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オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは? ──インフォバーン・小林弘人さん×あしたラボ・柴崎辰彦代表(前編)

2017年11月08日



オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは? ──インフォバーン・小林弘人さん×あしたラボ・柴崎辰彦代表(前編) | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボは「富士通フォーラム2017」で催されたセッション「イノベーションのエコシステムをどうつくるか?」を端緒に、複数の国内事例・識者を追いながら、読者とともに「創発のデザイン」について考えてきました。

今回はその総括として、数々の人気メディアを手がけ、現在は企業のイノベーション支援を行う、BUISINESS INSIDER JAPAN発行人でもある小林弘人さん(株式会社インフォバーン代表取締役 CVO)をお招きし、本特集のコンテンツを振り返りながら、「創発のデザイン」のヒントを深掘りしていきます。聞き手は、あしたのコミュニティーラボの柴崎辰彦代表。オープンイノベーションの必要性が社会的に語られるなか、いま世界ではどのような潮流が生まれているのでしょうか。そして、そこから見えてくる「創発のデザイン」のための条件とは──。

オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは?(後編)

SXSWは課題解決ための実験場へ転換している

柴崎 本日はよろしくお願いします。まずは今春、アメリカ・テキサス州オースティンで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト」(以下、SXSW)についてお伺いします。小林さんは過去に何度かSXSWに行かれた経験がありますよね。今年のSXSWをその目でご覧になり、どのような“変化”を感じましたか?


2017年3月10~19日に行われたSXSWの様子

小林 全体的な感想でいうと、ギークなヒト・モノが集まる場から課題解決の場へと、大きく転換しているような印象をもちました。ひと昔前の“インディーズのお祭り”然としたものから、やや落ち着きを見せはじめていて、特に今年は「社会課題をどう解決していくか」というようなセッションが多数行われていましたし、出展企業を見てもフードテックやライフスタイルに寄った内容も散見されましたね。

柴崎さんは今年はじめてSXSWに行かれたそうですね?

柴崎 何年か前まではCES(Consumer Electronics Show)やMWC(Mobile World Congress)といった、一般的に知られているIT系展示会・見本市のようなものだと思っていました。しかし周りにSWSWに行ってきた有志が数名いて、彼らから話を聞くにつれ「どうやらそうではないようだ」と気づきはじめました。


SXSWなど海外におけるオープンイノベーションの最前線を語ってくれた、小林弘人さん(左)と柴崎辰彦代表(右)

新興技術の成熟度を表す、ガートナー社の「ハイプ・サイクル」というのがありますよね。新興技術のライフサイクルというのは、『黎明期』→『流行期」→『幻滅期』→『啓蒙活動期』→『生産性の安定期』という5つのフェーズを経てから社会に適用されていく、とするものですが、SXSWに出てくる技術やプロダクト、サービスはこのうち『黎明期』にあるもの。流行りのものが出てきているわけではありません。


「ハイプ・サイクル」の図(編集部にて作成)

小林 そうですね。試作品であることは、見る側も気にしませんよね。

柴崎 つまりSXSWは、まだ世の中に出ていないものをどんどん試してよい場、ということです。結果的にその場で消えてしまうものもあれば、Twitterのようにメジャーになっていくものもある──。そういう非常にユニークな場であることを知るにつれ、俄然興味が湧いてきました。そのことは、今回現地を訪れてもあらためて実感しましたね。


SXSWは、社会課題を解決するアイデアを試す場所だと語る柴崎代表

「出島」がイノベーションを生み出す

柴崎 企業ブースである「Trade Show(展示会)」のほうに目を向けると、特徴的だったのは資生堂、パルコのような非IT系といえる日本企業の出展が意外に多いことでした。小林さんはこうした企業がSXSWに進出してきていることについて、いかがお考えですか?


SXSW—Trade Showのパルコブースの様子

小林 今の時代、ITとまったく無関係な企業なんてないはずですから、IT企業・非IT企業なんて線引きは気にせず、どんどん出ていけばよいと思います。たとえば、今回出展していたある企業は、自宅で垂直農業ができるキットを紹介していました。そのような、一次産業とITの組合せが面白いですね。一見、ITとは無関係と思えるような日本企業がSXSWに関心を寄せることは非常によい兆候ではないでしょうか。


今後はIT・非ITの区別なく、企業がSXSWに参加する可能性があると語る小林さん

柴崎 資生堂やパルコも、もともとは生活者目線のアイデアからスタートしています。ベンチャー、スタートアップとのコラボレーションで自らに足りないノウハウを補完していて、テクノロジーのかけ算、そしてオープンイノベーションの実践をなさっていました。私ども富士通のような会社もそうですが、そうした大企業のくくりで考えられる日本企業がこれからどのようにベンチャー、スタートアップを取り入れるのか──そこがこれから大きな課題になると改めて感じました。

ところで今回「あしたのコミュニティーラボ」では、「創発のデザイン〜発散を収斂させるためのヒント〜」と題した特集を通じて、イノベーションや新規事業に向けたさまざまなアクションとして、外向きに機会を拡げる「発散」、具体的な課題解決(社会実装)への「収斂」の取り組みを追いかけてきました。

なかでも印象深かったのは、Wonder LAB Osaka(パナソニック)です。この取り組みを通じて見えてきたことは、社員の鎖国状態を解くために企業が “出島”のような場所を企業のなかにつくっている、ということでした。


