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地域がアクティブワーキングを必要とする理由は? ──アクティブワーキング@福知山(3)

2017年07月12日



地域がアクティブワーキングを必要とする理由は? ──アクティブワーキング@福知山(3) | あしたのコミュニティーラボ
都市で働くビジネスパーソンが地方に短期滞在して、ふだんの仕事もしながら地域の産業や活動を知り体験する「アクティブワーキング」ツアー。第2弾となる京都府福知山市編はこれまで、企業の視点でその価値を探ってきたが、ラストとなる本稿では、同事業を企画・実施した行政にフォーカスを当てたい。開催からおよそ2か月が経過した4月下旬。今回の企画の立役者である行政・自治体担当者に再び集まっていただき、話を伺った。果たして、どのような問題意識からアクティブワーキングは行われたのか。実施した結果は地域にとっていかなるもので、どんな展開が期待できるのか。

新しい事業機会のフロンティアは、“地域”に潜む? ──アクティブワーキング@福知山(1)
多種多様なインタラクションが、課題を乗り越える足がかりになる? ──アクティブワーキング@福知山(2)

地域と“よそ者”の望ましい化学反応のきっかけ

京都府福知山市でのアクティブワーキングは、富士通株式会社・京都支社の白根純子さんの京都府に対する働きかけからはじまった。その経緯を白根さんはこう振り返る。

「京都で地域活性化に関わる仕事をしていて、かねがね重要だと考えていたキーワードは“よそ者”でした。でも、その地域を好きになりサポーターになってくれる可能性のある外部の方と出会うのは、なかなか難しいもの。その点、“よそ者”を地域の現場に招き、一方通行の視察や研修ではなく互いに交流しながら、外部の視点で課題や価値を発見してもらうアクティブワーキングは、化学反応のきっかけづくりになると思ったのです。そこで、過去の地域活性プロジェクトで接点のあった京都府 政策企画部副部長の梅原豊さんを通じ、福知山市に話をつないでいただきました」

富士通株式会社 京都支社の白根純子さん
富士通株式会社 京都支社の白根純子さん

京都府は、自治体としてアクティブワーキングをどのように活用できると考えたのだろうか。京都府 政策企画部計画推進課「明日の京都」担当課長の岩田高明さんは次のように語る。

「京都府では、過疎高齢化が進む地域への対策として、日常生活に必要な民間・公共サービスの提供を集約する拠点づくり“コミュニティ・コンビニ”事業に取り組んでいます。先行モデルの府内4カ所の1つが、福知山市でも中山間地域に位置する三和町(みわちょう)。この事業では、市町村と住民が中心になって施設の改修や機能の整備を検討します。府の役割は、補助金などの財政支援と人的支援です」

京都府 政策企画部 計画推進課「明日の京都」担当課長の岩田高明さん。今回のツアーでは2日目のツアーに帯同した
京都府 政策企画部 計画推進課「明日の京都」担当課長の岩田高明さん。今回のツアーでは2日目のツアーに帯同した

「三和町のコミュニティ・コンビニとなる農業支援センターは、アクティブワーキングの参加者がツアーの合間に仕事のできるコ・ワーキングスペースや、地域の人たちとの会合の場として活用できます。地域外との交流拠点の機能も期待できるので、そうした側面から三和町を舞台に支援させていただけたらと考えました」

「参加者に質問して課題をぶつけてください」

京都府北西部の福知山市は人口7万9,206人(2017年4月末)。2006年に大江町・三和町・夜久野町の3町を編入し、面積が約2倍になった。経済圏としては北近畿の中核地で、近隣の兵庫県や京都府北部からの通勤通学者も多い。神戸・大阪・京都の関西三大都市へいずれも約90kmの距離に位置している。福知山市全体の合計特殊出生率は1.96と、国内でも高い水準を誇る。その反面、中山間部では全国共通の過疎化の課題を抱え、高齢化率60%に及ぶ地域に、子どもの姿は見えにくい。

今回アクティブワーキングを担当した福知山市職員自ら、市についての基本的な情報を参加者に共有する場面もあった
今回アクティブワーキングを担当した福知山市職員自ら、市についての基本的な情報を参加者に共有する場面もあった

