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過疎化の進む田舎町を日本の最先端にする方法──鹿児島県「共創のまち・肝付プロジェクト」(前編)

2017年06月07日



過疎化の進む田舎町を日本の最先端にする方法──鹿児島県「共創のまち・肝付プロジェクト」(前編) | あしたのコミュニティーラボ
お年寄りがスマホを片手にまちを歩き、徘徊する認知症高齢者を捜索する──。そんな徘徊模擬訓練が鹿児島県の東南部にある肝属郡肝付町の新富(にいとみ)地区で実施されている。JAXAのロケット発射台と観測所がある地域として有名な同地は、2015年から、製品開発・研究の実証の場として企業・大学・市民にフィールドを提供する「共創のまち・肝付プロジェクト」としても全国の注目を集め、産官学民協働によるさまざまなプロジェクトが進行している。テクノロジーを活用したまちの「未来づくり」のプロジェクトの様子を通じて、生活に寄与するテクノロジーの在り方を考えた。前後編でお伝えする。

世話してあげたくなるロボットが限界集落を救う!?──鹿児島県「共創のまち・肝付プロジェクト」(後編)

健康・交流イベントに実装された徘徊模擬訓練

2017年3月も終わりにさしかかった週末。鹿児島県肝属郡肝付町の新富(にいとみ)地区にある農林業体験交流センター・高山やぶさめ館で「ハッピーコミュニティ新富ウォーキング大会」が開催された。

これは住民組織・新富コミュニティ協議会(2015年7月22日設立)が主催する、健康促進・交流を目的としたイベント。ウォーキング、体力測定、ゲーム大会などのさまざまなプログラムが企画されている。

このイベントが単なる地域交流イベントと趣向が異なるのは「迷い人を探せ」と題したプログラムが盛り込まれている点だ。これは、認知症高齢者を捜索する徘徊模擬訓練を指す。

厚生労働省によると、2025年、認知症患者数の将来推計は日本国内で730万人に達すると言われ、これは「65歳以上の5人に1人が認知症になる」という状況を示している。肝付町はすでにその問題に直面し、2016年に肝付町で発生した徘徊による行方不明者は3名に。うち1名は残念ながら死亡で発見され、いまだ行方不明の方も1名いるという。

地域住民がチームを編成し、捜索班となった。ルート途中で徘徊者役の女性(左から2番目)を発見
地域住民がチームを編成し、捜索班となった。ルート途中で徘徊者役の女性(左から2番目)を発見

「迷い人を探せ」では住民を複数のチーム(捜索班)に分け、新富地区内の任意の場所までバスで配送。捜索班はスマホアプリを使いながら、GPS搭載のビーコンを携帯した「徘徊者役」を捜索する。やぶさめ館の多目的ホールに設けられた捜索本部でも徘徊者の居場所を調べ、現地捜索班と情報伝達訓練も行った。

肝付町では認知症高齢者を捜索する徘徊模擬訓練をこれまで7回実施してきたが、地域の公民館の館長として住民自治・地域防災の活動に携わっている一松順一さんは「人海戦術だけではどうしても対応できない部分がある」と話し、ITを活用した解決策に大きな期待を寄せている。

地元警察も参加した徘徊模擬訓練の捜索本部。本部でも徘徊者の居所を示すマップが投影され、携帯電話で捜索班と相互に連絡をとりながら、行方を追った
地元警察も参加した徘徊模擬訓練の捜索本部。本部でも徘徊者の居所を示すマップが投影され、携帯電話で捜索班と相互に連絡をとりながら、行方を追った

また、このプログラムはIT企業が実証実験を行う場でもある。今回参加したのは、東京都港区浜松町に本社を置く株式会社LiveRidge。同社が開発した認知症高齢者の見守り捜索クラウドサービス「LiveAir」を用いた徘徊模擬訓練は、2016年12月1日のトライアル以来2回目となる。

LiveAirで用いられたビーコン。無線通信技術にはLPWA(Low Power、Wide Area)が用いられており、これを徘徊者が携帯していることで捜索ができるようになる
LiveAirで用いられたビーコン。無線通信技術にはLPWA(Low Power、Wide Area)が用いられており、これを徘徊者が携帯していることで捜索ができるようになる

「見守りや徘徊捜索などのソリューションが、いまだきちんと整備されていないなか、技術とユースケースの相性がとてもマッチしていると考えています」。そう話すのはLiveRidge代表の澤和寛昌さん。自社で開発したLiveAirの実証フィールドを探しているなかで、肝付町役場の職員と出会った。

「技術面にはまだ課題があるかもしれませんが、2回の徘徊模擬訓練で有効性が確認できました。あとは本当にユーザーに使ってもらうためのサービスとして、ユーザビリティを高めるなど対策を講じていきたい」(澤和さん)

写真左が株式会社LiveRidge代表の澤和寛昌さん。一松順一さん(右)は「山登りでいえばまだまだ1合目の段階。2回の実験で技術的な課題が見えてきたので、それがクリアされれば、3合目、4合目を目指せるようになる」と話す
写真左が株式会社LiveRidge代表の澤和寛昌さん。一松順一さん(右)は「山登りでいえばまだまだ1合目の段階。2回の実験で技術的な課題が見えてきたので、それがクリアされれば、3合目、4合目を目指せるようになる」と話す

高齢化率40%、肝付町の課題

2005年7月、肝付町は高山町と内之浦町が合併して誕生した。合併当時1万8,000超だった人口も、1万5,927人(2017年3月末現在)と減少傾向を示す。高齢化率は39.5%にのぼり、日本の平均値(26.7%、2016年版高齢社会白書より)を大きく上回っている。

