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市民の価値観から”まち”を変えていく! ──「実験都市神戸」に移り住む起業家たち

2017年09月04日



市民の価値観から”まち”を変えていく! ──「実験都市神戸」に移り住む起業家たち | あしたのコミュニティーラボ
2017年5月、兵庫県神戸市中央区内にある3つのメインエリアで「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」が開催された。開催の背景には「急激な人口減少」「超高齢社会の本格化」「東京一極集中の進行」といった神戸市の課題があり、「若者に選ばれるまち」になるべく神戸市が、行政・企業・市民の協働による「実験都市」としての歩みを始めていることはすでに紹介した通りだ。
では、その実験都市に参画する市内・市外の企業や起業家たちは、神戸市においてどんなビジョンを描いているのか。神戸市に移り住んで起業をした「合同会社こどもみらい探求社」の小笠原舞さん、「有限会社ルーシー」の小泉寛明さんと、078をきっかけに神戸を訪れて実証実験を行ったFUJITSU UX CLUBの岡田一志さんに話をうかがった。

園を超えて、子どもたちがよりよく育つための環境づくりをしたい

愛知で生まれ、小学校6年生からは埼玉で過ごした小笠原舞さんは、大学で現代福祉を学びながら、自閉症児の通園施設でボランティア活動をしていた。子どもたちと触れあう時間が増えるほどに子どもに可能性を感じ、今から10年ほどまえの20歳のときに保育士国家資格を独学で取得した。大学卒業後、一度は保育や福祉とは関係のない企業に就職するも、土日の時間を使ってNPOに参画するようになり、再び子どもたちをキャンプに連れて行くなどのボランティア活動に従事することとなる。

「でも、仕事とNPO活動の両輪で生活しているなか、やはり保育や福祉への思いは捨てられず……。結局会社を辞めて、保育士として働くことを選びました」(小笠原さん)

いくつかの保育現場を経て、2013年6月には同じ保育士だった小竹めぐみさんとともに「合同会社こどもみらい探求社」を立ち上げた。今は「保育士起業家」として活動している。小笠原さんら「保育士起業家」が行うのは「子どもたちがよりよく育つための環境づくり」だ。

「保育士というと必ず『どこの保育園に勤務しているの?』と聞かれるのですが、私たちはどの園にも所属していません。実際に保育の現場にいたなかで、教育と社会が分断されてしまっていると感じていました。子どもたちは園の中だけで育つわけではないのに。園で働く保育士はたくさんいるけれど、園を卒園してもその子らしく育てる環境を作りたいと考え、園に所属しない保育士として、私たちは起業することにしました。
子どものこと、親子のこと、家族のこと、保育のこと……。私たち保育士はこれらを知るプロフェッショナルです。その経験やスキルを活かせば、園の中だけではなく、社会を創り上げている企業・行政の方々と子どもたちをつなぐ架け橋として——たとえば、課題を聞いてその解決のためのイベントを企画・運営したり、ファシリテーターを務めたりするなど——人的・物的環境づくりができると思ったんです。」(小笠原さん)

神戸で園に所属しない保育士として活躍している小笠原舞さん(合同会社こどもみらい探求社共同代表)
神戸で園に所属しない保育士として活躍している小笠原舞さん(合同会社こどもみらい探求社共同代表)

神戸の地産地消を応援するファーマーズマーケット

大阪府吹田市育ちの小泉寛明さんは、大学卒業後、アメリカに留学した。帰国後は森ビルに入社。同社に3年ほど在籍してから退職し、それ以降はアメリカでのフリーランスのコンサルタント、静岡県伊豆市でのホテル会社経営、はたまた不動産開発・飲食店事業などに従事してきた。

現在、小泉さんは有限会社ルーシーの代表として、神戸の個性的な不動産物件を紹介する不動産仲介サイト「神戸R不動産」を運営している。神戸R不動産をきっかけに新しいライフスタイルを求め移住してくる若者もいるという。

今年5月に開催された「078」会場の1つである東遊園地では、小泉さんらが078以前から定期的に開催していた「ファーマーズマーケット」とのコラボが実現した。

●078 ファーマーズマーケット開催概要(078ホームページより)
神戸市各地から、毎回さまざまな農家・漁師が参加し、生産者との会話を楽しみながら良質な食材の買い物ができるマーケットを開催しています。地産地消を応援する朝ごはんや軽食も販売しています。

