Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

「世界の誰も答えを知らない問題」へのアプローチを教えるための秘訣とは?──モチベーションを高める広尾学園の教育システム(後編)

2017年09月29日



「世界の誰も答えを知らない問題」へのアプローチを教えるための秘訣とは?──モチベーションを高める広尾学園の教育システム(後編) | あしたのコミュニティーラボ
広尾学園中学校・高等学校に「医進・サイエンスコース」が設置されたのは2011年のこと。コースの軸に据えているのが、生徒の主体性を育み、学ぶ楽しさを体感させる「研究活動」。生徒1人ひとりが“世界の誰も明らかにしていない未知の問題”に挑んでいくというのがユニークだ。後編は、研究活動に並々ならぬ力を注ぐ広尾学園の医進・サイエンスコースにスポットを当て、これからの教育と教育者のあり方について考えたい。

「人のためになる経験」が生徒の主体性を育む? ──モチベーションを高める広尾学園の教育システム(前編)

未知なる問題にアプローチする「研究活動」

・老化の進んだ細胞からのiPS細胞作製効率亢進へのアプローチ
・プラナリアにおけるTERTタンパク質の発現パターン解析と寿命獲得メカニズムの解明
・対称群上のBigrassmannian置換の個数を考える

これらはいずれも、医進・サイエンスコースの「研究活動」から生まれた高校生の研究テーマだ。研究活動とは、生徒1人ひとりが世界の誰も明らかにしていない未知の問題をテーマに据え、世界の学術界に通用するくらいの研究成果を生み出すべく活動していくというもの。最近は上記のような大人の研究者も顔負けのテーマが、続々と上がっているという。

本コース設置にあたり、医進・サイエンスコース統括長の木村健太さん(理科・生物教諭)はこの「研究活動」をコースの軸に据えた。

「高校の研究活動は任意の活動です。われわれはやりたいと言う子に“最高の環境”を用意し、やりたくない子を出さないためにどれだけ生徒のモチベーションを引き出せるかということに注力しています。2011年に先行して高校で研究活動がはじまり、そのプロセスをしっかり評価できるようになったことで、われわれ教職員の側にも自信が芽生え、2015年から中学にも同コースを設置しました。中学では授業の枠組みのなかの『理数研究』としてその基礎を教えています」(木村さん)

医進・サイエンスコース統括長の木村健太さん(理科・生物教諭
医進・サイエンスコース統括長の木村健太さん(理科・生物教諭)

研究活動をはじめる生徒に、木村さんらは最初のガイダンスで次のような話をするという。

「研究テーマというのは『①自分がやりたいこと』だけではダメ。そこには『②社会で求められていること(世の中のニーズ)』、さらには『③技術的にできること』も問われてくるでしょうし、新規性も問われていきます。
①と②でしかないのはその人の『夢』だし、①と③で交わる部分なら『趣味』で終わってしまう。②と③なら大人になったら会社でさんざんやることになるでしょう(笑)。研究テーマを決めるときに大事なのは、この①〜③の3つが交わっていること。そして世界の誰も答えを知らない問題へどのようにアプローチすればよいのか、ということです」(木村さん)

新規性のある研究テーマは3つの要素の重なるところで見つかる
新規性のある研究テーマは3つの要素の重なるところで見つかる

未知なる問題にアプローチする「研究活動」

研究テーマを定めた後、生徒は先行研究を調べ、論文を読み解く。10月のけやき祭(前編)ではそこで読み取った論文の内容を、来場者に向けてわかりやすく伝えるプレゼンテーションも行う。学内には大学レベルの研究設備が揃っているし、中高大連携・産学連携の課外プログラムも充実している。

研究の進捗状況は同じ研究チームの生徒や教員とICTツールで共有する。各自が自身で定めたテーマに対し、仮説・検証を繰り返しながら、最終的には世界に向けて成果報告できる段階にまで進めていくことになる。こうして解き明かしたいテーマが先にあることで、そのためにどんな知識・スキル・考え方が必要であるのかが見えてくる。生徒たちは「だから、ふだんの授業が必要なんだ」と、勉学へのモチベーションを高めていくこととなる。

語学力にしても、情報リテラシーにしても同じことがいえる。どんな情報を集めてくるか、信憑性をどのように担保するか、さらには集めた情報をどう使うのか──生徒は研究活動を通じ、学内で多くのことを学んでいく。

