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多種多様なインタラクションが、課題を乗り越える足がかりになる? ──アクティブワーキング@福知山(2)

2017年07月12日



多種多様なインタラクションが、課題を乗り越える足がかりになる? ──アクティブワーキング@福知山(2) | あしたのコミュニティーラボ
都市で働くビジネスパーソンが地方に短期滞在して、ふだんの仕事もしながら地域の産業や活動の実態に触れる「アクティブワーキング」ツアー。第2回となる京都府福知山市編では、地域の特色にあふれたメニューがふんだんに設計されていた。本稿では、実際のアクティビティの様子をお伝えするとともに、企業にとっての参加価値に焦点を当てる。彼らは地域の現場を目の当たりにして、どんな可能性を見出したのであろうか。

新しい事業機会のフロンティアは、“地域”に潜む? ──アクティブワーキング@福知山(1)
地域がアクティブワーキングを必要とする理由は? ──アクティブワーキング@福知山(3)

ツアーの醍醐味は、訪問先でのインタラクション

編集部が取材同行した、2月14〜15日のアクティブワーキングの訪問先は、以下のとおり。いずれも、地域でひときわ目を引く独自の活動をしているところに共通点がある。

〈あしたラボ編集部が同行したアクティブワーキング訪問先〉
◎ 福知山公立大学地域経営学部(2015年に設置者変更で私立から公立に)
◎ あまづキッチン(福祉と商業の両立を目指す、障害者の働くレストラン)
◎ 伊東木材株式会社(間伐、製材、施工、建築まで一貫して行う)
◎ エスペック株式会社(地産地消、獣害対策で社員食堂に鹿肉ランチを)
◎ 京丹波自然工房(衛生管理の徹底した安全でおいしい鹿肉を提供)
◎ 株式会社横田石材(農地荒廃を阻止すべくブドウ栽培に挑み、昨年初出荷)
◎ 三和地域協議会(行政と対等に協働し地域の存続に責任を持つ自治組織)

参加者が価値を見出す「訪問先とのインタラクション」こそ、今までの合宿研修や視察ツアーとは異なる本ツアーの「肝」といえる。では、今回の訪問先では参加者との間でどんなインタラクションが展開されたのだろうか。以下、際立つ事例をいくつか紹介してみたい。

エスペック株式会社 福知山工場を訪問したアクティブワーキング一行
エスペック株式会社 福知山工場を訪問したアクティブワーキング一行

環境試験機器で国内トップシェアを誇るエスペック株式会社。福知山市の長田野(おさだの)工業団地に「福知山工場」を構えている。ここでは、早くから環境マネジメント活動に取り組んでおり、「生物多様性保全への貢献」についての案内が行われた。

とりわけ参加者の関心を引いたのは、現在の活動内容に至った経緯だ。過去には、間伐や下草刈りなどの森林保全ボランティアを行っていたという同社。しかし、社員の参加が減ってきたことをきっかけに活動を見直し、「何かしら本業に結びつけない限り、持続できない」と考え方をあらためたのだという。これは多くの企業がCSR活動において抱える共通の課題と言えよう。いったい、どうシフトしたのか。

同社環境管理室マネージャーで、一連の活動を牽引してきた土田真奈見さんは、次のように語る。

「モデルフォレスト活動(地域ぐるみで森林を保全する取り組み)をしている“毛原(けはら)の森”を、里山のすばらしさを伝える観光資源として活用し、もっと多くの人に訪れてもらうのが得策と分析しました。そこで、生態系を崩さないようにウォーキングコースを設置。在来種の復活など環境改良を事業とする子会社、エスペックミックが現場調査をして、森をどう変えれば生物多様性が豊かになり地域の人たちとともに望ましい活動を続けられるか、アドバイスのできる診断マニュアル“森づくりソリューション”を作成しました」

エスペック株式会社 福知山工場 環境管理室マネージャーの土田真奈見さん
エスペック株式会社 福知山工場 環境管理室マネージャーの土田真奈見さん

事業のデザインや会社の巻き込み方のヒントに

つまり、森林の生物多様性を守るCSR活動のノウハウを積み重ねてソリューションにまとめることが、そのままコンサルタント事業につながるビジネスモデルとなり、環境保全活動の持続性を担保しているのだ。

地方創生の事業開発支援に携わる株式会社NOTCH 代表取締役の花村嘉信さんは、生物多様性の観点に着目した。「地域で林業支援のしくみづくりをしているのですが、ISO環境マネジメントシステムが改訂され生物多様性に配慮した事業活動が求められていることを知り、その観点が抜けていたことを教えられました。山の生態系の分析を踏まえたストーリーとビジョンを組み立て、林業と紐づける必要に気づきました」と今回のツアーに参加した成果を強調する。

株式会社NOTCH代表取締役の花村嘉信さん
株式会社NOTCH代表取締役の花村嘉信さん

ツアー参加者には、ランチとして鹿肉のジビエ料理も振る舞われた。これも、ふだんから社員に提供されている、エスペックの生物多様性保全活動の一貫だ。林業の不振と過疎化によって山林に人の手が入らず、鹿の天敵が減って個体数が増え、木の苗や下草を食べ尽くして里山まで降りて来た結果、山の地盤が崩れやすくなり、農作物に大きな被害が出ている。鹿肉の消費は、野生動物の頭数を管理し、生物多様性を守ることにつながるというわけだ。