078当日に開催されたファーマーズマーケットの様子(提供:有限会社ルーシー)
078当日に開催されたファーマーズマーケットの様子(提供:有限会社ルーシー)

「神戸R不動産は、まちのなかに隠れた魅力のある不動産が眠っていたということが起点になって始まりました。農業においても似たような状況があり、若い農家さんがあまり目立たずに素晴らしい野菜をコツコツと育てているという状態でした。はじめは、そうした神戸産の野菜の魅力を知ってもらうためのサイト『EAT LOCAL KOBE』を神戸市から受託してつくりました。これは、誰が野菜を作っていて、どこで買えるのかを紹介するというものでしたが、しかしいざ野菜の直売所へ行くと農家さんにはなかなか会えないので『対面で野菜を買いたい』という声もあがりました。そして、農家さんと直接コミュニケーションを取りながら野菜を買える場所として、ファーマーズマーケットが生まれていったんです」(小泉さん)

小泉寛明さん(有限会社ルーシー代表)は野菜や不動産を通して、神戸の隠れた魅力を知ってもらうための活動をしている
小泉寛明さん(有限会社ルーシー代表)は野菜や不動産を通して、神戸の隠れた魅力を知ってもらうための活動をしている

なぜ神戸へ移住・定住したのか?

保育・不動産とそれぞれ異なる事業を軸に神戸で活動している2人であるが、神戸へ移住したのはともに比較的近年のことだ。

小泉さんが神戸へ引っ越したのはおよそ10年前。関西出身のため、神戸という場所はそれなりに身近だったようだが、いわく「それまで25回くらい引っ越してきたけど、神戸で最初に住んだ外国人向けのマンションがとても居心地がよく、おかげで引っ越し癖もぴたっと止まった」。当初、神戸は「仕事をする場所としてのイメージと結びつかなかった」というが、住んでみるほどに、「ここで起業するのも良いかも」と感じるようになったという。「本当は神戸へ移る以前に、東京や海外で事業をおこすことも視野に入れていました」と小泉さん。

そんなあるとき、たまたま読んだ『spectator』(スペクテイター)という雑誌の記事に心を惹かれた。それはアメリカ・ポートランドに関して書かれたもので、リーマンショック以降、全米のビジネスマンがポートランドに移住し、仕事とプライベートのバランスをとりながら働いている、とのことだった。「私はそれを見て、ポートランドと神戸を重ね合わせたんです」と小泉さんは振り返る。

一方の小笠原さんは、ずっと関東圏で活動していたこともあって「神戸にはなんの縁もなかった」という。しかし昨年末に結婚した相手が神戸の出身だったこともあり、何度か足を運んでいるうちに「都市がコンパクトで山にも海にもすぐ行けて、歴史や多様な文化もあって。子どもたちが育つ環境としてお金では買えない豊かな環境がそこにありました。それだけではなく、私自身が神戸に来ることで、時間の使い方や日々の選択が変わっていったんです。子どもだけではなく、誰もが豊かに暮らすために必要なものが神戸にはあるんじゃないかと思ったんです。この先、自分自身が子育てをする場所として考えた時にも、絶対にここに来たいと思った」という。

神戸での暮らしのなかには人が豊かに生きるために必要なものが多く揃っている、と語る小笠原さん
神戸での暮らしのなかには人が豊かに生きるために必要なものが多く揃っている、と語る小笠原さん

「住んで1年になりますが、面白い取り組みや新しい取り組みをしている人と知り合いやすく、その方々は『一緒にやろうよ』とすぐに言ってくれる。そのなかには行政の方も普通にいて『やってみていいよ』と言ってくれる。『自分たちで理想のまちをつくる』ということに、こんなにも市民として関われる“余白”があるのか! とこの街に大きな可能性を感じています」(小笠原さん)

東京からの出展——078 share music serviceとは?