市役所の職員のみなさんに「福知山ならではの気質」を尋ねたところ「個人的な感想」と前置きしたうえで「商売っ気が薄い」「がめつさがない」「新しいことに飛びつかない」といった答えが口々に返ってきた。「かつての城下町特有の“お上意識”が強く保守的な気風が、いまだに残っているのかもしれません」とも。奥ゆかしさからなのか、「地元の良さをアピールする人をあまり見たことがなく、シビックプライドが高いのかどうかよくわからない」との声も聞かれた。

では、福知山市はアクティブワーキングにどんな価値を希求して取り組むことにしたのか。今回の企画に携わった市役所職員に伺った。

福知山市役所のみなさん。両端にいるのが市長公室 企画課 市民協働係の岸見貴志さん(左)、河野恒州望さん(右)。中央にいるのが三和支所 地域振興部の後藤太郎さん(左)と木本正文さん(右)
福知山市役所のみなさん。両端にいるのが市長公室 企画課 市民協働係の岸見貴志さん(左)、河野恒州望さん(右)。中央にいるのが三和支所 地域振興部の後藤太郎さん(左)と木本正文さん(右)

市長公室企画課 市民協働係係長の岸見貴志さんは「外部の視点を入れて双方向のメリットを探る」趣旨にまず魅力を感じた。「ただ、行政マンとしては目的と成果を議会と市民に明示しなければいけません。それをクリアできるかどうかが課題ですが、決まりきった仕事を繰り返すのではなく、前例のない事業に手探りで挑み、可能性を切り拓く意義は大きいと思いました」。

ツアーの訪問先をどのように決めるか、準備ではそれが肝心だ。同じく市民協働係の河野恒州望(こすも)さんは「地域をよく知る三和支所の職員さんと、とりあえずおもしろい活動をしている人や目立っている企業をひたすらピックアップしました」と振り返る。「選定の段階では、富士通さんにもその場に居ていただき、“たとえばこんなテーマでほかにないですか?”と提案していただいたり、“その取り組みはおもしろいですね”と拾っていただいたり。そのおかげで価値の高いプログラムを組めたと思います」。

いちばん汗を流したのは、現場で訪問先との調整にあたった市役所三和支所のスタッフだ。アクティブワーキングの趣旨を頭では理解しても、実際に経験したことがないので実態がつかめず、相手にわかってもらうのに苦心した。地域振興部 三和支所次長補佐兼地域振興係長の木本正文さんは「断られたところはありませんが、訪問先から“どんな成果があるんや?”と聞かれたときには、すぐには答えられませんでした」と明かす。「つながりのきっかけや、課題解決のヒントにつながるといったメリットを説明して、一定の理解はいただきました」。

同じく三和支所地域振興係の後藤太郎さんは「狭い地域のなかで暮らしていると見えないこともあります。われわれが気づいていない価値を都会の企業の人が発見してくれるかもしれない。せっかくの機会だから会社の説明だけでなく、参加者に質問して遠慮なく課題をぶつけてください、とお願いしました」と語る。

地域への愛着と熱量が事を起こす原動力になる

では、アクティブワーキングの実施により、自治体としてはどんな気づきや成果を得たのだろうか。

福知山市 市長公室企画課 市民協働係係長の岸見貴志さん
福知山市 市長公室企画課 市民協働係係長の岸見貴志さん

岸見さんは「多様な職種の参加者の方々からの、多角的な広い視野で物事を捉える発言はヒントになったと思います。同時に、訪問先のどなたにも感じた地域への愛着と熱量が、コトを起こす原動力になるとわかり、現場を深く知る貴重な機会でした。こうした方々と協働して新しい公共性を生み出す仕事の切り口を拡げていけたら」と望む。

「あらためて地域の方々とつながれたことが大きかった」と、河野さんも話す。

「地域のみなさんとは顔見知りではありましたが、こんなに詳しく活動の中身から生き様まで聞いたことはありませんでした。きっとこれからの仕事に活かせるはずです。今回、ツアースケジュールをぎっしり詰め込みすぎたので、もうちょっと余裕を持たせ、参加者の方々と地域の方々とのざっくばらんな交流の機会を1回ごとに設けても良かったのかな、と」。

