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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

ビジョナリーが描く“パラダイムシフト”と、“未来のつくり方”

2017年06月02日



ビジョナリーが描く“パラダイムシフト”と、“未来のつくり方” | あしたのコミュニティーラボ
福島県のスキー場(アルツ磐梯)で行われたFUKUSHIMA Hackathon 2017には、今年も日本を代表する専門家が集い、ハイコンテクストなセミナーが開かれていた。医療、社会変動やAI(Artificial Intelligence)にまつわる未来予想図──。果たして、彼らが注目するパラダイムシフトとは? これからイノベーションを志す人々がおさえるべき「未来のつくり方」のヒントを探るべく、編集部は現地を訪問した。ビジョナリーからの声に、大いに考えをめぐらせてほしい。

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「未来」を感じられるセミナー

これまでレポートを重ねてきた、初春のアルツ磐梯スキー場で行われるハッカソン(2015年2016年)。今年は「医療 × AI・IoT・ブロックチェーン」をテーマに、FUKUSHIMA Hackathon 2017と題して行われた。開発者の傍らでは、インスピレーションの起爆剤となるセミナーを並行開催。「EUのデータ越境問題」から「超知能」まで、濃密な「知」の時間が流れた。

〈セミナープログラム一覧〉
・講演「超知能の作り方」松田卓也(神戸大学名誉教授)

・講演「Privacy ShieldとSafe Harbor(の秘密と嘘):EUのデータ越境問題」高間剛典(メタ・アソシエイツ代表、ITセキュリティ・データプライバシー・コンサルタント)

・講演「ブロックチェーンのハイパープロジェクト」武宮誠(ソラミツ株式会社)

・講演「【Before Singularity】複雑化する社会におけるイノベーションの理想 〜現状の政官民の取り組みから人類の挑戦まで〜」東博暢(株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 主席研究員/融合戦略グループ長)

・パネルディスカッション「医療におけるIoT、AI、ブロックチェーン 〜 モノがモノを超える時 〜」笹原英司(特定非営利活動法人ヘルスケアクラウド研究会理事)、高橋郁夫(駒澤綜合法律事務所所長、弁護士)、鎮西清行(産業技術総合研究所 健康工学研究部門 副研究部門長)、モデレーター:東博暢

・講演「VR/AR/MR/HologramとMed-techトレンド」杉本真樹(医師/医学博士、国際医療福祉大学大学院准教授)

さまざまなテーマで「未来」が語られたセミナー

一流のスピーカーは聴講者としてもまた、真剣な眼差しで話に聞き入っていた
さまざまなテーマで「未来」が語られたセミナー(上)。一流のスピーカーは聴講者としてもまた、真剣な眼差しで話に聞き入っていた(下)

どのセミナーでも共通に語られていたのは「未来」のこと。医療や社会動向、AIといった領域の近未来について、ビジョナリーたちはどんな予想図を描いているのか。ビジネスパーソンは、どのようにして未来をつくっていけるのか。私たちは、そんな疑問をスピーカーのみなさんにあらためて問いかけた。

「医療⇒診断+治療」の先にある未来とは?

まず、外科医として医療の現場にしっかりと軸足を置く杉本真樹さんに、「未来」に至るにあたっての目の前の課題を問うと、「医者と患者のリテラシーのギャップを埋めることが大切です」と即答した。

国際医療福祉大学大学院で准教授を務める杉本真樹さん
国際医療福祉大学大学院で准教授を務める杉本真樹さん

杉本さんは、VRや3Dプリンターを医療の現場で活用したパイオニアであり、2014年にAppleが発表した「世界を変え続けるイノベーター30名」に選出された人物だ。医師にしかできない医療以外のことを見出し、病院という聖域に囲われた医療情報の解放を図っている。

「大学にいたり、病院にいたりすると、どうしても収益や論文をあげることが目標になっていく。それで誰かを助けられたとしても、病気が治ってよかったね、というところで止まってしまう。もちろんそれはとても尊いことですが、僕はもっと患者さんの向こう側を見ていたいと思ったんです。要するに、患者さんが回復したあと、社会復帰したその先を見たい。その人がただ回復するのではなく、前よりも活動的になれるようなケアをしていきたいし、もっといえば、再び病気にならないことがなにより大切なことだと考えています。その答えは、病院の外にある──そう思って起業したんですよね」

