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リーンな仮説・検証からOne to One to Socialを実現する ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(対談編)

2017年04月27日



リーンな仮説・検証からOne to One to Socialを実現する ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(対談編) | あしたのコミュニティーラボ
2016年6月に行った大分大学経済学部との共創アイデアソンから生まれた、大分FCの「タオルチケット」。その後生まれたver.2はファンを中心に高い評判をもたらし、短期間でほぼ完売という成果を挙げた。このプロジェクトは、昨今、注目されている新規事業の立ち上げ手法「リーンスタートアップ」の応用の一例といえる。プロジェクトの中心メンバーである株式会社大分フットボールクラブ(大分FC)の河野真之さん、ファシリテーターとして関わってきた富士通総研チーフシニアコンサルタントの黒木昭博さんの2人の対話から、産学におけるリーンなプロジェクトのつくり方のヒントを学ぼう。

クラブと地域の未来をつくる余剰時間のススメ ──地域のハブを担う、大分トリニータ運営の裏側(追跡編)

1人ひとりに合わせて行動を促す新サービス

黒木昭博(以下、黒木) まずは2016年のJ3シーズン優勝、そして2017年からのJ2復帰、おめでとうございます! そもそもこの「タオルチケット」のアイデア自体は、2016年6月に行った共創アイデアソンから生まれたものです。このアイデア自体について、河野さんはどのように評価しているか、あらためて聞かせていただけますか。

河野真之(以下、河野) アイデア自体は、とてもおもしろいものだと感じましたね。大分県民のあいだには「温泉に寄っていこうよ」みたいな、気軽に温泉に立ち寄る文化があると思うんです。休日に友達同士で遊んで、夕食をどこかで食べて──それでもまだ時間が午後8時とかだったら、スーパー銭湯に行って、1日を締める。

黒木 もう家に帰って寝るだけの状態ですね(笑)。今回は初回の検討会で想定するターゲットユーザーの行動だけでなく習慣にも着目しました。

河野 そういう「県民独特の習慣」というものをサッカー観戦と組み合わせられたらおもしろい。タオルチケットは、1人ひとりの「行動」を変えさせる新たなファンサービスになり得るもので、大分トリニータが展開していくのに値するものだと考えています。

株式会社大分FC(フットボールクラブ)企画広報室長 河野真之さん
株式会社大分FC(フットボールクラブ)企画広報室長 河野真之さん

One to One to Socialという活動コンセプト

黒木 ver.2の製作・販売に向け、この「社会実装プロジェクト」がスタートしたのは2016年9月のことでした。河野さんから「ver.1を販売するなかでターゲットがわからなくなった」という課題意識を聞いていたので、私としてももう一度、ユーザーがどんな人なのか、あらためて調べてみてもよいかと思いました。

ver.2を産学で活動するにあたり、「One to One to Social」というコンセプトを定めました。

つまり、大分トリニータおよび大分FC(One)が、サポーターのみなさん(One)に提供するサービスの体験を通じ、地域のリソースへと誘い、結果的に地域(Social)に新たなコミュニティーを創造・相互に集客していくサイクルのこと。9月からの「社会実装プロジェクト」では、これを活動コンセプトに掲げています。

その後、9〜11月にかけて、大分大学経済学部のソーシャルイノベーションワークショップという授業の一環として学生さんに集まっていただき、大分FCのみなさんとターゲットユーザーを仮説し、チケットの提供価値を練りなおし、ユーザー体験の設計、ビジネスモデル設計・販売・検証まで一連の流れを共同で行いました。

図1)大分トリニータ×大分大学経済学部の活動コンセプト

図2)タオルチケットver.2における約3カ月間の活動の流れ

黒木 ver.2の大きな特徴・変更点を挙げるとするとデザインの一新ですが、もう1つ、フローチャートもつくりましたね。

河野 そうですね。タオルチケットの使い方・楽しみ方などをまとめたリーフレットを封入し、特に「楽しみ方」の項では、フローチャートの設問に答え、7箇所の温泉施設を1人ひとりにあわせてガイドする──。チケットはオンライン(コンビニ端末)、クラブトリニータ、温泉施設で販売し、100枚がほぼ完売しました。

タオルチケットに封入されたリーフレット。複数の設問に答えるかたちで、自分に適した温泉施設を案内してくれる
タオルチケットに封入されたリーフレット。複数の設問に答えるかたちで、自分に適した温泉施設を案内してくれる

黒木 そうした製作物のコンセプトを固めてからは、大分FCと大分大学経済学部の学生の共同で宣伝・販促活動も行い、学生さんとともに市街地でプレス(チラシ)を配布し、そのときのユーザーの反応を見て、ビジネスモデルの一部を見直すなど動的に進めていきました。対象試合となった11月6、13日の両日には、タオルチケットのユーザーを理解するため、対面アンケートを実施しています。

河野 ユーザーの反応をみて、チケット利用後の手ぬぐいの使い方を動画で訴求したり、価値の届け方を工夫したりしましたね。ヒアリングやアンケートでは、対象温泉施設のホームページを見るのも楽しみという声をいただいたり、概ね好意的な反応が多かったですね。

黒木 アンケート結果については、学生の意見も聞きながら最終的に私のほうでまとめさせていただきました。

今回はNPS(Net Promoter Score)という指標を使っています。これは顧客のロイヤルティ(愛着・信頼の度合い)を数値化する指標です。今回の場合、NPSが決して高い数値を示さなかったのですが、興味深い結果を得ることができました。直観的な判断のもとで購入を決める層、他人に薦めることでファンを増やそうと考える層、他人に薦めるのではなく自分自身で大分トリニータと地域に貢献することを重視する層が見えてきたのです。その点から、今後それぞれのユーザーに対しておのおののアプローチの仕方を具体的に検討できるようになったのではないでしょうか。

タオルチケットで来場したユーザーは、ご覧のとおり若い世代から高齢者まで多種多様。ヒアリングとアンケートで購入のきっかけや動機を伺っていった
タオルチケットで来場したユーザーは、ご覧のとおり若い世代から高齢者まで多種多様。ヒアリングとアンケートで購入のきっかけや動機を伺っていった

共創プロジェクト成功の要因は「学生の力」

黒木 河野さんから見て、今回の「社会実装プロジェクト」をどのように評価されていますか?