福知山市 市長公室企画課 市民協働係係長の河野恒州望さん
福知山市 市長公室企画課 市民協働係係長の河野恒州望さん

確かに参加者からも「ざっくばらんな交流の機会」を望む声があった。今回はツアーの合間にコ・ワーキングスペースでふだんの仕事をする時間を取りにくかったのも確かだ。だが一方で、1〜2日しか滞在できないので「もっと訪問先を増やしてほしい」との要望もあった。スケジュールが詰まっていたのは、目立って魅力的な活動をしている人たちが福知山に多い証ともいえるだろう。アクティブワーキングのあり方は、地域ごとに多様でいいのかもしれない。

行政が地域の価値を再発見する。どうやらアクティブワーキングにはそうした効果もあるようだ。地域によっても差があるが、補助金や助成金に頼らず地域で自立的に活動できている組織や団体ほど、行政との関係は薄い傾向が目立つ。しかし、そうしたプレーヤーも個々にさまざまな課題を抱えている。アクティブワーキングのような取り組みを通じて、行政が仲立ちになり、都市の企業と地域との連携が進むことによって、新しい公共的な価値を生み出す展開もあり得るだろう。

企画・運営に携わった市職員もそれぞれのアクティビティには可能な限り参加した。「ここでの見聞が自分たちにとっても価値になった」と河野さんは話す(写真は、障がい者が働くレストラン「あまづキッチン」にて)
企画・運営に携わった市職員もそれぞれのアクティビティには可能な限り参加した。「ここでの見聞が自分たちにとっても価値になった」と河野さんは話す(写真は、障がい者が働くレストラン「あまづキッチン」にて)

多様性と偶発性から生まれる創発に投資する試み

“よそ者”ならではの視点から思いもよらない価値を発見してもらったり、アイデアを提供してもらったり──。事前に期待されたその点については、具体的にどんな気づきがあったのだろうか。

福知山市 地域振興部 三和支所次長補佐兼地域振興係長の木本正文さん
福知山市 地域振興部 三和支所次長補佐兼地域振興係長の木本正文さん

三和支所の木本さんは「コメ以外に作物を拡げたいという農事組合法人の課題に対して、荒廃地でもまったく手間要らずで育つ“三年番茶”というお茶の木を育ててはどうか、という提案をいただきました。奈良のほうで前例があるそうです。地元の方はおおいに関心を寄せていました」と振り返る。

「霧が観光資源になるかもしれない」と気づかされたのは、同じく三和支所の後藤さん。「福知山盆地は霧がよく発生する地形なんです。われわれにとっては何ということもないありふれた景色なんですが、それを“きれい”と言われたのは新鮮でした。登山を趣味とする方が“この霧の風景を見ようと思ったら3,000メートル級の山まで登らなければ……”とおっしゃっていたそうです」。

福知山市 三和支所 地域振興係の後藤太郎さん(手前)
福知山市 三和支所 地域振興係の後藤太郎さん(手前)

地域と企業をマッチングする視察ツアーは、企業誘致や移住促進、農業の六次産業化など、あらかじめテーマの決まった仕立てが多い。明確に効果の見えやすい施策を求めればそうなる。だが、それだと当然ながらテーマに関わる人たちしか参加せず、おのずと視野が狭まり、結局は既存の価値を超えられない。

イノベーションを起こす条件の1つに「偶発的な取り込み」がある。多様なバックボーンをもつビジネスパーソンが、同じく多様なビジョンや志、信念、ストーリーをもつ地域の人たちと雑多に交わることで、望ましい化学反応の起きる確率は高まる。不確実性の高さゆえに創発の起こる可能性も高い環境づくりへの投資。これがアクティブワーキングの中核的な価値に違いない。

さいごに

新しい事業機会のフロンティアは、“地域”に潜む? ──アクティブワーキング@福知山(1)
多種多様なインタラクションが、課題を乗り越える足がかりになる? ──アクティブワーキング@福知山(2)

ふつうに仕事をしていれば、地域の魅力が見えてくる!? ──アクティブワーキング@日南(前編)
行政だけでも、地域だけでもだめ。地域課題をあぶり出すエコシステム ──アクティブワーキング@日南(後編)


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