Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

鳥取県にみる“住民自治”の潜在力──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(1)

2017年08月08日



鳥取県にみる“住民自治”の潜在力──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(1) | あしたのコミュニティーラボ
人口減少や高齢化が進む地方では、さまざまな課題に対して予算を配分していかなくてはならない。今後行政任せのサービスはますます立ち行かなくなり、必然的に“住民自治”の必要性が高まりつつある。そこで、「住民自治による地方創生モデル」の構築を目指しているのが鳥取県だ。2016年には、日本財団と5年間で総額30億円の助成を行うプロジェクトもスタートしている。あしたラボでは、プロジェクトを含む鳥取県内の「自立的で持続可能な地方創生」の動きについて、3回にわたり紐解いていきたい。
(1)では、プロジェクト以前より鳥取で進行している住民自治の先進的な2つの事例を紹介。「森のようちえん」の開園など町民自身で提案を実現する町政を10年前から運営してきた智頭町(ちづちょう)。そして、八頭町(やずちょう)で地域住民とともに空き家の利活用や移住促進に挑む一般社団法人ワノクニの試みだ。

「鳥取県×日本財団」共同プロジェクトの挑戦──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(2)
平井県知事が描く、これからの地域モデルとは?──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(3)

町民の提案に直接予算をつける「百人委員会」

鳥取県の東南端、岡山県と境を接する智頭町(ちづちょう)は町面積の約93%が山林で、人口約7,000人。寺谷誠一郎町長のリーダーとしてのスタンスは明快だ。「知恵をもっている人材に仕事は任せればいい。何かあったら責任を取るのがリーダー」。

鳥取県・智頭町の寺谷誠一郎町長
鳥取県・智頭町の寺谷誠一郎町長

任せるのは町役場の職員ばかりではない。議会の反発を説得し、町民のアイデアに直接予算をつける措置に踏み切った。2008年、町民が関心のある分野について討議し、“要望”ではなく“提案”する「百人委員会」がスタート。ここから実現したのが「森のようちえん まるたんぼう」だ。

自ら発案し、開園にこぎつけたのは移住してきた母親たち。豊かな自然資源を活かし、森のなかで子どもを育てるこの幼稚園はメディアの注目を集め、ドキュメンタリー番組が160カ国で6回放映されるなど、小さなまちの名を世界的に知らしめた。

「森のようちえん まるたんぼう」の保育のフィールドは、智頭町の豊かな自然。子どもの興味関心に基づき、自由な行動を促している(提供:特定非営利活動法人 智頭町森のようちえん まるたんぼう)
「森のようちえん まるたんぼう」の保育のフィールドは、智頭町の豊かな自然。子どもの興味関心に基づき、自由な行動を促している(提供:特定非営利活動法人 智頭町森のようちえん まるたんぼう)

森で子どもたちが遊びだすと、お年寄りも動きだした。「マムシを退治するよ」「橋を修繕しておいた」。勝手知ったる地域の山、毒蛇の生息地には詳しい。杉の木を切り出すのも、お手のもの。子どもに危険が及ばないように一肌脱いだ。「カッコいいおじいさんたちがいるな!」と寺谷町長はおおいに感激し「こういう人たちに何か目に見える感謝をしなければ」と思案をめぐらせた。

そこではじめたのが「疎開保険」。都市部の加入者は、地震等で被災したら智頭町へ疎開すると1週間の宿泊と食事の提供を受けられる。加入料は年間1万円(個人)から2万円(3〜4人家族)まで。特典として智頭町の米や野菜などが年1回届く。この特産品を高齢者が栽培し、農協よりも高く町役場が買い取るのだ。

「高齢者にとって大量出荷する農業はもう難しいですが、丹精込めて質の良い作物を少量つくるのなら十分にできます」(寺谷町長)。総務省の過疎対策事業に採択されて補助金がつき、今では100名近い高齢者が生産に従事している。

