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デザイン教育の未来を模索する「未来デザイン研究会」 ──静岡でまちとわかものの接点を探る(前編)

2017年08月03日



デザイン教育の未来を模索する「未来デザイン研究会」  ──静岡でまちとわかものの接点を探る(前編) | あしたのコミュニティーラボ
カツオの漁獲量、ピアノの輸出額など数多くの日本一を持ち、県内地域ごとに産業や観光に特色を持つのが静岡県だ。その県庁所在地である静岡市は2015年、政令指定都市としてはじめて人口が70万人を割り、名古屋や東京といった大都市への交通利便性も手伝い、主に若年層の流出が大きな課題になっている。
現在、さまざまな地域で「若者」をどうひきつけるか、移住プランの立案やプロモーションが活発になるなか、その地域に住む若者たちは自らの地域をどう考え、どうアクションしているのか。今回は静岡を舞台に、その学びと実践の実際を見てみよう。前編は、静岡県内で最大規模の私大・常葉大学の造形学部が舞台。デザインを学ぶ学生たちが参加する「未来デザイン研究会」を訪問し、地域や企業をフィールドに本質的な価値を導く学びを実践する大学生のデザイン教育の今を追った。

わかもののシビックプライドの先には、まちの未来がある? ──静岡でまちとわかものの接点を探る(後編)

専門技術から汎用技能へ広がる“デザイン”のリテラシー

今回の舞台となる常葉大学は創立37年目を数え、10学部19学科と短大4学科をもつ静岡県内で最大規模の私立総合大学だ。97.7%(2016年実績)と高い就職率のうち静岡県内就職率が81.9%を占める、地元に根づいた大学だ。創立時からの伝統で教育学部に定評があり、健康科学部、健康プロデュース学部、保険医療学部など医療系にも特徴をもつ。

アート表現コース、ビジュアルデザインコース、デジタル表現デザインコース、環境デザインコースをもつ造形学部には「未来デザイン研究会」という名の「準正課」活動、つまり学生の主体性が求められる位置づけの研究会がある。2008年に「学びのアップデートをめざして」、安武伸朗教授が創設した。

常葉大学 造形学部 安武伸朗教授
常葉大学 造形学部 安武伸朗教授

「造形学部は美術教育の場ですので、現代のデザイン産業に対応するカリキュラムとは言えませんでした。当時、同じく美術としてのデザイン教育に疑問を感じていた先生方と大学外のフォーラムなどで交流していくうち、私自身モノのデザインだけではなく、モノやサービスを使う“体験そのもの”をデザインするUX(User Experience)デザイン、サービスデザイン(*1)教育の重要性を確信して、この研究会を発足させました」

安武教授の話す「美術教育の限界」とは何か。美術系の学部でデザインを勉強すると、将来は広告業界などに入って、クライアントから発注されたグラフィックデザインの受託業務に携わるといったキャリアイメージが定番だ。「それだけではないはず」と、模型メーカーでブランディングに携わっていたグラフィックデザイナー出身の安武教授は考えた。

「今や“デザイン”は、ものづくりに付随した造形の専門技術に留まりません。ユーザーの価値ある体験を生み出す製品やサービスの設計、という汎用技能を意味する概念に拡大されています。これからの社会では、デザインは特定の業界に限らず必要とされるリテラシーの1つです」

「モノからコト」などのコンセプトを掲げ、多くの会社がこのような考えをビジネス上で実践しはじめているなか、学生にとって、そうした新しい観点からデザインのスキルを学ぶ意義は大きい。未来デザイン研究会には4学年で30人の学生が集う。

「ここ2~3年、就職面接で“UXデザインを勉強しました”というと興味を引かれ、関心をもたれることが増えたようです」。社会の変化と教育をうまく併走させる。それがキャリアという形で徐々に現れてきているようだ。

(*1)サービスデザイン:サービス提供者の視点だけでなく、ユーザーの体験価値を重視したサービス創出を目的としたサービスを生み出す一連の手法

地域や企業と共同し課題解決をめざすプロジェクト

未来デザイン研究会では、ユーザーを中心に据えたデザインプロセスであるHCD(人間中心設計)のルールを基盤に、産官学共同プロジェクトに取り組み、何度も修正しプロトタイピングする姿勢を学ぶ。

2016年度は、静岡市との共同で「移住推進プロジェクト」、藤枝市との共同で「シビックプライドの可視化」「就活を考えるアイデアソン」、富士通株式会社によるアイデアコンペ「知財活用アイデアソンプレゼン大会」、株式会社あきんどスシローとの共同で「地域食材による商品開発」などのプロジェクトを実施した。

しずおか信用金庫と共同したプロジェクトでは、若者の利用率が少ない課題を抱える同信金からの依頼で「若者と金融機関との接点」を探った。新たなビジネスの可能性を抽出するために、顧客となる若者のお金に対する心理を可視化するリサーチプロジェクトだ。