杉本さんは、株式会社Mediaccel共同創業者/代表取締役CEO、HoloEyes株式会社の共同創業者/取締役COOも務めるイノベーター。着用しているのは「HoloEyes VR」という3D化した人体構造を直感的に体感できるVR/ARデバイスだ
杉本さんは、株式会社Mediaccel共同創業者/代表取締役CEO、HoloEyes株式会社の共同創業者/取締役COOも務めるイノベーター。着用しているのは「HoloEyes VR」という3D化した人体構造を直感的に体感できるVR/ARデバイスだ

鍵となるのは医学知識、医療技術、医療健康情報の共有と、そのためのグローバルなインフラ環境の構築だ。杉本さんはそれを「医領解放構想」と名づけ、あらゆる意味でボーダレスな医療を目指している。

「その先に想定されるのは、患者の方々にとっても有益となるシステムです。たとえばCT(コンピュータ断層撮影)データ。現状カルテの保管期間は5年なので、普通は5年後にはすべて破棄されている。けれどもデータのなかには大変貴重な症例もある。それを破棄するなんてもったいなさすぎるでしょう? だったら個人情報を個人情報ではない形にして、患者本人がそのデータを売ることのできるようにしたらいい。たとえば3Dモデルに置き換えたデータなら問題ないかもしれない。おそらく個人情報保護法の改正が障害になってきますが、本人が同意しているか否か、そのデータが本人と紐づけされないか、この2つを明確にできれば、充分クリアできると考えています」

病気にかかったとき治療するだけでなく、そこで得た自身のデータを患者の側が活用することができる。治療に臨む際にも自分に合った条件でソートをかけてより的確なシミュレーションを行うことができる。そんな「未来」をつくることで、病気から目を逸らすのではなく、積極的に向きあっていく豊かな健康社会が実現する、と杉本さんは考えているのだ。これは「医療=治療」という既存の概念の先にある、医療の未来の1つのカタチといえるだろう。

AIが浸透したあとの社会システムを想像できるか?

短期的に見たときには、やはり2020年の東京オリンピックが、「未来」へ進む大きな契機になっていく。そう語るのは日本総研の東博暢さんだ。

株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 主席研究員の東博暢さん
株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 主席研究員の東博暢さん

近年は科学技術の商業化を推進するオープンイノベーションプログラムを政府とともに運営するなど、新たな社会システムの構築に取り組んでいる東さんは、未来に向けて何より「AIが浸透した世界を明確にイメージすることが重要だ」と話す。

IoTの浸透によって私たちの生活から吸い上げられた情報が相互に連動するようになれば、その膨大な情報を、AIを使っていかに解析していくかがキーになる。しかし、誰もが当然のように語る「AIが浸透した世界」というものをイノベーターたちがしっかりとイメージできているのかといえば、そうではないのではないか──そんな問題意識が東さんの根底にある。

だからこそ、オリンピックに向けてさまざまな分野の人間たちが短期間で開発を進めるこの時期に、そうした「未来」について丁寧に考え、鮮明なイメージを描いていくことが、日本社会全体が新たなフェーズへ向かうために必要なアプローチだろうと考えていた。

「おそらく、これからの人間は、テクノロジーを使ってさらに新しい領域へ進んでいきたいと考える人たちと、原点回帰のように里山に戻って生活をしたいと考える人に分かれていくことになるでしょう。日本に限っていえば、人口も減っていきますから、コミュニティーのサイズもどんどん小さくなっていく。もはや都市に人が集まるのではなく、趣味や思想が近い人たちが集まって、自分たちに適した場所に小規模のコミューンをいくつも形成していくことになるのではないでしょうか。世界のインフラはすでにおおよそ平準化されてひと通り便利な世のなかになったわけですから、あとはもう、みんな好きなように生きたらいいわけです」

