Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

QOLを持続的に高める渋谷区ならではのまちづくりとは? ──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(後編)

2017年06月05日



QOLを持続的に高める渋谷区ならではのまちづくりとは? ──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
東京都渋谷区は基本構想を軸に、独自の進化を遂げようとしている。なかでも「福祉」「健康・スポーツ」という、区民のQOLとも直結する分野においては、前編でもうかがったダイバーシティ(多様性)の考え方を存分に盛り込んで「超福祉」を推進したり、「渋谷の特性を活かしたスポーツ振興」も意欲的に推進したりしている。これらの施策により実現をめざす「QOLを持続的に高めるまちづくり」とは? 引き続き、長谷部健渋谷区長に話を聞いた。

「ちがいを ちからに 変える街。」のシティプライド──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(前編)

マイノリティとマジョリティが混じり合う「超福祉」

──マジョリティの意識を変えるべく、いわゆる「同性パートナーシップ条例」(正式名称「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」)を制定したというのが、前編のお話でした。それは渋谷区の福祉に対する取り組みにも通じる姿勢ですよね。渋谷区は、以前「あしたラボ」でも取材したNPO法人ピープルデザイン研究所の須藤シンジさんと連携し、福祉の世界を「カッコいい」「カワイイ」「ヤバい」などの切り口で捉える「超福祉展」を開催しています。

長谷部 頭でわかるよりエモーショナルに感じたほうが動きやすいじゃないですか。かつてNPO法人green bird(グリーンバード)を立ち上げたのは、ボランティアの敷居を下げたかったから。「みんなでまちのゴミ拾いをするのはカッコいいし、クールだし、面白いんじゃない?」と呼びかけ、誰でも気軽に体験できるようにしました。須藤さんも福祉の世界を明るくしようとしているわけで、当時は「同じことを考えている人がいるんだなあ」と思って一緒に活動しはじめました。「超福祉」ですから、今までの福祉の取り組みは続けながらも、さらにその先へ踏み出していく発想で、テクノロジーも「超える」ための大切な要素だと思います。


超福祉展(正式名称「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」)で、スタイリッシュな車いすで渋谷のスクランブル交差点を渡ろうとする参加者たち(写真提供:ピープルデザイン研究所)

──アスリート向けの義足など、ハンディキャップのある人が先んじて身体拡張的な世界を体験できるテクノロジーも「超福祉」の発想ですね。

長谷部 もっと身近な領域でも、たとえば腰を傷めずに介助できるパワードスーツのようなものが運送や引越の仕事でも使えるなど、福祉の要請から生まれたテクノロジーが広く浸透していく時代が来るはずです。単なる補助器具というより、装着していることがカッコいいと感じられる機能拡張器具──。そうしたツールの普及も、従来の「手を差し延べる」だけの福祉を超えて、マイノリティとマジョリティが混じり合っていきいきと暮らせる社会の可能性を開きます。


長谷部健渋谷区長

長谷部 green birdの活動で表参道を知的障害児と一緒に掃除したとき、黙々と集中して作業する子もいれば、ふらふら遊び回る子もいて、本当にさまざまでした。そういう当たり前のことがわかっただけでも収穫だったのですが、あるお母さんから「ありがとうございます」と涙ながらに感謝されました。

「いえいえ、一緒に掃除しただけですから大げさですよ」と言ったら「15年育てて、わが子がはじめて社会の役に立つところを見ました」と──。それがズシンと心に刺さりました。まちに出てみんなと「混じり合う」ことも超福祉なんだと思います。

──基本構想で提唱されている「共助ネットワーク」とは?

長谷部 地域、趣味、世代、子育てなど、つながるきっかけごとに多様なコミュニティーがあってしかるべきです。コミュニティーが希薄になっているといわれますが、SNSの隆盛を見ればわかる通り、誰もがつながりを求めています。しかしバーチャルなつながりだけではなく、ぬくもりのあるリアルなつながりが大切で、地域スポーツやボランティア活動など、そのチャンスはたくさんあるはず。つながりを強くすることで助け合いのネットワークを広げられます。

地域住民の工夫しだいで「まちなかが運動場」へ

──基本構想は7つの分野にスローガンが掲げられていて、たとえば今うかがった「福祉」の分野では「あらゆる人が、自分らしく生きられる街へ。」でした。さらに「健康・スポーツ」分野には「思わず身体を動かしたくなる街へ。」とあります。健康や運動の分野で「渋谷区ならでは」といえる具体的な施策は何ですか。


渋谷区基本構想にある7分野のスローガン

長谷部 渋谷区全体を15平方キロメートルの運動場と考えてもらいたいんです。地方行政でスポーツ振興といえばグランドや体育館の建設、となるのでしょうが、渋谷区にそんな土地はないし、あったとしても保育園や特別養護老人ホームのほうが優先順位は高い。

そこで発想を変え、まち全体を運動場と考えれば、大通りを歩行者天国にするのは難しくても、仮に住宅街の向かい5軒ずつくらいが結束したなら、日曜日の午前9時から午後12時まで一定の街路を自動車通行止めにし、子どもたちがキャッチボールしてもいいことにする──。そうした工夫も地域の人たちの取り組み次第で可能かもしれません。

