゲームが21試合ありますが、その集客プランはすでにできあがっていて、あとは実行していくだけの状態──。来シーズンの想定もはじまっていて、さらに2年先、3年先のことも考えていかなければいけません。僕らは前倒しで考えていく必要にあって、関係するステークホルダーも早いうちから巻き込んで活動することを想定しています。そうしたことが、今になってやっとできるようなったという実感がありますね」(河野さん)

大分FC企画広報室・室長の河野真之さん
大分FC企画広報室・室長の河野真之さん

想定外のユーザーがもたらした新たな可能性

ここで、昨年の共創活動を少しだけ振り返ってみたい。

2016年6月22日、大分大学経済学部との共創アイデアソンで誕生したアイデア「タオルチケット」は、約1カ月後の7月31日の栃木SC戦向けのチケットとして実装された。

以前の記事では、スピード実装の背景にある大分トリニータのビジョンを取り上げたが、実はこのあと2016年のシーズン中にもう一度、ニューバージョンとして「タオルチケットver.2」がお披露目されていた。ver.1では対象試合が刻印されただけだった温泉タオルも、ver.2では、デザイン性豊かな「手ぬぐい」へとリニューアルされた。「大分の魅力に気づいてほしいという思いを込めて、手ぬぐいには県の名産品をモチーフに施し、トリニータカラーで統一されたものに一新しています」(河野さん)。

写真手前がタオルチケットver.1。ver.2(奥)では、温泉、かぼす、豊後牛……といった大分県の名産がモチーフに施され、ブルーとイエローの
写真手前がタオルチケットver.1。ver.2(奥)では、温泉、かぼす、豊後牛……といった大分県の名産がモチーフに施され、ブルーとイエローの”トリニータカラー”をベースにデザインされている

タオルチケットver.2を製作・販売することになった発端は、単に好評だったからではない。「7月31日の栃木SC戦に向けてver.1を販売していたなかで、想定外の購入者があったこと」を河野さんは理由に挙げる。

「意外な購入者が多かったんです。対戦相手のホームタウンの人であったり、このグッズ自体に関心を持って購入してくれる人であったり──。この取り組みに共感しているけれど必ずしも大分県内の人というわけではない、という感触があり、『ユーザーは幅広くいるのに、ターゲットをきちんと想定できていなかったのでは?』という自問自答が生じました」(河野さん)

そんなある種の課題認識から、もう一度産学で検証してみる価値があると河野さんは考えた。

ver.2として販売されたタオルチケットの価格は税込2,800円。11月のホームゲーム2試合(6日ガンバ大阪U-23戦/13日Y.S.C.C.横浜戦)のいずれかの入場チケットとなり、別府温泉7施設で入湯チケットしても使える(入浴期間は11月7〜10日、14〜17日)。温泉は期間中何度でも利用可能だ。チケットはオンライン(コンビニ端末で引換券を発行後、試合前にタオルチケットと交換)、クラブトリニータ、温泉施設で販売され、結果的に100枚用意したチケットはほぼ完売した。

「ふだんは試合前日や当日まで企画チケットが完売することは少ないのですが、おおむね好意的な反応を得られました。対象試合となった11月6、13日の両日には、タオルチケットのユーザーを理解するため、購入者の属性、購入動機、今後の要望などをヒアリングし、対面アンケートを実施しています」(河野さん)

想定外のユーザーの存在からはじまった、産学による「タオルチケットver.2.」プロジェクトの一連のリーンなプロセスは、地域における新たな価値創出に取り組み際の示唆に富んでいる。その詳細は「対談編」へ譲るが、河野さんは次なる展開について、以下のように話す。

「今回のタオルチケットは、十数万円の予算のなかで行ったもの。おかげで品質のよいものに仕上がったし、それがあったからこそ、きちんと検証も行えた。同じような取り組みを、規模も徐々に拡大しながら継続していきたいと思っています」(河野さん)

数年後を見据え、地域との関係を深める

新シーズンを迎えた大分トリニータ、河野さんは自身が必要だと言う”余剰時間”をつくるためのさらなるチャレンジをはじめている。どんな仕掛けを考えているのか。あしたラボ編集部では、少しだけ、河野さんの行動を追うことにした。

ある日のお昼過ぎ──。河野さんは大分市中央町商店街振興組合の太田和幸さんのもとを訪れていた。

「大分でも僕らが、20代の社会人あるいは大学3、4年生くらいの学生と関わるような流れがやっとできつつある。だけれど、それ以下の年代は、意外と大分との関わりって少ないと思うんですよ」(太田さん)

右側が大分市中央町商店街振興組合の太田和幸さん。河野さんと1時間半程度の対話が行われた
右側が大分市中央町商店街振興組合の太田和幸さん。河野さんと1時間半程度の対話が行われた

そんな話題からはじまった太田さんと河野さんのおよそ1時間半の対話は、なにも商談をしているわけではない。商店街で今、どんなことをしていきたいのか。はたまた、それに対して大分FCとして何かできることはないのか──。河野さんは太田さんの”課題認識”に耳を傾ける。