ツアーの一環として、エスペックの社員食堂でジビエ料理が提供された
ツアーの一環として、エスペックの社員食堂でジビエ料理が提供された

ものづくり現場訪問のウェブサイト「しゃかいか!」を運営する参加者の加藤洋さんは、「(エスペック訪問の前のアクティビティである)伊東木材さんで聞いた、林業の課題と鹿肉ジビエはつながっている」と気づいたという。また、「土田さんが一社員として続けていた活動が会社に認められて、〈エスペックみどりの学校〉という組織ができた経緯」にとりわけ注目した。

「エスペックさんはゴーヤを使った緑のカーテンの普及活動なども手掛けていますが、そういったイベント広報をメディアにどんどん投げて取り上げてもらうと、次第に会社から効果の高い宣伝活動として認知される。発信しながら会社を巻き込んでいく流れが興味深いですね。個人が企業のなかで地域と関わりを築くための賢い方法だな、と勉強になりました」

生物多様性保全の活動を伝える冊子。広報活動も見据えた社内外の巻き込み方に、新たな気づきを得た参加者も多かった
生物多様性保全の活動を伝える冊子。広報活動も見据えた社内外の巻き込み方に、新たな気づきを得た参加者も多かった

“ジビエハンター”の志と気合いに刺激を受ける

エスペックの直後に赴いたのは、同社に鹿肉を提供している京丹波自然工房。代表取締役の垣内忠正さんの案内で、処理施設を見学した。

京丹波自然工房の垣内忠正さん。垣内さんの案内で、鹿肉処理施設を見学した
京丹波自然工房の垣内忠正さん。垣内さんの案内で、鹿肉処理施設を見学した

鮮度優先のため、捕獲地は車で約30分以内。十分な血抜きができなくなる銃器は一切使わず、罠で捕獲。国のガイドラインに則り、健康な個体のみを衛生管理が徹底した工程で速やかに処理し、個体番号で追跡が可能なトレーサビリティを導入……。ここまで安心・安全を追求する事業者は全国でもめずらしいのだという。はじめてジビエの生産現場に入る参加者は、妥協しない安全対策に感心した。

それにも増して参加者を魅了したのは、安全においしく食べるために狩猟し獣肉をさばける“ジビエハンター”が増えてほしい、との一心から、ガイドブックまで執筆した垣内さんの志だ。

垣内さんが自ら著した『ジビエハンターガイドブック』(林利栄子共著、応用芸術研究所、2017年発行)
垣内さんが自ら著した『ジビエハンターガイドブック』(林利栄子共著、応用芸術研究所、2017年発行)

29年前、田舎で子育てをしたいという希望と、趣味の狩猟のため、兵庫県宝塚市から京丹波町に移住した垣内さん。田舎暮らし支援の不動産業を営む傍ら、害獣駆除で廃棄される鹿肉を地域の特産物にできないかと、長年の念願だった安全衛生管理を徹底する野生鳥獣肉処理施設をつくった。

1頭から取れる食肉量や卸売価格などを熱心に質問していた参加者の1人、トリ風土研究所 代表トリ締役の宮武裕右さんは、一羽まるごとロスを出さない鶏肉の飲食加工業を営むだけに興味津々。「垣内さんは気合いの入り方が違います! 僕も覚悟を決めて仕事に取り組まなければ」と刺激を受けていた。

「ジビエに関する知識を探りたい」と話していたトリ風土研究所の宮武裕右さん(中央)。垣内さんの話を真剣な眼差しで傾聴していた
「ジビエに関する知識を探りたい」と話していたトリ風土研究所の宮武裕右さん(中央)。垣内さんの話を真剣な眼差しで傾聴していた

業界に精通した参加者との対話から、地域がヒントを得ることも

一方で、地域側が参加者からヒントを得る場面にも遭遇した。

墓石の供給を本業とする株式会社横田石材では、新規事業として数年前から農業に着手した。高齢化で栽培農家が半減している地場産の「三和ブドウ」を盛り返そうと、耕作放棄地を借り受けて苗木を植えて、今年から出荷をはじめたという。農業事業部長の西村悦雄さんは、取り組みを紹介しつつ、現状の課題を参加者に投げかけた。

「今のところは地元でさばけていますが、ブランド化して収穫最高量の2万房ともなれば、京阪神の市場を開拓する必要があります。間引いた房を活用する干しブドウや、ショウガのスライスを乾燥しグラニュー糖をまぶした〈生姜糖〉の加工品も手掛けはじめているので、販路を広げたい──」

株式会社横田石材の西村悦雄さん
株式会社横田石材の西村悦雄さん

すると、農業や漁業の六次産業化支援事業に携わる参加者の1人、NOTCH代表取締役の花村嘉信さんから次のようなアドバイスが飛び出した。

「飲食店や百貨店に出入しているバイヤーやコンサルタントに商品開発してもらうのが近道。加工品も売場に合わせたサイズ、包装、単価設定に。販売先に断られたり買い叩かれたりしないようにするには、素材だけ提示し、先方の規格に合わせて商品化するのが得策では──」