「医進・サイエンスコースの6年間は、『習う・学ぶ・拡げる』の3ステージで構成されています。日本の教育は、良いか悪いかは別にして、広く浅く掘らせるところがあります。理科、数学、英語……とあって、将来何が役に立つかわからないから全部やってみよう、という考え方です。これはある意味、修業ですよね。嫌いなものが増えていく要因にもなっていくでしょう。医進・サイエンスでやりたいことは、とにかく自分のいちばん好きなものを深く掘り下げてみて、そこから横に拡げてみようということ。それをやっている過程で学ぶ楽しさもわかるし、興味も拡がっていくはずです」(木村さん)

医進・サイエンスコースのカリキュラム(編集部にて作成)
医進・サイエンスコースのカリキュラム(編集部にて作成)

「何がおもしろいのか」が先にあるから学びは継続する

木村さんはもともと、生命科学系の研究分野の出身。高校時代は「勉強ができなかった」が、大学で勉強の楽しさを知り、アカデミックな世界で成果を上げていくにつれ、学ぶことの楽しさを知ったという。「それを中高生に還元したいとの思いから、教員の道を志すに至りました。だから学内に医進・サイエンスコースを設置することは、自分にとっての使命だったんです」。

最初はコース設計を1人で行っていた木村さんの理念に共感したのが、数学科教諭の堀内陽介さんだ。

「ずっと純粋数学をやってきた自分も、教育者としての課題を持っていました。とくに数学は『なぜそうなるか』『何がおもしろいのか』『どこに価値があるのか』といったことを考えることなく、解法を詰めこむだけの教育になりがちじゃないですか? たとえば、渋滞を解消するには“微分方程式”が必要で、そこにたどり着く要素として僕らは生徒たちに“微分積分”や“指数関数”を教えています。しかし下からの積み上げ式の教育だと、『いつになったら、本当に何かに役立つことができるのだろう?』と多くの子どもたちに感じさせてしまう。やがておもしろい高みに到達できるのですが、そこにたどり着く前に『つまらない』と感じ、結局、何もやらないまま終わってしまうんです」(堀内さん)

数学科教諭の堀内陽介さん
数学科教諭の堀内陽介さん

「だから数学嫌いの子どもが増えるし、それが社会のいろいろな面に影響が及んでいると常々思っていました。だから木村先生から声を掛けてもらったときは──確実に仕事の量は増えることがわかっていましたが(笑)──一緒にやらずにはいられませんでしたね。『何がおもしろいのか』を先に決める、医進・サイエンスの研究活動はとても実験的な試みだとはいえ、数学を途中で止めてしまうことは少ないと思います」(堀内さん)

広尾学園の教育理念は「自律と共生」だ。インターナショナルコースおよび医進・サイエンスコースのカリキュラムは、まさしく自律と共生を促す新しい教育の姿だといえる。

このときに肝心なのは、教育者の立ち位置だ。

「『習う・学ぶ・拡げる』の6年間は、茶道や武道の世界に伝わる『守・破・離』にも近いところがあります。すなわち、まずは既存の型を守り、次にその型を破り、最終的には型から離れて自分の型を築いていく──。そのときに我々教師側がどのように生徒と接するかが問われていると思います」(木村さん)

実際に担任としてクラスを受け持つ堀内さんも、次のように話す。

「われわれ教員はあるときから、生徒という集団を後ろから見守るような立場になります。行事にしても何にしても、自分たちがやりたいからやっている。だから自分たちの力で解決してほしい。『これをやれ』というよりも『何のためにやるのかを教え、そのための行動を促す』という感覚です。生徒たちからすれば、いつのまにか関わってこなくなることに戸惑いを感じているかもしれませんが、それでいい。自分たちで自分たちのクラスの問題をなんとかしようとすることから自主性が育まれるのですから」(堀内さん)

生徒の自主性が育てば「われわれ教員はあるときから、生徒という集団を後ろから見守るような立場」になると語る堀内さん
生徒の自主性が育てば「われわれ教員はあるときから、生徒という集団を後ろから見守るような立場」になると語る堀内さん

それは、学校と教職員の関係性でも同じことがいえる。「今の広尾学園は、トップダウンでものごとが決まることはなく、教職員が『こういうことをやりたい』と言えば、それを企画にし、実現に向けリーダーとして牽引してもらっている。広尾学園においては、教員の成長が学校の成長につながっている」と副校長の金子暁さんは語る。いま、日本の教育現場では、上意下達の教育者から、下意上達を促すファシリテーターのような存在が求められているといえるだろう。

「人のためになる経験」が生徒の主体性を育む? ──モチベーションを高める広尾学園の教育システム(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