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協調型のコミュニティー設計が創発実装のカギになる? ──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(前編)

2017年10月25日



協調型のコミュニティー設計が創発実装のカギになる? ──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(前編) | あしたのコミュニティーラボ
企業のR&Dやテストマーケティングの場としても注目度を高めるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。多様な人々が地域に集い、さまざまなディスカッション、展示などを通してイノベーションの萌芽を生み出そうとしている様子は1つの文化となっており、そこに影響を受けた大小さまざまな活動が行われている。あしたのコミュニティーラボでは、特集「創発のデザイン~発散を収斂させるためのヒント~」と題し、SXSWに見られる「創発のデザイン」をはじめとした、国内の企業や自治体、学びの領域などに幅広く広がる、イノベーション創発、実装の流れを取り上げてきた。今回は、SXSWを活用し、大学発ベンチャーの量産を狙う東京大学の試みから、アイデア創発と社会実装に向けた取り組みのヒントを探りたい。前後編でお届けする。(TOP写真提供:Todai to Texas(SXSW2017の様子))

【特集】創発のデザイン〜発散を収斂させるためのヒント〜

本郷に設けられた学生・研究者・卒業生のためのコミュニティー

東京大学の学内プロジェクト「Todai to Texas(以下TTT)」は、東京大学産学協創推進本部が主催し、東大の現役生・卒業生で構成される「TTTプロジェクトチーム」によって運営されている。ここで言う「Texas」とはもちろん、毎年3月に開催されるSXSWのこと。在学生・研究者・卒業生・起業家を対象に参加チームが募集され、6~10チームがプロダクトやサービスを開発、SXSW Trade Showへの出展準備に取りかかる。なかにはSXSW Interactive Innovation Awardsに応募するチームもあり、直近の参戦となる「SXSW2017」ではロボット義足開発チーム・BionicMがStudent Innovation部門でアワードを受賞した。

SXSWでのTodaitoTexasブースの様子
SXSWでのTodai to Texasブースの様子(TOP写真提供:Todai to Texas)

そして、「SXSW2018」に向けたTodai to Texas(TTT)プロジェクトが、今年も始動している。今年度から設けられたアーリー枠(編者注:最終選考会「Demo Day」に先立って、随時審査により出展権を獲得できる枠)の応募期間(6月1日~7月31日)を終え、9月23日には例年通りDemo Day枠の審査が行われた。

出場チームは2018年3月に開催されるSXSW2018へ参戦することとなる。TTT出場チームの応募要件は、1名以上の東大の学生・研究者がコアメンバーであること。その条件さえクリアされていれば、卒業生であっても、法人化(創業3年以内、資金調達額1億円未満を想定)されていても構わない。

そもそもTTTが東京大学内のプロジェクトとして始動したのは2013年のこと。それは、東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)ほど近くにある、1軒のカフェから始まった。

話は2013年から少し前にさかのぼる。

後に東京大学大学院理学系研究科(地球惑星科学専攻)の修士課程を修了する杉本雅明さんは、大学在学中の2008年頃、本郷キャンパスから徒歩数分圏内にクリエイティブスペース「Labo+Cafe」を立ち上げた。Labo+Cafeは東大の現役生・卒業生が集まる会員制のカフェで、昼は時間貸しスペースとして、夜はイベント&ミーティングスペースとして運営されている。「なんでも好きなことができるディープな溜まり場・異空間」として今も東大の現役生や卒業生に活用される。

なぜキャンパスの近くに、こうしたコミュニティーが必要だったのか。杉本さんは、ロンドンのオックスフォード大学の知人に、現地の学生寮やまちのコミュニティーを案内されたとき、Labo+Cafeの着想を得たという。

杉本雅明さん
東大に起業コミュニティーをつくった杉本雅明さんは、現在、エレファンテック株式会社(旧:AgIC株式会社) 取締役副社長として活躍しながら、東大の起業コミュニティーを陰で支えている