横田石材への訪問では、現場が直面する課題が参加者に投げかけられた。両者にとって貴重な意見交換の場となった1シーン
横田石材への訪問では、現場が直面する課題が参加者に投げかけられた。両者にとって貴重な意見交換の場となった1シーン

また、他の参加者からは、少量販売せず、あえて大箱でしか売らないことで“お裾分け”需要を促し、もらった人が気に入って自分も買い、再び“お裾分け”するサイクルを生み出して販路を広げた事例なども紹介された。

西村さんはアクティブワーキングについて「地方にいると、こうした新しい出会いの機会は少ないので貴重な経験です。売場に直結したバイヤーによる商品開発や大ロットの“お裾分け”作戦は参考になりました」と話す。

ビジネス直結は難しくとも、9割近くが「また参加したい」ワケ

大半の参加者が「機会があれば再びアクティブワーキングに参加したい」と回答している(提供:福知山市、「アクティブワーキング@福知山」アンケート結果より抜粋)
大半の参加者が「機会があれば再びアクティブワーキングに参加したい」と回答している(提供:福知山市、「アクティブワーキング@福知山」アンケート結果より抜粋)

アクティブワーキング@福知山への参加者は、どんな発見を持ち帰り、可能性を感じたのか。福知山市が参加者に行ったアンケート結果をもとに振り返ってみたい。

多くの参加者が価値として挙げたのは、そのものずばり「地域の現場」に直に触れられたこと。現場の実感を伴いながら課題当事者からの話を耳にできる機会なんて、そうそうない。しかもありきたりな視察訪問ではなく、今に至るストーリーに触れ、個人としての信念やビジョン、志まで垣間見える濃密な時間を共有できたことが新鮮で強烈な体験だった、という声が集まった。

その結果、たとえば「人口減少」のような、社会課題としてよく耳にするキーワードの背景に横たわる“生身の実感”が得られた、という人もいた。「地域では、都市以上に企業活動や日常生活における人間関係の“つながり”が重要かつ複雑であり、その影響がきわめて強いことがわかった──」といった具合だ。

1日の終わりに毎日行われた「振り返り会」は今回が初の試み。参加者同士が集まり意見交換を行うこの対話の時間を、有意義なものと評する人は多かった
1日の終わりに毎日行われた「振り返り会」は今回が初の試み。参加者同士が集まり意見交換を行うこの対話の時間を、有意義なものと評する人は多かった

本稿で紹介してきたような、訪問先とのインタラクションからはどんな価値が生まれそうなのか。ふつうに考えれば、たかだか2時間程度の出会いから即、新規事業のヒントなどが見つかるわけもないだろう。たしかに、「自身のビジネスに直結して、すぐに活用することは難しい、という気づきを得たことが貴重」という声も見られた。

しかしながら、地域の抱える課題は多様に入り組んでおり、単一の解はない。複雑な連立方程式を解かなければいけないからこそ、挑戦しがいがある。実際、「訪問先と参加者との対話によって、地域に変化が起きそうな兆しを感じた」と答える人もいた。そう感じた参加者が少なくないのは、88%が「このような機会があればまた参加したい」と回答したことからも推察できよう。

また、別の角度からの回答として、再び参加したい理由を「参加者同士の関係構築」と挙げた人が多かったことにも注目したい。今回のアクティブワーキングでは、1日の終わりに参加者同士が集まる「振り返り会」の場が設けられたことが1つの新しい試みだった。訪問先では気を遣ってしまい、必ずしも本音が言えない場合もある。1日を俯瞰して共通の話題について本音で語り合い、1人の気づきからあらためて洞察を深めていくような試みは、めいめいに強い印象を残したようだ。実際、地域活性化に役立つICTのニーズを探ろうと参加した株式会社ケーケーシー情報システム 自治体営業部の湯川哲也さんは「対話を重ねてはじめて気づくことがありますから、こういう機会は大切ですね」と話している。

株式会社ケーケーシー情報システム 営業本部自治体営業部チーフアドバイザーの湯川哲也さん
株式会社ケーケーシー情報システム 営業本部自治体営業部チーフアドバイザーの湯川哲也さん

同じ現場を体験した者同士が親睦を深めながら、談論風発し、新たな視点を得る──。企業と地域ばかりでなく、この地に集まった企業と企業の“異業種交流”もまた、アクティブワーキングの価値といえるだろう。

アクティブワーキング@福知山ラストとなる次回は、企画を主催した自治体視点での期待やメリット、価値を掘り下げて考えてみたい。

地域がアクティブワーキングを必要とする理由は? ──アクティブワーキング@福知山(3)へ続く
新しい事業機会のフロンティアは、“地域”に潜む? ──アクティブワーキング@福知山(1)

ふつうに仕事をしていれば、地域の魅力が見えてくる!? ──アクティブワーキング@日南(前編)
行政だけでも、地域だけでもだめ。地域課題をあぶり出すエコシステム ──アクティブワーキング@日南(後編)


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