河野 私としては、品質自体がバージョンアップできたことで、サポーターとの対話がかなりしやすくなったと思います。こちらも自信をもって「これ、どう思いますか?」と聞けるし、サポーターの側からしても意見を言いやすくなったのではないでしょうか。

もう1つ、一連の共創プロジェクトで感じたことは、学生がポイントだということですね。

企業側の責任として──たとえば、場や機会の提供──を果たすことはもちろんなのですが、学生は現実問題として単位取得のことだとか、考えなければいけないことがたくさんあるじゃないですか。でも今回、大分大学経済学部のみなさんは、アイデアの発展はもちろん、プロモーション、ヒアリングの段階に至るまで積極的に参加し、反応を見ながらどのように価値を届けるべきかを試行錯誤してくれました。

両脇が学生メンバーの2人。左端の女性が山田菜々恵さん、右端の男性が橘亮太郎さん(ともに大分大学経済学部)。19年間大分で暮らしてきた山田さんは「これまで大分について考えることすらなく、大分の魅力を発見できた」と振り返
両脇が学生メンバーの2人。左端の女性が山田菜々恵さん、右端の男性が橘亮太郎さん(ともに大分大学経済学部)。19年間大分で暮らしてきた山田さんは「これまで大分について考えることすらなく、大分の魅力を発見できた」と振り返る

黒木 その点でいえば、河野さんを含めた大分FCの方々と学生メンバーが共通の目的や活動のコンセプトを共有し、とてもフラットな関係性のもとで進めることができたように感じています。それがあったからこそ活動に積極的になれた面があると思います。こうした産学連携のプロジェクトというのは、企業側が核心の部分に学生を関わらせないことになりがちです。

河野 正直な気持ちをいえば、学生というファン層は私たちにとって獲得したいターゲットでもありますし、5年後、10年後に彼らがもっと稼げるようになったときの購買力にも期待しています(笑)。それは半分冗談としても、私たちにとっても恩恵を得られるものだと思います。

黒木 私から見た感想を申し上げれば、もちろん前提には「ユーザーを理解したい」というねらいがあったと思うのですが、このプロジェクトのために一定の予算を投じたこともとても大きかったと思います。

河野 特に、高校生までならお金をかけずにやってもなんとかなるのかもしれませんが、大学生くらいになるとその点はとても大きいと思いますよ。お金をかけずにやれば、どうしても緊張感がなくなる。自分がもし大学生のときに同じようなプロジェクトに遭遇していても「それじゃおもしろくない」と思っていたはず。そこは産学共創の条件といえるのかもしれないですね。

「地域貢献」の指標をどう捉えるのか?

黒木 あとは、今回の社会実装はトータルすると2~3カ月くらいのスピード感でした。個人的には リーンに仮説・検証、そして方向転換を行ううえでこのくらいのスピード感も“あり”なのではないかと思っています。その点、河野さんはいかがでしょう?

株式会社富士通総研チーフシニアコンサルタント 黒木昭博さん
株式会社富士通総研チーフシニアコンサルタント 黒木昭博さん

河野 当然、意思決定は早いほうがいいし、私の個人的な感覚では1カ月くらいでやるべきだと思います。今回はプロジェクトの準備期間もあって、2〜3カ月の期間になりましたが、決して早いスピード感ではないのではないか、と。

黒木 もっとスピード感は上げられる?

河野 ですね──。実際には、1つのシーズンを終え、次のシーズンパスを販売するとなったときには、特典グッズを決めて、ポスターを決めて……と、山のように仕事があります。そんな時間感覚で仕事をしていますから、正直いえば、慣れている面もあるという感じです。

図3)取材から見えた活動のポイントユーザーに必要とされるサービスづくりに向けて、ver.1の気づきから活動のコンセプトをつくり、ビジネスモデルまでを一貫して描き、検証を行うというプロセスが見えてきた(編集部作成)

黒木 今回は「One to One to Social」という活動コンセプトを掲げました。こうした活動が結果的に地域に何を生み出すか、が大きな意味を持ちます。そのあたり、河野さんはどのようにお考えですか?

河野 「地域に貢献した」といえる指標を確立できるかどうかがポイントなのかなと思います。これが「来場者数」なら、こちらが提供しているものとの相関関係も見出しやすいのですが、「地域にどれだけ貢献できているのか」というのは2〜3年後に成果が見えてくる──。その点でいえば、「行動に変化を起こす」ということの意味は大きく、タオルチケットはまさにそういう種別のものでした。「大分では、試合観戦後にお風呂に行く人が増えた」──。そんな大分県民のみなさんの「行動」に変化の兆しが見えるようになれば、それが1つの指標になっていくのかもしれないですよね。

黒木 なるほど。タオルチケットのようなアイデアもまだまだ発展の余地はあるかもしれませんが、また別のかたちで地域に根ざした「One to One to Social」の取り組みを仕掛けていければ、大分の地に大きな変化をもたらせるかもしれません。本日はどうもありがとうございました。

ボール

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