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「ちがいを ちからに 変える街。」のシティプライド──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(前編)

2017年06月05日



「ちがいを ちからに 変える街。」のシティプライド──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
人の生涯にわたるQOL(生活の質)を高めるうえで、理想的なまちづくりのあり方とはどんなものだろうか? それは、区民にとってよりよい暮らしができるまちであると同時に、そのまちに住み続けたいという思い、つまりシティプライドを醸成していくことではないだろうか。

渋谷区はダイバーシティ(多様性)の考え方のもと、教育・福祉・健康・防災・コミュニティー・文化・産業振興……など、あらゆる分野で意欲的な取り組みをはじめている。それが表れているのが2016年に策定した新しい「基本構想」だ。渋谷区ではこの基本構想を絵本のようなハンドブックにまとめたり、その思いを歌詞に託したポップな楽曲を配信したりと、エンタテインメントの発信地ならでは、といえる方法でメッセージ性をもって区民に発信している。区民へそのメッセージを発信した先にどんなまちの姿を思い描いているのか? 長谷部健渋谷区長に前後編で話を聞いた。

QOLを持続的に高める渋谷区ならではのまちづくりとは? ──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(後編)

20年ぶりにつくり直した渋谷区の「基本構想」

──2016年、渋谷区では基本構想をつくりなおし、『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』というキャッチーなスローガンの将来ビジョンを打ち立てました。基本構想には「福祉」「健康・スポーツ」といったQOL向上とも直結する分野で構想を打ち出していますが、それ以上に、基本構想それ自体が区民に主体性をうながすものであり、結果として、QOLを持続的に高めるまちづくりの方針になりそうです。

長谷部 基本構想は自治体の政策理念の最上位にあり、すべての政策がそこへ紐づき、その傘のもとに区政を運営するとても重要なものです。区長に就任したとき(2015年)、基本構想制定からすでに20年が経っていました。「創意あふれる生活文化都市 渋谷──自然と文化とやすらぎのまち」という非常に良いものだったのですが、20年前と今とでは時代背景がだいぶ変わっています。

たとえば、当時は人口減を想定して将来像を描いていました。一時は渋谷区も人口20万人を下回りましたが、ここ5年は増え、現在は22万人超。マンション建設の申請が続いているので、この先も増える見込みです。また、IT革命のこれだけの進展も20年前には見通せなかったし、当然ながら2020年の東京オリンピック・パラリンピックも織り込まれていません。


渋谷区の年別住民登録人口推移。80年代後半から一時的に人口減が進むも2000年あたりから人口・世帯数ともに増加傾向にある(データ提供:渋谷区)

そこで、就任してすぐ新しい基本構想の策定に取りかかり、審議会答申を経て昨年10月に議決しました。スローガンにある通り、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(多様性をエネルギーへと変えてゆくこと)を強く意識したものになっています。

──おかたい行政用語ではなく、やわらかい普段着の言葉でまとめた、カラフルな絵本のような「基本構想ハンドブック」がユニークです。

長谷部 基本構想は重要なのにあまり知られていません。恥ずかしながら僕も区議会議員になるまで読んだことがなかったし、その存在すら知らない区民の皆さんも多いのではないでしょうか。でも、基本構想に紐づく提案なら行政は受けいれやすいわけです。それに、住んでいる人だけでなく、働いている人、学生時代に過ごした人、よく遊びに来る人……など、渋谷にシティプライドや愛着を持っている人は多く、そうした方々もステークホルダーになる。もっと基本構想を広く知っていただくために、体裁をやわらかくし、言葉にも気を遣っています。

みんなが口ずさめるようにと、基本構想のキャンペーンソングとアニメのPVもつくりました。シンガーソングライター・カジヒデキさんが作曲し、女性歌手の野宮真貴さんが歌ってくれた『夢見る渋谷 YOU MAKE SHIBUYA』です。そうした“渋谷系”と称されるアーティストやクリエイターにも渋谷というまちに愛着を感じている人が多く、それが渋谷区の強みの1つ。合唱の課題曲にしたり、運動会で踊れるようにアレンジするなど、20年先にこのまちの主役になる子どもたちにも届けたいです。