基本構想には「思わず身体を動かしたくなる街へ。」といったキーワードをさまざまな領域でちりばめたつもりですので、これをヒントにし、行政だけが考えるのではなく、住民の皆さんにもどんどん提案いただきたいです。

──えてして若いうちは自分の健康にあまり気を遣わないものです。しかしヘルスケアやスポーツは、病気の発症を予防し、将来のQOL(生活の質)を高めるための自己投資でもあり、その結果として健康寿命が伸びれば医療費の抑制という社会的価値にもつながります。そうして「自分ゴト」から「社会ゴト」へ地続きにならないかと、あしたラボの特集でもたとえば「予防歯科」の啓発に取り組んだりしています。こうした課題についてはいかがですか。

長谷部 まさにそうで、健康なら自分も気持ちいいし、医療費の削減にもつながる。そんないいことづくめのサイクルを推進していきたい。僕自身、30代の10年間はスポーツから離れた“失われた10年”でした。でも40歳からまた走ったり泳いだりすると、体を動かすっていいなあ、とつくづく思います。

体力がついて元気が出るし、食事もお酒もおいしくなるし、楽しいことが増える。いろいろなデータを見ると、日本人は学生時代の部活を卒業したらスポーツをやめてしまう傾向が強いようで「どうやって継続するか」が課題ですね。

見過ごしていた身近な公園がQOLを高めてくれる

──ご自身がスポーツを再開されたきっかけは何だったんですか。

長谷部 40歳になったから。10年間サボっていた分を取り戻そうと思いました。あとは代々木公園が近くにあったことが大きいですね。朝の代々木公園のランニングは最高ですよ。アスファルト際の土を走るコースがランナーによって“けもの道”みたいにつくられている。最初の1〜2カ月は「こんなはずじゃない……」とやきもきしてつらかったのですが、無理せず気持ちのいいペースに落として走り続けていたらおのずとタイムも伸びていきました。


空から見た代々木公園エリア。代々木公園や宮下公園など、きれいな公園が多いことも渋谷区の特徴。渋谷区生まれの長谷部区長自身が「10年間サボっていた」というスポーツを再開させるきっかけにもなった

──ヘルスケアやスポーツを通じて持続的に人々のQOLを高めるためには、どんな仕掛けが必要だとお考えですか?

長谷部 健康や運動に関心のない人はいないと思います。ただ、それができる環境がまわりにあることに気づいていないだけ。まさに僕もこのまちに45年生きているくせに、子どものころ遊び場にしていた代々木公園の運動場としての価値をすっかり忘れていたんですから。だからというわけではないのですが、議員になったとき代々木公園西門の近くに「禁止」の立て札がない「なんでもしていい」公園をつくりました。いま泥んこまみれになって子どもたちが遊んでいます。ウォーキングなら明治神宮なんて最高だし、恵まれている環境をぜひ享受していただきたいですね。

──福祉や健康の分野に限らず、自分に良いことが社会を良くすることにもつながる、という無理のない道筋をつけることが、基本構想でも強調されている住民の社会参画を進めるもっとも有効な手段だとすると、「渋谷区ならでは」といえる可能性はどんなところにありますか。

長谷部 渋谷区基本構想キャンペーンソングのタイトル『夢見る渋谷 YOU MAKE SHIBUYA』は「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を実現するためのキーワードであり、「夢見る」とは「みんなでつくる」ということ。だから区民にも渋谷で働く人にも、みんなに呼びかける言葉にしています。

今までのように行政へ陳情や依頼をするばかりではなく「みんなでつくる」方法を考えたいですね。たとえば、自らやりたいことをやるために企業の協力や、クラウドファンディングなどで資金を集め、区民が汗をかき、行政が後押しをして、NPOがステークホルダーをつなげる、といったしくみをつくれるはずです。そこへ渋谷ならではの優位性であるアートやファッションなどクリエイティブなクォリティの高さを取り込むことで、マジョリティの意識変化につなげたい。基本構想をベースにしてすでに蒔いている種もあれば、これから共に育てていく芽もあり、これから取り組みのパターンも多種多様になると思っています。

「ちがいを ちからに 変える街。」のシティプライド──渋谷区長 長谷部健さんインタビュー(前編)

長谷部健(はせべ・けん)

渋谷区長。1972年東京都渋谷区生まれ。専修大学商学部を卒業後、株式会社博報堂入社。同社を退職後、原宿・表参道のまちで、清掃活動やゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を行うNPO法人green birdを創設。活動は全国60カ所以上に拡がった。2003年、渋谷区議に初当選。以降、3期連続でトップ当選を果たす(在任期間:2003〜2015年)。2015年、渋谷区長選挙に無所属で立候補し、2万5,000票以上を集めて区長に当選。2015年4月より現職。著書に『シブヤミライ手帖』(2005年発行、木楽舎、ハセベケン名義)がある。


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