Wonder LAB Osakaの様子

小林 「発散」もさることながら、外部の知恵を導入する「共創の場づくり」も必要ですよね。

柴崎 実は先日、シリコンバレーに行ってきました。そのとき、現地に研究拠点を置くSAP Labの小松原威さんにお話を伺う機会を得ました。小松原さんいわく、「People、Place、 Processという『3つのP』が、SAP変革の秘訣である」ということでした。Peopleはもちろん多様な人たちと交わったことを指します。Processは共通言語やフレームワークです。そしてPlace──これは本社(ドイツ)のお膝元という「城下町」のような場所ではなく、遠く離れたシリコンバレーに「出島」をつくって新分野の開拓に取り組んだことを指しています。Wonder LAB Osakaさんの話と共通していますね。

小林 そうですね。ただ日本企業が会社や組織の内部に出島をつくる場合、人事考課の体系など、従来組織の体系が足枷となる場合もままあります。ですから、外部と交わる場所をつくる設計段階こそ留意せねばなりません。一方で、欧米ではコーポレートアクセラレーションプログラムを運営している企業が少なくありません。そのための場所やプログラムも確立していますよね。日本だとまだまだ取り組みとして少ないのが実状ですが、そうした形態もこれから増えていくのではないかと思われます。

日本企業が欧州・ベルリンから学べること

柴崎 小林さんは欧州企業のオープンイノベーション動向にも精通されています。なかでもドイツ・ベルリンで毎夏に開催されるアート&テクノロジー・カンファレンス「Tech Open Air」(以下、TOA)に関しては、日本パートナーとなられて、今年2月には都内でTOAのスピンオフイベント「TOAワールドツアー東京」を開催されましたね。


2017年2月に行われたTOAワールドツアー東京の様子(提供:TOA運営事務局)

小林 はい。TOAは2012年にベルリンでクラウドファウンディングからはじまったイベントです。非常に学際的で、あらゆる領域が横断的に交わるのが特徴です。単に自社製品の展示・発表する場ということではなく、いろいろなジャンルの人から触発されて、そこで交流することによって新しいイノベーションを起こしていく──そんな装置として機能しています。

柴崎 TOAワールドツアー東京は、あしたラボの特集のなかでも取り上げさせていただきました。日本国内の方々からの反応はいかがでしたか?

小林 ベルリンやヨーロッパの動向にこんなにも関心が高いものか、という意外性はありました。今年7月には日本企業向けのベルリンツアーも開催し、ベルリンのコーポレートアクセラレーションプログラムの現場やコワーキングスペースなどを見学していただきました。参加者もみんな、衝撃を受けているようでした。その後も日本企業から欧州企業によるイノベーションについての取組みを知りたい、また、日本風にどうやってアレンジができるのか──そういったご相談を受けています。

ベルリンはいま「20分に1社、スタートアップが誕生している」と言われています。シリコンバレーは最近地価が高く、スティーブ・ジョブズがガレージから起業したような状況をなかなか再現しにくい。また、英語が通じることにより、比較的ライフコストの安いベルリンに、ヨーロッパ、中東、南アフリカの活きのいい起業家予備軍がこぞって集まってきています。

柴崎 ポスト・シリコンバレーとも称されるベルリンのカルチャーにはどんな特色があるのでしょう?

小林 ドイツのなかでもベルリンという都市は、重工業などの大きな産業がありません。だから他の都市圏からお荷物扱いされることもしばしばあります。しかし、もともと東ベルリンと分断されていたものが後に統合されたという歴史があり、ダイバーシティが備わっています。アーリーアダプターが集まりやすく、次々と生まれるスタートアップにはイギリス人もいればイタリア人もいる。もちろん日本人の起業家もいます。移民も積極的に受けいれていますから、ベルリンのエコシステムのなかで、そうした人々を再教育したり起業の後押しもしている。リベラルな場所という意味では、現在、世界でもその最前にあると言えるかもしれません。


TOA2017の様子。Tech Open Airという名のとおり、野外でも多くのプログラムが開催される(提供:TOA運営事務局)

柴崎 日本企業のなかにもベルリンに関心を持ちはじめている企業が増えていますよね。

小林 ベルリンに限らず、欧州企業のカルチャーは日本企業にとてもなじみがあると思います。欧州企業の多くは、大きくて、重くて、動かない──と言われていますが(笑)。いまは多くのアクセラレーション・プログラムを走らせ、イノベーションに対して貪欲に追求しています。メルセデス・ベンツなんかも、コワーキングスペースにオフィスを借りて、自社からスピンオフさせた社内起業家と社外の起業家同士の交流を持たせています。日本企業との共通課題が多く、その解決にすでに取り組んでいるので学ぶ点が多いのだと思います。

柴崎 いま、日本企業のあいだで何周目かのシリコンバレーブームが起きているとも言われています。しかし局所的な見方だけに頼るのではなく、世界をとらえるという意味では、欧州の動向もしっかりとおさえておかなければいけないのかもしれません。

前編はここまで。前編で展開された「いかに外向けに機会を広げるか?」という発散の議論が、後編では「日本企業に求められることとは?」という観点から収束に向かっていきます。

オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは?(後編)へ続く


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