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「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」はなぜ神戸の地に生まれたのか?

2017年08月17日



「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」はなぜ神戸の地に生まれたのか? | あしたのコミュニティーラボ
人口減少が続く神戸市では「神戸2020ビジョン」という計画のもと、「若者に選ばれるまち、誰もが活躍するまち」をテーマに掲げている。そんな課題を共有している神戸の様々な主体(行政、民間企業、教育者、研究者など)が集まり、実行委員会を組織してイベントを開催した。それが2017年5月6日から7日にかけて兵庫県神戸市中央区内にある3つのメインエリアで開催された「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」である。期間中、各イベントへの観覧・参加はいずれも無料。近郊エリアの商店などとも連携した企画が催され、2日間で合計3万6,500人の来場者があったという。あしたのコミュニティーラボでは、オースティンのSXSWを彷彿とさせる音楽からキッズまで6カテゴリーを横断したこの“クロスメディア”な催しを追跡。実行委員会のメンバーに初開催から2年目にかける思いを伺った。特集「創発のデザイン」としてお届けする。

人口減少に歯止めをかけるのは「若者に選ばれるまち」

神戸市で「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」が計画された背景には、神戸市が抱える課題があった。

第2次安倍内閣のもと「地方創生」が国をあげた政策となるなか、神戸市でも人口減少に歯止めがかからず、人口の増減数は悪化の一途をたどっている。昨年中には政令指定市の人口ランキングで福岡市に追い抜かれ、横浜、大阪、名古屋、札幌、福岡に次ぐ第6位となっている。

そうした実状を踏まえ、神戸市では、国の戦略を踏まえて策定された神戸創生戦略(2015~19年度)とともに「急激な人口減少」「超高齢社会の本格化」「東京一極集中の進行」といった課題を克服すべく、新たな独自の実行計画として「神戸2020ビジョン」(2016〜20年度)を策定した。

このビジョンのなかでは2つのテーマ/6つの柱を設けている。

「若者に選ばれるまち」に重点を置いた施策・事業
●若者に魅力的なしごとづくり
●若者を惹きつける魅力づくり
●若い世代の結婚・出産・子育て・教育を優先できる社会システムづくり

高齢者、外国人、障害者など「誰もが活躍するまち」に重点を置いた施策・事業
●次世代の将来を約束できる環境づくり
●安心なくらしづくり
●地域と地域の連携づくり

なかでも着目すべきは、前者の「若者に選ばれるまち」だ。

神戸市 企画調整局 創造都市推進部の職員であり、078実行委員にも名を連ねる長井伸晃さんは市の狙いについて次のように話す。

「神戸といえばオシャレ──など定着したイメージだけでは、やがて若者が来てくれなくなることは明らかです。市が参画するアイデアソンなどで学生さんの意見をきくと、神戸のことは好き、生活もしたい、でもやりたい仕事がここではなかなか見つからない──と、完全に東京のほうに目が向いてしまっている。そのために「神戸2020ビジョン」があります。そして、いきなり若者が飛びついてもらう「事業」をつくることは難しいとしても、おもしろいまちをつくることはできる──078に関する議論はそんなところからスタートしました」(長井さん)

神戸市企画調整局創造都市推進部の長井伸晃さん
神戸市企画調整局創造都市推進部の長井伸晃さん

神戸の「95年」から20数年──「そろそろ新しい価値を見つけなければ」

神戸市では2016年3月から経営者・専門家を招いてセミナー・ワークショップを開き、神戸における事業アイデア創出・具現化していく「神戸創生会議」が開かれていた。その船出となる第1回のプログラムに、産官学連携で行った「SXSW2016」視察報告が組み込まれた。

後に078実行委員長を務めることになる藤井信忠さん(神戸大学大学院システム情報学研究科准教授)は、神戸大学の学生と社会人による共創プロジェクトをきっかけに、神戸ITフェスティバルへの学生出展をサポート。さらに、神戸大学大学院システム情報学研究科システム科学専攻の今村駿太さんとともに「SXSW2016」に出展していた。

「『こんなアイデアがあるけどどうだろう』『未完成だけれど、一緒にやりませんか?』など、誰もが分け隔てなく呼びかけあうSXSWはとてもクリエイティブな空間。大きなエネルギーを感じ、もしもこれを神戸でできたらすばらしい、と思いましたね」