地域住民による自活と共助を町役場が支援

智頭町の百人委員会は、高校、中学にも広がり、生徒たちが地域への関心を入口に自主的な活動に目覚めるきっかけとなった。

県立智頭農林高校の生徒たちは、全国の高校生が地域の魅力を活かした観光振興策を競う第5回「観光甲子園」(2013年)でグランプリ(文部科学大臣賞)を受賞した。彼らが提案した「日々の生活が観光プラン」は、智頭町で取り組んでいる森林セラピーや民泊体験を盛り込んだものだった。これをきっかけに、2014年には少子化に伴い存続の危機にあった同高校のポテンシャルを活かし、魅力向上を目指すため、町と連携した事業を模索。そのなかで、観光甲子園での実績が自信となり、百人委員会にも積極的に参加することになった。

智頭町では6つの小学校を1つに統合した。5つの廃校の活用は地域住民で構成する地区振興協議会が担う。富沢地区では町から約2000万円の支援を得て昨年12月にキクラゲ栽培のハウスを廃校跡地に建てた。収穫したキクラゲは長崎ちゃんぽんで有名な「リンガーハット」に納入する。事業主体は地区振興協議会だ。地域住民の自治力によって持続可能な事業のサイクルが回りだしている。

「金がないなら知恵を出そう」という住民提案型の町政運営は、マスコミからも注目を集めている
「金がないなら知恵を出そう」という住民提案型の町政運営は、マスコミからも注目を集めている

地域の自主性に任せた町政運営の最終目標は「都会にはあり得ない、田舎だからこそできる、きめ細かい福祉」と寺谷町長は語る。

「すわ、一大事のとき、1人暮らしや足の悪いお年寄りを、若い人の誰が助けるか集落ごとに決めておきます。このあいだの正月、1人暮らしのお婆さんが、“わし、いざとなったらあんたに助けてもらうんだから”と、新聞紙に包んだ200円の“お年玉”をあげたらしいです。これには泣けました。東京じゃ絶対できないでしょ?」

智頭町は昨年「おせっかいのまち宣言」をした。町民による自活と共助を町役場が支援する。智頭町の強い“住民自治力”の源泉は、町民を巻き込むしくみづくりにあるようだ──。

ご自身も智頭町生まれの寺谷町長。1997年に智頭町長に就任した
ご自身も智頭町生まれの寺谷町長。1997年に智頭町長に就任した

よそ者が触媒となり、課題解決への地ならしをする

岡山県倉敷市出身の平賀謙太さんは鳥取大学の大学院時代、「農拡機動隊」というプランを組み立てた。その内容は獣害対策や雪かき、草刈りなど高齢者が負担になる作業を、若者が肩代わりし農業の継続を支援するというもの。内閣府の「農村での6次産業化起業人材育成事業」に採択された。そうして、平賀さんは2012年から鳥取県東部の八頭町(やずちょう)船岡地区の農事組合法人に地域おこし協力隊として関わることになる。

平賀さんが関わることとなった八頭町志子部集落は全13世帯、人口30人足らず。50歳未満の住民はゼロという、典型的な小規模高齢化集落だった。地域おこし協力隊で現地に入った当初、平賀さんは地元の人に「こんな辺鄙なところに、何しに来た?」と訝しがられた。新たな特産品の開発など、いろいろなアイデアを話すと「そんなことできるはずがねえ」と受け入れられなかったという。

「そもそも“わしらは毎日イノシシと戦っているんだ”というんです。要はゼロスタートではなくマイナススタート。そこでまず集落全部を取り囲むようにして害獣防護柵を張りました。それも、僕らが町から補助事業を引き出して勝手につくったわけではなく、地元の人たちに1軒1万円ずつ出してもらい、一緒に作業していったのです」

2012年、地域おこし協力隊として八頭町へやってきた平賀謙太さん
2012年、地域おこし協力隊として八頭町へやってきた平賀謙太さん

「後から“正直、1万円を出させるのはわしらには不可能だったと思う”みたいな話もいただいて、次第に地元の人たちの意識も変わっていきました。今では外から来た人に“こんなええ集落はない”と自慢しています。僕らにとっては最初の成功体験でした」と平賀さんは振り返る。

小さな集落では昔からの上下関係や本家、分家などの因習が根強く、必ずしも合理的な判断で物事が進まない。そこへ平賀さんたちのような“よそ者”が入り込んで虚心坦懐に話し相手となり、真のニーズを掘り起こすことによって、望ましい触媒の役割を果たした。外からの働きかけが地域を開き、リソースを提供し合い課題解決にあたる住民自治への地ならしとなったのだろう。