海外を含めた政府、民間を問わずイノベーション戦略支援や法制度・ガイドライン策定に広く携わる東さん。あしたラボには昨年もご登場いただき、イノベーションのエコシステムを語っていただいた
海外を含めた政府、民間を問わずイノベーション戦略支援や法制度・ガイドライン策定に広く携わる東さん。あしたラボには昨年もご登場いただき、イノベーションのエコシステムを語っていただいた

こうした社会構造の変化を後押しする予兆は、金融資本主義や民主主義の変化にも感じ取れる、と東さんはいう。

ネットの介在によって新しい資本主義が確立されていったとき、いったいどんなものに価値が見出されていくのか。贈与経済やベーシックインカムの核心にもつながる話だが、社会システムとして最低限の生活が確保できたときに果たして人間は残りの時間をどう楽しむのか──その先に生まれるものに東さんは期待を寄せている。

「結局のところ、人間にいちばん大切なのはクリエイティブに生きていくことでしかないと思うんです。AIに任せられるところを任せて仕事がなくなったとしても、人間はきっとまた新しい仕事をつくっていく。新しい未来のカタチは、そんなマーケット・ポテンシャルをいかに見出せるかにかかっているのではないでしょうか。願わくば、そこに若い人たちが集まって、各々で生きやすい社会をつくってくれたら、と思いますね」

新しい世代の台頭に対して、東さんは楽観的だ。

「今、大人である僕らはインターネット以前も以後も知る、時代の端境期を生きてきました。しかし、これからインターネットが当たり前にある時代に生まれた子たちがつくりだす未来がやってきます。そうした子たちの原風景はおそらく里山ではない。若いころニコニコ動画にハマっていたな、とか、そんなネット上での体験が原風景になっていくのかもしれない。2016年に『君の名は。』や『シン・ゴジラ』がヒットしたのも、そういう感覚の子たちがシンパシーを抱ける要素があったからだと思うんです。結果的には大ヒットとなりましたが、根っこの部分は資本主義的というよりは共感経済/シェアリング・エコノミーに近いニュアンスで広がった。つまり、共感クラスタの大きさに合わせて商品がつくられ、そこに行きわたれば本来は充分というような循環型経済がそこに構築されたのです」

シンギュラリティの前に存在するチャンス、未来のつくり方

東さんがイメージする社会システムの先に、より明確な未来像を思索しているのが宇宙物理学者・理学博士の松田卓也さんだ。

神戸大学名誉教授の松田卓也さん。専門は宇宙物理学だが、近年は人工知能研究に力を注ぐ
神戸大学名誉教授の松田卓也さん。専門は宇宙物理学だが、近年は人工知能研究に力を注ぐ

人類が2045年に迎えるであろうとされているシンギュラリティ(技術的特異点)に対して、前段階であるプレ・シンギュラリティがあると見据える松田さんは、Eyes,JAPAN代表取締役の山寺純さんとの対話で次のように語った。

「シンギュラリティについて考えるとき、みなさんは人間を凌駕するAIが現れて、人間と対立するとか、支配されるかもしれないとか、すぐにそんな話をするわけですが、僕はそうは考えていません。少なくともそこに至る前に、人間とコンピューターが一体となって、人体そのものが次の段階へ進む過程があるでしょう。それが僕の考えるプレ・シンギュラリティです。 AI分野の権威であるレイ・カーツワイル流にいえば、チューリングテスト(その機械が知的であるかを判定するテスト)をパスする人工知能ができる2029年にそれは訪れるということになるのですが、いずれにしても、そのような目標/指針を立てることこそが、『未来』にアプローチするうえで重要だということは確かです」 

山寺さんと松田さん

この言葉を受けて、山寺さんが続ける。

「旗を立てる人がいると、そこに頭脳が結集するんですよね。カーツワイルのすごいところも──論を発表した2005年の時点で、彼自身それがどこまで実現可能だと思っていたのかはわからないですが──その旗を立てたことだと僕は思っています。その旗のもとにさまざまなテクノロジーを持った人間が有機的に集まり、もしかしたらいけるんじゃないかというムーブメントが起こったことで時代が加速した。何かが実現する瞬間というのは、そういうことが起こるものなんですよね」

