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【イベントレポート】イノベーションのエコシステムをどうつくるか ──SXSW参加から考える、創発のデザイン

2017年06月28日



【イベントレポート】イノベーションのエコシステムをどうつくるか ──SXSW参加から考える、創発のデザイン | あしたのコミュニティーラボ
2017年5月18日・19日の両日に東京・有楽町の東京国際フォーラムで開かれた「富士通フォーラム2017」。このセミナーの1つとして開催されたのが「イノベーションのエコシステムをどうつくるか〜SXSW参加から考える、創発のデザイン〜」です。イノベーションを、単なるアイデアレベルでの討議ではなく、形にするためのアクションにはどのような創発のデザインが可能なのか、そしてそこに求められるエコシステムとはどのようなものなのか。「SXSW」をテーマに、企業・大学・地域コミュニティーという3つの領域から、多様な背景を持った登壇者とのディスカッションから考えました。

【特集】創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~

企業・大学・地域——各界が担うエコシステムの要素

イベントのテーマは「イノベーションのエコシステム」。しかし「イノベーション」も「エコシステム」も、その実態を捉えづらく、時に都合よく解釈されがちな言葉です。モデレーター・佐々木哲也さん(富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ マネジングコンサルタント)は、セミナー冒頭、まずはこれらの言葉のとらえ方を会場の参加者と共有します。

モデレーターを務めた富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ マネジングコンサルタント 佐々木哲也さん
モデレーターを務めた富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ マネジングコンサルタント 佐々木哲也さん

イノベーション(innovation)という言葉の生みの親である経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターの定義によれば、イノベーションとは「発明と市場との新結合」。技術自体の“革新性”が問われているわけではなく、「発明と市場をどのように結合していくのか」、そして「新結合がどのような環境・状況(=エコシステム)から生まれるのか」──それをどうつくり出すことができるのかがポイントです。

さらに、「イノベーション」を創出し、大きく広げるために必要とされるのが「生態系」を意味するエコシステム(ecosystem)。佐々木さんは次のように話します。

「起業家・事業家と課題ホルダーを中心に、まずはメンター、アドバイザー、インキュベーター、投資家、政府関係者……といった“要素”が取り囲み、さらにその関係性構築を加速させたり、有機的に結びつけたりする別の要素として、教育、法令、文化、技術集積、メディア……などが加わっていく。イノベーションのエコシステムとは、このように人を中心とした複雑なつながりだと言えるでしょう」

それらの“要素”の一部分を担うのが、企業・大学・地域コミュニティーです。イベントには、3つの領域から招いたゲストが登壇しました。

1人目は、パナソニック株式会社 全社CTO室で主幹を務める福井崇之さん。「人と人が出会う場」「アイデアを形にする場」「社内外へ発信する場」であるパナソニック社の共創空間「Wonder LAB Osaka」を運営しています。Wonder LAB OsakaとしてSXSWのTrade Showに出展したことは、本特集vol.1でも紹介しました。「昔のようにスーパースター1人がいればモノゴトがまわる時代じゃない。スーパースターを見つけるのではなく、さまざまなイベントを通じて、抜けている要素を見つけて可視化する」と、Wonder LAB Osaka で果たすべき自らの役割について解説します。

パナソニック株式会社 全社CTO室 主幹の福井崇之さん
パナソニック株式会社 全社CTO室 主幹の福井崇之さん

2人目は、東京大学 産学協創推進本部 助教である菅原岳人さん。東大では、インキュベーション・マネージャーとして大学発ベンチャーの創設・成長支援を担当しています。同本部のインキュベーション施設から輩出されたスタートアップは、藻の一種であるミドリムシを活用したビジネスを行うユーグレナ、創薬開発プラットフォームシステムを開発するペプチドリーム、画像解析を主軸とするモルフォなど、錚々たる顔ぶれ。また、菅原さんは「東京大学アントレプレナー道場」など、体系化された複数のプログラムを開き、事業化の前段階にあるさまざまなレイヤーの学生・研究者へ向け、アントレプレナーシップ教育、プロジェクト支援を行っています。

東京大学 産学協創推進本部 助教の菅原岳人さん
東京大学 産学協創推進本部 助教の菅原岳人さん

3人目は舟橋健雄さん。株式会社神戸デジタル・ラボで広報室長を務めながら、オーガナイザーとして、神戸ITフェスティバル、ローカル版TED「TEDxKobe」などのイベントを牽引してきました。オーガナイズしてきたこれら2つのイベントは、舟橋さん曰く「興味・関心でつながる“知縁”のコミュニティー」。さらに神戸を「若者に選ばれるまち」に育てていこうと、一大カルチャーを築いているSXSWを見本に、神戸市内の特色ある既存イベント・活動者を有機的につなぎ合わせたクロスメディアイベント「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」を企画。今年5月6日・7日の2日間で約3万6,500人を集めました。