「実験都市神戸」というテーマを掲げ、それを実現・象徴するための装置として、今年から「078」がスタートした。078をきっかけに、市外・県外からこの実験都市に参画したケースもある。「FUJITSU UX CLUB」は078向けに「078 share music service」を開発(現在はアプリの公開を終了)。078で実証実験を行った。

「原点は、音楽を聴くという体験が、実にパーソナルになっているという課題から。現在もYouTubeみたいなシェアサービスがあります。でも、昔のジュークボックスやカセットテープをダビングするみたいに、そのときの感情や空間とともに、誰かと音楽を楽しむ機会は少なくなっていると思うんです」(FUJITSU UX CLUB・岡田一志さん)

FUJITSU UX CLUB・岡田一志さんは078をきっかけに神戸と接点を持った
FUJITSU UX CLUB・岡田一志さんは078をきっかけに神戸と接点を持った

078 share music serviceは、そのときの「感情」や「位置情報」も一緒に楽曲をアルバムに登録し、みんなで気軽に音楽をシェアできるという音楽シェア体験サービスだ。

「078 share music service」の実際の操作画面(提供:FUJITSU UX CLUB)
「078 share music service」の実際の操作画面(提供:FUJITSU UX CLUB)

078には、同サービスの試作が持ち込まれた。試作版は、iTunes Storeの試聴コンテンツを活用し、無料で楽しめるストリーミングサービスとして実装された。078の音楽イベントの参加アーティストによるオリジナルアルバムが投稿され、ユーザーは思い思いに好きなアーティストと一緒にアルバムを作成し、新しい音楽との出会いを体験したという。

「078は実証実験の場としてうってつけのイベントでした。第1回目を終えて、今回はサービスを提供するだけで終わってしまったという個人的な反省もあり、これからはもっと市民の方と一緒に考えていく立場として携わりたい」(岡田さん)

以前お伝えした地元IT企業による「RALLY」「SeekAt」などと同様、市外・県外の企業や起業家にも開かれた078には、新しいサービスやプロダクトの実験を行う土壌がつくられてきている。

コーポラティブエコノミーのマインドをつくりたい

小笠原さんは今後のビジョンとして、「神戸にはまちづくりに市民として関われる”余白”があるとはいえ、それに気づかずスルーしてしまう人もいる。せっかくの“余白”を活かすためにもこのまちの課題や可能性を見つけ、それを主体的に解決できる場や実績をつくっていきたい」と話す。

078で小笠原さんは、キッズ向けコンテンツとして「『こどもがクリエイティブに育つ街、神戸』を考える」と題したワークショップを行った。これこそまさに「自分も参画できる場がある」という「気づき」となるイベントだ。

当日はグラフィックレコーディングが行われ、リアルタイムにワークショップの内容がまとめられていた(提供:合同会社こどもみらい探求社)
当日はグラフィックレコーディングが行われ、リアルタイムにワークショップの内容がまとめられていた(提供:合同会社こどもみらい探求社)

ワークショップの参加者は、クリエイティブな子育てを実現するためのアイデアを出しあった。去る6月15日にはこのワークショップの続きとして「『こどもが主体になれる街、神戸』をつくる会議」を開催。行政関係者や、神戸をフィールドに活動する地元企業&起業家が集まり、今後も継続的に実験を重ねながら、アイデア実現をめざしていくという。

一方、小泉さんは「実験都市神戸」を次のような視座で見守る。

「実験都市というキーワードはすごくよいと思います。実験が行われれば、人の価値観が変わり、人の価値観が変わればまちは急激に変わっていく。そうした価値観の変化を近頃とくに感じます。まちのハードウェアを整えるのももちろん大事ですが、それよりもソフトウェアの部分——すなわち人のマインドをオープンにしなければいけないと常々思っています。僕は日本の経済成長にはやや悲観的な立場です。根拠のない成長ではなく、『実験』を大事にしている神戸はとてもいい場所。本当の意味での自己実現ができる場になっていくと思うし、私自身もこれからコーポラティブ(協力的)なエコノミーのマインドをつくる実験をしていきたいです」(小泉さん)

今回お話をきかせていただいた三人

内外から、神戸という地に多様なマインドを持つ人々が集まり、それが有機的につながったとき——「実験都市神戸」の真価が発揮されるのかもしれない。

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