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わかもののシビックプライドの先には、まちの未来がある? ──静岡でまちとわかものの接点を探る(後編)

2017年08月03日



わかもののシビックプライドの先には、まちの未来がある?  ──静岡でまちとわかものの接点を探る(後編) | あしたのコミュニティーラボ
働き方や生活の仕方がより柔軟になる現代において、地域に愛着を持ち、より良く変えたいという思いを持つ若者の存在は非常に重要だ。では、それぞれの地域において、どんなアクションが行われているのだろうか。今回の舞台は人口流出、特に若年層の人口減少が大きな課題となっている静岡市。
地元の私立大学である常葉大学造形学部の「シビックプライド研究会」では、5年間にわたり地元・静岡市の人々が郷土のどんな点に愛着や誇りを感じているのか、調査を重ねてきた。一方、静岡県立大学出身の学生が創設したNPO法人「わかもののまち静岡」は、まちづくりや政策立案に若者の声が反映できる機会や環境をつくるべく活動を続けている。都市の未来を築く基盤となるかもしれないシビックプライドの種を、2つの活動から探してみたい。 (TOP画像提供:NPO法人わかもののまち静岡)

デザイン教育の未来を模索する「未来デザイン研究会」 ──静岡でまちとわかものの接点を探る(前編)

郷土への愛着や誇りの種を探し、地域理解を深める

静岡市は政令指定都市として「2025年に総人口70万人を維持」の目標を総合計画に掲げている。とりわけて課題となっているのは若い女性を中心とした若年層の転出が目立つこと。

静岡県年齢階級別純移動数 (出典)総務省「住民基本台帳人口移動報告」/RESASより引用
静岡県年齢階級別純移動数 (出典)総務省「住民基本台帳人口移動報告」/RESASより引用

その実感があるかどうか、常葉大学造形学部の未来デザイン研究会(前編参照)と、シビックプライド研究会の双方に所属する学生に聞いた。広沢晴菜さん(4年生)はこう話す。

常葉大学 シビックプライド研究会 広沢晴菜さん
常葉大学 シビックプライド研究会 広沢晴菜さん

「普通に結婚して穏やかに暮らせればいい、という人が静岡市には多い気がします。若い頃はいちばん尖っている時期だと思うのですが、野望を抱く人は東京や名古屋に出て行く。残っている人は静かに暮らしたい人ではないかと」

造形学部の安武伸朗教授は九州からのIターン組。「なぜ静岡市のまちと学生に熱量が足りないのか」と、かねがね疑問に思っており、若年層の人口流出が課題になりはじめた2011年、大学の自主研究助成金制度を利用し「シビックプライド研究会」を立ち上げた。

シビックプライド(Civic Pride)とは、個々人が持つ都市に対する誇りや愛着を指す言葉で、権利や義務を持って、自分自身が主体的に関わってその地域を良くしていこうという自負の要素も加わった言葉を差す。

「学生が地域と関わる授業は当時ありませんでした。シビックプライドを切り口にすれば、アート、ビジュアルデザイン、デジタル表現デザイン、環境デザイン各コースの勉強を地域理解に役立てられる」と安武教授は考えた。そこからはじまったのが、シビックプライド研究会の5年にわたる「静岡のシビックプライドを探す」研究だ。

シビックプライド研究会の5年にわたる研究テーマ。先輩から後輩へその活動が引き継がれていった
シビックプライド研究会の5年にわたる研究テーマ。先輩から後輩へその活動が引き継がれていった

1年目はまず、資源を表出させ、シビックプライドの種を探るために静岡のまちに興味をもつきっかけになるアクティブマップを制作した。2年目はさらに深掘りし、地域住民の暮らしのなかからシビックプライドの種を発見しようとワークショップを開催。しかし結果として、可視化されたまちの資源からも、市民の心や体験からも、特段これといった注目すべきシビックプライドの種は浮かび上がってこなかった。