株式会社神戸デジタル・ラボ 広報室 室長 舟橋健雄さん
株式会社神戸デジタル・ラボ 広報室 室長 舟橋健雄さん

課題当事者によるユーザーイノベーションこそ、これからのイノベーションの形

3名の共通点は、各人の立場からSXSWに関わりを持っていること。福井さんはWonder LAB OsakaとしてTrade Showに出展。舟橋さんは078開催に先立ちオースティン市とSXSWを2度視察しています。さらに菅原さんは、SXSWのTrade Showに出展する「Todai To Texasプロジェクト」(以下、TTT)の学生・研究者たちを率い、SXSWに向かいました。

TTTは、学内の製品開発プロジェクトで選抜された学生・卒業生チームをSXSW Trade Showに送り込む、東京大学 産学協創推進本部の取り組み。2014年から開始し、今年の参加で4回目となります。今年はTTT参加チーム「BionicM」が過去TwitterやAirbnbも受賞したことがあるInteractive Innovation Awardsに応募し、Student Innovation部門でアワードを勝ち取りました。


Sukneeの紹介動画。中心メンバーである孫小軍さんが自ら利用し、コメントを寄せる

BionicMが開発したのは、独自開発されたモーター機構により、負担の少ない歩行をアシストするロボット義足「Suknee」です。受賞したその瞬間、BionicMのメンバーはスタンディングオベーションで迎えられたと菅原さんは話します。

「開発の中心メンバーである孫小軍さんは、片足を失い義足で生活しています。つまり自分でほしいと思う新しいロボット義足を自ら開発した。課題当事者がイノベーターになり、自分の強い課題意識を持ち、新たな製品、サービスを生み出していく流れは『イノベーションを生み出す』という文脈で中心性を増してきています。SXSWに行ってみると、そのことが強烈にわかります」

これはユーザー自身が製品をハックする「ユーザーイノベーション」の進化的な姿であり、菅原さんも「課題当事者がゼロイチで何か新しいものをつくってしまうのは、オープンイノベーションのコミュニティーをどうつくるかを考えるときに意識しなければいけない」と強調します。

新結合への誤解? パラダイム・シフトをいかに起こすか

「イノベーション」そのものの潮流におけるSXSWの意義を、菅原さんは次のように続けます。

「シュンペーターの定義から『新結合』という言葉が独り歩きして、それが表す『イノベーション』は、単に新しい要素を組み合わせることや単にそれによって新製品を生み出すことと誤解されてしまいがちです。しかし、本来のイノベーション理論はさらに先に行っていると言っていい。たとえるなら『馬車が自動車になった』だけでは不十分で、『自動車は速くて便利で馬よりいいものだね』というふうに、人間側のコモンセンス(常識)が変わり、受け容れられてから──すなわち“パラダイム・シフト”が起きてから、はじめて『イノベーション』と呼べると考えます。SXSWはそうしたパラダイム・シフトを大まじめに議論している場。火星の法律をどうするのかなんて議論をしている一方で、それを実現するための技術・プロトタイプを持ち寄っているんです」(菅原さん)

この指摘を受け、モデレーター・佐々木さんは「日本の大企業もパラダイムを打ち出していかなければいけない」と話し、パナソニックという大企業の立場から、福井さんも回答します。

「人間は、自分の知っている知見の範囲でしか幅を広げることができないと思うんです。その幅を広げるための方法論だったり、多様性を認め合う文化だったり──それが今、企業のなかでは絶対に必要です。私自身、Wonder LAB でのイベントで人を呼び込んだり、SXSWのような場に出向いて新しいタイプの人と出会ったりしているのも、“外に出ていってはいけないのではないか”というマインドセットを解き放つため。ライブができたりやミラーボールがあるような、非常に自由な空間がWonder LABですが(笑)、そういった、1つひとつ新たな価値観を伝えていく積み重ねによって、よい意味で“チャレンジしてもいいんだ”というマインドセットができると思っています」(福井さん)

ムーブメントの発端は「裸踊り」「ワンオペ」!?