「078」の具現化は神戸創生会議がきっかけになり進んでいった。

「1995年の阪神・淡路大震災は、そのとき神戸にいた者にとってやはり大きな出来事です。一方でそれから20年以上が過ぎ、人口も減り、停滞感も漂っている今、『そろそろ神戸にも新しい価値を見つけなければ……』という思いもまた、誰にでも共通するところだと思います」(藤井さん)

神戸大学大学院システム情報学研究科准教授の藤井信忠さん
神戸大学大学院システム情報学研究科准教授の藤井信忠さん

3エリアに詰めかけた3万6,500名──「多様な市民が集まった」

それ以降、実行委員会は、兵庫県の経済人が集う一般社団法人「神戸経済同友会」のメンバーを中心に企業の協賛を集め、神戸市も久元喜造市長のもと、万全のサポート体制を築いた。官民に呼びかけたのは、ちょうど阪神・淡路大震災のときの災害復興債計1,996億円を市が完済したタイミングであり、「新しい一歩を踏み出す絶好の機会だった」と藤井さんは話す。

実行委員は藤井さんらを含めて十数名に及んだが、そのときどきでボランティア的に参加する新メンバーも加わり、以降もさまざまなイベントが企画・招致されていった。

078への来場者に配布されるパンフレットの表面(ダウンロード可能)には、こうある。

「078」は、都市生活の面白み、心地よさを追求する市民、クリエイター、エンジニアが集い、交わることで創り上げるクロスメディアイベントです。初回となる2017年5月6日・7日に、デザイン都市神戸の都心部にある3会場で開催します。都市で楽しむ「音楽」「映画」「ファッション」に、社会変化を加速させる「IT」、上質な「食」文化、次世代の「子ども」をテーマとしたものを掛け合わせ、ライブ、カンファレンス、展示会(トレードショー)を組み合わせた実験的・国際的な集約点を目指します。

「私も過去に神戸ITフェスティバルを企画・運営しましたが、そのときの4倍以上の方に来ていただけたことは、1つの大きな成果でした」(藤井さん)。

「078」当日の様子

「078」当日の様子

「078」当日の様子

「078」当日の様子

「078」当日の様子。音楽、映画、IT、食、ファッション、キッズの6つのカテゴリーでさまざまなイベントが企画された(4枚目のみ、提供:078実行委員会)
「078」当日の様子。音楽、映画、IT、食、ファッション、キッズの6つのカテゴリーでさまざまなイベントが企画された(4枚目のみ、提供:078実行委員会)

神戸に根付く「進取の気性(気質)」──では次に何を取るべきか?

「078は“生活×テック”がサブテーマ。その点では、IT系のトレンドが集まるインタラクティブのイベントに参加した後に、はじめてテクノ音楽のライブにも触れたりする家族連れの行動はうれしい反応の1つでした。起業家やスタートアップ同士がつながるBtoBの要素が強いSXSWと078が違うのはまさしくそこ。078は、BtoC、CtoCであり、Cはカスタマーではなく“シチズン(Citizen:市民)”なんです」

そう話すのは、神戸電子専門学校校長の福岡壯治さん。078では実行副委員長を務めた。

福岡さんは、かつて神戸三宮「さんきたアモーレ広場」で定期的に音楽イベントを主催していた。「神戸の音楽というと、どうしてもジャズになるじゃないですか(編集部注:神戸は日本のジャズ発祥の地)。それとは少し違う『本当の、神戸の音』を探すため、広場で幅広いジャンルの音楽を演奏し、反応のいいものを自分たちで選択していけばいいのではないのか、と実験的に活動をしていました」。

実はそのときの活動の名称が「078」。由来は神戸市の市外局番から。2016年3月の神戸創生会議以降、具体的構想が計画されるなかで福岡さんも活動に参画し、その「078」という名称が今回のイベントに継承されることとなった。

他方で、福岡さんは電子専門学校で教鞭を執ってきた立場から、生活に浸透するテクノロジーの将来像について、こんな見方を示した。

「指数関数的な技術進化とかプレ・シンギュラリティ(編集部注:社会的特異点のこと。2024年ごろに実現し、経済・社会・人生の前提が逆転する世界がやってくるとされている)の話をしていくと、どうしたってワクワクする面と不安に思う面の両面が生じるものです。今、この分水嶺をワクワクの方向にもっていかないとならない。その点、神戸にはかねてから自ら進んで物事に取り組む「進取の気性(気質)」を持つ人がたくさんいると言われている。そんななかで「では今、何を取るべきなのか」という問いに対し、僕らはまず078で『実験都市』をメインコンセプトに掲げました」(福岡さん)

