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資生堂とパルコはなぜSXSWに出展したのか?――特集「創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~」vol.3

2017年05月12日



資生堂とパルコはなぜSXSWに出展したのか?――特集「創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~」vol.3 | あしたのコミュニティーラボ
今年の「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」(会期は2017年3月10〜19日)にも、日本から多くの企業が出展した。電機、IT系の大手企業やスタートアップが中心であるなか、企業ブースである「TRADE SHOW(展示会)」には資生堂とパルコの姿があった。化粧品、そして小売の両社が、なぜSXSWに出展したのか? そこから見えてきた、創発を引き寄せる3ステップとは? あしたのコミュニティーラボ編集部が、次なる事業領域の拡張に積極的な企業・団体の動向を通じて、イノベーション創発までの可能性を考える特集「創発のデザイン」の第3回としてお届けする。

日本企業からも大きな注目を集めるSXSW2017

サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)は、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで開催される。

1987年に音楽祭(SXSWミュージック)として、1994年からは映画祭(SXSWフィルム)を同時開催するようになり、1998年にはSXSWインタラクティブがスタート。無名のスタートアップからテクノロジー業界の大物やキーパーソンが集結し、テクノロジーとアート、映像や音楽、教育の最先端を垣間見せてくれる唯一無二のフェスティバルだ。TRADE SHOW(展示会)には、ここ数年、日本の大手企業からIT系スタートアップ・ベンチャーの出展が盛んになっている。2017年は日本からの参加者が1,200人を超えた。

TRADESHOWには大企業やスタートアップ、ベンチャーによる未来志向のサービスコンセプトやサービスプロトタイプが出展される。完成された商品やサービスを投入されることが多い一般的な展示会と違い、SXSWでは、それぞれの展示者が見据えた未来像やビジョンから導き出されたコンセプト、あるいはその具現としてのプロトタイプを通じて、参加者とインタラクションを行えるのが大きな特徴だ。

今年は特に、日本の大企業の出展が目立った。たとえば、パナソニックとソニーは、最も多くの参加者が集まるメイン会場のそばの中心市街地に建屋1棟を丸借りして、「Panasonic House @ SXSW 2017」「The WOW Factory」をそれぞれ構えていた。


パナソニックが出展した「Panasonic House @ SXSW 2017」(左)と、ソニーが出展した「The WOW Factory」

また、TRADESHOW会場では、経済産業省が進める「飛躍 Next Enterprise」(国内の注目すべき中小・ベンチャー企業として選抜された企業群)のブース展示が行われるなど、日本政府もSXSWに力を入れはじめている。


TRADESHOWの日本ブース。絶えず来場者が訪れ、各ブースに足を止めていた

SXSWの魅力や可能性を探るべく2015年から出展、リサーチを行ってきたあしたラボ編集部が、今年注目したのは、TRADESHOWに出展していた資生堂とパルコの2社だ。化粧品と小売──IT関係企業の出展が多いなかで、両社はなぜSXSW出展に至ったのだろうか。また、そこにはどんな課題や背景があったのだろうか。企業における「イノベーション創発のデザイン」の興味深い事例として、担当者に伺った。

ミッションに立ち返り、新しい領域にチャレンジ

資生堂が出展したプロダクトの1つが、利用者の身体の状態や気分に応じて香りを出し分けられるスマートアロマディフューザー「BliScent(ブリセント)」だ。


資生堂が出展したプロダクト「BliScent(ブリセント)」

「資生堂が培ってきた生物学や薬学のノウハウとテクノロジーの組み合わせに、将来性や創造性があることを感じました」「『欲しい』『いつ出るの』『HPチェックしておくよ』という好意的な声をもらい、一定の需要を感じました」

それぞれ出展の手応えを語るのは、研究推進部の中西裕子さんと宣伝・デザイン部の長崎佑香さんだ。聞くと、このプロジェクトは、研究推進部と宣伝・デザイン部との共同プロジェクトだという。では、どんな問題意識のもとで発足したのだろうか。


TradeShow会場で来場者の応対をしていく。来場者の興味深げな表情が印象的だ(提供:株式会社資生堂)

「実は、宣伝・デザイン部から発足したプロジェクトなんです。この部はその名のとおり、開発される商品に基づいて、デザインをする部門。いわば請負型で仕事を行ってきましたが、テクノロジーの存在感が増しつつあるなかで『このままのやり方でよいのか』という危機感がありました。資生堂は“美しい生活文化の創造”を企業使命として掲げています。これまでは化粧品事業を中心に取り組んできましたが、生活者を取り巻く環境が劇的に変化している今、 “未来の美”を幅広い視点から考える必要があると感じていました」(長崎さん)

化粧品以外で提供できる美とは何なのか──。このプロジェクトは2016年4月に発足。リサーチやアイデアを出し合い、社内で試行錯誤を続けるうちに出会ったのが、香りを含めた資生堂のR&D全般およびベンチャー等の他社保有技術に関する知見を持つ中西さんだったという。