他方で、舟橋さんは、SXSWで巻き起こるムーブメントに着目しました。そうして紹介されたのは、アメリカの起業家、デレク・シヴァーズのTEDトーク “How to start a movement”(邦題:社会運動はどうやって起こすか)です。

デレク・シヴァーズは、社会活動がどのように広まるかを、公園で実際に起こった裸踊りの事例を元に解説した。(本動画は定められたCreative Commonsに基づき掲載しています)

それは、デレク氏が「フォロワーの存在が大事である」と説いたプレゼンテーション。TEDに集まった聴衆に向けデレク氏は「ある広場で、1人の男が突然裸踊りをはじめる」という動画を披露しました。動画のなかで広場にいた人は、裸踊りをする男を見てはじめのうちは嘲笑しますが、その後、彼のフォロワーが1人、また1人……と追従していくとフォロワーに促されるかたちで自らも参加するようになり、やがて「裸踊りの集団」という公の運動へと昇華していきます。デレクは、そうした運動の示唆するものとして「リーダーシップが過大評価されている」と指摘。さらに「本当の運動を起こそうとしたら、(1人目に)ついていく勇気を持ち、他の人たちにその方法を示す“フォロワー”が、1人の“バカ”をリーダーへと変えるのだ」と話します──。

さて、舟橋さんは「フォロワーの存在価値」に関するデレク氏の主張も踏まえたうえで、「1人目がまず踊り出さなきゃはじまらないとも思うんです」と、自らの見解を話します。

「SXSWももとは民間の有志がはじめているイベントでしたが、あとから行政・市民がついていくようになり、今ではまちをあげてSXSWを盛り上げた。我々がなぜ神戸で『078』をできたのかといえば、さまざまな人と合意形成するとか人集めはずっと後回しにして“まずはやっちゃう”を実行できたからだと思います」(舟橋さん)

福井さんもこの発言を受け「チャレンジはいつもワンオペ(編集部注:One operation(1人で作業を行うこと))」と、舟橋さんの見解に賛同します。

福井さんの「チャレンジはいつもワンオペ」という言葉に、登壇者はもとより会場からも共感の声が寄せられました
福井さんの「チャレンジはいつもワンオペ」という言葉に、登壇者はもとより会場からも共感の声が寄せられました

「我々の社内でもいろいろチャレンジしている人がいるけど、ワンオペ。私自身、Wonder LABとしてSXSWに行ったときもワンオペでした(笑)。やりたいと思った人が情熱をもってやるしかありませんよね」(福井さん)

エコシステムでできることの幅が拡がる

こうしておよそ1時間45分にわたったセッションは終盤戦へ。佐々木さんは「企業、大学、地域コミュニティーが相互に乗り入れられるようになれば、エコシステムが確立され、さらにできることの幅が広がる。では互いに何を期待しますか?」とそれぞれに問いかけました。

「Wonder LABも突き詰めると最終的には078のようになると思うんです。だから舟橋さんとは思いが同じ。一方、企業人として、我々は経験則に基づいて何でもやってしまいがちなので、菅原さんのような異種の方法論も取り入れながら前に進めていかなければ、と感じます」(福井さん)

「我々のような立場が何かを社会実装しようと思ったら、企業に頼るしかありません。その点、日本には一流の企業が揃っている。企業の力が残っているうちに大学もチャレンジしなければいけないとも思います。地域コミュニティーに関しても、東大のある本郷三丁目がスタートアップ集積地になってきていて、これから地域における大学のあり方が問われていくでしょう」(菅原さん)

「企業とか大学とかの線引きはなくて、それぞれの立場でできること・できないことがあるなか、わかりあい、意見を出し合えばいい。どなたでも参加できる場が「地域」になればいいと思います。そう考えれば、地域は社会実装していくには最適な場でもあり、078でもそれを実行した。これからも皆さんが一緒に何かをやれる場をオーガナイズしていきたい」(舟橋さん)

目まぐるしく時代が移り変わるなかで、イノベーションやエコシステム自体も常に再定義が進んでいます。SXSWのような世界的に注目されるイベントもある一方で、今年神戸で開催された078は地域ならではの実践の成功例の1つといって良いでしょう。日本でもこれから、SXSWや078のような取り組みは増えてくるなかで、企業、大学、地域コミュニティーの連携がもっと加速することを期待します。この日、3人の対話から生まれた知見は、次なる創発への始点になっていくことでしょう。

グラフィックレコーディング

グラフィックレコーディング
当日はグラフィックカタリストによるグラフィックレコーディングも行われた

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