3年目は、よりサンプル数を増やし、Webのアンケートを活用しエピソードを集め、キーワードを分析してグラフに可視化。すると、ふだんの生活圏にある自然や街並、夜景などに心を通わせ、大切にしている傾向が現れてきた。そこで4年目はエピソードを深掘りするため学生がヒアリングを行い、展示会形式で発表したものの、突出した要素は出てこず、学生が心底「これぞ静岡市のシビックプライド!」と大々的にアピールしたいものは見つからなかった。

3年目で行った分析をもとに、Webサイトの構造を検討していった。画像は、その際に作成したレポート(画像提供:未来デザイン研究会)
3年目で行った分析をもとに、Webサイトの構造を検討していった。画像は、その際に作成したレポート(画像提供:未来デザイン研究会)

そして最終年度となる2015年。既存のものさしでは計れない新しい価値観を探すため「都市における個人の多様な行動が多様な価値観を生み、未来の誇りを生み出す」との仮説を立て、さまざまな活動に取り組む人たちにインタビューを重ねた。そのエピソードから静岡市の暮らしのなかにある多様性を明らかにし、それらを分類していった。

シビックプライドは多様な個人の活動から生まれる

5年間にわたる活動のなかで導き出された結論は、多様性を外から取り入れるがごとく、勝手に動くことのできるまちが静岡市だという結論だ。こんなフレーズにそれが表れている。

「静岡市の環境に多様性を育む動きが少なくても、個人はさまざまな活動を生み出しているのだ。未来に続くシビックプライドの種は、1人ひとりの活動のなかに生まれている」(静岡ダイバーシティ発見プロジェクト「いろいろなのがいいところ展」報告書より)

シビックプライド研究を通じて学生はどんな気づきを得たのか。「郷土を離れてはじめてわかった」と話すのは野田佳穂莉さん(4年生)。

「わたし自身、生まれ育った沼津市に対して誇りや愛着はあまりありませんでした。でもいったん離れて暮らしてみると、沼津って実は良いところだったんなあと思います」

常葉大学 未来デザイン研究会 小野寺夏海さん(写真左)と野田佳穂莉さん(写真右)
常葉大学 未来デザイン研究会 小野寺夏海さん(写真左)と野田佳穂莉さん(写真右)

小野寺夏海さん(4年生)は移住者が多いことで知られる福岡県糸島市でフィールドワークをした。「音楽フェスを長年運営している方にインタビューしたのですが、移住者も地元の人も応援する仲間が多く、凄い熱量が集まるらしいです。個人の活動を起点にして渦が広がり、街がどんどん良くなっていく。シビックプライドはそうやって形成されていくのではないかと思いました」

常葉大学も来年キャンパス移転する草薙駅周辺は、文教地区として移住者に人気の高いエリア。ここで市民の有志がマルシェやフリーマーケットを開くなど、静岡市でも“未来へ続くシビックプライドの種”を蒔く個人起点の取り組みが少しずつ活発になってきた。安武研究室と未来デザイン研究会では「若者に選ばれるまちづくり 藤枝市民のシビックプライド可視化の研究」(2016年)など、行政と共同しシビックプライドの研究を継続している。

まちづくりに若者の声が反映される機会を求めて

静岡県立大学から早稲田大学の大学院に進み都市計画を研究しながら、NPO法人「わかもののまち静岡」代表理事を務め、静岡と東京の2拠点生活を続けている土肥潤也さん。土肥さんは大学2年生まで、中学・高校生の余暇活動を支援する学生サークル「YEC」(Youth Empowerment Committee)の代表として、高校生自らが静岡駅前の繁華街でフラッシュモブを企画・実現するサポートなどに取り組んでいた。

2015年に静岡県全体の人口流出数が全国第2位になったとのニュースを知った土肥さんは「このままではまずい」と、静岡県立大学の他の学生団体や静岡大学、常葉大学の学生をはじめ、高校生にも声をかけ「わかもののまち静岡実行委員会」を発足させる。