「今回のようなテクノロジーファーストなプロダクトは、日本よりアメリカのほうが文化的に受け入れられるのではないか」「そうだとするならSXSWで試してみたい──」こうしたやりとりを経て、SXSWが1つのマイルストーンとして位置づけられることとなった。


出展は、思いもよらない多様なフィードバックをもたらしたそう(画像提供:株式会社資生堂)

アイデアの具現化にあたり連携することになったのは、ハードウェアやアプリケーション開発を手かげるITベンチャーのドリコスだ。CEOの竹康宏さんは、出展の約4カ月前に行われた初回の打ち合わせで、ラフなプロトタイプを持参したという。事前に「メールで概要を伝えただけ」(長崎さん)だったにも関わらず、いきなりのプロトタイプの登場に、プロジェクトのメンバーは驚いた。ラフであっても形になっていたことは、出展の判断を大きく後押ししたという。

その結果、たどり着いたSXSWの舞台。前述のとおり、参加者から想像以上の反応を得ることができたという長崎さん。上々の手ごたえを掴んだ様子だが、今後の展望についても聞いてみた。

「プロトタイプということもあり、世界に2台しかありません。これから今後の方向性を考えていきますが、そもそも資生堂はこのようなハードウェアやソフトウェアを提供する経験がないので、ビジネスモデルもしっかり考えていきたい」

生活者の共感・参加を促す、新しいプロダクト像を求めて


パルコの出展ブース(提供:株式会社パルコ)

パルコのブースで目を惹いたのは、「IoT プロダクト・フォー・ファッション supported by Booster & Todai to Texas」だ。これはパルコが運営するクラウドファンディング「BOOSTER」を活用した学生ベンチャーの海外挑戦サポートブースで、学生との2つの共同プロジェクトNeko ElectroとMove+を出展している。もともとパルコは、パートナーをインキュベーションし、世のなかに送り出すことを大切にする文化があり、今回もその1つの取り組みとして出展している。一方で、今までの延長線ではないねらいがあるという。

「パルコがパートナーに対して一方的に投資を行い、デザインや機能や価格面でより消費者に訴求できるようなプロダクトをつくり出し、買ってもらうやり方もありますが、それだけでは不十分だと考えています。背景には近年、生活者の消費スタイルのなかに、単にお金を費やすだけの消費ではなく、つくり手の活動に『参加』して『新たな価値を創る』という消費潮流があらわれはじめていることがあります。これまで世のなかになかったプロダクトそのものや、そのプロダクトに込めるポリシーに対して、生活者が共感し、応援したいと感じることができるか。そんな気持ちをもとに、双方がつながり、これまでとは異なる消費のあり方をつくることが重要だと感じています。ひと言で言うならば、生活者参加型商品がキーワードです」

パルコの新規プランニング部クラウドファンディング事業担当の佐藤貞行さんは、出展の背景にある想いをそう語る。

佐藤さんの任務は、パートナーのアーリーステージにおける成長支援だ。今回は前述のクラウドファンディングを活用し、先のNeko ElectroとMove+、2つの出展をサポートしている。3月初旬に開始したクラウドファンディングはすぐに目標額を達成し、手ごたえを掴んでSXSWに乗り込んできた。単なるアテンドではなく、ともにメンバーの1人としてブースの前に立って積極的に来場者1人ひとりに丁寧に説明を行っていく。


現在クラウドファンディング中のプロジェクト。ファッションとフィジカルの新たな関係をコンセプトにしたNeko Electroと、人と衣服の関係をテクノロジーで変えようとする+move。目標金額の166%を達成している

「もともとパルコはパートナーとのイコールパートナーシップを大事にしてきました。ときに効率性を指摘されることもありますが一緒にやることが成長支援につながると考えています。そして、SXSWのような“ウィアード(注:奇妙であれというオースティンのスローガンともいえる英語表現「Keep Austin weird」)”な場に集まってくる方々から得られるフィードバックや知見は、インキュベーション(投資)を行うにあたって宝の山です」

そんなインキュベーションを行う佐藤さんが出展から得られた発見は、プロダクトの表層的なおもしろさではなく、世のなかへ問題提起がきちんとできるか、この1点に尽きるという。

「最も多く受けた質問は『このプロダクトの目的は?(what’s the purpose?)』でした。日本ではあまり聞かれることがない質問です。ここでは、根底に骨太なテーマや『何のためにやっているのか』の提起がないと、会話ができないことを感じました。Neko Electroはファッションとフィジカルの新たな関係、+moveは人と衣服の関係をテクノロジーで変えることを問うものでした」


パルコ出展ブースのメンバーのみなさん。右端奥の男性が新規プランニング部クラウドファンディング事業担当の佐藤貞行さん(提供:株式会社パルコ)

SXSW後は、さまざまなサポートでパートナーとともに成長するための道を模索していくそうだが、最も重視したいのは学生の意思とのこと。イコールパートナーシップという考え方のもと、どのような展開を見せるのか楽しみだ。

