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「身体を動かすこと」が人類最後の娯楽になる?──中村伊知哉さんインタビュー

2017年11月01日



「身体を動かすこと」が人類最後の娯楽になる?──中村伊知哉さんインタビュー | あしたのコミュニティーラボ
テクノロジーで身体を拡張し「人機一体」の新しいスポーツを開発しようという「超人スポーツ」。スポーツの苦手な人からアスリートまで、誰でも同じスタートラインから参加できる。テクノロジーの力を借りることでスポーツの敷居がグンと低くなり、百人百様の“超人観”を持つ人たちが集まる競技者や開発者のコミュニティーができあがっている。いったい、超人スポーツの何が人を惹きつけるのか?
超人スポーツ協会代表の中村伊知哉教授(慶應義塾大学メディアデザイン研究科)にその未来の可能性を伺った。

アスリートじゃなくても五輪に参加できる!?

──そもそも「超人スポーツ」とは何を目指しているプロジェクトなのですか。

中村 技術を使って身体を拡張し、「人機一体」の新しいスポーツを創造しよう、というものです。要件としては、まずテクノロジーを使う。VR/ARやロボティクスなどの先端技術に限らず、もっと素朴でメカニカルなものでも構わないので、何かしらテクノロジーを用います。さらには、性別・年齢・体格などを問わず誰でも参加できること。そして大事なのは、あくまでスポーツであり、身体性を伴うことです。最近流行りの、ゲームの腕前を競うeスポーツと兄弟姉妹の関係といえますが、超人スポーツは身体を動かすことを重視します。

超人スポーツ協会公式サイトに掲載されているイメージ画像(作品名:水中ドッヂボール/作者:蒼灯)
超人スポーツ協会公式サイトに掲載されているイメージ画像(作品名:水中ドッヂボール/作者:蒼灯)

──超人スポーツを開発しようとしたきっかけは何ですか。

中村 2020年東京オリンピック、パラリンピックの開催決定が2013年。2015年には、義足の走り幅跳び選手、ドイツのマルクス・レームが障害者陸上世界選手権で8m40cmの世界記録を樹立しました。2016年リオ五輪の走り幅跳び金メダリストの記録が8m38cm。義足の選手が健常者の記録を上回り、パラリンピックがオリンピックを抜こうとする時代が来ています。

そうはいっても、アスリートではない私たちは、オリンピックにもパラリンピックにも参加できません。何かテクノロジーの力を借りて、一般の人たちでも東京オリンピックに参加する手立てはないだろうか? そんなふうに呼びかけたら、前の東京オリンピックからぴったり半世紀後の2014年10月10日、思った以上に多くの人たちが集まったのです。

超人スポーツ協会共同代表の中村伊知哉さん
超人スポーツ協会共同代表の中村伊知哉さん

──どんな人たちが興味をもったのですか。

中村 呼びかけたのは主に科学者、技術者です。VR/ARの研究者もいれば、AIの研究者もいました。みなさん、「実はこういうことをやりたかった」と。日本にはマッドなサイエンティストが意外に多いな、と頼もしく感じました(笑)。
「超人」のイメージって各人バラバラですが、誰でも持っているわけですよ。鉄腕アトム、ドラえもん、キン肉マン、ドラゴンボール……世代によっても違うし、自分なりの「超人観」がポップカルチャーになるのですね。みんなが思い描くキャラクターを最先端技術で実現できそうなところまで来た。まさに日本のテクノロジーとポップカルチャーが合体できる強みを発揮できる時期に、ちょうどオリンピック、パラリンピックが東京で開催されるのだから、これはもうやるしかない、という気運が高まってきたのです。そのうち科学者、技術者だけなく、漫画家などクリエイターや、為末大さん、吉田沙保里さんなどアスリートの方々も興味を示し、だんだんコミュニティーができあがっていきました。

──科学者、技術者が最初に惹きつけられたのは“最先端のテクノロジーを使えば身体の機能を拡張できる”という点なのでしょうか。

中村 熱烈に食いついてきた技術者の多くは、子どものころスポーツが苦手だった人たち(笑)。野球やサッカーのヒーローに憧れていたものの、自分には縁のない世界だと数十年間忘れていて、いまようやく「ここまで進歩した技術を使えばできるかもしれない!」と気づき、ワクワクしはじめたのです。

「役に立つ」から「楽しい」「おもしろい」技術へ

──どんなふうに競技をつくりあげていったんですか。

中村 ハッカソンを何度も開いて種目を開発しました。ヘッドマウントディスプレイとアームセンサーを装着し、ARとリモートセンシングの技術で「かめはめ波」対戦を実現する「HADO


「HADO」をプレイ中の様子(画像提供:株式会社meleap)