未来デザイン研究会前部長の小野寺夏海さん(4年生)によれば、そのプロセスはおおむね次のようだった。

常葉大学 未来デザイン研究会 前部長 小野寺夏海さん
常葉大学 未来デザイン研究会 前部長 小野寺夏海さん

「既存の若者向け金融サービスの調査と若者へのインタビューから、若者が金融機関に抱く期待や不安を分類し、4つの仮説を立てました。それに基づき、金融機関と若者の暮らしとの関わりを明らかにするため、お金を使う実態を幼少期から未来まで時系列で可視化するライフストーリーマップを作成。ただ、それだけでは行動の背景を深掘りできなかったので、4種類の調査設計シートを使い、お金を貯める・使う心理などについてインタビューしました。そのデータから共感マップの手法を使って4名のペルソナ(顧客像)を想定したのです」

しずおか信用金庫のプロジェクトでペルソナごとに共感マップを作成する様子。インタビューから得られた内容を、グルーピングやラベリングと行いまとめていった(写真提供:常葉大学 未来デザイン研究会)
しずおか信用金庫のプロジェクトでペルソナごとに共感マップを作成する様子。インタビューから得られた内容を、グルーピングやラベリングと行いまとめていった(写真提供:未来デザイン研究会)

しずおか信用金庫へのプレゼンでは、ユーザーが本質的に何を求めているのかを分析することの重要性を理解してもらうタイミングとなったという。

静岡市と共同した「移住推進プロジェクト」では移住を促進するパンフレットをデザイン・制作するとともに、市民参加のシンポジウムを企画運営した。

1年目の2015年はシニア層に訴求するデータ中心のものだったが、実際には30代の移住者が多かったため、2016年はがらりとリニューアル。「人」と「暮らし方」に焦点を絞った。移住して野外保育園を立ち上げたり、子育てに良い環境を求めてIターンしたり、空き家をリノベーションしてコミュティーシェアハウスを運営したり、「嬉しい暮らし方」を実践する人たちに学生がインタビュー。誌面もA3サイズに大型化して写真中心に構成した。結果、このパンフレットは多様な価値観の暮らし方が垣間見えるメディアとなり、訴求力が高まった。

“そもそも”から考え直し本質を問い続ける姿勢

未来デザイン研究会での活動は学生にとってどんな学びになっているのだろうか。部長の水谷みなもさん(4年生)は「いちばん大事なこと、本当の問題は何か? と突き詰めて考えるのを諦めなくていい」という自信が得られたと話す。

常葉大学 未来デザイン研究会 部長 水谷みなもさん
常葉大学 未来デザイン研究会 部長 水谷みなもさん

「それっておかしいんじゃないの? 本当に合ってる? という違和感や疑問を大切にして調査や分析を進める。そういうアプローチの仕方が身についたことは財産です。課題解決の手法は変わっても、常に問題の本質を問い続ける姿勢が身についていれば、どんな仕事にも活かせるのではないかと思います」

未来デザイン研究会では今年の2月に東京で出張ラボ「サービスデザインの学び方」を開催した。学生が主催するデモンストレーションワークショップに企業人が参加し、勉強の成果を体験してもらう試みだ。

出張ラボ「サービスデザインの学び方」の様子。研究結果を見学者に説明するほか、その場でインタラクティブにやり取りを行っていった(写真提供:常葉大学 未来デザイン研究会)
出張ラボ「サービスデザインの学び方」の様子。研究結果を見学者に説明するほか、その場でインタラクティブにやり取りを行っていった(写真提供:未来デザイン研究会)

安武教授によれば「逆求人(編集部注:学生側から自らの活動をPRし、興味を持ってくれた企業へアプローチすること)としての就職活動の一環」でもある。参加した企業人からは「わかるまで問い続ける姿勢が素晴らしい」「こんな勉強をしている学生がいるとは思わなかった」「“そもそも”から考え直して組み上げていくプロセスは本当に大事」といった賛辞が寄せられた。

ユーザーの価値ある体験を生み出す製品やサービスの設計には、そもそも問われている課題の本質とは何か、ユーザーが何を求めているかに立ち返って掘り下げる必要がある。

「未来デザイン研究会」で取り組む、一次情報を集め、可視化し、そこから新たな仮説を浮かび上がらせ筋道をつけていくデザインのプロセスや姿勢、リテラシー。それらを学ぶことは、新しいビジネスモデルの創出につながるだけでなく、地域や社会の課題を解決するカギの1つになるにちがいない。

ユーザーに向き合い、その行動の表面的な意味だけでなく本質的な価値を見いだそうと日々調査、分析に向き合う常葉大学 未来デザイン研究会のメンバー。後編では、培った課題解決能力を活かし、静岡という地域にどのように働きかけているのか具体的なアクションを行う「わかもの」たちの取り組みを追った。

わかもののシビックプライドの先には、まちの未来がある? ──静岡でまちとわかものの接点を探る(後編)


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