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イノベーションを生むための「創発型クラスター」のつくりかた──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(後編)

2017年10月25日



イノベーションを生むための「創発型クラスター」のつくりかた──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(後編) | あしたのコミュニティーラボ
東京大学の起業・大学発ベンチャー支援のための学内プロジェクトとして始動したTodai to Texas(TTT)。同プログラムは、海外で学生の「サンクチュアリ(聖域)」からインスピレーションを得た東大生と、それを支援したいと考える大学の産学連携の支援部門がつながり、生まれた活動だ。後編では、同プロジェクトがどのように運営されているのか、東京大学産学協創推進本部助教の菅原岳人さんに引き続きお話を伺うとともに、「イノベーションのエコシステム」あるいはそのためのコミュニティーづくりにおいて必要なことは何か考えていきたい。(TOP写真提供:Todai to Texas(SXSW2014の様子))

【特集】創発のデザイン〜発散を収斂させるためのヒント〜

LearnからScaleの段階に合わせた各種学内プログラム

大学発ベンチャーの活動が多様性を増す中、その中心部にあると言えるのが、東京大学の試みだ。東京大学による起業・大学発ベンチャー支援は、国立大学法人化のあった2004年から本格化している。

産学連携本部(2016年に産学協創推進本部へ改組)が立ち上がり、東京大学TLO(技術移転機関)、東京大学エッジキャピタル(ベンチャーキャピタル・ファンド運営会社)との3社連携体制が始まったのもこの年のことだ。起業やスタートアップ(ベンチャー)について体系的に学ぶ「東京大学アントレプレナー道場」は2017年度で13期目を迎えた。

東京大学では、13期目を迎えたアントレプレナー道場(起業家育成のための初歩的な教育)のほか、学内に複数のアントレプレナーシップ教育&プロジェクト支援プログラムが開講されている。現在はTodai to Texas(以下、TTT)を含め、Learn→Idea→Develop→Deploy→Startup→Grow→Scaleの各ステージにある学生・研究者およびスタートアップへ向け、段階的に、各種学内プログラムが用意されている。TTTはインキュベーション段階とエデュケーション段階のつなぎ目に位置するプロジェクトだ。

人材育成(アントレプレナーシップ教育)プロジェクト支援
産学協創推進本部による教育・プロジェクト支援+起業・スタートアップ支援の仕組み。インキュベーション段階(上層)とエデュケーション段階(下層)に大別され、LearnからScaleまで学生・研究者・スタートアップの段階に合わせた学内の施策が講じられている(画像提供:東京大学産学協創推進本部)

前編でお伝えしたとおり、TTTが始動したのは2013年のこと。同年の秋に開かれたデモデーを経て、6チームがまずはSXSW2014(2014年3月)に初参戦した。以降も、15年、16年、17年と4年続けて8~10チームがSXSWに参戦している。

●SXSW 2014(6チーム)
Skeletonics/AgIC/Moff/Axelspace/B.O.M.B/Powderbox by Yoshihito Nakanishi/OpenPool
●SXSW 2015(10チーム)
Phenox2/exiii/SenSprout/Pixie Dust/RE: SOUND BOTTLE/Trickey/AgIC×MESH/Moff/PLEN2/BOCCO by YUKAI ENGINEERING
●SXSW 2016(8チーム)
Xenoma/HOTARU/OTOPOT/phonvert/BUBBLY/Ubisnap/AIMedical/Smile Explorer
●SXSW 2017(8チーム)
BionicM/Stacha/Groove/NeuroVoice/Peegar/JST ERATO Kawahara Universal Information Network Project/+move(on PARCO Booth)/Neko Electro(on PARCO Booth)
※社名はSXSW参加時

Labo+CafeでOpenPoolを開発した杉本雅明さんは、2013年には単独で赴いたSXSWに、2014年はTTTの枠組みのなかから参戦した。前年に続き、バージョンアップさせた「OpenPool」(前編参照)をSXSWへ持ち込み、Interactive Awardのファイナリストにまで選出された。

