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オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは? ──インフォバーン・小林弘人さん×あしたラボ・柴崎辰彦代表(後編)

2017年11月08日



オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは? ──インフォバーン・小林弘人さん×あしたラボ・柴崎辰彦代表(後編) | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボの特集「創発のデザイン〜発散を収斂させるためのヒント〜」の総括として、数々の人気メディアを手がけ、現在は企業のイノベーション支援を行う、BUISINESS INSIDER JAPAN発行人でもある小林弘人さん(株式会社インフォバーン代表取締役 CVO)をお招きし、「創発のデザイン」のヒントを深掘りしていきます。前編ではSXSWやシリコンバレー、ベルリンで見られる、オープンイノベーションの動向を探っていきました。では、日本で同様のエコシステムを生み出すためには何が必要なのか。「日本企業に求められることとは?」という観点から、2人の話はまだまだ続きます。(聞き手:あしたのコミュニティーラボ・柴崎辰彦代表)

オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは?(前編)

日本企業の新規事業創出は近視眼的

柴崎 シリコンバレーやベルリンにあるようなエコシステムを、日本でどのように創出していくのか、ということを考えてみましょう。小林さんは日本企業にいったい何が足りていないとお感じですか?

小林 国内の多くの企業はまだ、過去の成功体験から抜け出せていないのだと思います。どちらかといえば、自分たちがそれまでの会社の歴史のなかで構築してきた土壌のうえで、さらに何かを築こうとしている。オープンイノベーションの文脈では、その土壌自体が突然崩されることもあります。そのようなディスラプション(破壊)が想定できないということは、自分たちから破壊的イノベーションを仕掛けることもありません。テクノロジーが民主化されてしまった現代において、無垢すぎるとも言えます。

柴崎 シリコンバレーに行ったとき、シンギュラリティ大学で今のお話に近い見識を得ました。シンギュラリティ大学はレイ・カーツワイルらが設立した、シリコンバレーを拠点とする教育機関です。単に教育・研究だけを目的としているのではなく、起業家育成やベンチャーキャピタルの機能も持っています。そこでは「教育」「エネルギー」「環境」「食料」などの、12のテーマを設定したグランド・チャレンジ(大きな挑戦課題)というものが掲げられていました。


シンギュラリティ大学の様子(撮影:柴崎辰彦)

とかく日本企業が事業計画を考えるときには、だいたい1〜3年の周期で「近視眼的」に目先のことだけに目を向けがちです。しかし、シンギュラリティ大学ではグローバルレベルの社会的課題を大きなテーマに据え、社会起業家たちを輩出しようとしていました。日本企業も見習うべき点が多いと思います。

小林 Amazonのヴァーナー・ボーガスCTOはTOA World Tour : Austinのセッションで、自社の事業について「カニバリズム上等」だと話していましたね。カニバリズム──マーケティング領域では新規事業が既存事業を食ってしまう共食い状態を意味しますが、それでも構わないというわけです。AmazonだってAppleだってそれを乗り越え、さらに強くなっている。

とはいえ最近は、日本企業でもそれに気づいているところが出てきていると感じます。とくに若い起業家精神を持った方たちは、そういうカルチャーやマインドに敏感です。自社の取組む領域の数十年後を描くことで、そこからバックデートして、どう新規事業を興すのかといったアプローチなどに目を向ける企業も少しづつ増え始めています。

ヒューマンセントリックな新規事業創出の新たな枠組み

柴崎 たしかに新規事業の創出というと、既存事業の強みを活かして、あるいはシナジーを生み出して何かできるのではないか──そういう見方になってしまいがちですよね。しかし今やっているビジネスの枠組みのなかではじめるものは、たいていうまくいかないと私も思います。

そのお話でいうと、SXSWにも出展していた、パナソニック社のGame Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト、以下GCC)は、新規事業創出の新たな模範といえるかもしれません。小林さんはSXSWで熱心にGCCのブースをご覧になっていたようですね。


パナソニックが出展した「Panasonic House @ SXSW 2017」

小林 たとえば、ふだんは工場のラインで検品を担当されている社員のアイデアが、そのままSXSWに出展されていました。しかもアイデアを出した社員らが自らブースに立ってアピールされていました。「今後、家電は個々の家庭や企業の課題解決のみではなく、社会課題を解決する大きなネットワークに変わるだろう」──ブースに張りついて見ていたのですが、そういう感想をもちました。もちろん、作り手たちの意気込みもひしひしと伝わってきました。彼らはみなユーザー視点でアイデアを持ち込んでいて、その人自身が解決したい課題がそこにある。既存の商品企画からは生まれないであろうアイデアと、なにより、強いコミットメントが感じ取れました。

柴崎 まさにヒューマンセントリックですよね。

小林 しかも中には海外出張がはじめてという人もいます。英語も得意ではなかったかもしれません。そんな方々が外国人の前に立って、自分のアイデアを説明していました。帰国後、社内プレゼンの様子も拝見したのですが、ピッチ中も実に堂々としており「どうしてもこれをやりたいんだ!」という気迫がすごかったですね。わたしは、これこそが創業者やイノベーターたちに通じる情熱だと思います。その熱意を時間をかけて奪うのが、これまでの大組織だったので、ぜひ、このプロジェクトが成功してほしいと願っています。