「ロンドンには、表の通りから見えないようなところに、学生たちが集まるサンクチュアリがありました。テストが終わると学生はみんなそこに集まり、難しそうな本を読みながらお酒を飲んだり、仲間同士で議論したりしている。これこそが「イノベーションを多産する文化」には必要だと思ったし、こういう場所がなぜ東大のなかにないのか、疑問に感じました」(杉本さん)

東大の学内になかった「異分野の仲間と何かに挑戦する機会」

Labo+Cafeで築こうとしたのは「協調型のコミュニティーだった」と杉本さん。

さらに前提として、離れたコミュニティーや才能を持つ人々が生み出すコラボレーションには価値があるが、共通点や関心を持つことからスタートするため、発生確率が非常に低い。それを解決するためにそういった離れた人々を恒常的に結びつけることのできるコミュニティーが必要だと話す。そして、そのコミュニティーをつくる意義をゲーム理論として知られるゲームモデルの1つ「囚人のジレンマ」を引用しながら解説した。

「囚人のジレンマ」は、利害関係のある相手との関係性のなかで、自分と相手の利益を考え、最適な行動をとるための思考法である。

囚人A、Bは、検事から司法取引を持ちかけられた。

「このまま2人とも黙秘していたら、2人とも懲役2年が課せられる」
「どちらか片方だけでも自白したら、自白したほうは釈放してあげよう」
「ただし自白しなかったほうは、懲役10年が課せられる」
「あるいは、2人とも自白したら、2人ともに懲役5年になる」

こうした状況下で、自分がもしも囚人Aだったらどうするか。

(『囚人のジレンマ―紛争と協力に関する心理学的研究』などを元に、編集部作成)

ポイントは、協調(黙秘)と裏切り(自白)。できれば、自分だけが自白する状況(=釈放)の方向に持って行きたいが、相手も同じことを考えたら懲役5年が課せられる。であるならば「2人とも黙秘」(懲役2年)が望ましいが、もしも相手に裏切られたら、懲役10年という最悪の状況になってしまう……。

ゲーム理論においては、このゲームを繰り返すとき、有限繰り返し(繰り返し回数を囚人が知っている)では「裏切り」、無限回の繰り返し(繰り返す回数を囚人たちが知らない)では「協調」の可能性が生まれやすいとされる。(フォーク定理)

そして、杉本さんは、こう思い立った。コミュニティー内の利害関係のある相手との関係性のなかで、自分だけが得をしたい方向を抑えながら、「協調」の方向性へ誘導するには、この「無限回の繰り返し」をコミュニティーメンバーに共感してもらうこと、習慣にしてもらうことが重要なのではないだろうか。

それを体現するように、Labo+Caféは以下の3つをコンセプトとして立ち上がった。

(1)夜ゆっくりできる居心地が良い場所
(2)肩書きに関係のない仲間を見つけられる場所
(3)仲間とともに何かに挑戦できる場所

その後、杉本さんはLabo+Cafeを拠点にする仲間とともに「OpenPool」という開発プロジェクトを立ち上げた。これは、プロジェクションマッピングを使ったオープンソース・プロジェクトで、ビリヤード台にプロジェクターでさまざまな文様の光が照射され、キネクトが検出するボールの動きに合わせ、さまざまな光と音のエフェクトとして反応するものだ。

「OpenPoolのコンセプトは“Geek’s Sand Box(ギークな奴らの砂場)”でした。公園の砂場って、はじめて会った子ども同士でも自分の得意分野を活かして協調し、1つの世界観をつくっていきますよね。Labo+Cafeでも同様に、技術者同士が協調し、ときに対抗して技術を出し合いつつも、結果的には互いがリスペクトし合う──そんなストリートダンス的ともいえる掛け合いのできる状態をつくりたかった」(杉本さん)