また、その前後、2014年1月にはLabo+Cafeで知り合った清水信哉さんとともに、インクジェット印刷と銅めっきによる「フレキシブル基板製造技術」を開発するベンチャー企業・AgIC株式会社(現 エレファンテック株式会社)を共同創業。2015年には「AgICチーム」として再びSXSW2015に参戦している。

「P-Flex」
エレファンテック株式会社(旧 AgIC株式会社)の確立したフレキシブル基板「P-Flex」は「必要な部分にのみインクジェットで金属を印刷し、めっき技術で金属を成長させる」というもの。材料・工程を抑え、大幅なコスト削減が実現できる。TTTからSXSW2017に参加したチーム「Groove」はエレファンテックのサポートのもと、このフレキシブル基板製造サービスを利用し、製品開発に臨んだ

SolutionとProblemが結びついているかどうか

すでに何人もの起業家を輩出しているTTTであるが、参加チームを決めるうえで、菅原さんは以下の4つの審査基準を設けているという。

・Problem(解決しようとしている問題)
・Solution(プロダクトの概要、それによって未来はどうなるか等)
・Team(チームのスキル、スピード、ストーリー)
・Why SXSW(SXSWをどのように活用しようと考えるか)

なかでも重要なのが「SolutionがProblemと結びついているかどうか」だ。

「日本の場合は特に、テクノロジーはしっかりしていても、マーケットに出るときに「こういう課題を解決する」というインパクトのあるアピールができていないケースが多いと感じます。SolutionとProblemがうまく結びつくことで、アイデアはエッジの立ったものへと進化するし、SXSWという場で注目されるにはどうしたらよいか考えること自体が、SolutionとProblemを結びつける行為にもなります」(菅原さん)

※今年度のTTTに関する詳細はこちらから

5年目を迎えたTTTについて、菅原さんは「ある応募チームから、ただSXSWへ出展するのではなくTTTというプラットフォームに採択されてSXSWへ行きたい、と言われてこちらが驚いた」と話し、その理由についてこう続ける。

菅原岳人さん
東京大学 産学協創推進本部助教 菅原岳人さん

「初期設計の段階から、単独で参加するのではなく、バルク(まとまり)で行くこと、そしてTTTの出展がテーマ性をもったエリアとして認識されるようになることはずっと意識しており、それが結果として一定のバリューとして認められることにつながっているのではないか」(菅原さん)

産学協創推進本部はTTTにおいて主催者の立場である。運営は過去のTTT参加者、そして参加学生・研究者が中心となり行っており「経験者によるメンタリングやアドバイスのなかで、参加者の課題がクリアされている」と話す。

「そうした体制を背景に、事務局の立場である我々が大事にしているのは、ミートアップが頻出するSXSWにおいてそれを積極的にサポートすることです。よく論じられることかもしれませんが、SXSWは、互いの気持ちがマッチしないと何も起こらないビジネスイベントとも、はじめから目的が一致していて効率性が最大限重視されるエンタメ系イベントともちょっと違います。そこには、リテラシーが高く、普段はデカい会社を経営しているようなイノベーション層の人が「テクノロジーを使った世界のあり方ってこうだよね」「こんな課題を解決できるよね」と、わりあい気軽な気持ちで参加しに来る。そうした場だからこそ、TTTのようなMaker Faireレベルが赴くことでケミストリー(化学反応)が生まれやすいんです。

だからSXSW2017ではBionicM(前編参照)がTradeshowにも出展し、Interactive Innovation Awardsに応募したので相当忙しかったのですが、『それだけではダメ』とメンバーに発破をかけ、向こうのエンジニアとのミートアップを全力サポートしました。多くは常に何かやりたがっている連中ですから、自然と巻き込まれていくはずです」(菅原さん)