同委員会では「若者が主体的にまちづくりに参加し、政策の意思決定に若者の声が反映される機会や環境の整備を進めることが最も重要」と意見が一致し、13歳から25歳まで約2,000人分の賛同書を集め、静岡市長に政策提言した。2016年、試験的に「静岡市若者会議」が発足し、提言だけでなく実際の地域づくりにも携わるため、土肥さんらは「わかもののまち静岡」をNPO法人化した。

NPO法人わかもののまち静岡 代表理事 土肥潤也さん
NPO法人わかもののまち静岡 代表理事 土肥潤也さん

同時期に、土肥さん出身の焼津市でも人口流出対策をはじめ、市内の高校生、大学生と「わかもののまちづくりフォーラム」を実施した。そのなかで多く出たのが若者の集まる拠点が欲しいという声。

フォーラムに市の職員も参加していたことから、焼津駅前にある静岡福祉大学のサテライトキャンパス内に若者の拠点が設置されることになり、「わかもののまち静岡」が管理を委託され、今年の2月にオープンした。「僕らが勝手に決めては意味がないので、ワークショップなどを重ねて、ここを使う若者たち自らがルールを設定し、何をしたいか、どんな場所にしたいか、自治のしくみをサポートしていきます」と土肥さんは話す。

わがまちのことは自分たちで決めるプライド

土肥さんが果敢にこうした社会活動へ突き進むモチベーションは何なのか。根底にあるのは「ずっと感じていた違和感」だという。「国連子どもの権利条約第12条には“意見表明権”の規定があります。つまり、子どもに関わることは子ども自身が意見を言う権利がある、と。ひるがえって日本の社会をみたとき、学校の現場でも政策決定のプロセスでも、子どもや若者が自分たちに関わることについて意見を表面できないのは単純におかしい、と思ったんです」

自分たちのまちのことは自分たちで決める。まさにそれこそシビックプライドにつながっていくのではないか。土肥さんはそう考える。「たとえば公園づくりに参加するとか、学校に対して意見が言えるとか、小さなことからでいいんです。その機会もないのに“投票へ行こう”と言われても“どうせ声が届くわけないじゃん”と思ってしまう。課題はこの乖離をどう埋めるかです」

その方策の1つとして、この6月に浜松市の若者団体と連携し、県知事選候補者の公開討論会に若者が登壇し、意見をぶつける機会を設けた。その結果、「若者のたまり場を各地域に配備したい」「若者の声を反映させるコーディネイターを配置したい」といった言葉を候補者から引き出せた。選挙候補者の公開討論会に若者が参加し声を上げる機会自体が稀なだけに、そうした場が設定できたことだけも「一定の成果はあった」と土肥さんは手応えを感じている。


公開討論会の様子(写真提供:NPO法人わかもののまち静岡)

若年層の人口流出に対して、学生をつなぎ止めるような付け焼き刃の施策は本質的な解決策にはならないだろう。常葉大学の広沢さんが言うように「野望を抱く人は東京や名古屋へ出て行く」のは仕方がない。やりたいことにつながる多様な選択肢は当然ながら大都市のほうが多いからだ。真の課題は「出て行った後に、いつか戻ってきたいまちであり続けること」と土肥さんは指摘する。

「すると大事なのは、子どもの頃から地域への愛着や誇りを持てるかどうか。フラッシュモブをやった高校生はゼロからすべて自分たちで立ち上げました。警察に道路使用許可を取り、商業施設にも話を通し、参加者を集め、振り付けを考えた。動画がウェブにアップされる。その場所を通るたびに“ここでやったよね”と愛着や誇りが生まれてくる。そんな体験の積み重ねが必要です」

集合写真

常葉大学シビックプライド研究会が5年間にわたる取り組みで結論づけたように、都市生活の新しい活力を生み出すのは、自分で自分の環境をつくり出す人々にちがいない。その特権を真っ先に与えられているのは、未来の当事者たる若者たち。若者目線のまちづくりの可能性が静岡でどう開花するか期待が高まる。

デザイン教育の未来を模索する「未来デザイン研究会」 ──静岡でまちとわかものの接点を探る(前編)


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