バネでできた西洋竹馬を足に装着してジャンプ力を強化し、弾力性のある透明な球体を上半身に被ってぶつかり合う「バブルジャンパー

「バブルジャンパー」をプレイ中の様子
「バブルジャンパー」をプレイ中の様子(提供:Team BJ)

小型モーターを手綱で操作する文字通り“人機一体”の「キャリオット」など、現在20種類ほどの競技が生まれています。

「キャリオット」をプレイ中の様子
「キャリオット」をプレイ中の様子(提供:超人スポーツCarryOtto®)

そのうちのいくつかを選んで2016年秋に初の競技会「超人スポーツゲームズ」を開催し、東京や横浜などで続けているところです。

──2017年1月には岩手県で「ご当地超スポ」を開催しましたね。

中村 達増知事からの要請で自治体と連携し、学生や地元企業の方々がチームを組んでハッカソンを繰り返しながら競技をつくりました。岩のように大きな腕を装着し、腕に付いた小岩を落とし合う「ロックハンドバトル」は、悪鬼を祓う地元の伝承をモチーフにして学生がマンガを描き、その世界観を実現したものです。他にも地方発の超人スポーツが生まれました。

岩手県で開催された「ご当地超スポ」
岩手県で開催された「ご当地超スポ」(提供:一般社団法人超人スポーツ協会)

東京のほうを向かず、ローカル色が強ければ強いほど世界的な値打ちが出ると考えていたので、とても良かった。地域に根づいた土着の遊びを掘り起こし、テクノロジーを装填して新たな価値を引き出すのも超人スポーツでやってみたいことの1つですね。

──超人スポーツがいろんな人たちを呼び寄せ、コミュニティーや“場”が活気づいて、一種の触媒のような役割を果たしているのはなぜでしょう。

中村 わかりやすいということが大きいのではないでしょうか。つまり、この10年ほど、スマートフォンが出てソーシャルメディアが生まれ、スマートなテクノロジーが定着し、そろそろ次のIoT、ロボティクス、AIの時代に突入しています。しかし、それがどんなアウトプットとして実現するのか、イメージが漠然としていてつかみにくい。そんなところへ「IoT×スポーツ」という「お題」を出されて「なるほどそうだよね」とすんなり納得できたからプラットフォームになったのかな、と。それからもちろん、日本にはマンガやゲームなどポップな材料がたくさんあり、世界観を共有しやすかったのも大きいと思います。

──わかりやすいのと同時に「楽しいから」でもあるのでは?

中村 これまでのテクノロジーの大半は「役に立つ」ことを目指していましたが、これから求められる方向性は「楽しい」とか「おもしろい」になります。そのいちばんわかりやすい入口がスポーツなんですね。近い将来、AIやロボットに職業を奪われる不安ばかり日本では強調されますが、それらが大半の仕事を肩代わりしてくれることで「超ヒマ社会」が到来するプラスの側面を見たほうがいい。あり余る時間を使って、AIやロボットに絶対まかせられない楽しみの1つが、自分で身体を動かすスポーツです。そんな予感も察知されているのかもしれません。

超人スポーツを「情報化社会のスポーツ」に

──VRゲームなど感覚を拡張するテクノロジーは最初のうち刺激的ですが、意外に早く慣れてしまうことも考えられます。でも拡張された身体を使って遊ぶ超人スポーツは敷居が低いうえに飽きられにくいかもしれませんね。

中村 現時点で、身体を動かさなくてもその場にいながらにしていろんなことができる便利な道具としてICTは完成したと思います。AIやロボットの時代になると、今度は再び身体性が問い直されるのではないでしょうか。いまのオリンピック種目の大半は19世紀までの農業社会で生まれたものです。20世紀の工業社会になってから生まれたスポーツはモーターレースくらい。21世紀の情報化社会では、まだめぼしい種目が誕生していません。私たちは超人スポーツを「情報化社会のスポーツ」にしたいのです。

「超人スポーツを21世紀の情報化社会のスポーツにしたい」と語る中村さん
「超人スポーツを21世紀の情報化社会のスポーツにしたい」と語る中村さん

中村 2020年東京オリンピックにぶつけられたら愉快じゃないですか。勝手に妄想で言っているのですが、オリンピックとパラリンピックの間が1〜2週間あるので、その間をつなぐのが超人スポーツかなと(笑)。オリンピックに出場したアスリートと一般の人が対戦したり……。オリンピックの「近代五種」(注:ひとりの選手が1日で馬術、水泳、フェンシング、射撃、ランニングをこなす種目)のように5種類を選び、「超人五種」世界大会を開催したい。ARを使った「HADO」競技に吉田沙保里選手が参戦したことがあり、6歳の子どもとガチの勝負をしたのですが、子どものほうが勝って、吉田選手はとても悔しがっていました(笑)。