マジョリティの意識を変えることが問われている

──そうしたシティプライドや愛着心が生まれる土壌として、ダイバーシティに着目されたのはなぜですか。

長谷部 多様性そのものを否定する人はいないはずです。ただし多様性は理解のしかたが難しい。

違いを認め合うのはわかるのだけれど、それだけなら、各々好き勝手にしているだけ。大切なのはその先の調和で、音楽でいうハーモニーです。音楽はいろいろな音色が混じり合いながらもまとまって、1つの作品になります。多少、違う音を出す人がいたとしても、そこは寛容に「良しとしましょう!」くらいのイメージで捉えるべき。

渋谷区は、そもそも地域的に多様なまちであり、南の広尾から北の笹塚まで繁華街も住宅街も違う顔を持っています。代々木公園や明治神宮の緑地も多い。新しく来る人に対しても寛容なんです。


長谷部健渋谷区長。NPO法人green birdの創設を経て、2003年から渋谷区議を3期務めた後、2015年4月から渋谷区長に。区議時代に同性パートナーシップ条例を提案し、条例は2015年4月1日から施行されている

──2015年4月に施行した、いわゆる「同性パートナーシップ条例」(正式名称「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」)の制定もダイバーシティ推進の一環でしょうか?

長谷部 単純に「LGBTの人たちがつらい思いをしているのはおかしい」という思いが強かったですね。LGBTを意識しだしたのは20歳くらいのときアメリカに行って当事者の方々に会ってから。すると、自分が生まれ育った原宿にも美容師さんや店員さんなど、LGBTの人たちが少なくないことが見えてきたんです。

30 歳を過ぎてgreen bird(グリーンバード)という清掃ボランティアプロジェクトを立ち上げたとき、「体は女性だけれど心は男性」だという、トランスジェンダー活動家の杉山文野さん(株式会社ニューキャンバス代表)に出会い、新宿・歌舞伎町エリアのリーダーになってもらいました。そしたら同じ悩みをもつ人が集まりだした。仕事のできる優秀な人たちが、マイノリティの性的志向をもつだけでつらい思いをしているのを何とかしたい。そう思って区議会議員のとき、企画を練り始めました。すぐ気づいたのは、これはマイノリティ側の問題ではなく、マジョリティ側の意識の変化が求められている問題だということです。

──条例によって意識の変化が進んだ手応えはありますか。

長谷部 実際にLGBTの当事者に会って知らなかったことを知るだけで、人は意識が変わるんですよ。議会で提案したときには、前区長に当事者に会っていただいたし、委員会にも当事者に入っていただきました。これからは当事者から発信していくだけでなく、我々のような立場の人間が“ally”(編者注:当事者でなくてもLGBTのような社会的マイノリティを支援する立場に立つ人のこと、ストレートアライともいう)となって活動したり発信したりしていくことが、とても大事になると思います。条例が可決されて渋谷が注目されだすとますますLGBTを知る機会が多くなりましたから、着実にブレークスルーポイントとなって変わりはじめている実感はありますよ。

同性パートナーシップ条例の施行に代表されるように、「ダイバーシティ」の考えがまち全体に拡がりつつある渋谷区。後編では、そうしたダイバーシティの考え方のもと、福祉・ヘルスケア分野の取り組みを通じて、渋谷区がどのようにQOL(生活の質)を持続的に高めようとしているのか、引き続き長谷部区長に聞く。

QOLを持続的に高める渋谷区ならではのまちづくりとは? ──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(後編)

長谷部健(はせべ・けん)

渋谷区長。1972年東京都渋谷区生まれ。専修大学商学部を卒業後、株式会社博報堂入社。同社を退職後、原宿・表参道のまちで、清掃活動やゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を行うNPO法人green birdを創設。活動は全国60カ所以上に拡がった。2003年、渋谷区議に初当選。以降、3期連続でトップ当選を果たす(在任期間:2003〜2015年)。2015年、渋谷区長選挙に無所属で立候補し、2万5,000票以上を集めて区長に当選。2015年4月より現職。著書に『シブヤミライ手帖』(2005年発行、木楽舎、ハセベケン名義)がある。


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