杉本さん自身「エンジニアじゃないからコードを書くことはまったくできないし、エフェクトのデザインができるわけでもなかったけれど、Labo+Cafeに集う仲間同士で互いが技術を出し合いながら議論することで、OpenPoolは徐々にビルドアップされていった」。このOpenPoolの進化の過程こそ、杉本さんがLabo+Cafeという空間に求めていたものだった。

OpenPoolをスタートする前から、後にOpenPoolディレクターとなる、そして杉本さんとともにTTTのファウンダーになる下川俊成さんから、SXSWについて知らされていた。その後OpenPoolの企画が企業からのスポンサードを得てスタート。すると、徐々にOpenPoolの企画に注目が集まり、エンジニアたちが集まりはじめたことでプロジェクトが本格化した。そこで、杉本さんはOpenPoolを引っ提げ、単独で「SXSW2013」に参戦することとなる。

実際に行ってみると、SXSW来場者のOpenPoolに対する反応はすこぶるよかったという。

「豪華クルーズを持っているアメリカの企業からビリヤード台をほしがられるなんてこともありましたね(笑)。そういう人生が変わるような体験がSXSWでは頻出していて、当時の本郷キャンパスではなかなか遭遇できないものだった。次のステップとして、東大の学生をSXSWに連れていきたい、と考えるようになりました」(杉本さん)

東大のギークな奴らをいかに呼び集めるか

杉本さんら、SXSWを体験したメンバーは、SXSWの雰囲気、カルチャーを東大と連結できないかと、東京大学産学協創推進本部へ打診することとなった。杉本さんたちからの打診を受けたのが、現在は産学協創推進本部助教を務める菅原岳人さんだ。

菅原さんは、東京大学経済学部経営学科に在籍中、坂田一郎氏(現・東京大学政策ビジョン研究センター長)の講義を受けたことをきっかけに、インキュベーション支援に興味をもち、大学院(経済学研究科企業・市場専攻)の修士課程を修了してから5年間、IBMビジネスコンサルティングサービス(現在は日本IBMに統合)でコンサルタントを務めたが、2009年3月に母校である東大の産学協創推進本部のイノベーション推進部へ戻ってきていた。

イノベーション推進部は、産学協創推進本部のなかでも、「産学官連携プロジェクトの創出」「大学発ベンチャー支援」「アントレプレナーシップ教育・イノベーション人材教育」等を目的としている。

菅原岳人さん
SXSWでのTTT活動を語る東京大学 産学協創推進本部助教 菅原岳人さん

「当時、東京大学による起業・大学発ベンチャー支援の枠組みのなかで、学内でアウトプット(事業化)できるものをどんどん出していかなければならないとは考えていました。そのトライアルの機会を増やすべく「アントレプレナーシップ」を前面に出したプログラムを運営していたのですが、参加してくる学生・研究者は、純粋に起業の知識を学びにくる層、あるいは、アイデアはあるけど実装する力は弱い層のどちらかが主体でした。一方、東大のなかにいるギークな技術系学生がそういう場になかなかやって来ず、部屋にこもって仲間内でガジェットをつくっていたりしていた。彼らを呼び集めるようなプログラムを立ち上げたいと、常々思っていたんです」(菅原さん)

もう1つの理由として、菅原さんは「インキュベーション活動の課題」を挙げる。

「支援するスタートアップには、初期段階からグローバルマーケットを意識してもらう必要があったのですが、口で言ってもなかなか動いてもらえるわけではありません。なので、具体的で、かつ、効果的なサポートプログラムを用意する必要性を感じていました。当時抱えていた2つの課題のソリューションを考えていた折、TTTの原型となる企画を持ってきたのが杉本さんたちだったのです」(菅原さん)

杉本さんと菅原さんという大きなうねりが交わり、ここからSXSWでその名が広まるTodai To Texasの活動が生まれることとなる。後編では、Todai To Texasの活動の仕組みと、そのエコシステムをつくりあげるために必要な要素について考えていこう。

イノベーションを生むための「創発型クラスター」のつくりかた──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(後編)へ続く


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