株式会社Eyes,JAPAN代表取締役の山寺純さん
株式会社Eyes,JAPAN代表取締役の山寺純さん

実は、山寺さんがハッカソンを続ける理由もそこにある。 

“How to Change the World Over the Weekend(いかにこの週末で世界を変えるか)”とは、サンフランシスコの有名なヘルスケアハッカーFred Trotterのスローガンであり、山寺さんが本人に特別に許可をとってFUKUSHIMA Hackathonでも掲げている言葉。この旗のもとに集結した頭脳たちが引き起こす化学反応を待っているのだ。

FUKUSHIMA Hackathon 2017アプリ・サービス部門の優勝決定の瞬間のひとコマ。多様性に満ちたメンバーだからこそ、生まれるアイデアやアプローチには可能性がある、と山寺さんは言う
FUKUSHIMA Hackathon 2017アプリ・サービス部門の優勝決定の瞬間のひとコマ。多様性に満ちたメンバーだからこそ、生まれるアイデアやアプローチには可能性がある、と山寺さんは言う

「FUKUSHIMA Hackathonは、医療系ハッカソンですが、参加者のほとんどは医療のバックボーンがありません。でも、だからこそ、そこからゼロベースで考えて新しいものをつくっていける。そのアプローチは間違っていないと僕は思っています。当然失敗もあるし、くだらないものもたくさんできるけど、ミュータントのように突然変異的なものがいきなり生まれることがある。その瞬間のために、続けているといっても過言ではありません。世のなかでは、この十数年でいろんな出来事が起こっていきます。CRISPR /Cas9(近年判明したゲノム編集技術)のような遺伝子操作や、ロボティックス、AIプログラミングの進化などが同時多発的に起こり、そのすべてがつながっていく。きっと、いつのまにか『未来』になっていると思いますよ」

松田さんと山寺さん

山寺さんの想いを聞き、松田さんは深くうなずく。

「ウィリアム・ギブスンが1993年のインタビューで語った有名な言葉に”The future is here, it’s just not evenly distributed yet(未来はすでにここにある、ただまだ均等には行き渡っていない)”というものがあるけれど、まさしくそういうことなんですよね」

「計画されたカオス」に、未来を描くヒントを見る

最後に、未来に向けての課題や、アプローチのヒントを各々に問うた。

杉本さんは「いかに情報をモチベーションに変換していくかが鍵」と語る。「すべての変化は受け入れないとはじまらない」と断言したのは東さん。松田さんは、「テクノロジーの進歩に合わせて、社会体制を変えていかなければならない」と論じた。

そして、山寺さんは、自らがつくりあげたFUKUSHIMA Hackathonの経てきた時間に想いを馳せながら、「常に異物を取り入れていくことが大切だと考えています」と答える。

「ウイルスや生物の進化の過程を振り返ってもそうですが、異物を取り入れたものこそが生き残り、進化する。たとえば、医療系の人たちにとっては、今回セミナーで講師のみなさんからお話しいただいたAIやEUのデータ越境問題の話なんて異物も異物で、下手したら劇薬といえるものかもしれないのですが、でも、それを取り入れてでも前に進む──これがわれわれが歩むべき道だと思っています。そんななかで僕のような人間がやるべきことは、計画的にカオス状態を起こすことです。たとえるなら、水を火にかけてボコボコと煮立たせているような状態に場をつくること。ただのアナーキズムからはなにもはじまらないけれど、構造化されたカオスは時代の刺激となる。それを生み出し続けることが、世界が未来に向けて進化していくためには必要なのだと思っています」(山寺さん)

「未来」とは、膨大な情報から自分なりの世界のありさまをイメージする力だ。各々が思い描くイメージが重なり、共鳴し合うことによって次の世界が形成されていく。自らも主体的に未来に関わりたいなら、まずいま自分が生きる世界についてより多くを知る努力をし、そこにすでにあるはずの明日を見出していくことが大切だろう。

【特集】創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~


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