「ボトムアップ型のアイデア創発とそれを可能にする組織体制が、熱量を生み出す」と語る小林さん

柴崎 社員教育という観点からも効果抜群ですね。

小林 GCCのおもしろい点は、イノベーションを模索するなかで、創業者・松下幸之助さんの思想の追認というか、再度体現していることですね。豊潤なデジタル・テクノロジーとそのインフラや共創を駆使した、「水道哲学」の現代版かもしれない。老舗企業ほど創業者の熱い思いが徐々に薄まってしまいがちな世の中のなかで、GCCは、これまでのやり方と違う方法を模索しているなかで、奇しくも、その企業だけがもつDNAに行き着いたのではないでしょうか。そして、企業の都合よりもユーザーを中心に据えた視座からの提言が成功することで、日本の大企業の新しいモノづくりに弾みをつけるといいな、と期待します。

柴崎 ユーザー視点というのはこれから大きなポイントだと思います。とくに日本の場合、ITに関わる技術者がどこに所属しているかを調べると、だいたい75%がベンダーに所属していると言われています。対してアメリカの場合はユーザー企業のほうに多くの技術者が在籍している。だから日本企業、特にベンダーの側にいる技術者は、お客さまの課題を共有し、問題提起をし、ともに解決していく──そういうデザイン思考的なプロセスを回していくチームづくりが必要になります。

そうした問題意識に対応すべく、多くの企業で組織的な転換期を迎えているのだと思います。たいていの企業の場合は、さまざまなリソースがサイロに別々に貯蔵されているだけの状態になっていますが、外部から見ると実に多様な技術や人材が集まっている。サイロが変に保たれているからコラボレーションもイノベーションも起こらないわけで、いま多くの日本企業ではこのサイロを打ち破るきっかけが必要だと感じています。


「ユーザー視点を持つためにも、社内で分断されている技術や人材のリソースに目を向け、サイロ化している現状から抜け出す必要がある」と柴崎さんは語る

「楽しさ」がこれからのイノベーションを生み出す

柴崎 創発のコミュニティーが国内で生まれつつあり、SXSWにも大きな関心が集まっています。他方で企業・大学が中心となり、社会実装に向けたアクションも起こっています。そのことを特集「創発のデザイン」では追いかけてきました。この総括対談でもそれに関連したトピックが随所に現れていたのではないでしょうか。

小林 そうですね。私はイノベーションのための「創発のデザイン」でひとえに大事なのは“fun”──つまり、「楽しさ」だと思います。眉間にしわを寄せながら「イノベーションをどう起こすのか」なんて考えていてもいいアイデアは出てこない。一般解がないゆえに、勉強してがんばるようなものでもないと思いますよ。ジョブズだってダイソンだって、やりたいからやった。その結果、イノベーションが生まれた。困難に打ち勝つような理念に近づいていくことこそが「楽しさ」であり、アドレナリンが出てしまうような状態を保てなければ、周囲もユーザーも共感しないと思います。

柴崎 小林さんは、その「楽しさ」って、どこからくると思いますか?

小林 創意工夫から生まれるものだと思います。たとえば無機質な空間を、どうやって楽しい空間にするのか、予算は限られている──そういうときに、クリエイティビティが発揮されるのではないでしょうか? イノベーションって、テクノロジーを使ってあっと言わせるようなものとは限らないと思います。

発想の転換だけでイノベーションは十分に可能だと思います。SXSWやTOAにはそういう企業やスタートアップが集まってきます。創意工夫とそれを楽しむ余裕が抜け落ちると「SXSWに出るためのマニュアルがほしい」とか、「木を見て森を見ず」的な方向に行ってしまう。予習なんてしなくていいから、とりあえず行ってみて、ビールを飲みながらネットワーキングすればいい。会社の規模よりも、あなたのアイデアが面白いか否か。いま、日本は「個」の部分から大きく変革していかないといけないのかもしれません。

柴崎 好きこそものの上手なれ、って言葉があるじゃないですか。昔はこの言葉が好きでたびたび使っていたのですが、最近、実は「好き」だけではだめだということに気づきました。これはあるイベントでご一緒した為末大さん(元陸上競技選手)がおっしゃっていたことですが、孔子の「論語」のなかに「よく知る人も、それを好む人には勝てない。好む人も、それを楽しむ人には勝てない」(現代語訳)という一文があるそうです。

小林 すごくいい言葉ですね。

柴崎 われわれも社内外でたびたびハッカソンを開催していますが、まさしくこの言葉どおり。一見するとちゃらちゃらしているような場づくりも、創発のデザインには必要で、楽しむ仕掛けづくりが求められます。

小林 「遊んでいやがって!」って言う人が必ずいる。でもそういう「遊んでいるように見える人」がえてして、会社の屋台骨をつくってしまう。創業者だって、嫌なことよりも楽しいことのほうがあったから頑張れたんじゃないですか? 屋台骨になってから「しょうがない、一緒に遊ばせてあげるよ」って言えばいいんですから(笑)。


「『遊ぶ』という感覚が、よりポジティブにとらえられる必要がある」と、小林さん

SXSWにしても日本企業が興味を持ちはじめていることはたしかだし、とてもよい兆候だと思いますが、そういう場に視察に行くというと、古い頭の人からは「遊びに行っている」と思われがちですよね。でもそれは大間違い。会社と自宅を毎日往復しているだけの役員がいたとしたら、そちらのほうが遊んでいると、目利きの株主たちから指摘されるのではないでしょうか。SXSWのような場でネットワークを拡げたり、見聞を広めることで、どのようなフィードバックを現業に与えられるのか模索することは当然の責務でしょう。

柴崎 まさしく、今回の「創発のデザイン〜発散を収斂させるためのヒント〜」ではさまざまな企業の次の屋台骨になり得るポテンシャルを秘めた取り組みを紹介してきました。「あしたのコミュニティーラボ」では今後も、イノベーションを生み出すさまざまな事例を追っていきます。本日はどうもありがとうございました。

オープンイノベーションを生み出す「創発のデザイン」の条件とは?(前編)


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