そもそもJR大分駅の北側には10を超える商店街がある。なかでも大分市中心部のアーケード商店街である中央町商店街(通称・セントポルタ中央町)にはたくさんの商店が立ち並び、太田さんはその商店街振興組合の事務局長を務めている。

「単に若者が商店街に遊びに来ないというだけでなくて、実は雇用すらしにくい状態です。駅ビルの開業(注:大分駅の複合商業施設が2015年4月開業)で学生のアルバイトが商店街まで来なくなった。大分大学も市街地からは遠いし、時給も駅ビルの店のほうが高い。だからわざわざ駅から数分歩いてまで、商店街でアルバイトしようとは思わない──。飲食店は今、人手不足でひいひい言いながら仕事していますよ」(太田さん)

それを解決する1つの施策として太田さんが期待を寄せているのが、歩行者天国で行われるという年4回(予定)のイベントだ。セントポルタ中央町と並行する「大分市中央通り」(全長約400m)では、市をあげて歩行者天国としてイベントを行う施策を講じている。すでに2016年10月と2017年1月の2回、催された。ともに約3万人の来場者を集めたという。

太田さんはこのホコ天のイベントを、より賑わいがあり、かつ、商店街と若者の接点を生むものになる策を講じている。そうした”お題”があるなか、地域密着型クラブである大分トリニータがそのための1つのコンテンツになり得ると、参加を持ちかけたというわけだ。

「若者とまちのジョイントができるしくみができれば、ものすごく可能性があると思うんです」(太田さん)

中央町商店街(通称・セントポルタ中央町)。「セントポルタ」はポルトガル語で「中央(セント)+港(ポルト)」を意味しており、大分市中心部への入口をイメージしているのだという
中央町商店街(通称・セントポルタ中央町)。「セントポルタ」はポルトガル語で「中央(セント)+港(ポルト)」を意味しており、大分市中心部への入口をイメージしているのだという

クラブ・地域の双方から接点となる”何か”を生み出さなければ

大分市街地のホコ天計画はまだまだ構想段階にあるが、タオルチケットにしても、こうした商店街との関係構築にしても、何かすぐに実のなるビジネスに直結する取り組みではない。

榎社長の所信表明にある言葉を借りるならば、「一歩一歩、地道な行動で新しいものを作っていこう」(表記は原文ママ)という行動そのもの。大分FCはその地道な行動を足がかりに、大分のフィールドを魅力的なものへと醸成させようとしている。

大分市街地の地図や昔の俯瞰写真を拡げながら、2人は実に自由に対話を講じていく
大分市街地の地図や昔の俯瞰写真を拡げながら、2人は実に自由に対話を講じていく

では、その先には何があるのだろうか。

「『試合会場に来て応援してください』と人を呼び込むアプローチは、ともすれば強制的なプロモーションとも捉えられかねません。それは「つながりたい」「共有したい」という今の時代には合わないのではないかと思っています。強制的でもなく、取り囲むわけでもないプロモーションを仕掛けることで、地域の中で様々な魅力に自然と取り込まれることを目指し、トリニータはそのためのハブになるような活動をしていきたい。そう考えれば、おのずといろいろなところにアンテナを張らなければいけなくなるし、いろいろな人と関係をつくる必要があるのだと思います」(河野さん)

太田さんも同様の期待を寄せる。

「地域密着型のクラブというのは、得てして活躍してビッグになるほどに市民との距離間が遠くなっていくじゃないですか。トリニータと僕ら市民の関係も、決定的に離れてしまったわけじゃないけれど、クラブが大きくなるにつれ関わり方がわからなくなった面があったと思います。そういう意味では両者の接点をつなぐ何かを、クラブ・地域の双方から出していかないといけない。市民として、スタジアムに行くだけじゃない新しい関わり方があるのではないでしょうか」(太田さん)

地域におけるスポーツクラブチームのあるべき姿とは? 未来を見据えて行動を起こす大分FCの河野さんには、地域の門戸が開かれている。地域の代弁者である太田さんも、きっと同じ方向を向いているのだろう。

このほかにも、大分FCでは、公共交通機関における連携もテーマの1つに据えている。駅やショッピングセンター、教育機関、スタジアムなどが市内に点在する大分市では、「移動」がボトルネックの1つになっているそう。言い換えれば、市民をはじめとするユーザーが潜在的なニーズを感じている領域とも言えるだろう。大分FCのような地域のハブを担える存在が、ホームゲームへの観客動員のみならず周辺の施設やイベントと相互に連携することへの期待は大きい。

今後、大分の地域にはどのような価値が生み出されるのか、あしたラボでは引き続き注目していきたい。

共創アイデアソンから生まれた「タオルチケットver.2」は、2016年9~11月にかけて大分大学経済学部との産学共同のプロジェクトとして製作・販売がなされ、販売後にはユーザーの検証も行われた。対談編では、このプロジェクトのファシリテーターとして関わってきた富士通総研・黒木昭博さんと大分FC・河野さんのお2人でプロジェクトを総括。タオルチケットver.2から見えてきた、新たな価値創出に向けたリーンなプロジェクトのつくり方とは?

リーンな仮説・検証からOne to One to Socialを実現する ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(対談編)

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