神戸電子専門学校校長の福岡壯治さん
神戸電子専門学校校長の福岡壯治さん

「078は、パンフレットに書いた『おもしろみ、心地よさ』がとても重要です。極端にいえば、働く機会が今よりもずっと減る時代には、市民がみなクリエイターであり、エンジニアになるかもしれない。都市生活のおもしろみ・心地よさはどうなっていくのか、それを078で『実験的』につくり上げていき──かつて私がまちなかの音楽イベントを主催していたときと同様に──市民自らに選択してもらうことが肝心だと思っています。かつ、それを教育的にやるだけではなく『おもしろそうだから参加してみた』と思ってもらえるような場を078ではめざしたい」(福岡さん)

078は次年度以降も継続的に開催──次なる展望は?

「078」の運営自体も、まだ実験の段階にある。初年度を終えた今、委員会は来年度以降も078を継続して続けていく考えで、今まさにその準備中だ。

次年度に向け、大学教員である藤井さんは、「神戸2020ビジョン」にある「若者に選ばれるまち」について、いかにして大学が主体的に実行していくかを考えている。

「神戸から起業家を志す学生を輩出するにしても、ふだんの大学の授業からそれをやらなければいけないと思うし、それが神戸らしさだとも思います。学生はきっかけさえ与えれば自ら輝きますから、若者たちが自ら世に問うて社会実装していけるようなきっかけに『078』がなればよい。たとえば、来年の078に何が必要か、そのためのアイデアソンを神戸近郊の大学と連携して実施した大規模アイデアソンとかも考えていて、そこから半年間の時間をかけ、もう一度、078の場で世に問いたいと考えています」(藤井さん)

話し合いのようす

神戸市職員の長井さんも市民と行政が手を組み「実験都市神戸」というテーマが生まれた今、次のような見解を話す。

「神戸の人たちが『このまちオモロいわ!このまま住み続けたいから自分たちで何かやってしまおう!』と思うような──そんな若者を育成していくフィールドに078がなっていけばうれしいです。イベントのカテゴリーも今の6つに限らず、次年度以降はたとえばスポーツなんかにも注力していきたいですね」(長井さん)

福岡さんも、さらなる期待を語る。

「パンフレットにあった『集い、交わる』の部分は、まだ半分くらいしかできていない。『若者に選ばれるまち』は、若者に迎合することでは決してなく、色気のある大人がたくさんいて、若者がそういう大人に背伸びしてでも食らいついていきたい──そう思ってもらえるまちだと思っています。若者がそうして次なる一歩に踏み出す『接続性』のようなものを次年度以降は提示していきたい」(福岡さん)

藤井さん、福岡さん、長井さんの3者とも、大学、一市民、行政と立場・目的に多少の違いはあれど「若者が憧れるような『神戸』になるために!」という思いに違いはない。2年目の「078」が若者たちにどんな道を示していくのか、さらなる期待がかかる。

最後に2日間で3万6,500名が集まったという、各エリアの内容を振り返ってみよう。

エリア1/東遊園地はキッズイベント、音楽・映画上映イベントなどで盛り上がった。朝は若者からお年寄りまでがファーマーズマーケットで食にふれあい、昼間は子どもたちがキッズ向けイベントを楽しみ、夜は遅くまで大人が映画を楽しむ──そんなふうに、ジャンル・趣向の異なる多様な人々が集まり、賑わいを創出したという。

エリア2/みなとのもり公園は6日限定で開放された屋外ステージだが、こちらは大型音楽イベント「078music」がメイン。エリア2だけで実に全来場者の半数に相当する1万7,000名が詰めかけたという。日中の時間帯には「Daytime ROCK MUSIC」、日も沈みかけた17時以降は「Nighttime TECHNO MUSIC」を開催。若者はもちろん、家族連れも多く足を止め、思い思いのスタイルでライブを楽しんだ。

エリア3/デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)では主に「インタラクティブ」(IT)に関するカンファレンス、展示会(トレードショー)が開かれ、2日間で8,500名が詰めかけた。6日夜にはメインステージでファッションショーも開催された。IT系のイベント・展示会というと、ややもすれば“ギーク”な人たちが集まりがちであるが、インタラクティブ系のイベントにも家族連れなど、多様な人が参加したという。

さいごに
【特集】創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~


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