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企業が『MAKERS』から学ぶこと イベントレポート(下)

2013年03月27日



企業が『MAKERS』から学ぶこと イベントレポート(下) | あしたのコミュニティーラボ
クリス・アンダーソン『MAKERS』(NHK出版)の思想をおさらいするとともに、日本のメイカーズたちの取り組みをご紹介し、メイカームーブメントについて理解を深めたイベント前半。Fab体験などで盛り上がった勢いそのままに、後半ではいよいよ、本題であるものづくりにおける企業の実態を考えていきます。

イベントレポート前編はこちらから

対話したい、共創したい、という企業の願望

後半は、個人してのメイカーズと既存の製造業との接点を探り、メイカームーブメントが企業に与えるインパクトについて考えます。

まずはコンサルタントとして製造業のものづくりを支援している株式会社富士通総研産業事業部の齋木雅弘さんが、製造業を取り巻く環境の変化と取り組みをプレゼンテーションしました。
齋木雅弘齋木雅弘さん(株式会社富士通総研 産業事業部コンサルタント)
新興国市場が拡大し、ものづくりの難易度が下がったことにより、受託生産サービスを行う企業が新興国を中心に躍進しています。これはつまりメイカーズにとっても、生産委託しやすい環境が整ってきたことを意味するわけです。

一方で日本国内のものづくりは、中小企業も海外生産を進めているとはいえ、まだ20万社ほどの工場が国内で高い技術力を保持しています。こうした企業がメイカーズのパートナーになる可能性があるかもしれません。

製造業の現場では、必ずしも高機能・高品質の製品が思ったように売れず、何をつくったらいいのかわからない状況が続いています。そこで浮上しているのが、もっと市場と対話したい、そして共創したい、という強い願望。その方策はまだ模索段階ですが、梅澤さんが言う「0から1を生み出す」ような新しいニーズとアイデアを企業は切実に求めており、そこがメイカーズとの接点になりうるのではないか、と齋木さんは期待をかけます。

企業がアイデアをオープンに募るようなサイトを開くと、冷やかしの対応やライバルの参入もあるので、ある程度選別はしたい。しかし選別するとオープンにならない。そうしたジレンマから脱するには、メイカームーブメントのような新しい動きに企業の側から積極的にかかわれる部分を見出すことで、発想を変える突破口の一つになるかもしれません。また、中小企業は1社では新しい動きをとりにくいので「仲間探し」をしており、そこに個人としてのメイカーが入り込む余地はあるかもしれない、と齋木さんは指摘しました。

「あったらいいな」をスピーディにつくろう

市場と対話しながらのものづくりという点では、生活者起点による商品開発をいち早く展開したのが「無印良品」ブランド。株式会社良品計画の品揃開発担当マネージャー萩原富三郎さんがプレゼンテーションしてくれました。
萩原富三郎萩原富三郎さん(株式会社良品計画 品揃開発担当部長)
無印良品は生活者と生産者をつなぐ情報プラットフォーム。これが基本的なものづくりの考え方です。しかし「もの」だけでは、もはや売れません。そこで重視するのは二つのこと。なぜつくったのか理由を明示する。カッコよく過ごしたい願望を充足させるデザインにおカネをかける。
ものづくりの基本的な考え方「無印良品」が掲げるものづくりの考え方(提供:萩原富三郎さん)
商品開発にはアンケートやモニタリングで生活者の声を反映させますが、無印良品ならではの思考・価値観を共有しておかなければ基軸がブレます。それをコントロールするのがウェブで開設した「くらしの良品研究所」。ユーザー、つまり生活者だけでなく生産者ともコミュニケーションをとり、無印良品らしさを点検・検証しつつ、外部の研究者やデザイナーなどの意見も吸収する場です。

ユーザーの声には「あったらいいな」「品揃えを増やしてほしい」「使い勝手の向上」「再販してほしい」の4パターンありますが、以前の商品の再販を望む声が40%と最も多く、次が使い勝手の向上とのこと。「0から1」の「あったらいいな」はそうそうない、と萩原さんは言います。だからユーザーの声には目を通していても、すべてに返答するのは難しかった。そこで、集中した議論がなかなかできなかったという反省のもと、Facebookを使ったユーザーとのディスカッションボードを近々試験的に開設するそうです。

萩原さんによれば、最も大切なのは「前例がなかったら自分たちでつくってしまえばよい」という姿勢。そしてスピード。議論は必要ですが、理屈より迅速な決断と実行に重きを置き、走りながら修正を加えます。

多店舗展開する業態にもかかわらず、大量生産・大量消費にいち早く「?」をつきつけたのが無印良品というブランドです。常識を疑うクセがついているひねくれ者、と萩原さんは良品計画の社風を表現します。生産者起点ではなく生活者起点の商品開発は、そうした企業文化から生まれてきたのでしょう。

日本企業はオープンソースを提供できるか?