外から来る地域の担い手の入口をつくりたい

さまざまな活動に取り組むうちに、平賀さんは「外から来る地域の担い手に対して入口が設定されていない」という課題に直面した。「農拡機動隊の連中もシェアハウスで暮らしていて家が手に入らず、活動拠点も足りません。一方で空き家は放置され大事な地域資源なのに活用されていない。この不適合を何とかしなければ」と、空き家の利活用と移住促進に取り組む一般社団法人ワノクニを2016年に設立した。移住の入口としての観光促進や着地点としての仕事づくりにも注力する。

平賀さんは現在、一般社団法人ワノクニとして、空き家の利活用や移住促進の取り組みに注力している
平賀さんは現在、一般社団法人ワノクニとして、空き家の利活用や移住促進の取り組みに注力している

空き家の利活用といっても誰かれ構わず貸すわけではない。地域に良い影響を及ぼす人に移住してほしいし、そういう人になら所有する物件を使ってもらいたい。そして、理解を得られる家主とマッチングしたい。そのためにはまず、ワノクニの存在を地域に認知してもらう必要がある。

そこで平賀さんは自らファシリテーターとなって、まちづくりをテーマとしたワークショップを昨年12月に実施。「寄り合ってワイワイガヤガヤ」の意味で「よりわい」と名づけた。ふだんならこうした会合に集まる若い人は商工会などの組織に加盟している常連だが、「よりわい」では鳥取市内に通勤する若いビジネスパーソンなども巻き込んだ。商工会の副会長と観光協会の会長は「若い人たちの集まりなのでワシらは引いとく」と遠巻きに見ているだけだった。

エリア設定をして課題を探り、どんなアクションを起こせるか考えた。意外に駅前の商店に馴染みがないことがわかり、飲み歩きやまち歩きをして足元をまず知ることからはじめよう、営業しているかどうかわかりにくい店が多いから「やってるで!」ランプをつくろう……といったアイデアが出た。「15名ほどの小さな集まりでしたが貴重な一歩だったと思います」と平賀さん。

広域連携して移住支援できるのが鳥取県の強み

移住促進の取り組みは地域ごとの人口争奪戦になりがちだが、平賀さんはワノクニで広域連携による移住支援を推し進めている。鳥取市と姫路市をつなぎ、県東部を縦断する国道29号線沿線地域(八頭町もそこに入る)のネットワーク化を図るため、各地域でワークショップを開催し意見を吸い上げている。

「鳥取には東部、中部、西部に大型商業施設が1つずつしかなく、そこを中心に生活圏が拡がっているイメージがあります。言い換えれば極端な話、どの市町村に入ろうが、クルマでちょっと走れば同じような利便性を享受できるのです。山と海の距離も近い。たとえば八頭町からスキーに行くのもダイビングに行くのも1時間とかかりません。狭いエリアになんでもあるのが鳥取の強みです。だから移住支援も広域連携のプロモーションが必要」と平賀さんは話す。

ワノクニのスタッフは3人。移住促進に関わる県の補助事業のほか、自前の収益源は空き家の転貸事業だが、まだ十分な収入を確保できていない。まずは、転貸物件をより多く扱う必要がある。地域の将来を考えて物件を提供してくれる家主と出会うためにも、平賀さんは「よりわい」を通じた地域づくりを続けるつもりだ。

子どもと一緒に楽しめて観光促進にもなる身近なイベントとして「チャンバラ大会」も主催している。手づくりの刀を見せてもらった。塩ビパイプとプラスチックダンボールと緩衝材を使った、大人も童心に返って遊べそうな逸品だ。これもまた、地域を外に向けて開く触媒としての機能の1つに違いない。

続く(2)では、日本財団・鳥取事務所所長の木田悟史さんに登場いただき、鳥取県×日本財団の共同プロジェクトがどのように自立的で持続可能な住民自治の未来を築こうとしているのか、探ってみたい。

「鳥取県×日本財団」共同プロジェクトの挑戦──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(2)へ続く
平井県知事が描く、これからの地域モデルとは?──鳥取県発・自立的で持続可能な地方創生とは(3)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