東大発・イノベーションのエコシステムをどうつくるか

イノベーションのエコシステム──すなわち、起業家や課題ホルダーを中心にさまざまな要素が取り囲み、それらの関係性を有機的につなぎ合わせることで形成される、持続可能な「生態系」をいかに生み出すのか。

それこそが多くの企業や団体で日々試行錯誤されている日本の課題ではないだろうか。

これはLabo+Cafe創設時、杉本さんが思い描いた「イノベーションを多産する文化」とも同義である。杉本さんは、東大の修士課程を修了した後、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)でイノベーション研究にも注力した。Labo+Cafeの立ち上げ、SXSWへの参戦、そしてAgIC(現 エレファンテック株式会社)創業を経た今、イノベーションの多産に必要なことをどう考えるのか。

杉本雅明さん
エレファンテック株式会社(旧:AgIC株式会社) 取締役副社長の杉本雅明さん

「たとえばAさんとBさんがいたとします。このとき、2人がコラボレーションすることがイノベーションの文脈では最初に求められていくと思いますが、一般的には、2人がそれぞれできる範疇で交わる部分が、コラボレーションだと言われがちです。でも僕は、これはコラボではないと思うし、そこから新しいものは生まれないとも思う」(杉本さん)

杉本さんの考える真のコラボレーション スライド
本人のできることの範ちゅうでコラボレーションすることは、本当のコラボレーションのなのかと杉本さんは問う(画像提供:杉本雅明さん)

「本当は、Aさん、Bさんができることって本人が思っている以上に大きく、本人は価値だと気づいていないことが世のなか的には価値になったりするものです。つまり自分の“できること”の円で考えるのではなく、“思っている以上にできること”の円のなかで考えるべきで、そうなるとコラボというのは想定外のところに生まれる。ならばそうした状況をどう起こすのか──僕は、囚人のジレンマ(前編参照)のように、出会いの機会が無期限に繰り返されるコミュニティーにこそ、協調関係が生まれると信じます」(杉本さん)

杉本さんの考える真のコラボレーション スライド
“思った以上にできること”でコラボレーションを考えるべきと杉本さんは話す(画像提供:杉本雅明さん)

経営組織論を専門としてきた菅原さんの思いも同じだ。TTTという一種のコミュニティーを創出するうえで意識しているのは「創発型クラスターであること」と菅原さんは提言する。

「ある種のクラスター(集団)を計画的に築こうとすれば、クラスターをつくることそれ自体が目的になり、結果としてもろいカルチャーになりがちです。TTTにしても、目的をもったキープレイヤーたちが自然発生的につながり、それが積み上がっていく──そんな「創発型」のプレイヤーを増やすことを意識していて、コミュニティーづくり、エコシステムづくり、プラットフォームづくりにも同じことが言えるのだと思います」(菅原さん)

菅原さんがイノベーションのエコシステムについて、もう1つ指摘するのは、大学機関における人材流動性だ。

「毎年、数千人単位の学生が入れ替わる大学機関は、おのずと新陳代謝が起こります。人材流動性に富んでいるから自然発生的なつながりも生まれやすく、結果としてイノベーションを起こしやすい。新陳代謝が起こりにくい日本企業の場合は、イノベーションを起こすという観点から言っても、企業間連携や人材交流などの取り組みを積極的に講じてよいのかもしれません」(菅原さん)

Labo+Cafe の立ち上げ、TTT発足により、学内にいた「ギークな奴ら」が集められるようになった今、「SXSWに行く前段階の準備ができるようなプログラムも立ち上げて更にコミュニティーが大きくなりました。次はそこから事業化を加速させるためのプログラムを、新たに走らせようと考えています」と菅原さん。東京大学による起業・大学発ベンチャー支援は、これからますます進化していくことになるだろう。

協調型のコミュニティー設計が創発実装のカギになる? ──イノベーションを多産する文化装置!?「Todai to Texas」(前編)


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