会場の様子
登壇者各自によるプレゼンテーションを経て、イベントは登壇者によるトークセッションへと進みます。キーワードが「市場との共創」「オープンイノベーション」だとすれば、そこへ向けて生活者=メイカーズと企業がどう歩み寄れるのか、と松島さんが論点を提示しました。

梅澤さんによれば、ファブラボで「これ、いいな」と思えるのは、発想の段階から誰が使うのかターゲットがしっかりしているもの。自己満足ではなく、誰かの生活が改善する、特定の課題が解決する、といった目的が明確に見えているものづくりに梅澤さんは可能性を感じています。

ニーズオリエンテッドなメイカーズの姿勢は企業にとっても大きなヒントになる、と齋木さん。細かいニーズを捉え、共通の汎用品を少しずつカスタマイズすれば用途が無限に広がるのではないか。そんな「一本一本の木を細かく見て拾い上げ、大きな森へ」という発想が企業からも徐々に出ているそうです。

クリス・アンダーソンが主張するようにコミュニティーこそイノベーションの源であるなら、情報をシェアするコミュニティーの場としてウェブとリアルの相互作用が重要。「くらしの良品研究所」を実践する萩原さんも、製品につながるようなリアルの声の集め方を課題に掲げ、追求し続けているようです。梅澤さんいわく、ファブラボは、レシピサイトで得た情報をもとに実際に料理をつくるキッチンのような機能を持っているそうです。ウェブでは自分で情報を取りにいかなければなりませんが、リアルで集まると会話の中から新しい気づきが生まれる。ウェブとリアルの両輪があって初めて視野が広がります。

ここで、松島さんがイベント冒頭で挙げた「オープンソース」が話題となりました。設計データをオープンにするというこの思想は、ライバルに対する競争力が殺がれるという懸念から企業が尻込みしがちなテーマであり、決して広がっているとはいえません。しかし、オープンになればなるほど、生活者やユーザーが自由に改良したりカスタマイズできたりという領域も増え、利用そのものを促すことができるという効果が期待できます。

たとえば最近では、携帯電話メーカーのノキアがスマートフォンの筐体(きょうたい:ここではアウトラインのこと)をオープンソースとして提供しています。ユーザーがケースを自由にカスタマイズできるとなれば、数ある中でそのスマホを選ぶ人が増えるかもしれません。このようにオープンイノベーションは顧客というよりも「ファン」を獲得するための強力なツールにもなるのではないか、と梅澤さんは期待をかけます。

さらに松島さんは、その先の「つくる」という部分で、企業とユーザーが、あるいは思わぬ企業同士がつながる可能性があるかもしれない、と言います。話を継いだ齋木さんは、現に、コアな設計・製造条件の部分だけを削ってオープンにしたら、新たなサプライヤーが声をかけてきた国内事例を紹介しました。コアな部分で稼ぐビジネスモデルを堅持しながら、メイカーズともパートナーシップを結ぶ。このようにうまく切り分けることができれば、共創によるオープンイノベーションは進む可能性があります。

期待と課題が交錯するこれからのものづくり

イベント終盤では、参加者による15分間のディスカッションと質疑応答の時間が設けられました。登壇者の話をふまえて、日常やビジネスにおけるものづくりへの期待や課題について意見交換を行うという趣旨だったのですが、一人ひとり、予想以上に積極的に対話を続けている姿が印象的でした。
ディスカッション中は登壇者も参加者に混じり、議論を盛り上げました。登壇者も参加者に混じり、議論を盛り上げた
質疑応答でも活発な議論が続きます。たとえば、メイカーズが企業の期待を超えるアイデアを提供できるのか、との疑問が呈されました。これも「共創」がカギになります。多様な分野の知恵が投入されれば今までにない発想が生まれやすいし、3Dプリンタなどの広がりに伴い試作品が簡単に素早くつくれるようになったので、トライアル&エラーのコストが下がる。その結果、ロングテールのニーズにも応えやすくなっている。企業はそこに着目すべきではないか、という回答がありました。

今後必ず直面するであろうコピーライトの問題も俎上に上がりました。これについては、クリエイティブ・コモンズのしくみを援用して、ライセンスのある製品についてどこまで再利用を許すのか、その線引きを明示する「ファブ・コモンズ」を策定しようと法律家が動いていることを梅澤さんが報告しました。

椅子を並べきれないほど多くの参加者が集まった今回のトークイベント。終了後もなお、会話の花が咲き続けました。日本企業の強みだった「ものづくり」に停滞感が漂う今、メイカーズムーブメントにイノベーションの突破口を探る熱い期待が渦巻いた3時間でした。
イベント終了後も、いたるところで会話に花が咲いていました。
「あしたのコミュニティーラボ」では、これからも「ものづくり」の今後に注目していきますので、どうぞご期待ください。


(編集部より)

ここでは取り上げられなかった内容も多岐にわたります。
USTREAMのアーカイブをご用意いたしましたので、ぜひ下記からご覧ください。

動画アーカイブ(前編)

Video streaming by Ustream

動画アーカイブ(後編)

Video streaming by Ustream


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