そんな肝付町で「共創のまち・肝付プロジェクト」がスタートしたのは2015年7月のこと。これは、肝付町の土地を製品開発・研究フィールドとして都市部の企業・大学・市民に提供しようとするもので、先の徘徊模擬訓練もその1つの事例といえる。

なぜ、肝付町という土地で「共創のまち」が宣言されたのか──。それは、現在肝付町役場の企画調整課で働く2人の職員の働きが大きい。

その1人、肝付町役場の中窪悟さんは、企画調整課で情報政策を担当する。

「肝付町役場に入ってしばらくは建設課や水道課の仕事をしていましたが、自分自身は小さい頃からプログラミングとかが好きで、それこそMSX(編集部注:1980年代初頭から販売された、拡張可能な家庭用のホームコンピュータ)の頃からパソコンをいじっていました。それもあったから、あるとき役場内で異動希望が募られたときに、情報政策に携わりたいと申し出たんです。情報政策係として役場内の情報システム整備といったこと以上にやりたかったのが、ブロードバンドの整備。それがあるところとないところでは、どうしたって格差が生まれますから」(中窪さん)

肝付町役場の中窪悟さん(写真右)。今回の徘徊模擬訓練でも澤和さん(写真左)とともに技術的な課題を洗いざらいにしていった
肝付町役場の中窪悟さん(写真右)。今回の徘徊模擬訓練でも澤和さん(写真左)とともに技術的な課題を洗いざらいにしていった

こうして肝付町は、町内全域に総延長306kmの光ファイバー網「はやぶさネット(肝付町ブロードバンド)」を整備・運用した。2011年6月のことである。

一方、企画調整課の参事兼保健師である能勢佳子さんはその当時、1人の保健師としてまちの課題を肌で感じ、なかでも高齢化が進む集落で高齢者の見守りができなくなっていることは喫緊に解決すべき課題だった、と振り返る。

「集落から人が減り、空き家が頻出するごとに隣近所が遠くなる。これまで自然と見守り合いができていた地域なのに、それができなくなっていました」(能勢さん)

IT活用も福祉器具と同じ「できなくなったことを補うもの」

2011年6月の光ファイバー整備を機に、肝付町では地域包括支援センター機能強化事業として、役場や社会福祉協議会、病院施設などと高齢者の住宅をつなぐテレビ電話32台が整備された。ここで能勢さんはITの力を目の当たりにした。

「ブロードバンドでITのインフラが整うなんて聞いても、私にはさっぱりわからなかったのですが、実際にインフラの“蛇口”ができたことで、高齢者同士の見守り合いが自然とできるようになっていきました。90代のおばあちゃんなんかでも、日常的にテレビ電話を使いこなしてしまう。しまいには『あんたんちは近所に息子さんがいてうらやましい!』なんて、おばあちゃん同士の女子トークが繰り広げられるほど(笑)。できなくなったことを、なんらかの道具なりで補う──それは福祉用具も同じことで、ITの力ってこういうことなのかとこのとき実感しました」(能勢さん)

肝付町新富地区の限界集落。場所によっては、“高齢化率90〜100%”の超・限界集落も点在するという
肝付町新富地区の限界集落。場所によっては、“高齢化率90〜100%”の超・限界集落も点在するという

その後、能勢さんは企画調整課に異動となった。今から3年ほど前のことだ。能勢さんと中窪さんの席がたまたま向かい合わせになり、中窪さんはITに詳しい情報政策担当者として、ブロードバンドが整備された先にある肝付町の未来を、能勢さんは過疎化の進むまちの暮らしの実体を知る保健師として、住民の暮らしの未来を語り合った。「住民の暮らしにそれだけ課題があるならば、どんどんITの実証フィールドとして開放しよう」──。「共創のまち・肝付」は2015年、こうして口火を切ったのだった。

肝付町役場の能勢佳子さん。「テレビ電話導入のときの体験が大きかった」と話す
肝付町役場の能勢佳子さん。「テレビ電話導入のときの体験が大きかった」と話す

能勢さんには、テレビ電話を導入したときの、1つの記憶が今でも残っているという。テレビ電話を導入した集落の長が、能勢さんにこんなことを話してきたのだ。

「もうこの集落はなくなっていくし、自分にはその覚悟もできている。そんな場所に国のお金を投じてもらうなんて申し訳ない気持ちでいっぱいで、お金を投じるならば、もっと違うことに使ってほしい」。その言葉に、能勢さんは真っ向から反論したという。

「そうではないんだよ。ここで試したことは、絶対に日本中の他の地域でも活かせるものになる。だからどんどん使って、何か感じたことがあればどんどん意見も言ってほしい。それを聞かせてくれれば、私が同じ課題に直面している地域に行って、そのことを伝えるから」。実際、能勢さんは全国各地で肝付の取り組みを伝えるための講演に赴く。

地域の課題解決は、その地域の高齢者のみならず、やがて日本に住む人々のためになる。数十年先に必ずや直面する日本全体の課題を解決するフィールドとして、肝付町は今、課題解決の最前線にあるといえる。

肝付町役場が中心となって行われる「共創のまち・肝付プロジェクト」にはほかにも、2015年に行われた実証実験「暮らしのロボット共創プロジェクト」、通称・キモPプロジェクトがある。「キモP」の企画運営協力に参画したのは、テクノロジー領域における「共創の場づくり」を行う株式会社たからのやま。後編は同社の代表取締役・奥田浩美さん、取締役・本田正浩さんの2人に話を伺った。

世話してあげたくなるロボットが限界集落を救う!?──鹿児島県「共創のまち・肝付プロジェクト」(後編)


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