──超人スポーツが盛り上がれば、AIやロボットの時代にマッチした新しい文化と産業を生む土壌になりそうですね。そのためにはどんな課題がありますか。

中村 思いつきで発信したことに「そうだよね!」の声が予想外に多く集まったので「なんとかしましょう」ということになっているんですが(笑)、テクノロジーの開発だけではダメ。競技のルールを決めて種目化し、チームを編成してトーナメント大会などで人材を育て、専用のスタジアムを設け、競技用具を販売するなど、5〜10年単位で大きくしていかなければなりません。ビジネスモデルとしても大規模に拡がる可能性のあるジャンルだという気はします。

当面の課題は、「超人スポーツ」の商用化ですね。そのためのステップとして、まずは誰でも超人スポーツが体験できるスタジアムの常設を考えています。廃校になった小学校が使えないかとか、あちこち声をかけています。商用化した種目はまだ「HADO」(ハウステンボスで体験可能)だけですが、あといくつか、競技を楽しむことでお金を取れるしくみをつくりたいです。

みんなが参加できる以上にみんなでつくれることが大事

──テクノロジーを使ってアニメやゲームなどポップカルチャーの世界観とスポーツを融合させる発想は日本ならではだと思いますが、海外とも連動しているのでしょうか。

中村 ドイツ、フランスやスイスの人たちは結構ウマが合って、どんどんやりましょう、ということになっています。テクノロジー×スポーツの動き自体は全世界的に広がりつつあって、VR×スポーツはアメリカ西海岸あたりで盛り上がっていますし、ゲームの腕前を競うeスポーツも米国、韓国、中国あたりが熱心に取り組んでいるので、超人スポーツと親和性の高いプロジェクトは多いです。

2020年東京五輪は大きなチャンスなんですよ。五輪とメディアの関係でいうと、初のラジオ実況中継が1936年ベルリン、テレビの録画中継が1960年ローマ、衛星生中継が1964年東京。それから長く間が空いてネット配信が2012年ロンドン。2016年リオでは8KテレビとVRの実験だけでした。次の東京で、ポスト・スマート時代のメディア・テクノロジーが一気に開花するはずです。4K/8K、ドローン、IoT、VR/AR、ビッグデータ、AI……等々、世界中から東京五輪に照準を合わせ、さながらテクノロジー・オリンピックの様相を呈するかもしれません。超人スポーツもそのショーケースに載せたいですね。

中村さんいわく、「2020年東京五輪は大きなチャンス」
中村さんいわく、「2020年東京五輪は大きなチャンス」

──テクノロジーで身体を拡張することについて、欧米などの海外諸国と日本では受け止め方、考え方に違いはないのですか。

中村 同じではないでしょうね。まだ突っ込んだ議論をしていないので、シンポジウムでも開きたいと思っているのですが、欧米ではどちらかといえばメガネや補聴器の延長で「人を補助する」ツールとして捉える傾向が強いかもしれません。キリスト教文化圏では、神の領域を侵犯するようでヒト型ロボットにどことなく抵抗感があります。日本ではヒト型ロボットにとどまらず、「怪獣」のような空想の生命体を地球上に生み出すのにもいっさい躊躇はありません。「ゆるキャラ」も、そうですよね。“新たな身体性”に心理的な抵抗感がないぶん、超人スポーツでは日本が強みを発揮できるのではないでしょうか。

──アイデアにテクノロジーがまだ追いつかないテーマはありますか。

中村 水と空を使うものです。たとえば忍者みたいに水面を走れないか、というアイデアが出ました。京都大学のある先生が、薄くても水に浮く素材ができたので、それを足に装着すれば走れそうだ、となったのですが、ものすごく高速で足を回転しないと沈んじゃう(笑)。それだと単なる「超人」です(笑)。鳥のように羽ばたいて飛ぶとか、空や水はいくらでも開拓の余地があります。

僕の願いとしては、超人スポーツの種目はずっと生まれ続けてほしいんですね。みんなが参加できる以上に「みんなでつくれる」ことが大事だと思っています。最初に言ったように、それぞれの超人スポーツ観はバラバラなのですが、むしろそのほうがいい。アフリカのどこかの国で、また何かわけのわからない超人スポーツが生まれたぞ、なんていうカオスな状況のほうが楽しいじゃないですか。

【特集】「競う」と「楽しむ」の境目から生まれる、スポーツの新たな可能性

中村伊知哉

中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授/超人スポーツ協会共同代表


1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。2015年に共同代表として超人スポーツ協会を設立。著書に『コンテンツと国家戦略~ソフトパワーと日本再興~』(角川EpuB選書)、『中村伊知哉の 「新世紀ITビジネス進化論」』(ディスカヴァー携書)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、 共著)など。


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