資生堂とパルコの挑戦から見えてきた「創発の3ステップ」

この2社の取り組みから、新たなサービスやプロダクトをつくるときに重要となるステップがおぼろげながら見えてきた。それは、「1.問いをつくり」⇒「2.パートナーをつくり」⇒「3.早期に市場と対話をする」という3つだ。全て順序通り必ずしも流れていくというものではなく、活動を進めるなかで行き来するものでもある。この3つを見ていこう。

1. 自社のビジョンに照らし合わせて、新たな問いをつくる

両社のSXSWに出展する背景は異なるものの、自社のビジョンと現状のビジネスを鑑みたときに新たな可能性を模索している。

資生堂の場合は、化粧品以外の“美の可能性”の模索だ。SXSWを通じて「生物学や薬学のノウハウとテクノロジーの新たな関係はどのようなものだろうか」という問いを持っていた。一方で、パルコは“生活者参加型商品”という生活者と商品の新しい関係性のあり方そのものが大きな問いだった。そこから、学生たちとのコラボレーションを通してファッションとフィジカル(Neko Electro)、人と衣服の新たなあり方(+move)を、それぞれテクノロジーを使って生み出すことができるだろうか、という具体的な問いへ落とし込まれ、プロダクトが結実していた。

単におもしろいアイデアを考えるだけではない。その裏側にある、自分たちの軸足ともいえる“問い”があるからこそ、最終的に強いメッセージ性を備えたプロダクトに収斂していくのではないだろうか。

2.ビジョンを分かち合えるパートナーとのコラボレーション

資生堂、パルコともに掲げたビジョンを達成するための手段としてパートナーとともに取り組むという、いわば“オープンイノベーション”手法を採用している。資生堂の場合は、まず社内の研究推進部と宣伝・デザイン部が手を組んでいる。そして外部パートナーとしてITベンチャーのドリコスと組むに至っている。また、パルコは学生とのコラボレーションだ。資生堂の例にもあるように、社外のパートナーとのコラボレーションだけではなく、大企業の場合は、自部署にとってこれまで連携してなかった他部署の存在も「パートナー」と言えるのかもしれない。

着目したい点は2つある。1つは、お互いの強みが活きていること。資生堂の例では、資生堂が持つ薬学や生物学のノウハウと、ドリコスが持つITのノウハウが組み合わさり、アロマディフューザーが生まれている。もう1つは、対等な関係性のもとで取り組んでいることだ。一方的に発注しつくってもらうのではなく、ともに試行錯誤しながら開発し、資生堂、パルコともにTRADESHOWでも一体となって展示を行っていた。

このように同じ時間や空間をともに過ごすことは、自社に新たな風を吹き込むことになり、大手企業にありがちな思考の同質化(硬直)を防ぐことにつながる。つまり、より創発が起こりやすい環境をつくり出していると言えそうだ。

3.コンセプトやプロトタイプの段階からユーザーと対話する

SXSWに集まるものは、未完成のプロダクトやサービスがほとんど。そんな場の特性も活かして、両社はコンセプトやプロトタイプという具体的に目に見えるかたちをユーザー(正確には未来のユーザーになり得る人)と共有して、対話する。潜在的な市場や利用者の課題はもちろん、問いに対する解の探求にも近づけるだろう。自社内だけで完結させ、プロダクトの完成度を十分に担保してから市場に投入したり、完成品の販促活動として出展するのとは異なり、ユーザーとのインタラクションを通じて気づきや学びを得て、問いそのものやプロダクトを洗練化させるプロセスはまさにダイナミックだ。

また、パルコの佐藤さんは、インキュベーションを行う立場でありながら、自ら前面に立ってやりとりをしていた。ともすれば説明員を雇い、その場を効率的に対応するというやり方もある。にもかかわらず、自ら対話に努めるのは、探求すべき問いがあるからこその姿勢、と言えるだろう。身をもってその確かさやプロダクトの有効性を検証できるという価値は、極めて大きいに違いない。

以上が2社から見えてきた、創発を引き寄せるための3つのポイントだ。加えて、SXSWという場が新たな創発を後押ししていることは、ぜひ付け加えておきたい。

SXSWには、多様性あふれる人々が集う。他の展示会と比較しても多様で、著名なアメリカの政府関係者、デザイナーやミュージシャン、研究者・アントレプレナーから、知名度は高くないもののイノベーションの種を持つスタートアップや大企業のなかのチャレンジャーまで、両極端の人が存在する。そのような多様性は、──思いがけないフィードバックを得たり、ふだんとは異なる気づきを得たり、新たなビジネスチャンスをもたらす──創発を加速させるためには欠かせない要素ともいえるかもしれない。

先に紹介した2社は、SXSWで得られたフィードバックをもとに、いかに次のアクションを迅速に組み立てていくのか──。両社の取り組みには、今後も注目していきたい。

多くの企業にとって新しい事業開発やサービスの創造が求められるいま、「創発のデザイン」は今後ますます向き合う必要性を増していくだろう。決まった答えがないだけに、思い悩む企業・担当者も多いかもしれない。あしたラボでは、本特集でそのヒントを探り、これからもみなさんに共有していく予定だ。

執筆:黒木昭博(富士通総研)、武田英裕(富士通)

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